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平成7年門審第119号 漁船第三喜吉丸乗組員死亡事件 言渡年月日

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平成7年門審第119号 漁船第三喜吉丸乗組員死亡事件 言渡年月日
平成7年門審第119号
漁船第三喜吉丸乗組員死亡事件
言渡年月日 平成9年8月20日
審 判
庁 門司地方海難審判庁(杉﨑忠志、酒井直樹、保田稔)
理 事
官 下川幸雄
損
害
船長が溺水による死亡
原
因
漁労作業中のいそ波の配慮不十分
主
文
本件乗組員死亡は、揚網作業を行うにあたり、いそ波に対する配慮が不十分であったことに因って発
生したものである。
受審人Aを戒告する。
理
由
(事実)
船 種 船 名 漁船第三喜吉丸
総 ト ン 数 1トン
機 関 の 種 類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 25
受
職
審
人
A
名 甲板員
海 技 免 状 一級小型船舶操縦士免状
事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年3月2日午前6時5分
福岡県糸島半島西方沖
第三喜吉丸は、刺し網漁業に従事する長さ6.89メートル幅2.14メートル深さ0.78メート
ルのFRP製漁船で、船体中央後部寄りに操舵室を設け、船首甲板の前部左舷側に揚網機を備え、舷側
の全周にわたり甲板上から高さ約37センチメートルのブルワークを巡らし、各舷のブルワークに放水
口3個が設けられており、船長B(四級小型船舶操縦士免状受有)及び受審人Aが乗り組み、仕掛けた
めばるの刺し網を揚網する目的で、船首0.10メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、平成
7年3月2日午前5時30分福岡県岐志漁港を発し、唐津湾北東部のオラレ瀬南端近くの漁場に向かっ
た。
刺し網は、上端に浮子、下端に沈子を取り付けた高さ約1.5メートル長さ約200メートル重量約
50キログラムの刺し網を2枚連結し、その両端に標識旗の付いたボンデンを取り付けて水深10メー
トルないし15メートルの海底まで達するように投網するもので、投網が夕方に、揚網が翌朝にそれぞ
れ行われていた。
ところで、オラレ瀬南端近くの漁場は、仏埼の南側に干出岩が海岸線から沖合に向かって約250メ
ートルまで拡延し、さらにその北方から西方にかけて300メートルばかりが浅所となっているオラレ
瀬と、周囲に岩礁が散在する筑前ノー瀬灯標との間の水深10メートルないし15メートルにかけての
水域で、北西方には遮へい物がなく、玄界灘からの北西寄りのうねりが打ち寄せると、高起したいそ波
が発生しやすかった。
A受審人は、地元で長年にわたり刺し網漁や素潜り漁などの漁業に従事した豊富な海上経験を有し、
同3年12月の本船進水時から甲板員として乗り組んで出漁を繰り返しており、オラレ瀬南端近くの漁
場における海底の状況やうねりによる波浪の変化模様などについて精通していた。
発航後、B船長は、機関を約10ノットの全速力前進にかけて福岡県糸島郡野辺の海岸線沿いに進行
し、野辺埼の南西端を航過して針路を刺し網の揚網地点に向首する327度(真方位、以下同じ。)に
定めて間もなく、前々日から続いたしけの影響により、野辺埼に遮られていた北西方からの2メートル
ばかりのうねりを船首方から受けて船体の動揺が次第に大きくなったが、揚網を中止すると刺し網にか
かった魚が腐って出荷できなくなったり、波浪によって刺し網が損傷することなどを懸念して基地であ
る岐志漁港に引き返さないまま、続航した。
A受審人は、オラレ瀬南端近くの漁場に向かう際に北西方からのうねりを受けて船体が大きく動揺す
るのを認めたが、同漁場が高起したいそ波の発生する危険な水域であることを知っていたのに、海水の
打ち込みが激しくなかったので問題はあるまいと思い、うねりが治まってから刺し網の揚網作業を行う
よう船長に進言することなく、同作業の準備を続けた。
B船長は、うねりの状況に応じて機関の回転を適宜調整しながら手動操舵により進行し、同5時45
分ごろ筑前ノー瀬灯標から21度500メートルばかりの地点に浮かぶボンデンに取り付き、主機を中
立運転とし、同地点から北西方の沖合に向けて前日に投網しておいた刺網の揚網作業に取り掛かった。
こうして本船は、揚網を左舷側に振り出し、帽子、雨合羽の上下及びゴム長靴を着用したB船長と、
帽子、防寒服、雨合羽のズボン及びゴム長靴を着用したA受審人とでボンデンを引き揚げたのちに、揚
網作業を開始し、いそ波の影響を受けて船体の動揺が大きくなる状況のもとで刺し網の1枚目をようや
く揚網し終え、B船長が船首をほぼ北西方に向けた態勢で揚網機を操作して2枚目の刺し網の揚網に取
り掛かり、A受審人が船尾甲板でボンデンなどの整理作業を行っていたところ、同6時5分ごろ筑前ノ
ー瀬灯標から340度600メートルばかりの地点において、突然北西方からの高さ3メートルばかり
に高起したいそ波によって船首が高く持ち上げられ、次いで船体が左舷側に大きく傾斜し、瞬時にB船
長及びA受審人が海中に投げ出された。
当時、天候は晴で風力3の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、同日午前6時ごろ玄界灘一帯で
は、最大波高約2.4メートル、周期約8秒の北方からの波浪があって、この影響を受けて北西寄りの
うねりが打ち寄せ、オラレ瀬南端近くには高起したいそ波が発生していた。
この結果、A受審人は、自力で本船にはい上がってB船長の行方を探し求めたが見つからず、僚船に
連絡し、やがて来援した僚船とともに同船長の捜索に当たり、約1時間後に同船長を発見して船上に引
き揚げ、岐志漁港に帰港して直ちに地元の病院に搬送したが、同船長は溺水による死亡と検案された。
(原因)
本件乗組員死亡は、うねりにより高起したいそ波が発生するおそれのある唐津湾北東部のオラレ瀬南
端近くの漁場で刺し網の揚網作業を行うにあたり、いそ波に対する配慮が不十分で、高起したいそ波を
受けて船体が大傾斜し、揚網機を操作中の船長が海中に転落したことに因って発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、うねりによりいそ波の発生する漁場における刺し網の揚網作業
を中止して基地に引き返さなかったことと、乗組員が、うねりが治まってから同作業を行うよう船長に
進言しなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
受審人Aが、刺し網の揚網作業に従事するため唐津湾北東部のオラレ瀬南端近くの漁場に向かう際に
北西方からのうねりを受けて船体が大きく動揺するのを認めた場合、同漁場がうねりにより高起したい
そ波の発生する危険な水域であることを知っていたのであるからうねりが治まってから同作業を行う
よう船長に進言すべき注意義務があったのに、これを怠り、海水の打ち込みが激しくなかったので問題
はあるまいと思い、うねりが治まってから同作業を行うよう船長に進言しなかったことは職務上の過失
である。A受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号
を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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