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平成4年神審第16号 漁船正丸潜水者死亡事件 言渡年月日 平成4年12
平成4年神審第16号 漁船正丸潜水者死亡事件 言渡年月日 平成4年12月17日 審 判 庁 神戸地方海難審判庁(黒田和義、平田照彦、雲林院信行) 理 事 官 長浜義昭 損 害 潜水者-左頭部、左顔面、両上腕部切断、左大腿部切傷し死亡 原 因 見張り不十分 主 文 本件潜水者死亡は、正丸が、見張り不十分で、潜水者を避けなかったことに因って発生したものであ る。 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 理 由 (事実) 船種船名 漁船正丸 総トン数 1トン 機関の種類 ディーゼル機関 出 受 力 169キロワット 職 審 人 A 名 船長 海技免状 四級小型船舶操縦士免状 事件発生の年月日時刻及び場所 平成3年11月13日午前10時45分 兵庫県由良港 正丸は、全長9.50メートルの船体中央船尾寄りに甲板室を設置し、推進器下端が船底より70セ ンチメートルばかり突出した構造の、採介藻漁業に従事するFRP製漁船であるが、受審人Aが1人で 乗り組み、潜水してうにを採取する目的で、船首0.20メートル船尾0.30メートルの喫水をもっ て、平成3年11月13日午前8時40分兵庫県洲本市由良港内由良漁港を発し、同時50分由良港内 成ケ島東側の淡路由良港成ケ島沖灯標(以下「成ケ島沖灯標」という。)から南57度西(磁針方位、 以下同じ。)500メートルばかりの地点に投錨した。 ところで、B漁業協同組合では、組合員の潜水してうにを採取する操業区域を掛牛埼から上灘畑田川 にいたる水域と定め、操業時期を11月1日以降の午前9時30分から午後2時までとしていたが、成 ケ島東側の水域は竹竿による採取を先行させて、潜水者に対しては11月13日を解禁日としていたた め、同日は多数の潜水者が成ケ島東側の水深2ないし4メートルの水域で操業しており、潜水によるう に採取の方法は、潜水服を着て胴回りには鉛の重りを4ないし5個取り付けて水中眼鏡を付け、採取し たうにを入れるための深さ40センチメートルばかりのFRP製かごを直径75センチメートルばか りのタイヤチューブの中にはめ込んで水面に浮かし、かごとチューブの間に長さ90センチメートルば かりの棒を差し込み、その上端にオレンジ色の2辺の長さが50センチメートル1辺の長さが40セン チメートルの標識となる三角旗を取り付け、そのタイヤチューブを腰からとった水深より少し長めの紐 でつなぎ、呼吸の続く限り潜水して行うもので、付近を航行する船舶に対して、この三角旗を付けたタ イヤチューブが潜水者の存在を示す標識となっていた。 投錨後、A受審人は、潜水服に着替えて水中眼鏡を付け、同9時30分ごろ潜水してうに採取を開始 し、同10時30分ごろうにを50個ばかり採取したが、漁が良くないので漁場を淡路島南岸中津川組 沖に移動することとして船に上がり、水中眼鏡を外し、潜水服を着たまま錨を上げて甲板室後方に立ち、 同時44分少し過ぎ機関を始動して徐々に増速し、付近で錨泊中の船の沖側を通過するよう針路を南4 0度東に定めたところ、正船首300メートルばかりのところに潜水していたCの標識である小旗を立 てたタイヤチューブを視認しうる状況であったが、太陽の反射で見張りが少し困難であったものの、一 番沖側の錨泊船の更に沖側に向けたので前路に潜水者がいないものと思い、右舷側の錨泊船や潜水者に 気を奪われて、前路の見張りを十分にすることなく、これに気付かないで約19ノットに増速して進行 中、同時45分成ケ島沖灯標から南26度西550メートルばかりの地点において、正丸の推進器がC に接触した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時で、衝突地点付近には微弱な北流があった。 また、Cは、潜水してうになどを採る採介藻漁業に従事する者で、父、弟及び長男と4人で金比羅丸 に乗り組み、潜水してうにを採取する目的で、同9時10分由良漁港を発し、同時20分成ケ島沖灯標 から南24度西600メートルばかりの地点に至り投錨し、父が船に残ることにしてCら3人がそれぞ れ潜水服を着て水中眼鏡を付け、標識となるオレンジ色の小旗を立ててかごをはめ込んだタイヤチュー ブを浮かべてこれを腰からとった紐で結び、同時30分ごろ潜水してうに採取に取り掛かった。 同10時44分ごろ父のDが、潜水していた者が潮に流されて船から離れたので船を潜水者に近づけ ようとして南に向首した金比羅丸の船首で錨を上げていたところ、やがて正丸が潜水していたCの標識 であるタイヤチューブに接近し、前示のとおり接触した。 接触の結果、正丸に損傷はなかったが、潜水中のCは左頭部、左顔面及び両上腕部の切断並びに左骨 盤及び左大腿部の切傷を負い、出血多量で死亡した。 (原因) 本件潜水者死亡は、多数の潜水者がうに採取に従事していた兵庫県由良港内の成ケ島東側水域におい て、正丸が、見張り不十分で、標識を表示していた潜水者を避けなかったことに因って発生したもので ある。 (受審人の所為) 受審人Aが、多数の潜水者がうに採取に従事していた成ケ島の東側の水域において、漁場を移動する 場合、潜水者が浮かしていた標識を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務 があったのに、これを怠り、一番沖の錨泊船の更に沖側に向けたので前路には潜水者がいないものと思 い、前路の見張りを十分に行わなかったことは職務上の過失である。A受審人の所為に対しては、海難 審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業 務を1箇月停止する。 よって主文のとおり裁決する。