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平成5年横審第129号 貨物船山媛丸火災事件 言渡年月日 平成6年3月
平成5年横審第129号 貨物船山媛丸火災事件 言渡年月日 平成6年3月30日 審 判 庁 横浜地方海難審判庁(川原田豊、猪俣貞稔、根岸秀幸) 理 事 官 安藤周二 損 害 排気ガスエコノマイザのプレヒータと低圧スチームゼネレータ焼損した。 原 因 防火措置不適切 主 文 本件火災は、火気工事を行うときの防火措置が適切でなかったことに因って発生したものである。 受審人Aを戒告する。 理 由 (事実) 船種船名 貨物船山媛丸 総トン数 76,813トン 機関の種類 ディーゼル機関 出 受 力 10,708キロワット 審 職 人 A 名 機関長 海技免状 一級海技士(機関)免状 事件発生の年月日時刻及び場所 平成5年4月9日午後2時ごろ 千葉港 山媛丸は、昭和60年8月に進水した長さ264.27メートル、幅43.00メートル、深さ24. 00メートルの船尾船橋型の鉱石兼石炭ばら積み運搬船で、船橋楼には機関ケーシングも含めて下から 上にアッパー、A、B、C及びDと称する各デッキが設けられ、機関ケーシングのアッパーデッキから Cデッキに至る部分に、主機排気ガスの廃熱を回収して蒸気を発生させる装置として、B社が製造した 多段圧力方式の強制循環フィンチューブ式で、定格毎時蒸発量が3.35トンの排気ガスエコノマイザ を設置しており、機関室に低圧蒸気分離器、補助ボイラ、低圧ボイラ水循環ポンプ及び高圧ボイラ水循 環ポンプなどの関連補機を備えていた。 排気ガスエコノマイザは、幅約4.4メートル、前後の長さ約2メートル、高さ約7.5メートルの 長方形の鋼製外被を有するケーシングと、上部の煙突につながるガス出口側及び主機排気管につながる 下部のガス入口側各ダクトで構成され、外被に保温材を取り付けたケーシング内部に、フィン付きで外 径38.1ミリメートル(以下「ミリ」という。)、肉厚4ミリのボイラ用鋼管製の伝熱管が、上から順 にプレヒータに17列6段、低圧スチームゼネレータに17列10段、高圧スチームゼネレータに17 列24段、スーパーヒータに15列4段の各管群になって備えられていた。 各管群の伝熱管はいずれも上下間隔が約90ミリ、各段で並列になった前後間隔が約100ミリで、 系統毎に60センチメートルほど間隔を設けるなどして、内部左舷側の前後方向に配置した入口及び出 口の各管寄せ間に取り付けられており、廃熱の回収は、ボイラ水が低圧ボイラ水循環ポンプで低圧蒸気 分離器とプレヒータ及び低圧スチームゼネレータを、高圧ボイラ水循環ポンプで補助ボイラと高圧スチ ームゼネレータをそれぞれ循環するとき、補助ボイラから発電機駆動タービンに送られる蒸気がスーパ ーヒータを通るときの各系統で行われていた。 ところで伝熱管には軟鋼製のフィンが密に取り付けられており、主機排気ガス中の末燃炭化水素成分 を含むすすが伝熱管表面、特にフィンの付け根付近に付着たい積するので、すすによる外部汚れ防止の 目的て、スートブロワ装置や水洗装置が装備されるなどして定期的に掃除するようになっていたが、就 航中の掃除ですすを完全に除去するのは困難で、付着しているすすが排気ガス中の火の粉により着火し て燃え上がるスートファイアが、特にガス出口側に近い雰囲気温度の低い管群で発生し易く、このとき 伝熱管の熱負荷が相互に変化するためボイラ水の滞留状態がアンバランスとなり、伝熱管が部分的に空 だきとなって著しく過熱され、溶損して破孔するおそれがあった。 本船は、日本人職員9人とフィリピン人部員11人が乗り組む機関区域の無人化設備を有する混乗船 で、平成4年9月3日受審人Aが乗船して外地から日本への石炭輸送に従事中、航行中に排気ガスエコ ノマイザのスートファイアが何度か発生していたところ、同5年3月21日カナダのバンクーバを出港 後、ケーシングの後側に設けられたマンホールの、Bデッキにある3個のうち中央のマンホール横に取 り付けられたピープホールと称する、内部点検用ののぞきガラス付きになった外径100ミリ、長さ1 60ミリ鋼管の取付部に生じた腐食による亀裂から排気ガスが周囲に漏れるようになり、それが甚だし くなったので、荷揚地である千葉港での修理を手配し、翌4月8日早朝同港に入港して錨地に投錨後、 同日夕方同港第1区千葉港市原防波堤灯台から真方位50度2.3海里ばかりのC社西工場東岸壁に着 岸して修理されることになった。 翌9日A受審人は、修理業者の作業員と午前8時半ごろ現場で打合せを行い、ケーシングの外部から 亀裂部に応急修理するのではなく、内部からピープホールの鋼管をガス切断するなどして取り替えるこ ととし、火の粉が飛散するので防火用の水を用意して、アスベストシートで低圧スチームゼネレータの 上部中央を覆う措置をとったが、火の粉が飛んでもすすが燃えることはあるまいと思い、火の粉を早期 に消せるよう監視員を配置するなどの措置を講ずることなく、また停止中の循環ポンプは余熱のあるボ イラ水が回って内部が暑くなるので運転しないままピープホール修理を作業員に任せ、機関部乗組員と ともに予定していた他の船内作業に従事した。 こうして作業員3人が、プレヒータと低圧スチームゼネレータ両管群の間に入ってガス切断するなど して修理中、同日昼過ぎ作業員全員が食事に行っているとき、A受審人はマンホールから内部をのぞい てガス切断箇所冷却の目的で周りに水をかけるなどしたあと、午後も船内作業に従事するうち、切断箇 所から離れている低圧スチームゼネレータ管群の左舷側において、ガス切断時に飛散した火の粉により 着火していたすすが燃え上がり、同日午後2時ごろ前示岸壁において、ケーシング内部で前示両管群が 火災になっているのを作業員が発見した。 当時、天候は晴で風力2の南よりの風が吹いていた。 作業員から火災の連絡を受けたA受審人などが、循環ポンプを運転するとともに水洗装置から掃除用 のホースで放水するなどして消火にあたり、同日午後4時ごろ火災は鎮火したが、排気ガスエコノマイ ザは、プレヒータや低圧スチームゼネレータの伝熱管の1部が、スートファイアのため破孔しており、 伝熱管に盲プラグを入れるなどの応急処置が施された。 (原因) 本件火災は、排気ガスエコノマイザ内部で火気工事を行う際の防火措置が不適切で、伝熱管に付着し ているすすがガス切断時に飛散した火の粉により着火して燃え上がったことに因って発生したもので ある。 (受審人の所為) 受審人Aが、排気ガスエコノマイザ内部で火気工事を行う場合、伝熱管に付着しているすすが着火す るおそれがあるから、飛散した火の粉を早期に消すことのできるよう監視員を配置するなど、適切な防 火措置を講ずべき注意義務があったのに、これを怠り、適切な防火措置を講じなかったことは職務上の 過失である。A受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第 3号を適用して同人を戒告する。 よって主文のとおり裁決する。