...

平成8年門審第63号 油送船第七ニッケル丸機関損傷事件 言渡年月日

by user

on
Category: Documents
21

views

Report

Comments

Transcript

平成8年門審第63号 油送船第七ニッケル丸機関損傷事件 言渡年月日
平成8年門審第63号
油送船第七ニッケル丸機関損傷事件
言渡年月日 平成8年11月1日
審 判
庁 門司地方海難審判庁(杉﨑忠志、酒井直樹、清水正男)
理 事
官 井上卓
損
害
サンプタンク腐食による破孔、全シリンダのピストン軸受及び全カム軸受が焼損
原
因
主機(潤滑油系)点検不十分
主
文
本件機関損傷は、入渠した際、主機潤滑油サンプタンクの腐食状況についての点検が不十分であった
ことに因って発生したものである。
受審人Aを戒告する。
理
由
(事実)
船 種 船 名 油送船第七ニッケル丸
総 ト ン 数 299トン
機関の種類 ディーゼル機関
出
力 588キロワット
受 審
人 A
職
名 機関長
海 技 免 状 五級海技士(機関)免状(機関限定)
事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年11月10日午前4時10分ごろ
鹿児島県佐多岬東方沖合
第七ニッケル丸は、昭和57年1月に進水し、沿海区域を航行区域とする船尾船橋型の鋼製油送船で、
主機として、B社が製造した6LU26G-D型と称する定格回転数毎分320の過給機付4サイクル
6シリンダ・ディーゼル機関を備え、逆転減速機とともに操舵室から遠隔操作ができるようになってい
た。
主機の潤滑油系統は、主機潤滑油サンプタンク(以下「サンプタンク」という。)内の潤滑油が、直
結の歯車式潤滑油ポンプに吸引、加圧され、複式の潤滑油こし器、潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、
同主管から各シリンダごとに分岐して主軸受、クランクピン軸受及びピストンなどに供給され、各部を
潤滑及び冷却したのち、クランク室底部に落下してサンプタンクに戻るようになっており、平素、同主
管部の潤滑油圧力が約2.5キログラム毎平方センチメートルで、潤滑油圧力低下警報装置の作動値が
1.8キログラム毎平方センチメートルであった。
ところで、サンプタンクは、長さ約4.6メートル幅約0.9メートル高さ約0.5メートルのもの
で、機関室の中央部に据え付けられた主機の台板下方の船底上に設置されており、サンプタンクには検
油棒の挿入口が前部に、マンホールカバーが左舷側後方の隔壁に、潤滑油ポンプの吸入管が後部にそれ
ぞれ設けられていた。また、サンプタンク周囲の船底上は、ビルジだめとして使用されていたので、滞
留するビルジの影響により、サンプタンクの各隔壁の下部付近において腐食が生じ、これが進行しやす
い状態となっていたが、腐食状況についての点検が長期間行われないままサンプタンクが継続使用され
ていた。
受審人Aは、平成6年1月に一等機関士として乗り組んだのち、同年5月に機関長に昇格し、1人で
機関の運転及び保守に当たっていたもので、主機の整備については、ピストン抜き出し整備を2年毎に、
吸・排気弁等の整備、主機潤滑油の取替えなどを1年毎にそれぞれ入渠した際に行っており、航行中の
機関監視については、午前0時から6時間ごとの機関当直に就き、適宜に主機各部の点検を行っていた
ほか、主機の回転数、排気温度、潤滑油圧力、潤滑油温度及びサンプタンク内の油量などの計測を励行
し、これを機関日誌に記録しており、同7年5月合入渠工事において主機各部の開放整備を行った際に、
サンプタンク内の潤滑油と船底上に滞留していたビルジとを陸揚げ処理したが、それまで潤滑油の消費
量などに問題が生じていなかったので大丈夫と思い、サンプタンクの腐食状況についての点検を行うこ
となく、潤滑油を取り替えて出渠したのち、主機の運転を再開したので、いつしかサンプタンクの左舷
側前部隔壁の下部に長さ約10センチメートル幅約5センチメートルばかりの甚だしい腐食が生じて
いて、これが次第に進行して破孔を生じるおそれがある状態となっていることに気付かなかった。
本船は、A受審人ほか4人が乗り組み、米油等の食料油を積み込む目的で、空倉のまま、船首1.5
0メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、同年11月8日午前11時20分神戸港を発し、鹿
児島港に向け航行の途、折からの荒天に遭遇して最寄りの港に避難するなどして続航しているうち、激
しい船体動揺と船底上に滞留していたビルジの打ちつけなどにより、サンプタンクに生じていた前示の
腐食部に破孔が生じ、潤滑油が機関室に流出するようになった。
翌9日午後5時ごろ機関当直中のA受審人は、サンプタンク内の油量が減少し始めたが、サンプタン
クに破孔を生じていることに思い及ばず、潤滑油の補給を繰り返しながら運転を続けているうち、潤滑
油の激しい流出からサンプタンクの油面が次第に低下し、船底上に滞留していたビルジがサンプタンク
内に浸入するようになった。
こうして本船は、主機を回転数毎分約280にかけ約10ノットの全速力前進で航行中、サンプタン
クに浸入した多量のビルジにより潤滑油が著しく乳化し、同月10日午前4時10分ごろ佐多岬灯台か
ら真方位98度4海里ばかりの地点において、潤滑が阻害された全シリンダの主軸受及びクランクピン
軸受などが焼損し始め、潤滑油に混入した異物などによって潤滑油こし器の目詰まりが激しくなり、潤
滑油の圧力が低下した。
当時、天候は曇で、風力2の北西風が吹き、海上にはうねりがあった。
A受審人は、主機の潤滑油こし器を開放して潤滑油の色相が変化し、こし筒に多量の異物が付着して
いることなどを認めたものの、鹿児島港が間近であったので、30分ないし40分ごとに同こし器の切
替え掃除を繰り返しながら、そのまま運転を続けて同港に入港した。
本船は、訪船したメーカーの技師により主機各部を点検した結果、サンプタンクに腐食による破孔が
発見され、主機は前示損傷のほか、全シリンダのピストンピン軸受及び全カム軸軸受などの焼損が生じ
ているのが判明し、のち潤滑油系統をウエットサンプ方式としてサンプタンクの使用を中止し、損傷し
た各軸受等の取替え修理が行われた。
(原因)
本件機関損傷は、入渠した際、主機潤滑油サンプタンクの腐食状況についての点検が不十分で、同タ
ンク隔壁下部に腐食破孔を生じて同タンクの油量が減少し、多量のビルジが同タンクに浸入したまま運
転が続けられ、主機各部軸受の潤滑が阻害されたことに因って発生したものである。
(受審人の所為)
受審人Aが、入渠して主機潤滑油サンプタンク内の潤滑油と船底上に滞留していたビルジとを陸揚げ
処理した場合、周囲をビルジだめに囲まれた同タンク隔壁下部に腐食破孔を生じるおそれがあったから、
同タンクの腐食状況についての点検を行うべき注意義務があったのに、これを怠り、それまで潤滑油の
消費量などに問題が生じていなかったので大丈夫と思い、同タンクの腐食状況についての点検を行わな
かったことは職務上の過失である。A受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、
同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
Fly UP