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平成8年門審第114号 漁船第十一光洋丸機関損傷事件 言渡年月日
平成8年門審第114号 漁船第十一光洋丸機関損傷事件 言渡年月日 平成9年3月28日 審 判 庁 門司地方海難審判庁(杉﨑忠志、酒井直樹、清水正男) 理 事 官 井上卓 損 害 全軸受及びクランク軸などが損傷 原 因 主機(潤滑油系)管理不十分 主 文 本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が不十分であったことに因って発生したものである。 受審人Aを戒告する。 理 由 (事実) 船 種 船 名 漁船第十一光洋丸 総 ト ン 数 19トン 機関の種類 ディーゼル機関 出 力 330キロワット 受 審 人 A 職 名 機関長 海 技 免 状 五級海技士(機関)免状(履歴限定・機関限定) 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年11月29日午前3時ごろ 鹿児島港 第十一光洋丸は、昭和52年5月に進水したまぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機とし てB社が製造した6LAAK-UT型と称する定格回転数毎分1,900の過給機付4サイクル6シリ ンダ・ディーゼル機関を備え、同機の船尾側には逆転減速機を、船首側には動力取出軸を介して40キ ロボルトアンペアの三相交流発電機(以下「軸発電機」という。)を装備し、操舵室に主機の遠隔操縦 装置及び警報監視盤を設けていた。 主機の潤滑油系統は、クランク室下部に設けられた容量約64リットルの油だめから吸引された潤滑 油が、直結の潤滑油ポンプによって約5キログラム毎平方センチメートルに加圧され、潤滑油こし器(以 下「油こし器」という。)及び潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、同主管から主軸受、ピストン冷却 噴油ノズル、ロッカーアーム、中間歯車及び過給機などの各系統に分岐して、各部の潤滑と冷却とを行 ったのち、いずれも油だめに戻るようになっており、清浄装置として遠心式ろ過器が装備されていた。 主機の油こし器は、中空円筒形紙製フィルタエレメント(以下「フィルタエレメント」という。)を 内蔵した2連式のもので、フィルタエレメントが目詰まりして油こし器の入口側と出口側との圧力差が 約1.5キログラム毎平方センチメートル以上に達すると、注油の途絶を防止するため油こし器に付設 されたバイパス弁が開弁し、潤滑油が油こし器をバイパスして各部に注油されるようになっていた。 ところで、主機の潤滑油は、燃料油、冷却水、運転中に生じるカーボンやスラッジなどの燃焼生成物 の混入により汚損劣化が進行するほか、潤滑油を取り替える際に油だめ内部の掃除を行わないまま手動 ポンプで古油をくみ出したのみで、そのまま新油の張り込みを繰り返していると、油だめ内に残留して いるスラッジなどの異物や古油の影響を受けて新油の汚損劣化が急速に進行することがあった。また、 メーカーでは、潤滑油及びフィルタエレメントの取替え基準を、それぞれ250使用時間、500使用 時間と定め、これを主機取扱説明書に記載していた。 受審人Aは、平成3年7月に機関員として乗り組み、同年11月に機関長に昇格したもので、毎年2 月の休漁期に入渠して船体及び機関の定期的な整備を行い、主機の潤滑油とフィルタエレメントとをそ れぞれ半年ごとに取り替え、宮崎県南那珂郡南郷町を基地とし、南西諸島から沖ノ鳥島にかけての漁場 に赴き、基地と漁場間の往復に主機を回転数毎分約1,500にかけ、漁場では主機の回転数を変えな がら投縄、漂泊、揚縄及び適水を繰り返し、船内各部に給電するため出漁時から帰港時まで主機を連続 運転として軸発電機を駆動し、1航海が20日前後の操業に従事していた。 A受審人は、潤滑油保有量の少ない構造となっている主機の運転管理に当たり、同7年8月に主機の 潤滑油及びフィルタエレエントを取り替え、その後潤滑油の消費量分のみ補給しながら操業に従事して いるうち、長期間油だめ内部の掃除を行っていなかったので、スラッジなどの異物が油だめ内に滞留す るようになっていたうえ、同年11月2日午後0時10分宮崎県目井津漁港に入港した際に潤滑油の使 用時間が900時間ばかりとなっており、同漁港停泊中に遠心式ろ過器を開放したところ、同ろ過器内 部にスラッジなどが著しく付着していて、潤滑油の汚損が進行していたが、それまで半年ごとの潤滑油 及びフィルタエレメントの取替え間隔で問題を生じていなかったので大丈夫と思い、メーカーが指導す る取替え基準を考慮し、適正間隔で潤滑油及びフィルタエレメントの取替えを行うなどして、潤滑油の 性状管理を十分に行うことなく、そのまま運転を続けた。 本船は、A受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首1.00メートル船尾1.70メートル の喫水をもって、同月10日午前9時宮崎県外浦港を発し、沖ノ鳥島及び種子島周辺の漁場に至って操 業を繰り返していたところ、潤滑油の汚損が更に進行し、いつしかフィルタエレメントが目詰まりして バイパス弁が開弁したものの、油こし器目詰まり警報装置が不具合であったかして、同人がこれに気付 かず、スラッジなどの異物を多量に混入した潤滑油が潤滑油系統内を循環し、軸受等の潤滑を阻害する 状況となったまま運転が続けられ、同月26日午後操業を打ち切り、水揚げの目的で、主機を回転数毎 分約1,500の全速力前進にかけ、翌々28日午後5時30分鹿児島港に入港し、鹿児島新港南防波 堤灯台から真方位240度400メートルばかりの地点に着岸し係留した。 こうして本船は、主機を回転数毎分約700にかけて軸発電機を駆動し、同月29日午前2時ごろか ら乗組員全員でまぐろの水揚げを行っていたところ、同3時ごろ前示係留地点において、著しく潤滑が 阻害されていた主機3番シリンダのクランクピン軸受メタルが焼損してクランク軸に焼き付き、主機が 自停した。 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、港内は穏やかであった。 魚倉内にいたA受審人は、船内の照明が消灯したことに気付いて急ぎ機関室に赴き、主機のターニン グを試みたところ、困難であったものの回転可能であったので、潤滑油量、冷却清水タンクの水位、燃 料油系統などに異常のないことを確認して運転を再開したが、しばらくして再び主機が自停したので、 運転不能と判断し、業者に依頼して精査した結果、全軸受及びクランク軸などが損傷しているのが判明 し、のち損傷部品の取替え修理を行った。 (原因) 本件機関損傷は、主機潤滑油の性状管理が不十分で、潤滑油及び潤滑油こし器のフィルタエレメント を長期間使用するうち、同こし器のバイパス弁が開弁してスラッジなどの異物を多量に混入した潤滑油 が潤滑油系統を循環し、軸受等の潤滑が阻害されたことに因って発生したものである。 (受審人の所為) 受審人Aが、潤滑油保有量の少ない構造となっている主機の運転管理に当たる場合、潤滑油の汚損劣 化が進行しやすく、潤滑油こし器のフィルタエレメントが目詰まりを生じるおそれがあったから、メー カーが指導する取替え基準を考慮し、適正間隔で潤滑油及び同フィルタエレメントの取替えを行うなど して、潤滑油の性状管理を十分に行うべき注意義務があったのに、これを怠り、それまで半年ごとの潤 滑油及び同フィルタエレメントの取替え間隔で問題を生じていなかったので大丈夫と思い、潤滑油の性 状管理を十分に行わなかったことは職務上の過失である。A受審人の所為に対しては、海難審判法第4 条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 よって主文のとおり裁決する。