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平成5年横審第70号 貨物船星光丸機関損傷事件 言渡年月日 平成5年

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平成5年横審第70号 貨物船星光丸機関損傷事件 言渡年月日 平成5年
平成5年横審第70号
貨物船星光丸機関損傷事件
言渡年月日
平成5年11月26日
審
判
庁 横浜地方海難審判庁(根岸秀幸、川原田豊、金城隆支)
理
事
官 山本宏一
損
害
主機の全燃料噴射ポンプのプランジャーとバレルが摩耗
原
因
低質燃料油使用
主
文
本件機関損傷は、ファインメッシュフィルタが備えられていない主機燃料供給系統において、固体微
粒子を含んだ低質燃料油が使用されたことに因って発生したものである。
理
由
(事実)
船種船名
貨物船星光丸
総トン数
128、413トン
機関の種類
ディーゼル機関
出
受
力 26,478キロワット
職
審
人 A
名 機関長
海技免状
一級海技士(機関)免状
事件発生の年月日時刻及び場所
平成4年1月14日午前11時12分ごろ(現地時間)
シンガポール海峡
星光丸は、昭和51年7月に進水した、鉱石兼油運搬に従事する鋼製貨物船で、主機として、B社が
製造したMAN18V52/55Amu型と呼称する定格回転数毎分433(以下回転数は毎分のもの
とする。)の過給機付4サイクル18シリンダV型ディーゼル機関2基を装備し、両基がそれぞれ弾性
ゴム継手を介して減速歯車装置に連結され、1本のプロペラ軸を駆動する2基1軸船であった。
主機の燃料供給系統は、A重油及びC重油の各サービスタンクの燃料油が、主機からの戻り油とリタ
ーンチャンバーで合流し、燃料供給ポンプ、油加熱器、自動逆洗式フィルタ及び250メッシュの複式
こし(以下「3次こし器」という。)を経て燃料噴射ポンプに至り、同ポンプから主機に噴射されるよ
うになっており、A重油及びC重油の各サービスタンクの出口管とリターンチャンバーとの間に燃料油
切換え3方弁が備えられ、航海中にはC重油を、出入港時にはA重油をそれぞれ使用するようになって
いた。
ところで、自動逆洗式フィルタは、C社が製造した、6.50型三鈴ボールフィルタ(以下「ボール
フィルタ」という。)と呼称する2連切換式油こしで、2個のアルミニウム製チャンバー内に30ミク
ロンのキャンドル式エレメントがそれぞれ3個装備されており、入口側と出口側の差圧が0.6キログ
ラム毎平方センチメートル以上に上昇するとチャンバーが切り換わるとともに、使用されていたチャン
バー内が圧縮空気により自動的に逆洗され、逆洗回数がカウンターに表示されるようになっていたが、
ボールフィルタ及び3次こし器とも低質燃料油対策のため通常使用されているいわゆるファインメッ
シュフィルタではなかった。
本船は、平成3年11月28日アメリカ合衆国テキサス州コーパスクリスチ港において原油を揚荷す
るとともに、燃料油として、空槽の船首燃料油貯蔵タンクに2,300メトリックトン(以下「トン」
という。)及び両舷合わせて約1,650トンの残油のあった船尾左右舷燃料油貯蔵タンクに各500
トンのC重油をそれぞれ補給したが、このC重油は流動接触分解装置内で使用したシリカ及びアルミナ
など硬質の触媒微粒子が含まれている低質燃料油(以下「FCC油」という。)であった。
受審人Aは、前示燃料油補給の前日に同港で乗船し、補給作業に立ち会ったが、補油業者から受領し
た補油シートの記載事項からはFCC油であることが分からず、その後もいままで通りC重油清浄機を
3台並列運転とし、同機の通油量を容量の3分の1程度に絞って航海することとした。
本船は、同12月1日コーパスクリスチ港を発し、ブラジル連邦共和国ツバロン港に向かい、主機の
回転数を390の全速力前進にかけ、船尾左右舷燃料油貯蔵タンクの燃料油を使用しながら航海してい
たところ、同月6日ごろからボールフィルタの逆洗回数が増加し始め、翌7日に積地での入港喫水を調
整するため、船首燃料油貯蔵タンクの燃料油を全量船尾両舷の燃料油貯蔵タンクに移送した結果、更に
逆洗回数が増加し、数日後にはこれが1日に600回を超えるようになり、また、ボールフィルタの差
圧高の警報が頻発するようになった。
A受審人は、ボールフィルタが目詰まりすること以外にさしたる不具合を認めず、その旨を会社に連
絡したところ、アスファルテン分の多い低質燃料油と考えられ、主機の出力を低下させないで燃焼させ
るのが最良の方策であるとのアドバイスを受けたので、ボールフィルタのエレメントの掃除が追いつか
ないときなどには、同フィルタのバイパス弁を微開させるなどして主機の出力を低下させないまま運転
を継続し、同月17日午前0時45分(現地時間、以下同じ。
)ツバロン港に入港して鉄鉱石を満載し、
翌18日午前4時30分同港を発し、主機の回転数を引き続き390の全速力前進にかけて大分県大分
港に向かった。
こうして本船は、途中、シンガポール共和国シンガポール港に寄せて燃料油を補給することとなり、
同4年1月14日午前10時10分ごろ燃料油をC重油からA重油に切り換えたのち、同11時入港用
意が発令され、シンガポール海峡の航路内を速力を下げるなどして航行していたところ、系統内がC重
油からA重油に切り換わるに連れて燃料油の粘度が低下し、プランジャ及びバレルの摩耗が著しい右舷
機の数シリンダの燃料噴射ポンプが噴射圧力まで上昇しない状況となり、シリンダ間の出力が不揃いと
なって、同11時12分ごろ北緯1度11.5分東経103度51.3分ばかりの地点において、右舷
機のシリンダから排気温度過高の警報が相次いで発生した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
A受審人は、機関制御室で入港作業を指揮監督中、排気温度過高の警報を認めて燃料噴射ポンプが固
着したものと思い、一等機関士と三等機関士とを現場に向かわせて点検させ、折から航路内で機関を停
止することができず、船橋からのテレグラフオーダーに従って機関の回転数を制御していたところ、激
しいトルク変動を受けた右舷機の弾性ゴム継手が発煙しているとの報告を受け、直ちに船橋に連絡して
機関を停止した。
その後本船は、間もなく来援した引船によりえい航され、同港の石油積載船東錨地に至って投錨し、
同錨地において主機の全燃料噴射ポンプのプランジャ及びバレルが著しく摩耗していることを確認し、
これらを新換えするなどの修理を行った。
(原因)
本件機関損傷は、ファインメッシュフィルタが備えられていない燃料供給系統において、固体微粒子
を含んだ低質燃料油が使用されたため、主機燃料噴射ポンプのプランジャ及びバレルが、異常摩耗した
ことに因って発生したものである。
(受審人の所為)
受審人Aの所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
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