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平成6年門審第9号 貨物船すわろう乗揚事件 言渡年月日 平成6年5月

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平成6年門審第9号 貨物船すわろう乗揚事件 言渡年月日 平成6年5月
平成6年門審第9号
貨物船すわろう乗揚事件
言渡年月日
平成6年5月31日
審
判
庁 門司地方海難審判庁(山田豊三郎、綱島記康、高橋昭雄)
理
事
官 尾崎邦輝
損
害
船底数箇所に破口を生じ、二重底諸タンクと機関室に浸水
原
因
漂泊海域の選定不適切、居眠り運航防止不十分
主
文
本件乗揚は、漂泊海域の選定が適切でなかったことと、居眠り運航の防止が十分でなかったこととに
因って発生したものである。
受審人Aの二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
理
由
(事実)
船種船名
貨物船すわろう
総トン数
1,997トン
機関の種類
ディーゼル機関
出
受
力 3,309キロワット
職
審
人 A
名 船長
海技免状
二級海技士(航海)免状
事件発生の年月日時刻及び場所
平成元年2月27日午前3時(アメリカ合衆国ユーコン標準時)
アメリカ合衆国アラスカ州ウナラスカ湾アマクナク島
すわろうは、船尾船橋型の冷凍貨物運搬船で、受審人Aほか19人が乗り組み、アメリカ合衆国アラ
スカ州沿岸及び洋上においてアメリカ合衆国の漁船から漁獲物の買付けを行う目的で、平成元年1月2
0日静岡県大井川港を発し、同年2月18日アメリカ合衆国アラスカ州ウナラスカ湾ダッチハーバーに
至って検疫を終え、同日同港を発航して翌19日セントポール島に至り、錨泊中のアメリカ合衆国の漁
船に接舷して漁獲物の積込みを行い、同月23日セントポール島を発してアクタンハーバーに向かった。
A受審人は、荒天中を航行して同月25日午前3時40分(アメリカ合衆国ユーコン標準時、以下同
じ。)アクタンハーバー沖合に至り、時間調節のため漂泊したのち、午後1時45分水先人を乗船させ
て同港内に入り、いったん投錨して待機し、やがて買付け相手のアメリカ合衆国の漁船が入港してきて
錨泊したので、同8時35分同漁船に接舷して漁獲物の積込み作業を開始し、夜間も連続して荷役を行
った。
ところで、A受審人は、航海中及び漂泊中の船橋当直は4時間3直制として各直に航海士と操舵手を
それぞれ1名ずつ当直させ、停泊中の荷役作業時には航海士及び甲板部員を2班に分けて6時間交替で
同作業に従事させるようにしていた。
こうして荷役作業中、A受審人は、風が強かったので機関用意としたまま1人でほぼ連続して船橋当
直を行い、翌26日午後3時50分同積込み作業を終了し、荷役手仕舞いののち、同7時水先人を乗船
させ、船首1.98メートル船尾5.02メートルの喫水をもって、同時20分アクタンハーバーを発
し、ダッチハーバーに向かったが、出港後も風力5ないし6の北西風が吹き、荒天航海となったので、
同8時以降も在橋して当直の三等航海士に補佐させ、自ら運航の指揮をとって続航した。
A受審人は、同11時6分ごろウナラスカ島のプリエストロックから322度(真方位、以下同じ。
)
3.7海里ばかりの地点に達したとき、ダッチハーバー港外の水先人乗船予定地点まで残航程が約9海
里となり、明朝7時の水先人乗船予定時刻まで時間調節をするに当たり、ウナラスカ湾内の底質は錨泊
に適していないとの情報を得ていたので漂泊することとしたが、湾外の広い海域で漂泊するなど適切な
漂泊海域を選定することなく、ウナラスカ湾内のアマクナク島の北方2海里ばかりに向けて同湾内に進
入し、同時35分ごろ同地点に至って機関を停止し、当直の三等航海士を休息させるとともに次直の二
等航海士も明朝からの荷役作業に備えて休息させ、単独で船橋当直に従事して漂泊を開始した。
翌27日午前0時6分ごろA受審人は、ウラクタヘッド灯台から309度1.6海里ばかりの地点に
達したとき、風潮流の圧流によってほぼ南南西の方向へ圧流されていることを知り、同圧流に対して潮
のぼりを行うこととし、機関を微速力前進にかけ、ほぼ36度の方向に6ノットばかりの航力で進行し、
同1時3分ごろ同灯台から21度6海里ばかりの地点に達したところで潮のぼりを終え、機関を停止し
て再び漂泊を開始した。
A受審人は、レーダーで船位を確認し、ほぼ南南西の方向へ圧流されているのを認めたものの、ウナ
ラスカ湾内に他の船舶の映像を認めなかったことから、レーダーはときどき見ることとし、窓を閉め切
って暖房の効いた操舵室の床に座ったり立ったりしながら見張りを続けていたところ、やがて長時間の
当直と睡眠不足とにより、疲労感と眠気を覚えるようになったが、居眠りすることはないと思い、0時
から4時まで当直の二等航海士を起こして当直に立たせることなく、レーダーをのぞいたりしているう
ち、いつしかレーダーの前の床に座り込んだ状態で居眠りに陥り、折からの北ないし北北西の風と南南
西に流れる潮流とにより、アマクナク島東端の海岸に向かってほぼ197度方向へ3.2ノットばかり
の速さで圧流されていることに気付かず、同3時ウラクタヘッド灯台から157度0.6海里ばかりの
海岸に、船首をほぼ270度に向けた状態で乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力4の北ないし北北西の風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、乗り揚げ後、関係先に連絡するとともに機関の使用及び引船による引き降ろし作業を試
みたが、いずれも成功せず、そのうち風波が強まって機関室などに浸水が始まり、同年3月2日船体を
放棄して乗組員全員を退船させた。
乗揚の結果、船底数箇所に破口を生じ、二重底諸タンク及び機関室などに浸水したが、のち引き降ろ
されて売却された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、アメリカ合衆国アラスカ州ウナラスカ湾のダッチハーバーに入港するに当たり、
水先人乗船予定時刻まで時間調節のため漂泊する際、漂泊海域の選定が不適切で、圧流下側に陸岸があ
るウナラスカ湾内で漂泊したことと、居眠り運航の防止が不十分で、折からの風潮流により同湾内のア
マクナク島に向かって圧流されたこととに因って発生したものである。
(受審人の所為)
受審人Aが、夜間、ウナラスカ湾において、入港後の荷役作業に備えて当直航海士を休ませ、単独で
船橋当直に就いて漂泊中、長時間の連続当直によって疲労感と眠気を覚えた場合、居眠り運航により陸
岸に圧流されることのないよう、当直の二等航海士を起こして当直に立たせるべき注意義務があったの
に、これを怠り、居眠りすることはないと思い、二等航海士を当直に立たせなかったことは職務上の過
失である。A受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2
号を適用して同人の二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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