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平成15年那審第54号 旅客船アクアマリン旅客等死傷事件 言渡年月日

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平成15年那審第54号 旅客船アクアマリン旅客等死傷事件 言渡年月日
平成15年那審第54号
旅客船アクアマリン旅客等死傷事件
言渡年月日 平成16年1月22日
審判庁 門司地方海難審判庁那覇支部(上原 直、坂爪 靖、小須田 敏)
理事官
本 宏
受審人 A
職名 アクアマリン船長
操縦免許 小型船舶操縦士
損害
旅客1名が一酸化炭素中毒症で死亡、従業員2名が精神神経機能に後遺症が残る
可能性がある重症、従業員1名が軽症
原因 移動式発電機の仮設場所が不適切だったこと
主
文
本件旅客等死傷は、移動式発電機の仮設場所が不適切で、同機からの排気ガスが船室内
に侵入し、旅客等が一酸化炭素中毒症に陥ったことによって発生したものである。
受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
理
由
(事 実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月21日06時55分
沖縄県島尻郡伊是名島仲田港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船アクアマリン
総トン数 12トン
全長 15.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 397キロワット
3 事実の経過
(1) アクアマリン
アクアマリンは、平成4年6月に進水した2機2軸のFRP製旅客船で、A受審人が代
表者として設立したEが、平成8年6月に本船を購入して、沖縄島周辺のダイビングスポ
ットにダイビング客(以下「旅客」という。
)を旅客数に応じて臨時に数人の従業員を雇い
案内するなど、主にダイビングツアーに使用されていた。
(2) 船体構造
船体構造は、船首側から船首甲板、船室及び船尾甲板となっており、船室内のキャビン
上にフライングブリッジ、キャビン下に機関室、船尾甲板下が船尾倉庫となっていた。船
尾甲板は、その中心部に一辺が80センチメートル(以下「センチ」という。)の正方形の
開口部が設けられていた。
ア 船室
船室は、船首甲板下に船首客室及びキッチンがあり、キャビンが船体中央部甲板上に設
けられ、船首客室には天窓があり、同室内は扇形のマットレス式のベッドが置かれており、
その船尾側に同室出入口の扉を介してキッチンとなっていて、キッチン内の右舷側には収
納式ベッドが置かれていた。キャビン内は、左舷側には固定されたL字型の合成皮革製ソ
ファと木製テーブルが備え付けられ、同右舷側には木製のL字型カウンターがあり、その
下に配電盤が置かれており、同カウンター後端と船尾側囲壁との間は空スペースとなり、
同スペースの右舷側壁には観音開きの化粧板扉が取り付けられ、船尾壁中央に引き戸を設
けて船尾甲板に通じていた。
イ 機関室と船尾倉庫
機関室は、中央に2機の主機を、その両舷側に清水タンクが配置され、同室の船尾側隔
壁の中央部に約110センチ×約80センチの開口部を有して船尾倉庫と結ばれており、
建造時、船尾倉庫には交流発電機が設置され、船尾倉庫への出入口は、船尾甲板キャビン
入口足下にあった。機関室及び船尾倉庫の共通の空気取入口は、キャビン入口両舷側の壁
に設けられており、交流発電機の排気ガスが排気管で右舷船尾側に排出され、機関室及び
船尾倉庫内に排気ガスが滞留しないようになっていた。
(3) 発電機の遍歴
本船購入時には、冷蔵庫やクーラーなどに使用する船内電源として交流発電機を船尾倉
庫中央部に備えていたものの、平成12年9月ごろ同発電機が故障したので、出力が90
0ワットの移動式発電機(以下「900ワット型発電機」という。)を借り受けて船尾倉庫
内に置き、この発電機からの配線を船尾倉庫の右舷船首側上隅の電線群のすき間に通し、
観音開き扉の中に導いて扇風機等の電源として使用していたところ、同15年6月18日
に燃料油タンク一杯で約5時間運転することのできるB社製のEX2000型と呼称する
2.0キロワットの電気点火機関駆動の移動式発電機(以下「2.0キロワット型発電機」
という。
)を貰い受け、前示の場所に仮設していた。
(4) 発電機の排気ガスの侵入経路
キャビン内の空スペースの右舷側壁は、機関室内右舷側の清水タンク直上になっていて、
観音開きの扉があり、内壁と外壁との間に、配電盤の電線などを敷設するためにあるもの
か、船首尾方向22センチ船横方向15センチの開口部が床板にあり、いつしか同扉の左
舷側の扉がなく、機関室からの空気が船室内へ流れ出るようになっていた。
(5) 除湿・冷風機(以下「冷風機」という。
)
前示空スペースには、C社製のTDB-D12C型と称する1,200ワットの冷風機
が置かれ、同冷風機の構造は、右側面上方の吸込口よりエアーフィルターと蒸発器を通っ
た空気が冷風となって冷風機正面上方の吹出口から、両側面下方の空気取入口より凝縮器
を通った空気が暖風となって冷風機裏面中央部の排気口から、それぞれ出るようになって
いた。
(6) 一酸化炭素の特性
一酸化炭素は、無色無臭無味で感覚によりその存在が感知できないが、人が吸引した場
合は血液中のヘモグロビンとの結合力が酸素よりも非常に強いので、血液の酸素運搬能力
を失わせ体組織の酸素を奪うため、空気中の一酸化炭素含有率が0.01パーセントだと
2ないし3時間は生存に耐え得るが、同率が0.10パーセントだと1時間を超えると死
亡するおそれ、同率が0.40パーセントだと1時間以内に死亡するおそれがあった。中
毒による外見上の変化は、手先から顔等全身が紅潮し頭痛、めまい、意識喪失等が生じ、
永続的な後遺症として、記憶喪失、精神神経機能障害、痴呆症、行動麻痺等が生じるもの
であった。
(7) 本件発生に至る経緯
アクアマリンは、A受審人が船長として、従業員3人と乗り組み、2泊3日のダイビン
グツアーの予定で8人の旅客を乗せ、船首尾とも0.7メートル等喫水をもって、平成1
5年6月20日11時35分沖縄県那覇港那覇小船だまりを発し、同県伊平屋島周辺の2
箇所でダイビングを行ったのち、18時09分伊是名島仲田港東防波堤灯台から真方位2
90度530メートルの地点で、仲田港内の物揚場岸壁中央部に、北北東に向首して左舷
付けで着岸した。
ところで、A受審人は、昭和57年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、発電機
の排気ガスが一酸化炭素を含んでいて、人体に有害であるということを知っていたが、2.
0キロワット型発電機を仮設する際、900ワット型発電機でも、キャビン入口両舷側に
ある空気取入口で自然換気ができていたので、今回の2.0キロワット型発電機でも大丈
夫であろうと思い、船尾倉庫に仮設して運転することとし、大気に開放された船尾甲板な
ど、同機を適切な場所に仮設しなかった。
A受審人は、20時ごろから2.0キロワット型発電機を運転して岸壁を照らし、12
人全員で夕食のバーベキューを行い、23時ごろ夕食を終えた後、6人の旅客が宿泊する
民宿に戻り、残りのA受審人、従業員3人と旅客2人の計6人がアクアマリンで泊まるこ
ととなった。そして、夕食の片付けを終え、翌21日00時ごろ船首客室の天窓及び同室
出入口の扉を開け、船尾倉庫出入口とキャビンの入口戸を閉じた状態で、2.0キロワッ
ト型発電機を電源として冷風機を運転するため、同機の燃料油を満タンクに補給したのち、
旅客1人がキャビン内のソファに、従業員3人が、船首客室のベッド、キッチン内の収納
式ベッド及びキャビンの床に、残りの旅客1人が船首客室の屋根にキャビンのフロントガ
ラス窓を背にして、A受審人がフライングブリッジのソファにそれぞれ就寝した。
こうして、アクアマリンは、仲田港内に停泊中、船尾倉庫で運転していた2.0キロワ
ット型発電機の排気ガスが、同倉庫や機関室内に徐々に充満し、冷風機の配線を導いた電
線群のすき間やキャビン内観音開きの中の床板開口部から船室内に侵入するようになり、
また、冷風機の右側面上方の吸込口より吸引された排気ガスが冷風機正面上方の吹出口か
ら左舷船首側に向けて吹き出され、キャビン内、キッチン及び船首客室と急速に侵入・拡
散し始めたものの、そのことに就寝中の誰もが気付かず、そして、同日06時50分起床
したA受審人が船室内に入り、旅客等4人を順に起こしていったが、同時55分前示停泊
地点で誰も起床しなかったことから異変に気付いた。
当時、天候は晴で風力3の南風が船尾方から吹き、港内は穏やかであった。
A受審人は、携帯電話でF病院診療所と連絡を取ったが、一酸化炭素中毒の治療は同診
療所では対応できないとなり、呼吸のあった従業員3人をアクアマリンで運び、08時5
0分ごろ沖縄県本部町運天港に着いて、同県名護市内の2箇所の病院に搬送した。
その結果、ソファに寝ていた旅客のCは、診療所の医師により死亡が確認され、G病院
で解剖の結果、一酸化炭素中毒症で死亡と検案され、船首客室のベッドで寝ていた従業員
と、キッチン内の収納式ベッドで寝ていた従業員が精神神経機能に後遺症が残る可能性が
ある重症を負い、キャビン内の床に寝ていた従業員は搬送された日の午後に意識を回復し
後遺症も残らなかった。
(原 因)
本件旅客等死傷は、沖縄県伊是名島仲田港において停泊中、一時的に2.0キロワット
型発電機を使用する際、同機の仮設場所が不適切で、同機からの排気ガスが船室内に侵入
し、船室内で就寝していた旅客等が一酸化炭素中毒症に陥ったことによって発生したもの
である。
(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県伊是名島仲田港において停泊中、一時的に2.0キロワット型発電
機を使用する場合、同機からの排気ガスが船室内に侵入することがないよう、大気に開放
された船尾甲板上など、適切な場所に仮設すべき注意義務があった。ところが、同人は、
その前に船尾倉庫内に置いて使用していた900ワット型発電機でも、キャビン入口両舷
側の壁にある共通の空気取入口で自然換気ができたので、同倉庫内に今回の2.0キロワ
ット型発電機を仮設しても大丈夫であろうと思い、船尾甲板上など適切な場所に仮設しな
かった職務上の過失により、同機からの排気ガスを船室内に侵入させ、船室内で就寝して
いた旅客等4人を一酸化炭素中毒症に陥らせ、1人が死亡し、2人に重症を負わせ1人が
軽症を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条
第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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