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平成2年神審第111号 漁船兄弟丸機関損傷事件 〔簡易〕 言渡年月日
平成2年神審第111号 漁船兄弟丸機関損傷事件 言渡年月日 〔簡易〕 平成4年3月12日 審 判 庁 神戸地方海難審判庁(根岸秀幸) 理 事 官 丸尾利夫 受 審 人 A 職 名 船長 海技免状 損 一級小型船舶操縦士免状 害 主軸受、クランク軸受、及びクランク軸など焼損 原 因 主機の整備不十分 裁決主文 本件機関損傷は、主機の開放整備が不十分であったことと、潤滑油圧力の確認が不十分であったこと とに因って発生したものである。 受審人Aを戒告する。 適 条 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号 裁決理由の要旨 (事実) 船種船名 漁船兄弟丸 総トン数 9トン 機関の種類 ディーゼル機関 出 力 275キロワット 事件発生の年月日時刻及び場所 平成2年7月28日午前7時10分ごろ 福井県敦賀港沖合 兄弟丸は、昭和44年12月に進水した小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてア メリカ合衆国B社製のD343TA型と呼称する定格回転数毎分2,000の過給機付4サイクル6シ リンダ・ディーゼル機関を装備していた。 同機の潤滑油は、オイルパンに約60リットル張り込まれ、直結歯車式潤滑油ポンプで吸引加圧され、 同ポンプ付圧力リリーフ弁で調圧されて毎半方センチメートル5キログラム(以下、圧力は「キロ」で 示す。)ばかりとなり、潤滑油冷却器、同油こしを経て入口主管から各軸受等へ給油されるほか、オイ ルジェットから噴射されてピストンを冷却するなどしてオイルパンへ戻るようになっており、潤滑油こ しが目詰まりなどして出入口間の差圧が増大すると、自動的にバイパス弁が開弁するようになっている ほか、潤滑油圧力が1.5キロに低下すると警報装置が作動するようになっていた。 ところで兄弟丸は、同63年5月受審人Aが2年程前から係船されていた中古船を購入し、自ら乗船 することなく、荒木受審人の実子で一級小型船舶操縦士免状を受有するCに運航を任せていたもので、 平成元年10月第1種中間検査を受検した際、外観検査及び海上運転のみで合格したことなどもあって、 購入後1度も機関の開放整備を行ったことがなく、更に売主から潤滑油は新油と交換してあると告げら れたことなどから、潤滑油の更油及びオイルパンなどの掃除を行っていなかった。 A受審人は、平成2年3月同船にはじめて船長として乗船し、機関の運転管理にあたっているもので あるが、機関運転中自ら機関室を巡検したことがなく、機関の発停及び潤滑油の補給等を甲板員Cに任 せていたところ、潤滑油の月間補給量が40リットルばかりと購入時に比べて倍加し、クランクケース のガス抜き管から白煙の噴出を認めるようになったことなどから、ブローバイの激化で燃焼ガスの残し が潤滑油に混入するなどして同油の性状が著しく汚損劣化する状況であったが、機関の運転をC甲板員 に任せているので大丈夫であろうと安易に考え、その後も鉄工所に依頼するなどして機関の開放整備を 行うことなく操業を続け、同年6月休漁期となって本船を係留した。 こうして本船は、同年7月28日午前6時越前漁港大樟を発し、主機を回転数毎分1,500の全速 力前進にかけ、休漁期明けの出漁に備えて船底の清掃及び塗装を施行する目的で敦賀港へ向かい、いつ しか圧力リリーフ弁に潤滑油中のきょう雑物をかみ込んで同油圧力が1.5キロばかりに低下していた が、警報装置が故障していたことから作動せず、船橋で操船中のA受審人は圧力計を注視するなどして 潤滑油圧力を確認していなかったので、このことに気付かずにいるうち、潤滑油が著しく汚損劣化して いたことに加え、給油量が不足したため、主軸受等の潤滑阻害を促進し、同日午前7時10分ごろ立石 埼灯台から真方位2度3海里ばかりの地点で、異常な船体振動を伴って主機が異音を発した。 当時、天候は晴で、風力3の北北西風が吹き、海上は穏やかであった。 A受審人は、異常振動に気付いて主機を停止し、機関室へ急行したところ、油の焼ける異臭を認めて 敦賀港への航海を断念し、本船は、微速力で帰港して主軸受、クランク軸受及びクランク軸などの焼損 を確認し、のち、主機を換装した。 (原因) 本件機関損傷は、主機の開放整備が不十分であったことと、潤滑油圧力の確認が不十分であったこと とのため、ブローバイの発生などにより潤滑油が著しく汚損劣化していたうえ、同油圧力リリーフ弁に きょう雑物をかみ込んで潤滑油圧力が低下したまま運転が続けられたことに因って発生したものであ る。 (受審人の所為) 受審人Aが、機関の運転管理にあたり、クランクケースのガス抜き管から白煙を認めるようになった 場合、ブローバイの発生などにより潤滑油が著しく汚損劣化することのないよう、鉄工所に依頼するな どして早期に機関の開放整備を行うべき注意義務があったのに、これを怠り、甲板員に機関の運転を任 せているので大丈夫であろうと安易に考え、長期間機関の開放整備を行わなかったことは、職務上の過 失である。