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平成2年那審第28号 水上オートバイオーシャンビレッジ2水上オートバイ
平成2年那審第28号 水上オートバイオーシャンビレッジ2水上オートバイオーシャンビレッジ5衝突事件 言渡年月日 平成2年12月18日 審 判 庁 門司地方海難審判庁那覇支部(平良恵貴、徳永聡、大底昇美) 理 事 官 佐和明 損 害 2号艇-右舷中央部外板にき裂、生徒1人負傷 原 因 2号艇-船員の常務不履行(衝突を避けるための措置) 5号艇-船員の常務不履行(衝突を避けるための措置) 主 文 本件衝突は、オーシャンビレッジ2とオーシャンビレッジ5の両艇がいずれも相手船の動静に対する 監視不十分のまま航走したことに因って発生したものである。 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 理 由 (事実) 船種船名 水上オートバイオーシャンビレッジ2 長 2.39メートル さ 機関の種類 出 受 電気点火機関 力 30キロワット 審 職 人 A 名 船長 海技免状 四級小型船舶操縦士免状 船種船名 水上オートバイオーシャンビレッジ5 長 2.39メートル さ 機関の種類 出 受 職 電気点火機関 力 30キロワット 審 人 B 名 船長 海技免状 四級小型船舶操縦士免状 事件発生の年月日時刻及び場所 平成元年12月16日午前10時 沖縄県国頭郡本部町塩川原地先沖合 オーシャンビレッジ2(以下「2号艇」という。)及びオーシャンビレッジ5(以下「5号艇」とい う。)の両艇は、沖縄県那覇市に本社を置くC社のマリンレジャー部門を担当するDが管理、運用して いたものであるが、いずれもE社製造のマリンジェットMJ1650Tと称する、長さ2.39メート ル幅0.90メートル深さ0.27メートル全高0.87メートルのFRP製のもので、艇体前部にエ ンジンルームがあり、中央部には同ルームハッチカバー後面に取り付けられた操縦ハンドルがあり、そ の左側グリップにエンジンスターターと同ストップスイッチが、その右側グリップにスロットルレバー がそれぞれ付設されており、同ハンドルの動きはケーブルによって艇尾下方のジェットノズルに伝えら れ、同ノズルの方向を変えることによって艇首方向を変えるようになっており、同ハンドルの後下方に 長さ0.6メートルばかりの跨乗式座席かあって、2人が前後して座れるようになっており、推進装置 は、エンジン直結のインペラ駆動型ジェットポンプ方式で、2人乗りの場合、スロットル位置を全開、 2分の1開及び4分の1開としたとき、それぞれ31ノット、28ノット及び11ノットばかりの速力 が出るものであった。 Dは、修学旅行で同県を訪れた京都府の宇治高等学校の生徒約80人に水上オートバイ、シュノーケ リング、サーフィンなどのマリンスポーツの体験学習を行わせる企画を引き受け、沖縄島北部西岸渡久 地港南東方の塩川原地先にある、ほぼ南北方に延びる長さ400メートルばかりの砂浜(以下「塩川原 ビーチ」という。)とその沖合においてこれを実施するため、平成元年12月16日朝同ビーチ前に水 上オートバイ5艇のほか、クルーザー、ウインドサーフィン及びゴムボートなどを用意した。 しかして水上オートバイへの同乗体験には、同オートバイ3艇を使用し、生徒に救命胴衣代りとなる ウェットスーツを着用させたうえ、座席前部に跨乗させ、インストラクターが座席後部両側のステップ に両足で立ち、後上方から生徒に掩いかぶさるようにしてハンドルを操作し、海岸を発して西方沖合4 00メートルばかりに錨泊させたクルーザーの付近で5分間ほど航走したのち、出発地点に戻る方法が とられることとなった。 こうして、同日午前9時から生徒を同乗させた水上オートバイの運航が開始され、2号艇の操縦に当 たっていた受審人Aは、同時59分すぎ渡久地港本部防波堤灯台から152度(真方位、以下同じ。) 2,350メートルばかりの、塩川原ビーチ中央付近において10人目の生徒を同乗させる直前、右舷 艇首13度200メートルばかりの所に転倒中の5号艇を認めたが、水上オートバイの復原は容易では あるけれども同艇が再び航走しはじめるまでには本艇はこれを右舷側に80メートルばかり隔てて航 過できるものと思い、5号艇の動静を引き続き監視することなく、生徒を同乗させ、艇首尾とも0.2 0メートルの喫水で、同時59分半ごろ同所を発し、スロットルを徐々に開きながら、沖合停泊中のク ルーザーを目標として針路をほぼ260度に定めて進行したが、直前海面の波浪状況や吸水口をふさぐ おそれのあるビニールなどの浮遊物の発見に気をとられて、5号艇の動静監視を行わずに進行したため、 同艇が予想外に早く復原して航走を開始したうえ、急速に左回頭しながら接近したことに気づかないま ま、衝突を避けるための措置をとらずに続航するうち、速力かほぼ28ノットに達した同10時少し前 眼前に迫った同艇を認めたものの、何をするいとまもなく、同10時渡久地港本部防波堤灯台から15 7度2,300メートルばかりの地点で、5号艇の艇首が2号艇の右舷中央部に前方から約40度の角 度で衝突した。 当晴、天候は晴で、風はなく、潮候は高潮時に属し、海上は平穏であった。 また、受審人Bは、午前9時から5号艇の操縦に当たり、同時57分ごろ10人目の生徒を同乗させ て沖合で航走したのち、ビーチに引き返す途中で予定を変更し、同オートバイ出発地点から273度2 00メートルばかりの地点で再び沖合に向かうつもりで急旋回したところ、艇体が横倒しとなったが、 ハンドルを手放したことでストップスイッチが作用してエンジンが停止したので、艇を復原させたうえ、 生徒を座席前部に乗せ、自らは座席後部両側のステップに両足をかけ、中腰の姿勢でハンドルを握り、 艇首尾とも0.20メートルばかりの喫水をもって、再び航走を開始することとしたが、2人乗りの場 合、艇体を安定させるのが容易でないのでこれに気をとられ、他艇との接近を避けるよう周囲の状況を 十分に確認することなく、同時59分40秒ごろ発進したため、このとき既に2号艇が海岸を離れ、本 艇の近くを航過する態勢で航走中であることに気づかず、沖合のクルーザーを目標として針路を245 度にとって発進したところ、速力が8ノットばかりに達した同時59分45秒ごろ他船の進行度により 艇体が激しく上下動し、その衝撃で体の平衡を失って左舷側の海中に落下したけれども、ハンドルとス ロットルを手放さなかったので、身体が艇に引きずられることとなり、艇が急速に左へ回頭しはじめた が、なおもスロットルを放さず、体勢の立て直しに努めているうち、同10時120度に向首したとき、 前示のように衝突した。 衝突の結果、5号艇には損傷がなく、2号艇は右舷側中央部にき裂を生じ、同艇に乗っていた生徒の Fは右脛骨々折の傷を負い、約10週間の治療を要すると診断された。 (原因) 本件衝突は、沖縄島北部西岸輝久地港南東方のビーチ及びその沖合において、高等学校の生徒を水上 オートバイに同乗させて体験学習を実施中、同オートバイ・オーシャンビレッジ2がビーチから沖合に 向け発進するにあたり、右舷前方で転倒中のオーシャンビレッジ5を認めたのち、これに対する動静の 監視が不十分で、前路に接近する態勢となった同艇との衝突を回避する措置がとられなかったことと、 オーシャンビレッジ5が、転倒状態から復原して発航するに際し、周囲の状況を確認することなく、オ ーシャンビレッジ2の前路に向け針路をとったうえ、操縦の自由を失って左回頭したことに因って発生 したものである。 (受審人の所為) 受審人Aが、沖合い向けビーチを発航するにあたり、前路近くで転倒中の僚艇を認めた場合、水上オ ートバイの進行速力が大きいこと及び2人乗りの場合、航走初期には艇体が不安定であることに留意し、 同艇と接近することのないよう、同艇の動静を引き続き監視すべき注意義務があったのに、これを怠り、 同艇が再び航走を開始する前にこれを航過できるものと考えて監視を継続しなかったことは職務上の 過失である。A受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第 2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 受審人Bが、転倒した水上オートバイを復原して再び航走を開始しようとする場合、当時、僚艇及び 他船がこの付近を頻繁に往来していたのであるから、水上オートバイが高速力であること及び2人乗り の場合、航走開始直後は艇体が不安定であることを考慮し、他の船艇に接近することのないよう、発進 前に周囲の状況を十分に確認すべき注意義務があったのに、これを怠り、艇の安定を保つのに気をとら れ、周囲の状況を確認しないまま発進したことは職務上の過失である。B受審人の所為に対しては、海 難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の 業務を1箇月停止する。 よって主文のとおり裁決する。