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平成2年那審第39号 プレジャーボート転覆事件 言渡年月日 平成2年12

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平成2年那審第39号 プレジャーボート転覆事件 言渡年月日 平成2年12
平成2年那審第39号
プレジャーボート転覆事件
言渡年月日
平成2年12月5日
審
判
庁 門司地方海難審判庁那覇支部(平良恵貴、徳永聡、大底昇美)
理
事
官 佐和明
損
害
船外機にぬれ損
原
因
旅客の過載
主
文
本件転覆は、最大搭載人員を著しく超過する多数の便乗者を乗せ、復原力を低下させたことに因って
発生したものである。
受審人Aを戒告する。
理
由
(事実)
船種船名
プレジャーボート(船名ない)
長
3.78メートル
さ
機関の種類
出
受
職
電気点火機関
力 5キロワット
審
人 A
名 船長
海技免状
一級小型船舶操縦士免状
事件発生の年月日時刻及び場所
平成2年3月29日午後5時15分ごろ
沖縄県糸満漁港北方沖合
プレジャーボート(以下「ボート」という。)は、推進機関として船外機を使用する、長さ3.78
メートル幅1.35メートル深さ0.47メートルの軽合金製無甲板型のもので、沖縄県浦添市在住の
Bが昭和58年10月日本小型船舶検査機構沖縄支部の検査を受け、航行区域を限定沿海に、最大搭載
人員を船員1人、旅客3人と定められていたが、同63年5月に同人が死亡したのち、その父親から故
人の友人で那覇市に住むCに譲渡されたものである。
Cは、ボートを譲り受けた際、ボートの付属書類の引渡しを受けなかったが、同人は海技免状を受有
しておらず、また、ボートは船外機を取りつけずに手漕ぎ舟として使用するつもりでいたところから、
書類の引渡しを求めないまま、同年7月からボートを同県豊見城村の瀬長島海岸に引き上げておくうち、
平成元年10月に船舶検査証書の有効期間が満了したけれども、同証書を返還せず、ボートから船舶検
査済票を取り除くこともしないまま、これを放置していた。
また、Dは那覇市内で電気器具販売店を経営する者であるが、隣人や知人とともに豊見城村西岸沖合
の無人島岡波島で行楽することを計画し、隣人のEからボートの所有者はFであると聞き、平成2年3
月28日人を介してFにボートの借用を申し入れたところ、Cの友人であるFがCに無断でこれを許可
したので、ボートを岡波島への渡船として使用することにした。
受審人Aは、Dの経営する店の従業員で、Dからボートの操縦に当たるよう依頼されてこれを受諾し、
翌29日朝、D、Eらと共にトラックでボートを糸満漁港の北側埋立地.西埼の北西端に運んで海上に
浮かべ、Dが知人から借りてきたG社製造で型式不明の船外機をボートのモーターウェルに取り付けた
が、その際、A受審人は船舶検査証書がないことに気づいたが、ボートの両舷に昭和58年の検査済票
が貼られているのを見て、同証書の有効期間内にあるものと思い、また、同証書がないため最大搭載人
員を知ることもできなかったが、ボートを借りてきたDが定員は6人であろうというのを聞いてこれを
軽信し、便乗者の中には子供もいるから6人以上乗せてもいいだろうし、また、天気が良く波もほとん
どないから事故の起きることもあるまいと考えて、同証書を入手してこれを携行し、また、これにより
最大搭載人員を確認するための手段を尽すことなく、西埼北西端に集合した他の行楽参加者15人を2
組に分け、午後0時から同1時ごろにかけて同島に移した。
岡波島で食事と釣りを楽しんだのち、同5時ごろ帰途につくことになり、A受審人は便乗者8人を乗
せて同時8分ごろ同島の東端付近を発し、同島の周囲はさんご礁が拡延する浅水域のため、発航後10
0メートルばかりの間は、A受審人、D及びEの3人が海中に入り、西埼北西端の方にボートを押し進
め、同時11分ごろ同島東端から北74度東(磁針方位、以下同じ。)100メートルばかりに至って
3人も乗船した。
ボートには、船首端部とこれから後方約0.70メートルごとの3か所及び船尾端部に、いずれも幅
及び高さ各0.25メートルばかりで舷側から舷側に達する横置き柱状の座席があって、そのうちの船
首から3、4番目の両座席下が空洞のフロートとなっており、船首端の座席にE(25歳、以下括弧内
数字は年令)が、2番目の座席にH(15)とI(15)の2人が、3番目の座席にJ(29)及び同
K(3)の2人が、4番目の座席にL(50)とM(10)の2人が、船尾端座席の左舷側にA受審人、
その右舷側にD(39)の2人がそれぞれ腰掛け、釣り用クーラー1筒と釣竿3本が船首部に積まれ、
その結果、積載重量は人員分409キログラム、クーラー等約10キログラム計419キログラム、喫
水船首0.31メートル船尾0.26メートル、乾舷0.185メートルとなり、最大搭載人員4人に
対する算定基準乾舷0.365メートルより乾舷が0.18メートルほど減少することとなり、重心も
上昇して復原性能が著しく低下した状態となった。
A受審人は、前示のように船尾端座席の左舷側に腰掛けたのち、機関を2ノットばかりの微速力にか
け、みお筋を東進し、同5時14分ごろ岡波島の東端から北74度東300メートルばかりに達して深
みに出たので、針路を西埼北西端に向く北74度東に定め、機関を4ノットばりの半速力にかけたが、
その直後、左舷船首約4点140メートルばかりに6ノットばかりの速力で前路を右方に横切る態勢で
接近するプレジャーボート(船名ない。以下、ボートBと仮称する。)を発見し、その進航波がかなり
高いように見えたので、同波を正船首に受けようと思い、直ちに針路を15度ばかり左転し、速力を2
ノットばかりに減じて進行中、同時15分少し前、進行波に遭遇し、その第1及び第2波は無難に乗り
越えたものの、第3波を右舷船首に受けてこれに突込み、多量の海水をすくい入れ、船首部で船尾方を
向いて座っていたHが悲鳴を上げると同時に、便乗者のほとんどが腰を浮かせたうえに傾斜した左舷側
へ移動したため、左舷側舷端をこえて海水が流入し、復原力を失ったボートは、同時15分ごろ西埼北
西端から南74度西450メートルばかりの地点で北59度東に向いて左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で、風力3の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期に属し、海上は平穏であった。
転覆により海中に投げ出された全員は、船底を上にして浮いていたボートにすがっているうち、事故
に気づいて引き返したボートB及び付近航行中の漁船によって救助され、船体に損傷はなかったが、船
外機が濡れ損を生じ、のちに分解修理された。
(原因)
本件転覆は、プレジャーボートに最大搭載人員を著しく超過した人員を乗せ、乾舷の減少と重心の上
昇とにより復原性能が低下した状態のまま航行中、他船の進航波と遭遇し、多量の海水をすくい入れ、
船体の傾斜に伴う人員の移動によって復原力を喪失したことに因って発生したものである。
(受審人の所為)
受審人Aが、プレジャーボートの操縦に当たるよう要請された場合、船舶検査証書を入手携帯し、同
証書の有効期間や最大搭載人員等の制限事項を確認して、これを遵守すべき注意義務があったのに、こ
れを怠り、船舶検査済票が貼付してあったことやボート借り主の同人員に関する発言があったことなど
から、その措置をとらなかったことは職務上の過失である。A受審人の所為に対しては、海難審判法第
4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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