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膵臓癌の早期発見のためには(110125)

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膵臓癌の早期発見のためには(110125)
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膵臓癌の早期発見のためには(110125)
症例 1:60 代女性。DM の急激な増悪。CT で膵腫瘤を指摘され手術予定となった。症例 2:70
代女性。体重減少と上腹部を認めた。腹部エコーで膵頭部に腫瘤を指摘され、精査にて膵臓癌の
診断。胸部 CT で肺に小さなメタあり。
さて、同じような症例を診たとき、何をすべきで、何をすべきでないか。何ができて、何ができない
のか。半分無茶な妄想をしながら膵臓癌の早期発見について勉強してみることにした。

疫学

わが国の膵癌の年間死亡数は約 2 万人。1)

平成 18 年人口動態統計)においても悪性腫瘍による死亡の部位別で第 5 位。2)

近年の画像診断の飛躍的な進歩によっても、発見される膵癌症例の大半は stage IV で長期
予後が期待できる小膵癌の発見頻度は著しく低い。1)

膵癌は腫瘍径が小さくとも浸潤性が高いため外科的根治術が可能な症例はさらに限られ、
多くが予後不良。1)

腫瘍径 2cm 以下の膵癌(TS1)群の MST:median survival time(生存期間中央値)が 27.4 ヵ
月、5 年生存率が 31.7%であるのに比べ、腫瘍径 2cm 以上では大きさに関係なく 5 年生存
率は 10%前後である。このように、手術成績の向上には 2cm 以下の小膵癌の発見がもっと
も重要であることが明白だが、その数は切除総数の約 12%、膵癌総数のたった約 6%に過ぎ
ない。1)

危険因子

膵癌には危険因子がある。1)

膵癌患者の 4.8%に膵癌の家族歴

膵癌患者の約 20%が既往歴に糖尿病を有している

BMI が 5kg/m2 増加するたびに膵癌リスクが 1.12 倍増加

慢性膵炎の膵癌発生率は一般人口に比べ 10~20 倍高い

喫煙は膵癌発生率を増加させるが、わが国では 1 日 40 本以上喫煙する男性で 3.3 倍と
報告されている

最近では、2 型糖尿病、慢性膵炎(とくに慢性石灰化膵炎や遺伝性膵炎)、膵管内乳頭粘液
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性腫瘍:intraductal papillary-mucinous neoplasm(IPMN)、膵がんの家族歴などが臨床に
役立つ危険因子として改めて注目されている。2)

症状

膵癌に特有の臨床症状はなく、まったく無症状の場合もある。しかし、全国調査からは、膵癌
の初発症状でもっとも頻度が高いのが疼痛(40.2%)(腹痛が 31.6%、腰背痛が 8.6%)で、次
に黄疸(18.9%)であった。TS1 症例でも約 30%が何らかの疼痛を初発としている。1)

患者は腹痛や背部痛を強い痛みでは無いと訴えることが多い。重苦しい鈍痛や圧迫感であ
ることが多い。(医療者の先入観で、胆石発作や痛風発作などのようなものと誤解しない。)
3)

下痢がきっかけで発見される患者もいる。食事をして直ぐトイレに駆け込むと言うような症状
が多い。3)

検査

血液生化学検査では膵がんに特有なものはない。

膵酵素のなかでエラスターゼ1は他の酵素に比べ血中に長期に存在することから、異常率
が高い。1)

血清アミラーゼ値は S 型と P 型の 2 分画から成り立っており、膵癌を疑う場合には P 型アミ
ラーゼについて検査する必要性がある。3)

膵癌の腫瘍マーカーとしては CA19-9、CEA、Span-1、DUPAN-2 などが日常診療で用い
られる。いずれも感度はよいが特異度は高くない。2)
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(参考文献 1 より引用)

血清膵酵素の異常低値にも意味がある。すなわち、長期の絶食(たとえば、中心静脈栄養管
理)を除けば、膵外分泌機能の荒廃を示す重要な所見であり、血清膵酵素の異常低値を呈
する疾患は非代償期の慢性膵炎と進行した膵がんしかないということである。2)

膵がんを疑い TM を測定する場合は、とりあえず CA19-9 と CEA を選択するのが現実的で
あろう。ただし、CA19-9 が測定感度以下ならばルイス抗原 a(-)b(-)であると考えられるので
シアリルルイス抗原 X(SLX)を測定するか、DUPAN2 や SPAN1 を追加する。2)

まず最初に腹部超音波(US)か CT を行う。診断に至らない場合は、MRCP、EUS、ERP などを
組み合わせ総合的に診断する。1)

(腹部超音波は)腫瘍径の小さな膵癌や膵尾側病変の描出は困難なことも多く、膵管拡張、
小嚢胞、胆管拡張などの間接所見を見落とさないことが大切である。1)

US では膵がん自体の描出の他に、主膵管の拡張が膵がんの間接所見として重要な意義が
あることは周知のとおりである。嚢胞性病変も精査ないしは経過観察の対象となる。2)

肝嚢胞や主膵管拡張を認める集団には高頻度で膵臓癌が発症する事実は明らか。3)

(腹部超音波は)膵臓内に腫瘤が認められない場合でも、主膵管拡張などの間接所見を拾
い上げることで感度は 98%になるとの成績がある。3)

CT は膵癌診断に不可欠な検査。1) 現在の画像診断の中で膵がんの診断に最も有効な画
像検査は dynamic CT。2)

造影剤を用いない単純腹部 CT 検査では、膵臓の輪郭に異常をきたさない限り、膵臓がんを
検出することはほとんど不可能。3)

一般に膵がんは dynamic CT で造影効果に乏しい境界不鮮明な mass として捉えられる。少
しでも造影効果があれば特殊な組織型の腫瘍を積極的に考えるべきである。2)
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
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膵癌診断における PET の有用性は高くはない。2cm 以上の病変では感度 100%であるが
2cm 以下では 68%に低下する。1)

参考文献 6 では、ハプトグロビンや SAA を組み合わせることで診断に役に立つことが示され
ている。これに関しては、日本ではコンセンサスが得られていないと思うが、今後も注目して
いきたいと思う。ハプトグロビンの検査特性を計算してみる。(どちらかといえば除外に有用そ
うだが、単独だとなかなか難しい。)
感度
82.7%
特異度
71.1%
陽性尤度比
2.86
陰性尤度比
0.24
Using specific cutoffs that minimized overall misclassification, haptoglobin yielded a sensitivity of
82.7% and a specificity of 71.1%, and SAA yielded a sensitivity of 34.7% and a specificity of 90.2%
when discriminating PA cases from all non-PA controls. In the same sample set, CA 19-9 yielded
a sensitivity of 77.3% and a specificity of 91.1%. Combining data from haptoglobin, SAA, and CA
19-9 in a diagnostic screening panel improved the overall accuracy when compared to CA 19-9
alone, yielding a sensitivity of 81.3% and a specificity of 95.5%.
Using classification tree analysis, single cutoffs were identified for haptoglobin (2687 μg/ml) and
SAA (67.745 μg/ml) that minimized overall misclassification.

スクリーニング/診断

治療成績向上のためには、無症状の小膵癌をいかに早く拾い上げ診断のプロセスへあげて
いくかがもっとも重要な鍵である。しかし、膵癌検診も費用対効果が悪く実用的とはいえず、
サーベイランスは他の消化器癌と比べると格段に難しい。1)

一般検診の US で主膵管拡張と膵嚢胞などの所見を膵癌高危険群と設定し、US と腫瘍マー
カーなどの血液検査(CA19-9、エラスターゼ 1 など)を 3、6、12 ヵ月ごとに行い、所見に変化
を認めた場合には ERP 膵液細胞診を行った。その結果平均 3.15 年、最長 6 年間で 8 例の膵
癌が発見され、この検診患者の膵癌発症率は一般市民の約 9.1 倍も高かった。1)

(腹部超音波は)膵臓内に腫瘤が認められない場合でも、主膵管拡張などの関節所見を拾
い上げることで感度は 98%になるとの成績がある。3)

日常診療で膵癌を検出する鍵は、受診理由となる腹痛や背部痛を見逃さないこと。上部消
化管疾患スクリーニングに加え血中膵酵素や腫瘍マーカー測定と US を行うことが大切であ
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る。また、症状が続く場合は、2~3 ヵ月後に必ず再検することも重要。1)

糖尿病治療量の患者で急に血糖調節が悪化した場合、糖尿病治療薬を増量した場合も、そ
の時点で膵癌検出のための血液検査と US を行うことが重要。1)

エコーのポイント

腹壁の緊張を除き、プローブをゆっくりと押し付け、消化管のガスを他へ移動させながらプロ
ーブを可能な限り膵に近付けて観察することがコツ。5)

半座位にすると肝が下垂し音響窓となる。5)

飲水により、胃内を液体で満たし吸気の影響を除くと観察がより容易となることが多い。5)

主膵管は上腸間膜静脈のすぐ右で背側下方に屈曲し Wirsung 管となり、S 字状に乳頭に向
かうことが多い。5)

副膵管(Santorini 管)の開口部は主膵管よりもやや腹側上方に位置し、体部主膵管の走行を
まっすぐに右へ辿ると描出される。5)

鈎部は発生学的には腹側膵原基に由来し、膵頭部の背側寄りで SMV と IVC の間を下方に
突出している。5)

左肋間走査により脾と接する膵尾部末端が観察される。4) 左肋間走査で脾動静脈の腹側
にそって存在する膵尾部を観察する。5)

最後に液体を 350ml 程度摂取させ、膵体部から尾部の観察を行う。5)

腫大部に膵管が存在すれば炎症性腫瘤を疑い、造影後に乏血性腫瘤が描出されれば膵癌
の存在を疑う。4)

腫瘤内を貫通する主膵管の像(penetrating duct sign)が認められれば、膵癌の可能性は低
いと考えられている。5)

膵管拡張は膵癌発見に繋がる最も重要な間接所見。4)

主膵管拡張や、分枝の拡張とみられる膵嚢胞の存在は膵癌発症の高危険因子。5)

膵癌、膵内分泌腫瘍、炎症性腫瘤等の腫瘍性病変のほとんどが、超音波では低エコー領域
として描出される。4)

脂肪腫ないし限局性脂肪沈着などの他、漿液性嚢胞腺腫などの小さな嚢胞の集合が全体と
して高エコーに描出されることがある。5)

長径が 20mm を超えていても厚みが 5mm 以下であれば炎症性リンパ節腫大の可能性が高
い。逆に、長径、短径比が 1 に近い類球形の物は、10mm 程度でも転移性リンパ節の可能性
が高い。5)

膵がんの進展に伴うリンパ節転移は、膵頭部癌ではまず膵頭周囲に、膵体尾部癌では総肝
動脈、脾動脈周囲、脾門部に起こってくる。5)
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参考文献
1.
白 鳥 敬 子 ら . 膵 臓 癌と サ ー ベ イラ ンス 臨 床 診 断の立 場 か ら .Modern Physician, 28(7) :
1047-1051, 2008.
2.
澄井俊彦ら.内科医からみる膵がんの臨床 ―膵がんを見逃さないために― .医療, 62(10) :
544-548, 2008.
3.
井岡達也ら.膵臓癌 .綜合臨牀, 55 : 1086-1090, 2006.
4.
北野雅之ら.膵疾患(体外エコー) .綜合臨牀, 57(5) : 1664-1668, 2008.
5.
田中幸子ら.膵腫瘍を見逃さない抽出法.Medical Technology, 33(3) : 285-292, 2005.
6.
Firpo MA, Gay DZ, Granger SR, Scaife CL, DiSario JA, Boucher KM, Mulvihill SJ. Improved
diagnosis of pancreatic adenocarcinoma using haptoglobin and serum amyloid A in a panel
screen. World J Surg. 2009 Apr;33(4):716-22
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