Comments
Transcript
数字のセンスと地域医療(キャンペーンと NNT)(080814) 50 人に1人が
ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html 数字のセンスと地域医療(キャンペーンと NNT)(080814) 数字のセンスは非常に大切である。同じことでも表現を変えるだけで、患者の意思決定に大きく 影響する。数字の意味について考えることはよりよい医療を提供するのに役に立つはずである。 自信は無いが。 参考文献1に紹介されていたあるキャンペーンはおよそ以下のようなものである。 50 人に1人が無料! いまお買い上げいただくと、 50 人に 1 人の割合で購入金額の全額が キャッシュバックされます! この広告をみたらどのように感じるだろうか?すごい!と思う人のほうが多いのではないだろう か?実際に航空会社で行ったキャンペーンということである。事業主も相当奮発しているような気 分になる。ところが、冷静に考えるとこのキャンペーンの異なる面が見えてくる。それは、50 人に 1 人ということは 100 人に 2 人、つまり、2%の人が無料になるということである。客にとっては全額が 無料になるかもしれないという大きな出来事かもしれないが、事業主にとっては 2%のサービスで あることには変わりが無い。このサービスを全員 2%割引とせず、50 人に 1 人が無料としたところ に数字の面白さがある。同じこと(事業主にとっての負担)を別の表現であらわしているのである。 このような事例と良く似た事例は医療の現場でも数多く存在する。それは論文の結果を患者に 応用するときである。仮に治療薬の脳卒中の発症率を 3%、対照薬(プラセボ)の脳卒中の発症率 を 5%(追跡期間 5 年)とする。このとき、RRR は 1-3/5=0.4 40%、ARR は 5-3=2%、NNT は 1/2%=50 人と計算できる。こんな時、患者にどのように数字を表現するかが問題である。 50 人に1人が脳卒中にならない! いまお薬を飲むと、 50 人に 1 人の割合で脳卒中になりません! (50 人中 49 人は飲んでも効果はありませんでした。5 年間のデータ。) 事業主だったらこんなキャンペーンをしたら怒られるだろう・・・。まあ、われわれは医師だから、 こういう側面も提示する必要がある。また、以下のような表現も可能だろう。 ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html 脳卒中が 4 0%へります! いまお薬を飲むと、 脳卒中になる確率が 40%へります! (5 年間でのデータ) これも本当のデータである。よく、NNT で説明すると、うそ臭いという意見を述べる医者もいるが、 どちらも同じことを表現を変えているだけである。いろいろな表現が出来ることを忘れてはならない。 参考文献1には、「物事をキチンと数字で考えることができるかどうか、それが数字のセンスだ。」 と記載されている。 参考までに、以下のような表現も可能。 薬を飲むと、97%の人が脳卒中になりません! 薬を飲んだとき、 97%の人が脳卒中になりませんでした。 (薬を飲まなくても 95%の人が脳卒中になっていません。5 年間のデータ。) また、こんなグラフも可能。 脳卒中 4% 2% 脳卒中 0% 対照薬 脳卒中 治療薬 以下のようなグラフも可能。どちらも同じ。 ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html 脳卒中 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 脳卒中 対照薬 治療薬 最初のキャンペーンの広告を見たときに、すごい!と思ってしまうのは、われわれが消費者だか らである。事業主にとっては同じ 2%の負担だとしても、消費者にとっては無料になるかも知れな い場合と、均一に 2%の負担とは意味が違ってしまうわけだ。 医療の場合はどうであろうか。患者にとって 40%リスクが減るということにどれだけの意味があ るだろうか?脳卒中が 40%分軽くすむというわけではないことが大きなポイントである。均一にど の患者も 40%のリスク軽減が見込めるわけではない。医学的イベントというものは、キャンペーン のときと異なり、必然的に患者にとっては all or none である場合が多いのだ。それであれば、われ われは NNT をもう少し見直しても良いのかもしれない。 どの数値も真実。でも、どちらが臨床に即しているのか?答えは自分自身と目の前の患者の中 にしか見出せない。NNT、これはひとつのツールでしかない。うまく使えばとても有用な指標である ことは間違いない。自信は無いが。 参考文献 1. 山田真哉.さおだけ屋はなぜ潰れないのか?.東京,光文社,2005. ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html