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多尿について
ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html 多尿(140616) 研修医が経験した症例。急性腎不全の利尿期で 1 日 5 リットルくらい排尿する症例を診たとのこ と。尿崩症との鑑別は出来るかという疑問が出たが、急性腎不全なら乏尿期のあとに利尿期があ るということと思うので、経過からいきなり尿崩症を考えることはないような気もする・・・。多尿を来 す患者の診断にはアルゴリズム法が役に立つと思う。多尿の基本的なところを復習することにし た。 多尿( polyuria)の定義はかなり曖昧で あるが、国際禁制学会 International Continence Society による用語基準によると、成人における多尿は 2,800ml/日以上と定義している。この 基準は、体重 70kg の成人を想定しており、40ml/kg 以上の尿量を意味している。そのため、 仮に体重 40kg の小柄な高齢者であれば、1,600ml/日でも多尿と考えてよい計算となる。2) 正常成人の尿量は水分摂取量や体液喪失量により変化するが、1 日約 1~1.5L である。1 日 尿量 3L 以上を多尿という。2) [多尿 polyuria]1 日の尿量が 2,500mL 以上の場合、多尿と定義される。4) 蓄尿による尿量測定にて、頻尿と多尿を鑑別する必要がある。3) まずは水利尿か浸透圧利尿かの判断が必要。1) 尿比重、尿浸透圧、血漿浸透圧を検索する。1) (血症ナトリウム、カリウム、カルシウムや 血糖を含む生化学一般、末梢血一般、尿中ナトリウム、カリウムの測定も役に立ちそうだ。) 多尿の成因は、溶質(塩、浸透圧)利尿と水利尿に分けられる。前者は塩や何らかの溶質負 荷が原因となる場合、後者は自由水の過剰排泄が原因となる場合である。2) 多尿 1) 尿浸透圧が 290mOsm/l を 超える 「浸透圧利尿」 糖尿病、浸透圧利尿薬作用、腎不全、尿臍肝障害など 超えない 「水利尿」 中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲による多尿 水 利 尿 で は 尿 浸 透 圧 が 200mOsm/kgH2O 以 下 の 低 張 尿 を 呈 し 、 浸 透 圧 利 尿 で は 300mOsm/kgH2O 以上の高張尿を呈する。3) 尿浸透圧を測定し、これが 300mOsm 以上の場合は溶質利尿、250mOsm 以下は水利尿とい うことになる。4) 水利尿 2) ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html 心因性多尿 飲水過多 中枢性尿崩症 特発性、脳外傷、脳手術、脳炎、脳腫瘍、白血病、Wegener 肉芽腫 症、サルコイドーシスに伴うものなど 腎性尿崩症 遺伝性(ADH 受容体異常、AQP 遺伝子変異)、薬剤性(リチウム、ア ンホテリシン B など)、電解質利尿(低 K 血症、高 Ca 血症)、腎疾患(間質性腎炎、多発 性嚢胞腎など)、腎不全末期 (水利尿の場合は)次に、尿崩症か心因性多飲かの鑑別が必要。1) 後者(水利尿)では、故意に水をたくさん飲む心因性多尿症以外は、尿崩症ということになり、 その鑑別には抗利尿ホルモン(ADH)を測定し、分泌低下である真性尿崩症と、ADH は正常 でも腎がそれに反応しない腎性尿崩症に分類する。4) 尿崩症では血性ナトリウムが 142mEq/l 以上のことが多く、心因性多飲では 137 mEq/l 以下 のことが多い。1) (参考文献 3 より引用) 溶質利尿 2) 電解質 適切な塩利尿、塩類喪失性腎症 尿素窒素 腎不全、蛋白食 その他 糖尿病、浸透圧利尿 溶質利尿の場合は、さらに原因となる溶質(浸透圧活性物質)を確定しなくてはならない。つ まり、電解質利尿(塩利尿)か非電解質利尿(浸透圧利尿)かを鑑別する必要がある。2) 通常は、尿の浸透圧は尿中の Na と K の和を 2 倍にした値に近い。この尿中の電解質排泄が 実測の尿浸透圧に近い場合は、塩利尿が多尿の原因と考えられる。一方で、計算上の(理 論上)尿浸透圧に比べて、実測の尿浸透圧が大幅に高くなる場合は、尿素や他の浸透圧物 質(糖、造影剤、マニトール、グリセオールなど)による浸透圧利尿が多尿の原因と考えられ る。2) ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html (参考文献 2 より引用) (尿崩症の)診断は、三大徴候である多尿(3L/日以上)、血漿浸透圧上昇による口渇、多飲 の存在が基本である。3) (尿崩症の)確定診断には高張食塩水負荷試験もしくは水制限試験が必要。1) 診断のためには高張食塩水負荷試験のみでよい。1) 尿崩症には、抗利尿ホルモン(バゾプレシン)の分泌低下による中枢性尿崩症と、バゾプレシ ンに対する腎の感受性低下による腎性尿崩症の 2 つがある。3) 中枢性か腎性かの鑑別は、水制限後に ADH 負荷を行うと、中枢性では尿浸透圧が 50%以 上の上昇がみられるのに対し、腎性ではその反応がみられないとされる。2) 参考文献 1. 聖路加国際病院 内科チーフレジデント.最速!聖路加診断術.東京,三輪出版,2009. 2. 中野信行, 木村健二郎.頻尿・多尿.綜合臨牀 60(増刊): 1202-1205, 2011. 3. 太田英里子, 佐々木成.多尿と尿崩症.綜合臨牀 57(3): 487-491, 2008. 4. 武曾恵理尿量.異常(多尿・乏尿).臨床研修プラクティス 4(2): 76-77, 2007. ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html