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双日、総合商社“初”の海外炭鉱オペレーターシップ事業
http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html シドニー駐在員事務所 2012 年 8 月 双日、総合商社“初”の海外炭鉱オペレーターシップ事業 はじめに 石炭は鉄鋼生産のための原料や発電用の燃料などとして用いられる重要な天然資源であるが、 日本はそのほとんどを海外からの輸入に依存しており、総合商社などの本邦企業は、以前より 石炭の安定調達のために海外の炭鉱権益の取得、引取権の確保を積極的に進めてきた。 これまで、双日を含む総合商社の海外の炭鉱事業への参画形態は、そのほとんどが、オペレ ーターシップのないマイナー権益を取得しながら、主に日本の需要家向けの販売を目的として 石炭の引取権を確保するというものであった。 豪州のミネルバ炭鉱は、双日自らが、 炭鉱経営・操業機能を直接保有し、オ ペレーターシップ事業として取り組む 初の海外炭鉱プロジェクトである。総 合商社以外では豪州の3炭鉱でオペレ ーターシップ事業を行う出光興産の例 はあるものの、総合商社では世界でも ほかに例はない。ミネルバ炭鉱の石炭 は発電用の燃料などに用いられる、い わゆる一般炭であり、日本はそのおよ そ6割を豪州からの輸入に依存してい る。 双日・加瀬豊会長(上段右から 3 人目)、段谷繁樹副社長(上段右端) ミネルバ炭鉱/石炭積出港位置図(クイーンズランド州) オペレーターシップ事業へ の挑戦 双日が豪州企業 New Hope 社と共同で、クイーンズラン ド州が放出した鉱区を取得し たのは 1993 年である。その 後 2004 年にパートナーが Felix Resources 社に変更と なったことに伴い同鉱区内の ミネルバ炭鉱の開発が始まり、 2005 年に出炭が開始された。 当時の双日権益保有比率は 30%であったが、Felix 社に よる韓国資源公社への権益売 却合意に伴い、双日は先買権を行使し、権益比率は 45%に増加、その後改めて Felix 社が韓国 資源公社に 4%の権益を売却し同公社が事業パートナーに加わった。 http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html 2009 年に Felix 社が中国企業 Yancoal 社に買収され、Felix 社経営移転に伴い発生した、Felix 社保有のミネルバ炭鉱権益(51%)に対する先買権を双日が行使し、権益比率は 96%に拡大し た。ミネルバ炭鉱の剥土比は約 7:1 と標準的な水準であるが、選炭せずに商品化するには、 品位の異なる複数の炭層を丁寧かつ効率的に採炭するセレクティブ・マイニングが必要となる。 産出される石炭は日本の需要家が保有する発電設備のほとんどに適した品質であり、需要家か らの人気は高い。マインライフは残り約 6 年ある。 Sojitz Coal Mining社ブリスベン事務所開設を祝した鏡割り、 加瀬豊会長(右から3人目) ブリスベンの従業員一同 加瀬豊会長(右)と段谷繁樹副社長(左) 本件プロジェクトは需要家にとって、 一般炭銘柄数が少なくかつ比較的滞船 の少ない積出港(グラッドストーン港) からの出荷となることで積出港の分散、 調達遅延リスクの軽減が図られ、また メジャーサプライヤーへの一極集中を 回避し調達先の分散化にも寄与すると の利点もある。中国など新興国による 炭鉱権益獲得の動きが激化し新規炭鉱 アセットの積み増しが難しくなるなか で、Felix 社保有権益の追加取得は、 双日にとって事業拡大の千載一遇のチ ャンスであったが、同時に、事業オペ レーターとしての責任も背負うことと なり、大きな決断であった。オペレー ターシップの取得は、それまでの双日 のビジネスモデルでは想定していなか ったものであり、種々の変革・挑戦が 求められることとなった。 なお、2010年の権益追加取得の際の 双日の必要資金に対し、国際協力銀行 (JBIC)は豪州大手銀行とともに、双 日現地事業会社のキャッシュフローお よび権益担保などをセキュリティパッ ケージとする融資を供与しており、 JBICとしては石炭案件で初めて相当程 度リスクを負担するスキームを採用し、 支援を行っている。 ブリスベンの従業員一同 2 http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html 権益保有者・保有比率の変遷 1993年:クイーンズランド州政府による鉱区放出。 New Hope社と双日が共同で取得し、翌年から新 規炭鉱開発に着手。 (New Hope社50%:双日50%) 2000年:ミネルバ炭鉱の採掘権取得。 (1998年よりNew Hope社70%:双日30%) 2004年:ミネルバ炭鉱の開発開始。New Hope社保有の70% 権益をFelix Resources社が取得。 (Felix Resources社70%:双日30%) 2005年:出炭開始。 2006年:双日が先買権を行使しFelix社から15%権益を取 得。 韓国資源公社(KORES)がFelix社から4%権益を 取得。 (Felix Resources社51%:双日45%:KORES4%) 2009年:中国エン鉱集団(Yancoal社)によるFelix株式 取得。 (Yancoal社51%:双日45%:KORES4%) 2010年:Felix Resources社経営権の移転による同社保有 ミネルバ事業会社株式購入権を双日が行使し51% 権益を取得、現在の資本構成となる。 (双日96%:KORES4%) ミネルバ鉱山 剥土積み込み作業 さらなる事業展開 2010年12月に正式に権益追加譲渡を受け、オペレーターシップを引き継いでから1年8カ月ほ ど経過したが、現場のオペレーションは滞りなく引き継がれ、順調に操業を行っている。現在 のブリスベンオフィスの人員は、炭鉱資産保有会社(Sojitz Coal Resources)と炭鉱操業会社 (Sojitz Coal Miming)を合わせ総員18名にまで増加しており、投資管理・契約管理・給与・ 販売・ロジスティクスなどのすべてを取り仕切るとともに、さまざまな課題解決や戦略実現に 取り組んでいる。 権益追加取得の直後、2010年12月~2011年1月にかけてクイーンズランド州で発生した豪 雨・洪水の影響で、石炭輸送用の鉄道が不通となり1カ月以上にわたり出荷停止を余儀なくされ たが、2011暦年では計画通り、日本や韓国の需要家向けに計280万トンの出荷を達成した。 豪州各地で石炭・鉄鉱石・LNGなどの資源開発プロジェクトが立ち上がるなか、人材の確保 や定着は喫緊の課題となっている。現場マネージャークラスの離職は特に打撃が大きいが、組 織をこれまでのトップダウン型からボトムアップ型に変えるなどの工夫により、現場のさらな るモチベーション向上を図ることも重要な人材定着策のひとつである。人材育成のために将来 的には、モンゴル・インドネシアなど他国でのプロジェクトも含めた双日グループ全体として のキャリア・パス構築も検討の必要があるとの認識もある。 中国やインドなど新興国との資源獲得競争は引き続き激しいが、双日としては、今後も新規 炭鉱取得による持ち分権益炭量の拡大を目指すとともに、オペレーターシップ事業のさらなる 展開も目指したい考えである。オペレーター能力を有していることで、双日が組むことができ る事業パートナーの選択肢が広がることから投資機会の創出につながることも期待でき、その ようなアドバンテージを持ち分権益炭量の拡大のために活かしていく方針である。 3 http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html Interview SCR山本社長、SCMボリアス社長に聞く ~オペレーター経験を活かして~ SCM キャメロン・ボリアス社長(左)と SCR 山本大成社長(右) <山本社長(SCR)、ボリアス社長(SCM)プロフィール> 山本大成氏。2011 年 7 月に Sojitz Coal Resources 社(SCR。双日㈱の 100%子会社でミネルバ炭鉱の資産保 有会社)社長に就任。 キャメロン・ボリアス氏。2010 年 10 月に Sojitz Coal Mining 社(SCM。SCR の 100%子会社でミネルバ炭 鉱の操業会社)社長に就任。 ※文中の肩書きは取材当時のもの。 ――オペレーターがYancoalから双日に代わったことで現場の雰囲気などに変化があったか? 炭鉱現場の従業員に自分の意見を積極的にいうマインドが生まれ、ボトムアップ的な組織に なってきた点は大きな変化である。これは中国と日本の企業文化の相違によるところもあるが、 双日の社風によるところも大きいと思う。 ――人材確保・定着のための具体的方策は? 仕事へのモチベーションを高めるべくボト ムアップ型の組織にすることに加え、勤務シ フトの工夫、土日の一部操業休止により、従 業員が週末の多くの時間を家族とともに過ご せるようにしていることも特徴だ。他プロジ ェクトでは家族と離れてサイト近くのキャン プに居住する従業員も多いが、ミネルバでは、 従業員のほとんどがサイトから20~40kmほ ど離れたエメラルド、スプリングシュアとい った町に居住しており、その多くが家族と同 居している。双日グループ全体として従業員 に魅力的なキャリア・パスを提示していくこ とも今後の課題である。 リハビリエリア リハビリエリア ――人件費・諸物価の上昇や今年7月の資源新税・炭素税導入などに伴うコストアップへの対応 は? エネルギーの使用効率改善、大型重機の稼働効率改善などによる生産性の向上や投資コスト の圧縮については不断の努力を行い成果も出ているが、人件費削減については他プロジェクト との人材獲得競争の現状を考えると慎重に対応せざるを得ない。資源新税(鉱物資源利用税) については、現在の価格水準であれば当面課税ポジションにはならず影響はない。炭素税は、 炭層から自然放出されるメタンガス量の多寡が負担額に大きく影響するが、現在放出量などに ついて精査を行っているところである。 4 http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html ――CSR活動や環境配慮への取り組みは? 双日では、近隣地域のアボリジニ部族への 支援、地元高齢者保護団体への支援、地域ヘ リ コプ ター救 援隊 への支 援、 絶滅保 護 種 Bridled Nailtail Wallabyの保護活動への支 援、地元クリケットチーム支援などを実施し ている。ほかの炭鉱事業者も同じと思うが、 サイト周辺の自治体・各種ステークホルダー との対話や地域社会への貢献は、円滑な事業 遂行を図るうえで非常に重要と考えている。 ワラビー保護活動 ――ミネルバ炭鉱の位置するクイーンズランド 州は雨が多い地域であるが、降雨による影響や 対策は? 2010年12月から2011年1月の豪雨・洪水は豪 州国内外で大きく報道され、石炭輸送用鉄道の 不通のためにミネルバも1カ月以上出荷できな かったが、本年もかなり雨の多い年となってい る。年初から6月までの降雨量は昨年を上回ってい るが、前回の豪雨・洪水後の対策(排水システム 構築、ポンプ購入など)が奏功し、安定操業を継 続している。 ミネルバのスタッフ一同 ――今後の事業展開・戦略・展望は? ミネルバでのオペレーター経験を活かし、豪州内外で過半数の権益を取得しオペレーターと なる新規投資のチャンスを優先的に模索していきたい。オペレーター実績を有することは投資 機会の創出にとって大きな強みであり、このアドバンテージを最大限活かしたい。オペレータ ー実績を積み重ねることで現有の組織・機能の有効活用が可能となり、既存事業との種々のシ ナジーを通じた好条件での投資が可能となるケースも出てくるものと考えている。 ※この記事は、JOI機関誌「海外投融資」の『ワールドレポート(JBIC海外駐首席が紹介する日系企業の現地での取り組み)』 コーナーに掲載されたものです。 (株式会社国際協力銀行 シドニー駐在員事務所 5 首席駐在員 岩瀬 健一)