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ベトナムのインフラビジネスは今

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ベトナムのインフラビジネスは今
http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html
ハノイ駐在員事務所
2013 年 5 月
ベトナムのインフラビジネスは今
後編:ベトナム政府の民活インフラ導入政策および主要セクターの動き
1.BOT 案件組成実績:これまではプロジェクト組成に多大な時間
ベトナムでは、民活型インフラに関する制度
的フレームワークとしてBOT法令が1993年に
制定され、幾度かのファインチューニングを経
て現在に至っている。BOT法令のもとで、外国
投資家が参画した第1号案件となったのはフー
ミー2-2天然ガス火力発電所であるが、案件の
事業権入札公示が1997年、事業者選定を経て
プロジェクトファイナンス(PF)ベースのフ
ァイナンスが組成完了したのが2002年10月と、
プロジェクトの組成に実に5年もの時間を要し
た。その後、2003年6月にフーミー2-2のスキ
ーム、政府サポートを踏襲した2号案件である
フーミー3天然ガス火力発電所のPFベースの
BOT 第 1 号案件:フーミー2-2 天然ガス火力発電所
ファイナンスが組成に至った。しかし、第3号
(写真提供:住友商事)
案件となるモンズン2石炭火力発電所のファイ
ナンス組成完了は2011年8月と、外国投資家が参画するBOT案件は、図らずも、実に8年も
の空白期間が生じることとなった。現在も、本邦企業を中心とする外国投資家が、数件の
電力BOT案件の組成に向け、政府との交渉を進めているが、いずれも忍耐強い対応を余儀
なくされており、プロジェクト関係者の間では、ベトナムでのBOT案件組成には「尋常で
はない多大な時間を要する」といった評価が一般的となっている。
なぜ、BOT案件形成には時間がかかるのだろうか。さまざまな指摘があるが、率直にい
って、①適切な官民リスクシェアに対するベトナム政府の経験、理解が十分とはいえない、
②各種政府サポートについて一元的な交渉窓口がないため、外国投資家は(縦割り主義の
もとで)所轄官庁と個別に協議する必要があり、政府サポート交渉を能率的に行うことが
困難であること――などが主な要因と考える。
スキーム上、電力などの公共サービスをBOTプロジェクトから購入する主体は一般に国
営企業が想定されるが、その信用力が十分ではなく、さらには、脆弱なマクロ経済のもと
で外国為替市場のドン/ドル交換などにも懸念があるといった状況下では、外国投資家お
よび外国金融機関が、BOT案件の事業性(バイアビリティ)、融資可能性(バンカビリティ)
を確保するためには、政府の各種サポートが必要不可欠となる。一方で、ベトナム政府は
できるだけ政府サポートを最小化するよう案件組成する傾向があり、まずは、外国投資家
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http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html
の能力を試すべき(マーケット・テスト)という認識で外国投資家との交渉に臨んでいる。
しかしながら、ベトナム政府の外国投資家に対する要求水準の相場観が、かなり過大なレ
ベルとなっており、外国投資家との交渉を難航させている。さらに、具体的な政府との交
渉の段では、所轄官庁の縦割り行政に忍耐強い対応を迫られることとなる。
2. 最近の政策動向:PPPのフレームワークの見直し、政策対話
1990年代末に英国で導入されたPPP(Public Private Partnership)方式が、民活インフ
ラのフレームワークとして世界的に注目を集め、先進国および新興国政府においても導入
が進められている。PPP方式とは官民連携方式と訳されるが、一般的には政府と民間が組
んであらゆる資産を活用する共同事業方式 注1 と解釈され、概念的にはBOT方式も包含する
ような非常に広範な概念を示している。したがって、PPPを具体的にいかなる制度設計の
もとで実施していくかは導入する国によってさまざまである。あえてBOTとの差別化を指
摘するとすれば、PPPでは、民間投資家にとって採算性の低いプロジェクトを実現させる
ため、政府補助金を投入してプロジェクトの事業性を引き上げるメカニズム(たとえば
VGF:Viability Gap Funding)が一般的に想定されているケースが多いことがあげられよ
う。
ベトナムにおけるBOT方式によるインフラ整備はこれまで実績も少なく、期待された成
果をあげられなかったとの認識のもと、政府は
新たな民活インフラのフレームワークとして
PPP方式の導入を決定している。2010年末に
は「PPP首相決定」を公布し、パイロット案件
の組成に着手した。しかしながら、ベトナム政
府が世界銀行などからのアドバイスを十分に
反映せず同決定を最終制定した経緯もあるこ
と、首相決定自体、フレームワークの大枠が規
定されているのみで、実際の運用にあたっての
細則などが整備されておらず投資家にとって
制度予見性が低いなど、外国投資家からの評判
は芳しくない。実際に、パイロットPPP案件の
計画投資省・JBIC の PPP 協議会(2013 年 3 月)
組成は現在に至るまで、非常に緩慢なものとなっている。
現在、アジア開発銀行などの協力により、ベトナム政府はPPP首相決定の改定作業を進
めており、改定案を内外の民間投資家に説明しつつ、民間からのニーズをくみ上げる努力
が進められている。外国投資家は、プロジェクトに対する政府支出の上限(現行首相決定
では原則として総プロジェクトコストの30%)の引き上げ、事業者提案型プロジェクト
(Unsolicited Proposal)の事業権者決定における柔軟な取り扱い(現行では原則入札)な
どに対して強い要望がある。
PPPやBOTといった民活インフラ整備では、案件を具体的に実現させることは、ホスト
国と外国投資家との対話をいかに効率的に進め、相互が受け入れ可能な現実的な合意を結
注1
ちなみに、経済産業省のアジア PPP 政策研究会においては、
「(PPP とは)公共サービスの民間開放のことである。
なお、その際、民と官が協働して、リスクとコストを応分に担い、たとえば、官がインフラを整備したり、規制ルール
づくりをしたりして、市場において相互的な補完を行うことが、PPP の特色である」とされている。
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ぶかということに尽きるが、対話を能率化させるための各種の試みが行われている。
ベトナムにおいては、ビジネス環境改善を目的とした日越両国政府と日本経済界の政策
対話の枠組み「日越共同イニシアティブ」のもとで、民活型インフラに関するワーキング
グループ(WT6)にて、民活インフラを促進するための課題について日越双方で具体的に
踏み込んだ議論が行われ、昨年、日越双方で報告書を取りまとめている 注2 。
また、今年3月末、国際協力銀行(JBIC)もベトナム計画投資省との間で民活型案件の形
成および推進に関する協議会を開催するとともに、今後の協議実施の枠組みに関する合意
文書を締結した。今後は、民活型案件の円滑な実施に向けた制度のあり方などにつき、ベ
トナムや他国での事例も踏まえ、具体的な検討を行う予定であり、計画投資省との協議を
通じ、ベトナムにおける民活型案件の形成に必要な環境整備に協力することで、本邦企業
のビジネスの拡大に貢献させていただければと考えている。
3.セクター動向:電力部門
2011年7月に公表された第7次国家電力開発計画(2011~20年)によると、国内の発電設
備容量を2010年末の約2万メガワットから20年には7万5000メガワットと約3.6倍に増強す
ることを予定している。同計画のプロジェクトリストでは、外国投資家の参画が想定され
るBOT案件は2016年以降の運転開始が予定されているが、現在建設中のモンズン2火力発電
所を除いては、外国投資家とベトナム政府との間で政府サポートを中心に未だ交渉が続い
ている。しかしながら、事業スキーム、リスクシェアを踏まえたプロジェクトの契約構造
はさほど複雑ではなく、多くの案件で外国投資家と政府との間のオープンイシューはほぼ
外貨交換保証に絞り込まれているようである。今後の政府の対応次第では、プロジェクト
が一斉に、本格的に動き始めるだろう。
4. セクター動向:水部門
水道事業では、事業会社が処理した水を地方自治体があらかじめ合意した価格で長期に
買い取るケースが一般的なビジネスモデルである。ベトナムにおいては地方公共団体が設
定する水道料金が低いこと、タリフ補助などの事業化のための各種手当が制度化されてい
ないこと、地方公共団体のプロジェクト契約義務についての履行能力に対する信用補完を
いかに考えるかなど、案件組成にあたって多くの課題が存在する。最近の動きとしては、
本邦企業と地場事業の合弁会社が、ベトナム地場銀行からの融資を受け、工業団地向けの
ユーティリティー供給事業として、小規模の排水処理や、工業団地と水道公社への上水卸
売といった、比較的小規模な事業を手がけるケースもみられる。
5. セクター動向:運輸部門
高速道路案件では、外国投資家がBOT案件に参画した実績はないが、地場の投資家によ
るBOT方式での事業参画のケースは散見される。ただし、地場の投資家によるBOT事業は、
通行収入により道路建設および運営管理を行うというよりは、道路建設により道路沿線の
不動産の利便性を向上させつつ、不動産開発を進めていくといった不動産開発事業の側面
注2
在ベトナム日本大使館のホームページに報告書が掲載されているので、ご参照いただきたい。
http://www.vn.emb-japan.go.jp/jp/economic/initiative/report_WT6_phase4_J.pdf
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http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html
も強く、外国投資家の投資判断基準とはやや異なるものとなっている。
現在、PPP首相決定のもとで、外国投資家の参画も視野に入れたパイロットPPP事業 注3
の組成に向けて、政府が事業権入札の準備を進めている。また、本邦の高速道路会社もハ
ノイ近郊の高速道路案件の事業権の取得に向けて、案件形成に取り組んでいる。一般に道
路案件のバイアビリティおよびバンカビリティを確保するためには、アベイラビリティ・
ペイメント 注4 の導入のように需要リスクを政府がある程度カバーする必要があるが、かか
るシステムがベトナムで導入されるかどうかが、今後の案件形成の鍵を握るとみられる。
港湾、空港案件においては、上下分離方式が一般的である。港湾では航路、防波堤、岸
壁、空港では滑走路などといった下部部門は、巨額の建設費がかかり、民間企業の採算に
は乗りにくい。したがって、下部部門を上部部門から切り離し(上下分離)、下部部門は
政府による公共投資で整備を行い、民間企業は上部部門の業務に特化するのが一般的であ
る。
港湾では、ラックフェン国際港の下部部門を日本からの援助により政府公共事業として
整備し、コンテナ・ターミナル事業については、日・越企業の合弁事業会社によって進め
られる見通しである。また、ホーチミンの新国際空港(ロンタイン空港)は、2020年の開
港が予定されているが、ターミナルビル建設・運営といった上部部門は民活インフラが想
定されており、本邦企業も事業参画に向けて準備中である。
空港、港湾においても、高速道路案件と同様に、需要リスクをいかにリスクシェアする
かといった問題に加えて、政府公共事業によって整備される下部部門の完成が遅れた結果、
上部部門の事業採算性が大きな影響を被るという、上下分離方式に特有のリスクをいかに
コントロールしていくかがポイントになる。
(国際協力銀行
ハノイ首席駐在員
弓削
範泰)
※この記事は、一般財団法人海外投融資情報財団(JOI)の機関誌「海外投融資」(2013 年 5 月号)に掲載されたも
のです。
注3
ドンナイ省・ビントゥアン省間の全長 99km、ベトナム地場企業の参画(60%)を前提として、残り 40%出資分が
対象。技術審査を通過した投資家のうち、いちばん低いバイアビリティ・ギャップ・ファンド金額を提示した投資家に
事業権が付与される見通し。
注4
事業会社の債務支払い、投資リターンなどをカバーするかたちで、事業会社の固定費用見合いの金額を、通行量に
かかわらずホスト国政府・政府機関が支う方式。
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