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中央アジアの雄、カザフスタンと 問われる今後の
http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html モスクワ駐在員事務所 2013 年 9 月 中央アジアの雄、カザフスタンと 問われる今後の日本の取り組み 1. カザフスタン概要 中央アジアの西端にあるカザフスタン共和国は、面積271万7000km2(日本の約7.2倍)、 人口1670万人(2011年12月)の国である。ソ連崩壊・独立後経済成長を遂げ、GDPは2000 億ドル(2012年)、1人当たりGDPも1万3000ドルを超えているとみられており、いずれも 中央アジア5カ国の中では堂々の首位を占め、CIS諸国の中ではロシアに次ぐ経済規模とな っている。1人当たりGDPの1万3000 ドルという数字は、日本近隣のアジ ア諸国との比較でも、シンガポール、 韓国、台湾は下回るがマレーシアよ りは上位に位置する。 経済成長をみると、ここ数年は、 2010年7.3%、11年7.5%、12年4.9% と、いずれもロシアを上回る結果を 残しており、リーマン・ショック直 後の09年でも1.2%と、大幅なマイナ ス成長を喫したロシア(▲7.9%)よ り数字のうえではよい成績を残した が、リーマン・ショックでは金融セ クターが痛手を被り、現在に至るま でカザフ経済の成長の足かせとなっ ている。カザフの人口のうち、63% はカザフ人、23%はロシア人が占め ている。カザフ人はトルコに通じる テュルク系民族である。 2. 影響力強化に努める中国・ロシア、関係強化に力を入れる韓国・欧米 リーマン・ショックで西側の金融機関がカザフスタンから一斉に撤退した後、救いの手 を差し伸べたのは中国だ。2009∼10年にかけ、中国からの支援規模は100億ドル以上とみ シンチアン られる。中国にとってカザフスタンは新 疆 ウイグル自治区で接する東の隣国であり、多く の民族が住むキルギス、ウズベキスタン、タジキスタン、アフガニスタンの北方に位置す るカザフスタンとの関係は、地政学上も非常に重要である。また、カザフスタンの豊富な 資源(石油・天然ガス・鉱物資源など)も、中国にとっては非常に魅力的であることは言 1 http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html うをまたない。カザフの石油資産のうち、すでに4分の1以上は中国企業が保有していると みられている。石油については、石油パイプラインが2005年よりカザフから中国に石油の 輸送を開始、ガスについても、トルクメニスタンから中国にガスを輸送するパイプライン がウズベキスタン、カザフスタン経由で中国に09年からガスの輸送を開始している。そし て、カザフは中国にとって自国製品の重要な市場でもある。貿易関係をみると、カザフに とって中国は輸出では第1位、輸入では第2位を占めている(2012年)。 カザフスタンなど中央アジア諸国に対する中国の影響力強化を黙視できないのがロシア である。ロシアにとって中央アジアは旧ソ連圏の一部であり、政治・経済上の関係が深い だけではなく、ロシア語が通じる文化圏としても一体という強い思いがある。ロシアはカ ザフスタン、ベラルーシとともに2010年に関税同盟を発足させ、12年にはそれをユーラシ ア経済共同体というかたちにステップ・アップさせて、旧ソ連圏としての影響力維持に余 念がない。 成長著しいカザフに韓国・欧米勢も積極的にアプローチをかけている。韓国は李明博政 権時代にトップ外交でカザフ・韓国間の経済関係強化に努め、韓国企業が主導する大型発 電プロジェクト・大型石油化学プロジェクトを推進しようとしている。欧米勢も、テンギ ス油田、カシャガン油田のような資源の輸出プロジェクトに協力するだけではなく、産業 の多角化・近代化に努めるカザフの国づくりの意向に貢献できるようなプロジェクトに協 力しようとしている。たとえば、機関車工場の設立を支援し、カザフで生産した機関車を カザフ国内で利用できるようにするだけではなく、地の利や関税同盟を活かしてロシアな どのCIS諸国に販売することを支援したりしている。 3. 日本の取り組み 日本もソ連崩壊後からカザフとの経済関係強化を進めてきた。1998年にはインペックス (現在の国際石油開発帝石)が世界でも有数の埋蔵量を誇るカシャガン油田の権益を一部 取得。2001年にはカザフ国内最大の製油所であるアティラウ製油所の近代化プロジェクト の第1フェーズを丸紅が受注し、その実績を買われるかたちで、2011年には第3フェーズの 受注を成功させた。これらの案件を国際協力銀行(JBIC)も金融面から支援してきた。し かし、上記のような中露韓欧米の動きを目の当たりにすれば、日本はカザフとの関係強化 に向けた努力に少しの油断も許されないというべきであり、官民あげた関係強化を推進・ 維持すべきである。 現地でも日本企業の懸命な努力が続いている。カザフは、日本企業に対し、もう輸出は 要らない、投資をして欲しいと言っているという。経済成長を遂げ資金はあるので、必要 な設備は日本から買わなくてもほかの国からも買うことができる。しかし、経済の資源依 存構造を脱却するためには、経済の多角化・近代化が必要である。そのために、カザフは 資源以外の分野への外国投資誘致に力を入れているが、日本に対しても、技術・経営ノウ ハウを伴う投資によってカザフに進出してほしいということであろう。 ロシアとの関税同盟による経済圏の拡大も、一見カザフにとっては市場規模・経済機会 の拡大ではあるが、やり方を間違えると、ロシア企業がカザフ市場を取り込み支配するこ とに終わる可能性もあり、カザフにとっては資源以外の製造業・サービス業など他セクタ ーでの競争力強化が待ったなしの課題になっている。日本企業からみると、インフラの整 備も十分とはいえず、人口も決して多いとはいえないカザフに投資を行うことは二の足を 2 http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html 踏むところだろう。しかし、カザフの中間層の成長をみればそこに商機を見出す日本企業 が今後現れてくる可能性がある。実際に本年 2 月にはトヨタがカザフでの自動車生産合意 を発表。また、コンビニエンスストアのミニストップも本年月にカザフ 1 号店をアルマテ ィに開店し、年内に 10 店舗以上の開店を目指すという。 4.物流の新しい動き かつて、シルクロードは欧州とアジアを結ぶ重要な役割を果たしたが、世界史をたどる と、大航海時代以降は海運に主導権を奪われ、航空機の発達とともに輸送路としてはさら に隅に追いやられる結果となった。陸路は本来、海路よりコスト高だが速く、空路より遅 いがコスト安という中間の位置を占めるべきだが、シルクロードについては、交通インフ ラの整備不足、分断された国境による通関の面倒さにより、長らく、海運より速くアジア と欧州を結ぶことが実現できなかった。しかし、今、シルクロードの復権ともいえる新し い動きが現実化しつつある。中国の重慶から出発する鉄道が、カザフを横断してロシア、 ベラルーシ、ポーランドを通過してドイツのデュイスブルクへと結ぶ。海運では重慶から 60 日かかっていたものが、この重慶―デュイスブルク間鉄道ルートを利用すれば 16 日で輸 送が可能になるという。 カザフは鉄道だけでなく、道路についても世界銀行など国際機関や国際協力機構(JICA) などの援助を受けて、カザフを横断し中国から欧州を結ぶ道路を整備しようとしている。 カザフは自国の経済力・産業力強化を進めるなかで、物流においても世界の中でより大き な役割を果たそうと強かな戦略を描いているようである。 (国際協力銀行 前モスクワ首席駐在員 岩尾 大史) ※この記事は、一般財団法人海外投融資情報財団(JOI)の機関誌「海外投融資」(2013 年 9 月号)に掲載されたも のです。 3