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大統領選挙と PEMEX - JBIC 国際協力銀行

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大統領選挙と PEMEX - JBIC 国際協力銀行
http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html
メキシコシティー駐在員事務所
2012 年 6 月
大統領選挙と PEMEX
今年 7 月、メキシコでは 6 年に一度の大統領選挙が行われ、12 月より新政権が発足する。3
月末に各党大統領候補者が出揃い、選挙運動がスタートした。これから 7 月に向け白熱した選
挙戦が展開されることになる。この大統領選挙における論点の一つに、メキシコ国営石油公社
(Petroleos Mexicanos、通称 PEMEX)を将来的にどうするのかということがある。
世界第7位の原油生産国
メキシコは世界第7位の原油生産国であり、
また世界第 18 位の天然ガス生産国である
(2010 年末現在)が、これらの生産を一手に担
っているのが PEMEX である。
1917 年に制定されたメキシコ憲法第 27 条に
て、石油や天然ガスを含む天然資源はメキシコ
国民のものとされたが、実態は欧米諸国に搾取
され続けるという時期が続いた。こうした状況
を、1938 年、時の大統領であったラサロ・カル
デナス大統領(PEMEX 本社には彼の銅像が立
っている)が、石油や天然ガスの国有化を宣言
PEMEX ガソリンスタンド
し、PEMEX を設立した。その後、現在に至る
まで PEMEX は一貫して独自の生産を続けてきた。その間、国際協力銀行(JBIC)も複数の
融資を通じて PEMEX のプロジェクトを支援してきた。
しかしながら、2000 年代に入って以降、PEMEX の生産量は急激に落ち込んだ。ようやく昨
年には歯止めがかかった模様ではあるが、この落ち込みを元に戻すには相当な投資が必要と言
われている。
油田開発にインセンティブ契約
PEMEX はメキシコの国家収入の約 3 割を、納税という形で支えている。このため探鉱や開
発に十分な資金をかけられないというジレンマがある。今でも年間の投資資金の約 8 割を油ガ
ス田の探査や開発に当てているにもかかわらずである。製油所部門や石油化学部門といった下
流部門は投資を行う予算が一層厳しい状況である。十分とは言えないものの、それなりの予算
が手当てされている上流部門でも、昨今、油ガス田の開発場所が従来の浅海から深海に移りつ
つあり、更なるコスト増につながることや、世界第 3 位の埋蔵量といわれるシェールガスの開
発にも、莫大なコストがかかるなど、非常に頭の痛い話である。
こうした状況下、PEMEXは、昨年より油田開発にインセンティブ契約(プロダクトシェアリ
ングのない掘削サービスの請負契約。提供するサービスの成果に報じた報酬がPEMEXより支払
われる)を導入し、民間の力を活用する方策を取っている。最高裁での合憲判断を経て、既に3
件の成熟油田の開発に同契約が適用されているが、今後も複数の案件が予定されており、欧米
石油メジャーの参加も噂されている。
しかしながら、こうしたインセンティブ契約を導入しても、まだまだPEMEXの投資のための
資金は十分ではないということであろう。PEMEXへの民間参入という話は、これまでも度々起
こっては消えていたのだが、今回ほど現実味を持って真剣に議論されたことはないであろう。
http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html
石油公社の民営化が大統領選の争点に
現在大統領選挙には4人が立候補している
が、そのうち有力と言われている候補が3人。
うち1人はPEMEXの民営化には断固反対の
立場である。一方、残り2人(現状の世論調査
ではこの2人の支持率が1位及び2位。一方は
現政権与党候補であり、もう一方は最大野党
候補)は、PEMEXの株式上場や民間資本の
参入を公言している。また、この2人が共通し
て口にしているのは、「PEMEXの
PETROBRAS化」ということである。
PEMEX の海上油田
PETROBRASとはブラジルの石油会社で
あり、PEMEX同様、以前はブラジルにおいて国営の独占企業であったが、今では引き続き政府
が過半の株式を保有するものの、株式上場している。また、プロジェクトベースでの民間資本
の導入にも積極的であり、今では世界有数の石油メジャーの一つとなっている。JBICも、本邦
企業と共に、長年ブラジルの石油ガス開発の発展に貢献すると共に、世界的な資源の安定供給
体制の確保に努めてきた。その際、PETROBRASや本邦企業と様々なプロジェクトスキームや
ファイナンススキームを考え、少なからずPETROBRASの資金調達をサポートしてきた。本当
にPEMEXがPETROBRAS化するのであれば、今はほとんど関心のない本邦企業も、その態度
を変えるのはまず間違いないであろう。そうなれば、JBICも、これまで以上に様々な形で
PEMEXの資金調達をサポートすることが可能となるはずである。
果たしてこの7月の大統領選挙で誰が勝つのか、そしてその勝者がPEMEXをどのように変え
ていくのか、こうした視点で、今年の大統領選挙及び12月からの新政権を見ていくのも大変面
白いと思う。
(国際協力銀行
※
メキシコシティー首席駐在員
この記事は、2012 年 6 月号の金融ジャーナル社「金融ジャーナル」に掲載されたものです。
2
佐々木
聡)
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