...

総説 カテプシンEの構造と機能

by user

on
Category: Documents
31

views

Report

Comments

Transcript

総説 カテプシンEの構造と機能
●総説 ●
カテプシンEの 構造と機能
プロセシング酵素としての可能性
景山 節
カテ プシンEは 細胞 内の小胞 体,エ ン ドソームに局 在する アスパラギ ン酸 プロテアーゼ
Database Center for Life Science Online Service
である。 生体内 ではその プロ体,さ らに各々の単量 体とS-S結
合 による2量 体があ り,全
部で4つ の フォーム がある。 カテ プシンEは 蛋白質,ペ プチ ド基質の疎 水性 アミ ノ酸が連
続 する結合 を好ん で切 断する が,周 辺 の配列 にも大き な影響を 受ける。 特 に"Pro-X-X'疎 水性ア ミノ酸"の 配列 をよ く認識 し,こ の配列 を含む ニュー ロテンシ ン前駆体 など,い
くつかの前 駆体 に対 する高 いプ ロセ シング活性 をもつ 。本稿 では酵素の 構造,機 能 と特 異
性 に関す る最近の知 見を紹介 する。
【カテ プシ ンE】 【
アスパ ラギン 酸 プ ロテ アーゼ】 【生 理 活 性 ペ プチ ド】
IKey word
【前駆 体 プ ロ セ シ ン グ 】
は じめ に
カ テ プ シ ンE(EC3.4.23.34)[→
Words(p.381)]は
ア ー ゼ で あ る 。1962年
Lapresleは
今 月 のKey
細 胞 内 で 働 くア ス パ ラ ギ ン酸 プ ロ テ
に フ ラ ン ス ・パ ス ツ ー ル 研 の
ウサ ギ 骨 髄 か ら酸 性 で 高 い ア ル ブ ミン分 解
活 性 を も つ プ ロ テ ア ー ゼ を 分 離 し,カ
テ プ シ ンEと
命
名 し た1)。同 じ こ ろ細 胞 内 に はや は り酸 性 で 働 くア ス パ
精 製 さ れ た 上 記 の 主 要 な 酵 素 標 品 が ま っ た く同 じ分 解
活 性,特
異 性,免
疫 交 差 性 を もつ こ とか ら同 一 酵 素 で
あ る と結 論 さ れ,こ
れ ら に カ テ プ シ ンEの
る よ う に な っ た6)。1989年
ン グ され て,カ
ー ゼ の1員
に ヒ トのcDNAが
テ プ シ ンEは
で あ る が ,カ
名 前 を用 い
ク ロー ニ
ア ス パ ラ ギ ン酸 プ ロテ ア
テ プ シ ンD,ペ
プ シ ン,レ ニ
ラギ ン酸 プ ロ テ ア ー ゼ の カ テ プ シ ンD(EC3.4.23.5)
ン と異 な る構 造 を もつ こ とが 明 らか に な っ た7)。各 酵 素
が 知 られ て い た 。 そ の 後,カ
の1次 構 造 の比 較 に よ る系 統 関 係 は図1の
テ プ シ ンDが
比較 的 早 く
リソ ソー ム の 酵 素 と して 確 立 し た の に く らべ,カ
シ ンEは
新 規 の プ ロ テ ア ー ゼ か カ テ プ シ ンDと
う関 係 に あ る か,長
究 者 はLapresleの
ら く結 論 は で な か っ た 。 個 々 の 研
酵 素 との,あ
を特 定 で きな か っ た の で,そ
る い は お 互 い との 関 係
れぞれ別 々 の名 前 をつ け
て きた 。 た とえ ば,非 ペ プ シ ン プ ロ テ ア ー ゼ,カ
シンE様
ー ゼ ,赤
テプ
どうい
プ ロ テ ア ー ゼ,カ
テ プ シ ンD様
proteinaseな
Takashi
Kageyama,
Biology, Primate
分 岐 に つ い て は い つ ご ろ に な る の か,ど
に 存 在 す る の か に つ い て は,現
の範 囲 の生物
時点 で は まだ はっ き り
し な い 。 少 な く と も哺 乳 類 で は 普 遍 的 に 存 在 し,細 胞
内 蛋 白 質 分 解 の 一 翼 を担 っ て い る こ と は明 らか で あ る。
酸性 プ ロテア
本 稿 で は最 初 に カ テ プ シ ンEの 構 造 と機 能 面 に ふ れ,
どが あ げ られ る2∼5)。1988年 に,
次 に 蛋 白質 分 解 の特 異 性 と生 体 内 で の 役 割 に つ い て 現
状 を概 説 し た い 。 な お 酵 素 の 基 本 的 性 質 に つ い て は別
京都 大学霊長類研究所分子生理部門(〒484愛 知 県犬山市官林) [Department
Research Institute, Kyoto University, Inuyama, Aichi 484, Japan]
Structure and Function
似 酵 素 が この プ ロ テ
ア ー ゼ 群 の 祖 先 的 な もの と考 え られ る。 カ テプ シンEの
テプ
血 球 膜 酸 性 プ ロ テ ア ー ゼ(EMAP),slow
moving
細 胞 内 に存 在 し た カ テ プ シ ンD類
よ うになる8)。
of Cellular
and Molecular
of Cathepsin E, a Candidate for Processing Proteinases
347
36
蛋白質 核酸
Vol.41 No.4 (1996)
酵素
CysのS-S結
合で結 ばれた も
の で あ る8,11,13)。
プロカテプシ
ンEに
もや は り2つ の フ ォー
ムが あ るので,生 体 内 で は4つ
の フ ォ ー ム が 存 在 す る こ とに
ア スパ ラ ギ ン酸 プ ロテ ア ー ゼの 分 子 系統 樹
図1
レ ニ ン ・カ テ プ シ ンDは ヒ ト,カ テ プ シ ンE・ ペ プ シ ンCは
F・ペ プ シ ンAは
そ れ ぞ れ ウ シ,ウ サ ギ,サ
ル のcDNAを
な る(図2)。
プ ロ 体 と活 性 型
の 割 合 は,た
とえ ば 胃 で は大
部 分 が プ ロ体 で あ る が,脳
モ ル モ ッ ト,キ モ シ ン ・ペ プ シ ン
選 び,配
列 を比 較 して 描 い た もの で あ
る。 枝 の長 さは 相 互 の 核 酸 置 換 数 に 比例 して い る。
が 多 い な ど,組 織 あ る い は細
胞 に よ り違 い が み ら れ る。 プ
ロ カ テ プ シ ンEの
Database Center for Life Science Online Service
著 に詳 述 さ れ て い る9)。
I.生
合 成,活 性化,2量
な
どの 神 経 系 で は活 性 型 の 割 合
活 性 化 は単
量 体 と2量 体 で 反 応 時 間 な ど に 差 は み られ な い 。 プ ロ
体構 造
体 単 量 体 は モ ル モ ッ トで372残
基 の ア ミノ 酸 か ら な る
が,そ
基(活 性 化 ペ プ チ ド)が
の うち のN末
端 の32残
切 断 遊 離 さ れ る。 活 性 化 反 応 は プ ロ体 が 酸 性 条 件 で 構
生合成と細胞内局在
1.
カ テ プ シ ンEに
の ほ か,シ
造 変 化 を起 こ し て 自 己 触 媒 的 に 活 性 化 ペ プ チ ド を切 断
は プ ロ ペ プ チ ド(活 性 化 ペ プ チ ド)
グ ナ ル ペ プ チ ドが 存 在 し プ レ プ ロ体 と して
生 合 成 され る。 ま た マ ンノ ー ス 型 の糖 鎖 を有 して お り,
す る もの で あ り,ペ プ シ ン,カ テ プ シ ンDに
も共 通 し
た ア ス パ ラ ギ ン酸 プ ロ テ ア ー ゼ の 重 要 な基 本 的 機 能 で
あ る 。 どの ぐらいpHが
低 下 す れ ば,プ ロ体 の構 造 変 化
細 胞 内 小 器 官 に移 行 す る 酵 素 で あ る2,10)。実 際 に細 胞 分
とペ プ チ ド切 断 が 速 や か に進 む か は酵 素 に よ り異 な る。
画 を行 な っ て み る と,相 当 な 割 合 が 可 溶 性 画 分 に 回 収
プ ロ カ テ プ シ ンEの
さ れ る こ とか ら細 胞 質 ゾ ル に 局 在 す る と さ れ た こ と も
り,pH4で
活 性 化 反 応 はpH5ぐ
らいか ら始 ま
最 も速 くな る8,14)。それ 以 下 のpHで
はpH
あ るが11),最 近 の研 究 で は小
胞 体,エ
ン ドソ ー ム局 在 が 確
認 され て いる12)。しか し,赤 血
球 膜 局 在 が 知 ら れ る よ う に4),
一 部 の 組 織 あ るい は細 胞 で は
,
特 異 な 局 在 を 示 す 場 合 もあ り,
何 らか の 生 理 機 能 と相 関 し た
細 胞 内 局 在 も考 え られ る 。
活性化
2.
プ レペ プ チ ドが 合 成 直 後 に
切 断 さ れ た の ち,小 胞 体 あ る
い は エ ン ド ソー ム の弱 酸 性 環
境 で プ ロ カ テ プ シ ンEか
テ プ シ ンEへ
の変 換(活 性 化)
が 起 こ る 。 カ テ プ シ ンEに
分 子 量 約37Kの
75Kの2量
は
単 量 体 と約
体 が あ る 。2量 体
は 単 量 体 がN末
348
らカ
端部 に ある
図2
カ テ プ シ ンEの4つ
プ ロ体 か ら カテ プ シ ンEへ
ば れ た2量
体 は,プ
の フ ォー ム
の 変 換 で はN末
ロ体 とカ テ プ シ ンEで
る 。 単 量 体 力 テ プ シ ンEは
端 部 の 立 体 構 造 の 変 化 が 最 も大 きい。S-S結
合 で結
は お そ ら くま っ た く逆 の 位 置 関 係 にな る と考 えられ
ア ル カ リ性 で 不 安 定 で あ るが,2量
体 は 安 定 で あ る。
カテ プシンEの 構 造と機能
図3
37
ア スパ ラ ギン酸 プ ロテ アー ゼ の プ ロ体 のN末 端 部 配列 比 較
A,F,Ch,C,E,D,Rは
そ れ ぞ れ ペ プ シ ノー ゲ ンA,ペ
カ テ プ シ ンD,プ
ロ レニ ン を 表 わ して い る。-は
プ シ ノ ー ゲ ンF,プ
ロ キ モ シ ン,ペ プ シ ノ ー ゲ ンC,プ
欠 損 残 基 で あ る 。 イ タ リ ッ ク文 字 は 活 性 型 酵 素 のN末
ロカ テ プ シ ンE,プ
ロ
端 残 基 を表 わ してい る。 共 通 残
基 は 網 掛 け で 示 して あ る 。 重 要 な塩 基 性 ア ミノ酸 は 反 転 して 示 し て あ り,活 性 型 酵 素 の 酸 性 ア ミノ酸 と水 素 結 合 をつ くる こ と に よ り活
性化 を 抑 え て い る 。 プ ロカ テ プ シ ンEで
Database Center for Life Science Online Service
傍 にCysが
あ り,S-S結
はLys37が
欠 損(置 換)し
て お り,活 性 化 反 応 が 起 こ りや す くな って い る。 この 欠 損 残 基 の近
合 で2量 体 を形 成 す る。
4と 同 じ く らい か 少 し遅 くな る 。 ペ プ シ ンの活 性 化 はpH
ん ど差 は な い 。 プ ロ体 と活 性 型 の 比 率 が 組 織 で ま ち ま
4,5で
ち で あ る よ う に,単 量 体 と2量 体 の 比 率 も組 織 に よ り
は きわ め て 遅 く,pHが1と
か2と い っ た低 い ほ
ど速 や か に起 こ る。 明 ら か に酵 素 自 身 の働 く環 境 と活
異 な る 。 通 常 の 組 織 は 単 量 体 が 数 倍 多 い が,赤
性 化 の 至 適pHに
骨 髄 な どで は2量 体 が 同 じ く らい 検 出 さ れ る 。 カ テ プ
相 関 が あ り,プ
ロ カ テ プ シ ンEの
弱
血 球,
酸 性 で の 活 性 化 はエ ン ド ソー ム な どの 細 胞 内器 官 で 働
シ ンEの 単 量 体 と2量 体 の 大 きな 違 い は ア ル カ リ性 環
く こ と に適 応 した もの で あ る。
境 下 で の 安 定 性 に あ る。2量 体 はpH8以
プ ロ カ テ プ シ ンEの 活 性 化 が 弱 酸 性 で容 易 に 進 む の
を 説 明 す る1つ
の 仮 説 が あ る。 ア ス パ ラ ギ ン酸 プ ロ テ
ア ー ゼ の 活 性 化 ペ プ チ ドは最 長49残
プ シ ノ ー ゲ ンC)か
テ プ シ ンE)の
ら最 短32残
基(モ ル モ ッ トペ
基(モ ル モ ッ トプ ロ カ
長 さ が あ る が,い
あ る が,単
上 で も安 定 で
量 体 は非 常 に 不 安 定 で か な り速 や か に失 活
す る9)。単 量 体 の ア ル カ リ変 性 はペ プ シ ンの 性 質 に よ く
似 て い る。 ペ プ シ ン の ア ル カ リ変 性 が ア ル カ リ条 件 で
の 構 造 変 化 に 起 因 す る とさ れ る こ とか ら,2量
体構 造 は
ず れ も中 性 条 件 で 酵
そ の よ う な 変 化 を起 こ し に く く し,安 定 を保 っ て い る
素 活 性 の 発 現 を抑 え る と と も に 酵 素 全 体 を安 定 に保 つ
と考 え ら れ る。 ペ プ シ ノ ー ゲ ン とペ プ シ ンの 立 体 構 造
役 割 を 果 た して い る。 安 定 化 は 主 と し て活 性 化 ペ プ チ
か ら類 推 す れ ば,2量
ド内 のLys,Argと
体 の 組 合 せ は,2個
の 単 量 体 が 絡 み 合 うの で は な く,プ
ロ カ テ プ シ ンEで
は互 い に 活 性 中 心 が 向 き合 い,カ テ
活 性 型 酵 素 のAsp,Gluの
合 に よ っ て生 じ て い る 。 図3で
水素結
明 ら か な よ う に,活
化 ペ プ チ ドの 機 能 上 必 須 のLys,Argは
性
各 酵 素 と動 物
プ シ ンEで
体 構 造 を とっ た と きの2つ の単 量
は 逆 に 外 に 向 い て対 称 形 に連 結 した 形 と推
種 に か か わ らず よ く保 存 さ れ て い る 。 ペ プ シ ノ ー ゲ ン
測 さ れ る(図2)。
で の 立 体 構 造 解 析 に よ れ ば,特
変 化 が 抑 え ら れ る こ と に よ り安 定 を保 つ の で は な い だ
にLys37は
め に重 要 と され て い る15)。 このLysは
安 定化 の た
プロ カテプ シン
ろうか 。 細 胞 内 で は単 量 体⇔2量
Eで の み置 換 あ る い は 欠 損 して お り,こ の こ とが プ ロカ
シ ンEの
テ プ シ ンEの
る と考 え られ る 。
活 性 化 が わ ず か のpH低
下 で起 こるこ と
ア ル カ リ下 で は互 い が 引 き合 い構 造
体 の 相 互 変 換 は カ テプ
失 活 と安 定 化 を調 節 す る機 構 と して 働 い て い
の 主 要 因 と考 え られ る 。
II.蛋 白質,ペ プチ ドの分解とその特異性
3.
2量 体構 造 につ いて
2量 体 は プ ロ カ テ プ シ ンEと
濃 度 の 生 理 的 還 元 剤(還
カ テ プ シ ンEと
もに低
元 型 グ ル タ チ オ ン,シ ス テ イ
カ テ プ シ ンEはAsp,Gluの
残 基 数 がLys,Argの3
倍 以 上 あ り等 電 点 の 低 い 酸 性 蛋 白 質 で あ る 。X線
解析
ンな ど)で 容 易 に 単 量 体 に変 わ り,還 元 剤 を 除 く と再
に よ る立 体 構 造 は まだ 決 め られ て い な い が,ペ
び2量 体 に 戻 る9)。単 量 体 と2量 体 は酵 素 活 性 で は ほ と
に近 い構 造 と推 定 さ れ る 。 す な わ ち 球 形 の 中央 部 に 大
プ シン
349
38
蛋白質
核酸
Vol,41 No.4 (1996)
酵素
両 酵 素 で ほ ぼ 同 じで あ る)。 タ
キ キ ニ ン は カ テ プ シ ンEが
く分 解 す る の に比 べ,カ
シ ンDは
の1ぐ
よ
テプ
数 十 あ る い は数 百 分
らい の 分 解 速 度 で しか
な い 。 β-エ ン ドル フ ィ ンの 分
解 で は ま っ た く逆 の 関 係 に な
る 。 ペ プ チ ド基 質 に 対 す る こ
の よ う な 大 き な差 は組 織 抽 出
液 で の両 酵 素 の選 択 的 測 定 を
可 能 に す る。 ヘ モ グ ロ ビ ン な
ど蛋 白 質 基 質 に対 して はEと
Database Center for Life Science Online Service
Dで ほ とん ど差 が で な い の は,
さ ま ざ ま な部 位 の 切 断速 度 の
違 いが総 和 として現 われ てい
る た め で あ ろ う。
図4
カ テ プシ ンEに よ る生理 活 性 ペ プ チ ドの 分解
P1とP'1位
度 で,pH5で
III.前 駆体のプロセシングへの
の ア ミノ 酸 は ほ と ん どが 疎 水 性 また は芳 香 族 ア ミノ酸 であ る 。 右側 の 数 字 は分 解 速
の サ ル 酵 素 の 値 で あ る。 ↑:主 た る 切 断 部 位,↑:2次
的切断部位。
関与
1.
きな 裂 け 目 が あ り,活 性 中 心 を形 づ くる。 活 性 中 心 の
奥 に2個
のAspが
位 置 し,ペ プ チ ド結 合 水 解 の働 き を
触 媒 す る。 カ テ プ シ ンEは
ヘ モ グ ロ ビ ン,ア ル ブ ミン
ニ ュー ロテ ンシ ン前駆体
のプ ロセ シン グと認識 配列
カ テ プ シ ンEの 生 体 内 で の働 きの1つ
に,蛋
プ チ ド前 駆 体 の プ ロ セ シ ン グが あ る。 従 来,in
白質,ペ
vitro実
な どの蛋 白質 を非 常 によ く分 解 す る9,16)。至 適pHは2.5
験 で はニ ュ ー ロ テ ン シ ン,ニ
付 近 に あ り,pH4∼5で
理 活 性 ペ プ チ ド前 駆 体 が ペ プ シ ン に よ っ て プ ロ セ ス さ
カ テ プ シ ンEを
は急 速 に分 解 速 度 が 低 下 す る。
生 理 活 性 ペ プ チ ドに 作 用 させ る と,蛋
白 質 の 分 解 と異 な り,至 適pHは4∼5の
カ テ プ シ ンEの
れ,蛋
至 適pHは
白質 基 質 の 至 適pHが
弱 酸 性 に なる。
ュー ロ メ デ ィ ン な ど の生
れ る こ とが 知 られ て い た23)。ペ プ シ ン は細 胞 内 ア スパ ラ
ギ ン酸 プ ロ テ ア ー ゼ の モ デ ル と して 使 わ れ た も の で あ
本 来 弱 酸 性 で あ る と考 え ら
り,生 体 内 で 実 際 に働 い て い る プ ロ テ ア ー ゼ に つ い て
低 い の は,基 質 の立 体 構
は不 明 で あ っ た 。 筆 者 ら は これ らの 前 駆 体 の プ ロ セ シ
造 が 酸 で 崩 れ る こ と に よ り酵 素 が 攻 撃 し や す くな る こ
ン グ部 位 を含 む ペ プ チ ド を合 成 し,そ
とが 大 き く効 い て い る と考 え ら れ る。
パ ラ ギ ン 酸 プ ロ テ ア ー ゼ の 作 用 を検 討 し た と こ ろ,カ
脳-腸 管 ペ プ チ ドを 中 心 とす る何 種 類 か の ペ プ チ ドの
分 解 を調 べ て み た と こ ろ,サ ブ ス タ ン スP,ニ
ニ ンAな
ュー ロ キ
どの タキ キ ニ ン を非 常 に よ く分 解 した8,9,14)。
こ
れ ら の ペ プ チ ドお よ び イ ン ス リ ンB鎖
異 性 をみ る と,P1,P'1位
で の切 断 部 の 特
が 疎 水 性 ア ミノ酸 の所 をよ く
切 断 し て い る の が わ か る(図4)17∼19)。 この 特 異 性 はペ
プ シ ン20),カ テ プ シ ンD21,22)も 基 本 的 に 同 じで,ア
ス
テ プ シ ンEが
は カテ プ シ ンEが
(表1)。
い る こ とで あ る(切
350
断 部 位 は ど のペ プ チ ドに 対 し て も
ノ プ シ ン,副 腎
ン ギ オ テ ン シ ン前 駆 体
数 百 倍 速 くプ ロ セ スで きた。ACTH,
ア ンギ オ テ ン シ ン前 駆 体 は ど の酵 素 も プ ロ セ ス で きた
活 性 ペ プ チ ドの 分 解 に つ い て 興 味 深 い 点 は,カ
テプシ
ュ ー ロ メ デ ィ ン の ほ か,ゼ
で あ っ た 。 こ の な か で ニ ュ ー ロ テ ン シ ン を含 む前 三 者
が,酵
切 断 速 度 が ペ プチ ドに よ り大 き く異 な っ て
プ ロ セ ス で き た の は ニ ュー ロテ
皮 質 刺 激 ホ ル モ ン(ACTH),ア
パ ラ ギ ン酸 プ ロ テ ア ー ゼ の 一 般 的 な 性 質 で あ る。 生 理
ンEとDの
きわ め て 有 効 に働 く こ とが 明 らか にな っ
た24)。カ テ プ シ ンEが
ン シ ン,ニ
れ に対 す る ア ス
素 間 でpH依
カ テ プ シ ンEが
存 性,切
断 特 異 性 に 差 が み ら れた
認 識 す る前 駆 体 の ア ミノ酸 配 列 につ
い て は共 通 した 構 造 が み られ る。 そ れ はP4位
にProが
カテ プシンEの 構 造と機能
表1
カ テ プ シ ンE,カ
テ プ シ ンD,レ
ニ ン に よ る 前 駆 体 の 分 解 速 度24)
39
ミ ノ基 側 の ペ プ チ ド結 合 は イ
ミ ド結 合 に な る た め,柔
軟性
(flexibility)が 悪 く立 体 構 造
を 規 制 す る。Proは
ま た,α
ヘ リ ッ ク ス構 造 を壊 し,ペ
プ
チ ド鎖 の 折 れ 曲 が り を ひ き起
こす 。 こ の よ うなProに
規制
さ れ た構 造 は カ テ プ シ ンEの
活 性 中 心 に ち ょ う ど当 て は ま
る の で あ ろ う。Proは
前駆 体
一 般 に つ い て もプ ロ セ シ ン グ
部位 の近 傍 に高 い頻度 で存 在
Database Center for Life Science Online Service
し,そ
の 結 果 ペ プ チ ド鎖 が 折
れ 曲が って プ ロテ アーゼ が接
近 しや す くな っ て い る こ とが
知 られ る27)。今 後 の 解 析 に よ
りカ テ プ シ ンEが
認 識 する前
駆 体 の 数 も徐 々 に 増 え て く る
で あ ろう。
"Pro-X -X'-疎 水 性 ア ミノ
酸"の
基 本 配 列 の各 位 置 の ア
ミ ノ酸 の重 要 度 が,前
駆 体ペ
プ チ ドの さ ま ざ ま な 位 置 を別
各 前 駆 体 の 配 列 は 図5に 示 さ れ て い る 。E,D,Rは
ニ ン を表 わ す 。UCは
EはPhe39-Lys40し
そ れ ぞ れ カ テ プ シ ンE,カ
テ プ シ ンD,レ
の ア ミ ノ酸 で 置 換 す る こ とに
切 断 さ れ な い こ とを 示 す 。 プ ロオ ピオ メ ラ ノ コルチ ンの 場 合 は カ テプ シ ン
か切 断 しな い が,カ
テ プシ ンDは
この 結 合 の ほ か にGlu38-Phe39も
プ ロセ シ ン グの 効 率 が 悪 い。 ア ン ギ オ テ ン シ ノー ゲ ンは3酵
大 き く異 な っ て お り,カ
テ プ シ ンEとDはpH4∼5が
至 適pHで,ph7で
よ り判 別 で きる24)。P1とP'1
切断 し
素 とも切 断 で きるが,pH依
存性が
位 の ど ち ら も疎 水 性 で な くな
は ほ とん ど切 断 で き
る と ま っ た く切 断 で き ず,明
ない 。 レニ ン は逆 に 中性 で最 大 活 性 を示 す。
らか に こ の 位 置(少 な く と も
一 方)の 疎 水 性 は必 須 で あ る
。
P1位
に疎 水 性 ア ミ ノ酸 が 位 置 した,"Pro-X-X'-疎
性 ア ミ ノ 酸"の 配 列 で あ る(図5)。
水
ペ プ シ ンな どの 立
P4位
のProは,予
想 に 反 し て必 須 で はな か っ た。 しか
し よ く考 えれ ば 当 然 と も い え る 。 他 の ア ミノ 酸 の ペ プ
体 構 造 か ら,ア ス パ ラ ギ ン酸 プ ロ テ ア ー ゼ の 活 性 中 心
チ ド結 合 の 柔 軟 性 はProよ
お よ び そ の 近 傍 と直 接 関 係 を もつ 配 列 の 長 さ は基 質 の
て も活 性 中 心 へ 当 て は ま る こ と に は差 し障 り は な い の
P6位
ミノ 酸 前 後 とされ る25)。カ テ プ
で あ ろ う。Proの
とP'1位
に よ る 切 断 速 度 がEと
か らP'3位
シ ンEに
の9ア
とっ て,P1位
は疎 水 性 ア ミノ酸 で あ
る こ とが 望 ま しい こ と は す で に 述 べ た 。 しか し,ニ
ー ロ テ ン シ ン前 駆 体 で の 結 果 は
,P1,P'1位
ュ
の両 方が
置換 し
置 換 に よ る大 きな変 化 はカ テ プ シ ンD
同 じ く ら い まで 速 くな る こ とで
あ る。 こ の こ と は 図6の
シ ンE,Dの
り増 す の で,Proを
模 式 図 に 示 す よ う に,カ
テプ
活 性 中 心 の 立 体 構 造 が 少 し違 う と考 えれば
疎 水 性 ア ミノ酸 で あ る こ と は必 ず し も必 要 で はな く,一
説 明 で き る。Proに
方 に あ れ ば よ い こ とを 示 して い る。 さ らに 重 要 な こ と
シ ンDの
は,P4位
とって
軟 な 結 合 を も つ ア ミ ノ酸 に代 わ る こ と に よ っ て 当 て は
の ことは さまざ まな発色 性
ま る よ う に な り切 断 が 速 くな っ た と考 え られ る 。 これ
にProが
位 置 す る の は カ テ プ シ ンEに
とて も好 ま し い よ う で,こ
合 成 基 質 を用 い た実 験 で も支 持 され て い る26)。Proの ア
よ っ て規 制 さ れ て いた 構 造 はカ テプ
活 性 中 心 に は 当 て は ま ら な か っ た が,よ
らの こ と は,基
質 のProに
り柔
よ っ て 規 制 され た構 造 はカ
351
40
蛋白質 核酸
酵素
Vol.41 No.4 (1996)
2.
その他 の プロセ シング
カ テ プ シ ンEが
プロセ シン
グ に 関 与 す る の は,ほ か に ど
の よ う な場 合 が あ る の で あ ろ
うか 。 現 在 ま で に 知 られ る ア
ス パ ラ ギ ン酸 プ ロ テ ア ー ゼ が
関 与 す る と され る プ ロ セ シ ン
グ が 表2に
ま とめ て あ る。 細
胞 内 の ア ス パ ラ ギ ン酸 プ ロ テ
ア ー ゼ はカ テ プ シンE,Dの
Database Center for Life Science Online Service
か,レ
ほ
ニ ン とプ ロ オ ピオ メ ラ
ノ コ ル チ ン(POMC)変
換酵
素 が 知 られ る が,レ
ニ ンはア
ンギオ テ ンシノー ゲ ンのみに
図5
働 くこ と,POMC変
カ テ プ シ ンEが プ ロセ ス で きる前 駆体 ペ プチ ドの 構 造 の特 徴
前 駆 体 とそ の 変 異 体,お
よび 最 良 の基 質 で あ る サ ブ ス タ ンスPの
構 造 を 比 較 した。カテ プ シ ンE
に疎 水 性 ア ミノ 酸 が位 置 した"Pro-X-X'-疎
水性
い こ とか ら28),こ れ らの プ ロセ
共 通 構 造 を も つ 。 反 転 ア ミノ酸 は 置 換 した もの を示 す。 網 掛 け の 配 列 は,ペ
プチ
シ ン グ は カ テ プ シ ンEあ る い
が プ ロセ ス で き る前 駆体 はP4位
ア ミ ノ酸"の
換 酵素 は
下 垂 体 以 外 に報 告 さ れ て い な
にProがP1位
ド前 駆 体 の 多 くにみ られ るLys-Arg配
列 で あ る。 各 ペ プ チ ドの分 解 速 度 は表1を
参 照 された い。
はDに
よ っ て行 な わ れ る と考
え て よ い 。 し か し,粗 抽 出液
の 状 態 で はEとDの
識別 がむ
ず か し い の で ど ち らで あ るか
はっ き りと同定 されて いない
場 合 が 多 い 。 ニ ュ ー ロ テ ンシ
ン前 駆 体 で 明 らか な よ う に切
断 部 位 の 切 りや す さ に はEと
Dで 大 きな 違 い が あ り,個 々
の場 合 に つ い て 調 べ て い く必
要 が あ ろ う。 こ の な か で生 理
的 に特 に重 要 と思 われ るの は,
MHCク
ラ スIIに よ る 抗 原 提
示 に 関 与 す る イ ン ヴ ァ リア ン
ト鎖 の切 断 と29),ア ル ツハ イマ
ー 病 患 者 の 脳 に お け る β-アミ
ロ イ ド前 駆 体 の プ ロセ シ ング
図6
Proで
構 造 が 規 制 さ れ た ペ プ チ ドの カ テ プ シ ンE,Dに
基 質 ペ プ チ ドあ る い は 蛋 白 質 の なか で,カ
位 まで の9残
基 前 後 で あ る 。Proの
よ る切 断
テ プ シンEの 活 性 中 心 と作 用 しあ うの はP6か
で あ ろ う30)。イ ン ヴ ァ リア ン ト
らP'3
鎖 に ついて筆 者 がカ テプシン
イ ミ ド結 合 で構 造 が規 制 され た 基 質 ペ プチ ドは カテ プ シ ンE
の 活 性 中 心 に当 て は ま る が,カ
テ プ シ ンDの
活 性 中心 に は 当 て は ま ら な い。Proを
ノ酸 に 変 えれ ば カ テ プ シ ンDも
切 断 で きる 。P:プ
ロ リ ン,HB:疎
ほか の ア ミ
EとDの
切 断 部 位 を決 定 した
水 性 ア ミノ 酸 。
と こ ろ,EとDが
ほ ぼ 同 じ速
度 で 切 れ る所 が1カ
テ プ シ ンEに
て い る。
352
よ る選 択 的 分 解 に 重 要 で あ る こ と を示 し
互 に 異 な る所 が1カ
的 な 配 列 はP4∼P1位
所 と,相
所 ず つ あ っ た 。 カ テ プ シ ンE特 異
がPro-Leu-Leu-Metの
配列で
41
カテプシンEの 構造と機能
表2
りな く進 む よ う に機 能 して い
ア スパ ラギ ン酸 プ ロテ アー ゼ の関 与 す る プ ロセ シ ン グ
る もの と考 え られ る。
IV.組
織分 布お よび発生,老
化,病 気などとの関連
カ テプ シ ンEは 成 体 で は種 々
の 組 織 に分 布 す る 。 ラ ッ トで
は一 部 カ テ プ シ ンDを
上 まわ
る組 織 も あ る(表3)33)。
的 に は,胃,腸,骨
腺,脾
臓,リ
Database Center for Life Science Online Service
い が,動
一般
髄,胸
ンパ節 な どに多
物種 に よって含量 に
か な りバ ラ ツ キが あ る14,34∼36)。
こ の 分 布 か ら カ テ プ シ ンEの
生 理 機 能 と し て,平
滑筋 の収
縮 と免 疫 へ の 関 与 が 推 測 され
ア ミノ酸 配 列 未 決 定 の 前 駆 体 は分 子 量 を示 した。 ヒ ス タ ミン 放 出 ペ プ チ ド,血 管収 縮性 ペ プ チ
ドの 前 駆体 は そ れ ぞ れ ア ル ブ ミ ン,ヘ モ グ ロ ビ ン β 鎖 で あ る。 ヒ ス タ ミン 放 出 ペ プ チ ドの 前 駆
体 は ア ル ブ ミ ン様 蛋 白 質 で ある 。 前 駆 体 残 基 数 の あ とのH,R,B,C,Aは
ト,ウ シ,イ
プ シ ンE,カ
ヌ,ア
そ れ ぞれ ヒ ト,ラ ッ
ン コ ウの 前 駆 体 で あ る こ と を 示 す 。 酵 素 の う ち,E,D,Rは
テプ シ ンD,レ
ニ ンを示 す。POMC変
換 酵 素 は分 子 量 約70Kの
それ ぞ れ カ テ
糖 蛋 白 質 で あ るが,
構 造 お よび 他 の ア ス パ ラギ ン酸 プ ロ テア ー ゼ と の 類 似性 は まだ わ か っ て い な い 。 酵 素 名 の あ と
に?の
つ い て い る もの は その 可 能 性 が 高 い も の,?だ
け の もの は ま っ た く酵 素 が 同 定 され て い
な い こ と を示 して い る。
る 。 実 際,カ
テ プ シ ンEが 分
解 あ るい はプ ロセ スで きるサ
ブ ス タ ン スPな
どの生理 活性
ペ プ チ ドは 胃腸 に 多 く,し か
も平 滑 筋 収 縮 に関 与 して い る。
免 疫 への 関与 で はカ テプ シ ン
Eが マ ウ ス リ ンパ 球 で 外 来 抗
原 蛋 白質 の プ ロ セ シ ン グ に 関
あ り,す で に述 べ た 認 識 配 列 に 一 致 し て い る。 β-ア ミ
与 して い る こ とが 示 され て い る37,38)。また,す
ロ イ ド前 駆 体 で は,両 酵 素 の プ ロ セ シ ン グ能 力 に大 き
た よ う に ク ラ スII結 合 イ ン ヴ ァ リア ン ト鎖 の プ ロ セ シ
で に述 べ
な差 は な さ そ う で あ る 。
ン グ へ の 関 与 も示 唆 され て い る29)。さ らに免 疫 に関 連 し
プ ロ セ シ ング 酵 素 に は ア ス パ ラ ギ ン 酸 プ ロ テ ア ー ゼ
た こ とで は,組 織 移 植 の 際 に ホ ス ト側 の 移 植 片 周 辺 組
以 外 に も多 様 な ものが あ る31)。ペ プチ ドホル モ ン前 駆 体
織 に ク ラ スII分 子 と と も に カ テ プ シ ンEが 発 現 し て く
の場 合 で は活 性 ペ プ チ ドの前 後 がLys,Argの
る こ と も報 告 され て い る39)。カ テ プ シンEは 組 織 に よ っ
塩基 性
ア ミノ 酸 で 囲 ま れ て い る こ とが 多 く,こ の 塩 基 性 ア ミ
て は,成 体 よ り も む し ろ 胎 仔,あ
ノ 酸 を 認 識 す る プ ロ テ ア ー ゼ はfurin,
い14)。特 に胎 仔 肝 臓 の含 量 は高 い。 ラ ッ ト胎 仔 で は肝 臓
convertaseと
prohormone
い っ た セ リン プ ロ テ ア ー ゼ が 知 られ て い
る32)。カ テ プ シ ンEと
は認 識 部 位 が ま った く異 な り,多
の 発 生 後 す ぐに検 出 され,14日
る い は老 化 動 物 で 多
胎 仔 で 最 大 活 性 とな り
生 ま れ る まで に 成 体 レ ベ ル ま で低 下 す る 。 ウ サ ギ,サ
くの 前 駆 体 の 共 通 構 造 を認 識 す る た め 一 般 性 は よ り高
ル で もや は り胎 仔 肝 臓 に 高 い 活 性 が 検 出 され る こ とか
い とい える。 しか し前 駆 体 のなか に はカテ プシ ンE,furin
ら,哺 乳 類 で は種 を問 わ ず 共 通 し た 現 象 で あ る と考 え
な どで 認 識 で きな い と予 想 さ れ る配 列 もあ り,ほ か に
られ る。 組 織 染 色 で は肝 臓 の実 質 細 胞 に検 出 され る。 胎
複 数 に プ ロ テ ア ー ゼ が 存 在 す る と考 え られ る 。 これ ら
仔 期 の 造 血 に 関 係 し て い る の で は な い か と思 わ れ,成
の多 くの プ ロ テ ア ー ゼ は前 駆 体 の 多 様 性 に 対 応 す る と
体 で 骨 髄 に 多 い こ と と相 関 し て い る 。 脳 ・神 経 系 に つ
と も に,同 一 の前 駆 体 に対 して もpHな
ど ミク ロな環 境
い て は,胎 仔,成
条 件 の 変 動 に対 応 して 別 々 に働 き,プ
ロセ シ ングが滞
体 と も低 い 値 で しか な い が,ラ
ッ ト
で 調 べ られ た と こ ろ で は,老 化 し て くる と高 い活 性 が
353
42
表3
蛋白質 核酸 酵素
Vol.41 No.4 (1996)
ラ ッ ト組 織 お よ び 細 胞 に お け る カ テ プ シ ンE,Dの
分
か と考 え られ る 。
布
お わ りに
カ テ プ シ ンEが1990年
前 後 に 相 次 い で クロ
ー ニ ング さ れ て構 造 が 明 らか に な っ て か ら,研 究 は大
い に進 展 した 。 は じ め は 胃 な どの 特 定 の組 織 に しか 存
在 し な い 酵 素 と考 え られ た が,現
在 で は どの 組 織 に も
普 遍 的 に存 在 す る こ とが 明 ら か に な り,ま た 発 現 誘 導
を 受 け る と も考 え られ て い る 。 生 体 内 で の機 能 と して,
前 駆 体 プ ロ セ シ ン グ を は じめ,さ
さ れ て い る が,個
ま ざ ま な働 きが 提 唱
々 に つ い て の 最 終 的 な証 明 は な お 必
要 で あ る。 今 後 は特 異 的 阻 害 剤 の 開 発,遺
伝子 ター ゲ
Database Center for Life Science Online Service
テ ィ ン グ な ど に よ り,こ の 生 体 内 機 能 を確 立 して い く
こ とが 研 究 の 焦 点 に な る で あ ろ う。
文
1)
2)
3)
献
Lapresle, C., Webb, T. : Biochem. J., 84, 455-462
(1962)
Kageyama, T., Takahashi, K.: J. Biochem., 87,
725-735 (1980)
Muto,
N, Murayama-Arai,
Biophys. Acta,
745, 61-69
K., Tani,
S. : Biochim.
(1983)
4)
Yamamoto, K., Takeda, M., Yamamoto, H.,
Tatsumi, M., Kato, Y.: J. Biochem., 97, 821-830
(1985)
5)
Samloff,
Branch,
Valler,
I. M.,
Taggart,
R. T.,
T., Reid, W. A., Heath,
Shiraishi,
R., Lewis,
M. J., Kay, J. : Gastroenterology,
T.,
R. W.,
93, 77-84
(1987)
組 織 抽 出 液 の サ ブス タ ンスPと
算 に よ り求 め た も の(景
β-エ ン ドル フ ィ ン分 解 活 性 か ら計
6)
山 ら:未 発 表)。
検 出 さ れ る よ う に な る40)。ヒ トの ア ル ツハ イ マ ー病 患 者
7)
の 神 経 細 胞 に カ テ プ シ ンEが 検 出 さ れ る よ う に な る こ
とか ら41),老 化 に 関 連 して発 現 して くる酵 素 と考 え られ
8)
る 。 組 織 染 色 で は老 人 斑 と局 在 が 一 致 して い る。 カ テ
プ シ ンEが 老 人 斑 の 主 因 で あ るア ミロ イ ドβ-ペ プ チ ド
を 前 駆 体 か ら プ ロ セ ス で き る こ と は す で に述 べ た 。 β-
9)
ア ミロ イ ド前 駆 体 の プ ロ セ シ ン グ に は カ テ プ シ ンDや
Jupp, R. A.,
Wyckoff, J.
Biochem. J.,
Azuma, T.,
Richards, A. D., Kay, J., Dunn, B. M.,
B., Samloff, I. M., Yamamoto, K. :
254, 895-898 (1988)
Pals, G., Mohandas, T. K., Couvreur,
J. M., Taggart, R. T.: J. Biol. Chem., 264, 1674816753 (1989)
Kageyama, T., Ichinose, M., Tsukada, S., Miki,
K., Kurokawa, K., Koiwai, O., Tanji, M., Yakabe,
E., Athauda, S. B. P., Takahashi,
K.: J. Biol.
Chem., 267, 16450-16459 (1992)
Kageyama,
T. : Methods
Enzymol.,
248, 120-136
(1995)
他 の プ ロ テ ア ー ゼ の 関 与 も報 告 され て お り,複 数 の 酵
10)
山 本 健 二:生
素 が 働 い て い る と考 え られ る。 成 体 脳 で は さ ら に 虚 血
11)
Yonezawa, S., Fujii, K., Maejima, Y., Tamoto, K.,
Mori, Y., Muto, N. : Arch. Biochem. Biophys., 267,
176-183 (1988)
Finley, E. M., Kornfeld, S. : J. Biol. Chem., 269,
31259-31266 (1994)
状 態 で カ テ プ シ ンEの 発 現 が 誘 導 され る42)。ひ とつの 可
能 性 と し て,カ
テ プ シ ンEは 誘 導 型 酵 素 で,細
胞 に何
らか の 異 常 が 起 こ っ た と き に発 現 し て く る の で は な い
354
12)
化 学,65,458-461(1993)
カテプシンEの 構造と機能
13)
Yamamoto,
K.,
Yamamoto,
H.,
Takeda,
Kato, Y. : Biol. Chem. Hoppe-Seyler,
315-322
M.,
Kageyama,
(1993)
15)
James,
32)
T. : Eur. J. Biochem., 216, 717-728
M. N. G., Sielecki,
A. R. : Nature,
319, 33-
38 (1986)
33)
16)
Yamamoto, K., Katsuda, N., Kato, K. : Eur. J.
Biochem., 92, 499-508 (1978)
17)
Yonezawa,
18)
Biochem.
Biophys.,
Matsuzaki,
0.,
515-523
19)
S., Tanaka,
T., Miyauchi,
256, 499-508
Takahashi,
(1987)
S.B.P.,
Ichinose,
M., Takahashi,
T.,
K. : FEBS
Inoue,
H.,
Lett., 292, 53-
37)
Database Center for Life Science Online Service
56 (1991)
20)
21)
22)
23)
Powers, J. C., Harley, A. D., Myers, D. V.: in
Acid Proteases : Structure, Function, and Biology
(ed. Tang, J.), pp. 141-157, Plenum Press, New
York (1977)
Barrett, A. J.: in Proteinases in Mammalian
Cells and Tissues (ed. Barrett, A.J.), pp. 209-248,
Elsevier/North-Holland
Biomedical Press, Amsterdam (1977)
Moriyama, A., Takahashi, K.: J. Biochem., 88,
619-633 (1980)
Carraway,
Ann.
24)
25)
26)
R. E.,
N. Y. Acad.
Mitra,
S. P.,
Spaulding,
Sci., 668, 1-16
Schwartz,
28)
Loh, Y. P., Parish, D. C., Tuteja,
Chem., 260, 7194-7205 (1985)
29)
Maric,
Natl.
M. A., Taylor,
Lett.,
200, 1-10
M. D., Blum,
Acad. Sci. USA, 91, 2171-2175
(1986)
39)
40)
T.,
Kato,
Biophys. Acta,
Y., Yamamoto,
M., Tani,
103, 629-632
S.
S., Nakamura,
1073, 155-160
K. :
(1989)
S., Yonezawa,
(1988)
K. : Biochim.
Biophys.
(1991)
Inokuchi, T., Kobayashi, K., Horiuchi, S.: J.
Biochem., 115, 76-81 (1994)
Bennett, K., Levine, T., Ellis, J. S., Peanasky, R.
J., Samloff, I. M., Kay, J., Chain, B. M. : Eur. J.
Immunol., 22, 1519-1524 (1992)
Solcia, E., Samloff, I. M. et al. : Eur. J. Histochem., 37, 19-26 (1993)
Arbustini,
E., Samloff,
J. Pathol.,
145, 310-321
Nakanishi,
I. M., Solcia, E. et al. : Am.
(1994)
H., Tominaga,
I., Inoue,
126, 119-128
K., Amano,
T., Yamamoto,
(1994)
Bernstein, H.-G., Wiederanders,
667, 287-290 (1994)
42)
Nakanishi,
H., Tsukuba,
Yamamoto,
B. : Brain Res.,
T., Kondou,
T., Tanaka,
K. : Exp. Neurol.,
(1993)
Lees, W. E., Kalinka,
Cook,
T., Hiro-
K. : Exp. Neurol.,
41)
43)
S., Chan,
(1992)
991, 367-375
N., Yamamoto,
Yonezawa,
tsu,
N. D., Kay,
121, 215-223
S., Meech,
J. : FEBS
J., Capper,
Lett.,
S.,
273, 99-102
(1990)
44)
Barkhudaryan,
Lottspeich,
N., Kellermann,
F. : FEBS
J., Galoyan,
Lett., 329, 215-218
A.,
(1993)
45)
Carraway, R. E., Mitra, S. P., Cochrane, D. E.: J.
Biol. Chem., 262, 5968-5973 (1987)
46)
Carraway,
Mitra,
47)
R. : J. Biol.
48)
T. E., Lin,
J. Physiol.,
Klagsbrun,
Davidson,
(1994)
Acad.
49)
R. E., Cochrane,
S. P. : J. Immunol.,
Weaver,
Amer.
J. S. : Proc.
Ladror, U. S., Snyder, S. W., Wang, G. T., Holzman, T. F., Krafft, G. A.: J. Biol. Chem., 269,
18422-18428 (1994)
H., Saku,
Muto,
T.,
Kageyama, T., Ichinose, M., Yonezawa, S.: J.
Biol. Chem., 270, 19135-19140 (1995)
Sielecki, A. R., Fedorov, A. A., Boodhoo, A.,
Andreeva, N. S., James, M. N. G.: J. Mot. Biol.,
214, 143-170 (1990)
Rao, C., Scarborough, P. E., Lowther, W. T., Kay,
J., Batley, B., Rapundalo, S., Klutchko, S., Taylor,
M. D., Dunn, B. M.: in Structure and Function of
the Aspartic Proteinases (ed. Dunn, B.M.) , pp.
143-147, Plenum Press, New York (1991)
T. W. : FEBS
38)
(1992)
27)
30)
G.
Sakai,
Acta,
36)
Takahashi,
S. P., Ohagi,
267, 23435-23438
Nakayama, K., Watanabe, T., Nakagawa, T.,
Kim, W.-S., Nagahama, M., Hosaka, M., Hatsuzawa, K., Kondoh-Hashiba, K., Murakami, K.: J.
Biol. Chem., 267, 16335-16340 (1992)
S. : J. Biochem.,
9,
(1988)
Athauda,
34)
35)
Res.,
D. F., Smeekens,
Biochim.
T. : Arch.
K. : Biomed.
Steiner,
J. : J. Biol. Chem.,
(1988)
14)
31)
369 (Suppl.),
43
D. E.,
S., Bogucki,
263, L95-L103
M., Smith,
S., Smith,
Boucher,
143, 1680-1684
B., Dey,
C. :
(1992)
S., Sullivan,
J. A., Sasse,
Sci. USA, 84, 1839-1843
W.,
(1989)
R., Shing, Y.,
J. : Proc.
Natl.
(1987)
Mackin, R. B., Noe, B. D., Spiess,
crinology, 129, 1951-1957 (1991)
J.: Endo-
355
Fly UP