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メタボリックシンドロームおよび 閉塞性睡眠時無呼吸

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メタボリックシンドロームおよび 閉塞性睡眠時無呼吸
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第6 回 臨 床 血 圧 脈 波研究 会 から 2
はじめに
の中に中枢性無呼吸優位の患者は認められなかった。冠
閉 塞 性 睡 眠 時 無 呼 吸 症 候 群(obstructive sleep
動脈疾患(4 例)と脳卒中(2 例)の既往のある患者は
apnea syndrome;OSAS)は、高血圧、耐糖能異常、
除外した。
6
回 臨床血圧脈波研究会から
椎名一紀/冨山博史/山田治広/小路 裕/浅野毅弘/臼井靖博/高田佳史/山科 章(東京医科大学第二内科)
第
メタボリックシンドロームおよび
閉塞性睡眠時無呼吸症候群が
上腕−足首間脈波伝播速度に及ぼす影響の検討
2
肥満などの動脈硬化のリスクファクターを有する症例で
の合併頻度が高く、その合併は動脈硬化性心血管リスク
1)
定義
を増大させることが報告されている 。一方、これらリ
MetSの 定 義 は、National Cholesterol Education
スクファクターは、動脈硬化性心血管リスクを増大させ
ProgramのAdult Treatment Panel Ⅲ の 診 断 基 準 11)
るメタボリックシンドローム(MetS)の構成因子でも
の変法を用いた。すなわち、HDL-コレステロール<1.036
2)
ある 。すなわち、MetSとOSASは高頻度で合併すると
3)
mmol/L(男性)、HDL-コレステロール< 1.295mmol/
されるが 、両者の合併が動脈硬化性心血管リスクを増
L( 女 性 )、 中 性 脂 肪 ≧ 1.695mmol/L、 血 圧 ≧
大させるか否かについては報告がない。
130/85mmHgあるいは降圧剤服用中、空腹時血糖≧
脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)は、動
6.105mmol/L、body mass index(BMI)≧ 27.512) の
脈壁硬化を反映するとされ、従来の動脈硬化リスクファ
6 項目のうち、少なくとも3 項目を満たす症例をMetSと
クターとは独立した動脈硬化性心血管疾患発症予測のマ
定義した(本研究では、腹囲は測定していない)
。
4)
ーカーとして確立されつつある 。一方、炎症は動脈硬
化進展に重要な役割を果たしており5)、血清C反応性蛋
Sleep studies
白(C-reactive protein;CRP)も動脈硬化性心血管
すべての患者に終夜睡眠ポリグラフ(polysomnogra-
6)
疾患発症予測のマーカーと確認されている 。これらマ
7,8)
9,10)
で上昇することが報告さ
10 秒以上の呼吸停止、低呼吸の定義は4%以上の酸素飽
れているが、OSASとMetSの合併患者でこれらマーカ
和度の低下を伴った50%以上の気流の低下が10 秒以上
ーがどのように変化するかは不明である。したがって、
持続したものとした13)。睡眠 1 時間あたりの無呼吸と低
本研究では、睡眠呼吸障害外来を受診したOSAS患者の
呼 吸 の 数 を 無 呼 吸 低 呼 吸 指 数(apnea-hypopnea
PWV、CRPを測定し、さらにOSASとMetSの合併患者
index;AHI)として計算した。本研究ではAHI≧ 15/h
で両マーカーを測定することにより、両者の合併がこれ
をOSASと定義した。
ーカーはOSAS
、MetS
phy;PSG)を睡眠検査室で施行した。無呼吸の定義は
ら動脈硬化性心血管疾患発症予測マーカーに及ぼす影響
を検討した。
P W Vと血圧
PWV、血圧の測定は、両上腕・両足首にプレチスモ
方法
グラフィーを内蔵した血圧測定用のカフ内の容積脈波に
対象は、東京医科大学関連病院で2002 年 11 月から
(コーリンメデ
て測定したbaPWVと血圧を用いた14,15)
2004 年 3 月までにOSASの診断目的にて睡眠呼吸障害
。
ィカルテクノロジーform PWV/ABIによる)
外来を受診した連続 184 例(男性 143 例、女性 41 例、
平均年齢 50 ± 13 歳)である。すべての患者が入院にて
血液生化学的検査
睡眠検査を行い、上腕−足首間PWV(brachial-ankle
血清クレアチニン、空腹時血糖、総コレステロール、
PWV;baPWV)と空腹時早朝採血を行った。対象患者
HDL-コレステロール、中性脂肪を測定した。CRPは高
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第6 回 臨 床 血 圧 脈 波研究 会 から 2
表1 患者背景
*:p<0.05 vs 非 MetS 群
(Welch's t-testまたはthe chi-square testにより評価)、ESS:Epworth Sleepiness Scale
(日中の眠気指数)
。
非OSAS群
MetS−(正常群)
n
年齢
OSAS群
MetS+(MetS単独群)
75
15
47±2
MetS−(OSAS単独群) MetS+(合併群)
53
49±4
41
52±2
51±2
性別(男/女)
44/31
11/4*
49/4
BMI(kg/m2)
24.9±0.5
29.8±0.8*
26.1±0.5
30.8±0.7*
4(27)*
12(23)
7(17)*
喫煙(%)
8(11)
39/2
ESS
9.1±0.5
9.9±1.2
10.2±0.6
12.1±0.9*
AHI(回/時間)
4.2±0.5
4.0±0.9
43.6±2.5
51.9±3.3*
収縮期血圧(mmHg)
126±2
137±3*
132±2
拡張期血圧(mmHg)
79±1
84±2*
83±1
91±2*
平均血圧(mmHg)
94±1
101±3*
99±1
109±2*
総コレステロール(mmol/L)
5.19±0.10
146±3*
5.36±0.16
5.49±0.11
5.63±0.16
HDL-コレステロール(mmol/L) 1.42±0.04
1.25±0.07*
1.34±0.04
1.11±0.03*
中性脂肪(mmol/L)
1.59±0.08
2.70±0.24*
2.05±0.13
2.58±0.16*
空腹時血糖(mmol/L)
4.92±0.07
5.87±0.43*
5.22±0.17
6.06±0.31*
ACEI
0
1
1
2
ARB
3
0
4
8*
15*
服薬状態
Ca拮抗薬
7
1
11
β遮断薬
2
0
2
利尿薬
0
0
0
16
2
19
0
0
0
スタチン
抗糖尿病薬
3
2
23*
3
感度CRPを用いた。すべての検体はPSG終了時の早朝
model(GLM)多変量解析を用いた。baPWVに対して
空腹時に採血した。
は、Model C(Model Bに平均血圧による補正を追加)
で追加補正を行った。
統計的解析
2つの心血管リスクマーカー(PWV、CRP)に対す
数値は平均値±標準誤差で表した。2 群間(OSAS群、
るOSAS、MetSの独立性をGLM解析にて検討した。
非OSAS群/MetS群、非MetS群)の比較は連続変数は
p< 0.05を統計学的有意とした。
Welch's t-testを、カテゴリー変数はχ -testを用いた。
2
4 群間におけるbaPWVとCRPの差は、各群間で有意差
結果
のあった項目;Model A[年齢、性別、喫煙、総コレ
OSAS群、非OSAS群の2 群間の比較では、動脈硬化
ステロール、服薬状態(降圧薬、スタチン)
]
、Model B
危 険 因 子 はOSAS群 で 有 意 に 高 値 で あ っ た。PWV、
(Model AにBMIを追加)で補正後に、general linear
CRPもOSAS群で有意に高値であり(PWV:1,292 ±
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第
回 臨床血圧脈波研究会から
6
図� ����と����が合併すると�����は亢進する
�����
未補正
†‡§
�����
†
†
†:�<��������正常群
‡:�<��������� 単独群
§:�<������������単独群
�
�����
�����
�����
�����
�������で補正
�����(������)
�����
†‡§
†
†
�����
�����
�����
�����
�������で補正
�����
†‡§
†
†
�����
�����
�����
�����
�������で補正
†‡
�����
†
�����
�����
�����
����−
����+
(正常群)
(����合併群)
(�=��)
(�=��)
非���� 群
����−
(���� 単独群)
(�=��)
����+
(合併群)
(�=��)
���� 群
178
���� vs
��� 1,489
����� ± 153cm/sec
���������、CRP
���:1.08
���� ± 0.61
����� vs
���
C
�による補正後は、合併群ではOSAS
����単独群以外に対し
1.49
A、Model
B、Model
C(PWV
��������)、Model
�������
�������
�������
���
���� ± 1.13mg/L
てのみ有意に高値であった(図1
�)。CRP
���に関しては、
のみ)で補正後も同様であった。
合併群で他の3
� 群に比し有意に高値であったが、BMI
���で
表1
�に4� 群間(正常群、OSAS
����単独群、MetS
����単独群、
Model B)、正常群に対してのみ有
の補正を加えると(
の補正を加えると、正常群に対してのみ有意に高値であ
合併群)の臨床背景を示した。MetS
����単独群、合併群に
2)。対象全例の約
30%がCRPに
意に高値であった(図
。対象全例の約
��%が���に影響を与える
った(図�)
おいて、動脈硬化リスクファクターは有意に高値であっ
影響を与えると考えられているスタチンを内服していた
と考えられているスタチンを内服していたため、スタチ
た。baPWV
�����に関しては、4� 群間の比較では、合併群で
n= 122)でのサブ解析を行
ため、スタチン非内服群(
ン非内服群(�= ���)でのサブ解析を行ったが、同様
A、
他の3
� 群に比し有意に高値であった。さらに、Model
�������
BMIを加えた補正後、合併群は正常群に
ったが、同様に
に���を加えた補正後、合併群は正常群に対してのみ有
Model
Bで補正後も合併群ではbaPWV
�������
�����が有意に高値で
対してのみ有意に高値であった。
意に高値であった。
Bに平均血圧での補正を加えたModel
あったが、Model
�������
������
OSAS
����とMetS
����のbaPWV
�����、CRP
���に対する独立性の検
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��
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AM
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第6 回 臨 床 血 圧 脈 波研究 会 から 2
図2 OSASとMetSが合併するとCRPは上昇する
2.5
2.0
未補正
†‡§
Model Aで補正
†‡§
1.5
†:p<0.05 vs 正常群
‡:p<0.05 MetS 単独群
§:p<0.05 vs OSAS単独群
1.0
0.5
0
CRP(mg/L)
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0
2.5
2.0
Model Bで補正
†
1.5
1.0
0.5
0
MetS−
MetS+
(正常群)
(MetS合併群)
(n=75)
(n=15)
非OSAS 群
MetS−
(OSAS 単独群)
(n=53)
MetS+
(合併群)
(n=41)
OSAS 群
討では、BMIを含まない補正後では、MetSとOSASは
大動脈PWVは、動脈硬化の重症度と相関するマーカ
独立してbaPWV亢進とCRP上昇に関与していた。しか
ーである16)。大動脈PWVの亢進で反映される中心動脈
しながら、BMIによる補正を加えると、MetSのCRP上
の硬さ亢進が心血管リスク指標となる機序として、心負
昇に対する有意な関連は認めなくなった。
荷増大、拡張期血圧の低下による冠動脈血流の低下、粥
状動脈硬化進展作用などが考えられている17)。PWVは
考察
OSAS、MetSで亢進することが示されているが、本研
本研究において、OSASはbaPWV亢進、CRP上昇に
究は、両者の合併がPWV亢進をさらに増強させること
関連しており、さらにOSASへのMetSの合併はbaPWV
を示した初めての論文である。baPWVは中心動脈の硬
亢進、CRP上昇を増強させることが示された。GLM多
さと密接に相関することが示されている。よって、
変量解析にてOSAS、MetSはbaPWV亢進とCRP上昇
OSASへのMetSの合併は、中心動脈の硬さに関連した
に対する独立した因子であったが、BMIで補正後は、
動脈硬化性心血管リスクを増大させると考えられる。
MetSのCRP上昇に対する独立性は有意ではなくなっ
MetSでは、その構成心血管リスクファクター(肥満、
た。
インスリン抵抗性、高脂血症、高血圧)に加え、炎症、
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第
酸 化 ス ト レ ス、 交 感 神 経 緊 張、 凝 固 線 溶 系 異 常 が
基準はSatterら22)やLee23)らの報告に基づくBMIを
atherogenic factorとして作用すると考えられている18)。
用いた変法を用いた。いくつかの報告では、中心性肥
特に炎症は、OSASに合併したatherogenic factorとし
満はBMIよりも、動脈の硬さ亢進とCRP上昇により
ても重要な役割を果たしている。本研究において、
大きく関連すると報告されている。今後、腹囲を用い
CRPはOSAS群において非OSAS群に比し有意に高値で
た再評価を実施する必要がある。
あり、OSASとMetSの合併はCRP上昇をさらに亢進さ
CRP上昇を増大させる機序については言及できない。
況で補正しても有意であった。CRPは動脈硬化に関連
しかし、交感神経活性は動脈の硬さを亢進させる要因
した全身の炎症マーカーと考えられている 。さらに、
の1つであり、血管炎症亢進にも重要な役割を果たす
最近の研究ではCRP自体が直接動脈硬化原因物質とし
と考えられている。交感神経活性の亢進はMetSのみ
20)
2
③本研究はOSASにおけるMetSの合併がbaPWV亢進と
せた。この亢進はCRPに影響を与えるスタチン服用状
19)
回 臨床血圧脈波研究会から
6
ての役割を果たすことも示されている 。それゆえ、本
ならずOSASでも認められており24,25)、交感神経活性
研究の結果はOSASへのMetSの合併がCRP上昇亢進に
亢進の増強が重要な機序の1つとして推測される。
関連する動脈硬化性心血管リスクを増大することが示唆
された。しかし、CRPに影響を与えるとされるBMI21)
おわりに
で補正後はその増大は減弱したことより、両者合併によ
本研究において、baPWVとCRPはOSAS患者におい
るCRPの上昇亢進はBMIの増加の影響が大きいことが
て亢進していた。さらに、OSASへのMetSの合併はそ
示唆された。
れら亢進を増強させた。また、OSASとMetSはそれぞ
MetSを構成する動脈硬化危険因子はOSASにもしば
3)
れ独立してbaPWV亢進とCRP上昇に関与していた。ゆ
しば合併する。近年、Coughlinら は、OSASはMetS
えに、OSASはbaPWV亢進とCRP上昇に関連する心血
と同様に動脈硬化性心血管リスクを増大させることを推
管リスクを増加させ、さらに、OSASへのMetSの合併
測している。しかし、心血管リスク増大に対するOSAS
は動脈の硬さ亢進と炎症に基づく動脈硬化性心血管リス
の特異的な影響は明確でない。本研究にて、GLM解析
クを相加的に増大させることが示唆された。
によりOSASとMetSは独立してbaPWVとCRPを上昇
このことより、OSAS患者の診療においては、心血管
させることが示されたことより、OSASとMetSはそれ
イベントリスク管理の面からも、MetSの合併の有無を
ぞれ独立してbaPWVとCRPに関連した動脈硬化性心血
必ず評価する必要があると考えられた。
管リスクを増大させ、両者の合併は相加的にそのリスク
を増大させることが示唆された。
本研究の限界
①本 研 究 は 断 面 研 究 で あ り、MetSの 基 準 を 満 た す
OSAS患者において心血管イベント発症リスクを予測
するマーカーが亢進していたことを示したのみであ
る。
②本研究では腹囲が未測定であったため、MetSの診断
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第6 回 臨 床 血 圧 脈 波研究 会 から 2
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