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足趾血圧測定用カフを用いた 陰茎/上腕血圧比(PBI)

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足趾血圧測定用カフを用いた 陰茎/上腕血圧比(PBI)
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臨床知見
足趾血圧測定用カフを用いた
陰茎/上腕血圧比(PBI)測定の有用性
海野直樹、犬塚和徳 浜松医科大学第二外科・血管外科
今野弘之 浜松医科大学第二外科
はじめに
スタートボタンを押すのみで自動的に陰茎血圧な
陰茎への動脈血流の評価については陰茎圧
penile-brachial pressure index;PBI)が測定される。
ら び に そ の 上 腕 血 圧 と の 比( 陰 茎 / 上 腕 血 圧 比 、
(penile blood pressure;PBI)をドプラ血流計にて測
定したり(図1)、最近ではduplex scanningを用いて
測定は約5分ほどで終わり、そのままの状態で繰り
返し測定も可能である。
血流を測定し、動脈血流不全性のインポテンスか否
この測定値の信頼性を検証するため、腹部大動
かの診断を行っている。ドプラ血流計による陰茎圧
脈瘤患者20例(AAA群)とコントロールとして消化
測定は比較的容易でかつわかりやすい指標のため、
器疾患患者20例(コントロール群)で従来のドプラ
1)
スクリーニング目的で広く行われてきた 。しかし
血流計によるPBIの測定を行い、両者の値を比較し
その手技は被験者に不快感を与えやすく、また時間
た。その結果、AAA群、コントロール群における
もかかることから、さらに簡便な測定手段が求めら
両測定法により得られたPBI値の相関係数は、それ
れてきた。一方、陰茎圧は骨盤内の血流状況を反映
ぞれ0.91、0.96と高い相関が得られた(図4)。また
している。そのため、内腸骨動脈の開存の有無によ
陰茎圧の値もドプラ血流計による測定値と高い相
り、その血流は左右される。近年、生活習慣病であ
関関係を示した2)。
る動脈硬化性疾患が増加し、それに伴い骨盤内動脈
次に患者にインタビューを行い、勃起機能とPBI
の血流不全によるインポテンスが増加しており、診
値との関係をみたところ、勃起機能正常者ではPBI
断のためには骨盤内血流の評価が重要である。そこ
でわれわれは、新しく開発された足趾血圧測定用カ
フを陰茎圧測定に応用し、従来のドプラ血流計によ
図1
ドプラ血流測定による陰茎圧測定法
るPBIの測定と比較してその信頼性を評価するとと
もに、手術中の間欠的陰茎圧測定を行い、術中測定
の可能性について検討した。
方法と結果
方法と結果
測定対象は、浜松医科大学第二外科で治療を行
った閉塞性動脈硬化症(ASO)患者、腹部大動脈瘤
(AAA)患者、ならびにコントロール群として動脈
硬化性疾患の既往歴のない消化器疾患患者である。
今回用いた足趾血圧測定用のカフ(図2)ならびに
測定は、コーリンメディカルテクノロジー社製
form PWV/ABI(図3)を用いた。カフを陰茎に巻く
以外の操作はすべて他の足趾血圧測定と同様で、
被験者をベッド上に臥床させ機器を設定した後は、
Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.8 2005 1346-8375/05/¥400/論文/JCLS
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図2
足趾血圧測定用カフ
A:足趾血圧測定用カフを巻き、足趾血圧(toe pressure)を測定しているところ。
B:足趾血圧測定用カフ。
A
●
B
●
ベッドサイドでの陰茎圧測定風景
図4
form PWV/ABIとドプラ血流測定(Doppler)によるPBI測定値の比較(2003年8月∼2004年10月)
A
●
AAA群(n=20, 平均年齢75.3±0.9歳)
1.2
y=0.184+0.815×χ;
B
●
コントロール群(n=20, 平均年齢62.2±2.2歳)
y=0.059+0.934×χ;
1.2
R=0.910(p<0.001)
PBI(form PWV/ABI)
PBI(form PWV/ABI)
図3
1.1
1.0
0.9
0.8
0.7
R=0.962(p<0.001)
1.1
1.0
0.9
0.8
0.7
0.7
0.8
0.9
1.0
PBI(Doppler)
1.1
1.2
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
PBI(Doppler)
足趾血圧測定用カフを用いた陰茎/上腕血圧比(PBI)測定の有用性
1.2
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の平均値は0.94であったのに対し、インポテンスの
の人工血管を総腸骨動脈へ吻合後に大動脈の遮断
患者ではPBI平均値は0.72と有意に低下していた。
を解除し右下肢への血流が再開した後は0.6に上昇、
また疾患ごとの比較では、ASO患者群のPBI平均値
さらに両側総腸骨動脈への吻合を終了し、両下肢
は0.68と最も低く、次いでAAA患者群が平均値0.86、
への血流を再開すると0.75まで上昇した。その後は
コントロール群が0.97で、ASO患者で有意に低く、
手術終了時まで緩やかに上昇し、終刀時には0.85と
2)
ほぼ手術開始時の値に回復した。
またインポテンスの患者も多かった 。
以上の結果から、足趾血圧測定用カフを用いて、
再現性のあるPBI測定が可能になったと判断し、こ
考 察
の方法を手術室内で術中全身麻酔下の患者に応用
人口の高齢化、生活習慣の欧米化に伴い、動脈
できないかを検討した。ASOやAAAの手術の際に
硬化性疾患が増加しているが、それに伴い、血管
行われる人工血管置換術において、しばしば内腸
性(動脈血流不全)インポテンスが増加している。
骨動脈の再建の有無が問題とされる。そこで陰茎
特に血管外科領域ではASO患者においてインポテ
への支配血流が内腸骨動脈からのものであること
ンスの割合が高い。
から(図5)、術中に陰茎圧(またはPBI)を測定する
Queralらは、血管性インポテンスの患者ではPBI
ことにより、内腸骨動脈を含めた骨盤血流を評価
値は0.6∼0.8の間であったとドプラ血流計を用いた
できるかどうかを調べることにした。
測定結果を報告しているが1)、今回のわれわれの結
まず全身麻酔下の患者は尿道カテーテルを挿入
果でも同様にインポテンスの患者のPBI平均値は
された状態にあるので(図6)、尿道カテーテルを挿
0.72と低下していた。この血管性インポテンスの診
入した状態でのPBI値と挿入前の値とを比較した。
断は、血管造影所見で内腸骨動脈の閉塞などが確
その結果、両者の間には相関係数0.94と強い相関が
認されれば確診され、簡便なスクリーニングテス
得られ、足趾血圧測定用カフを用いたPBIの測定は
トとしてはドプラ血流計による陰茎圧あるいは陰
尿道カテーテルの影響をほとんど受けないことが
茎/上腕血圧比(PBI)の測定が用いられてきた 3,4)。
判明した(図7)。そこでAAA患者におけるY型人工
しかしドプラ血流計による測定は、測定者が血流
血管置換術の際に陰茎に足趾血圧測定用カフを巻
計による音を頼りに定性的に測定する方法であり、
き、術中に間欠的に測定した(図8)。その結果、手
手技にある程度の熟練を要すること、頻回に被験
術開始時には0.9であったPBIは大動脈ならびに両
者の陰茎に触知しなければならず、しばしば被験
側総腸骨動脈遮断時には0.3まで低下したが、右側
者に不快感を与えるなどの欠点を有する。
図5
図6
骨盤内主要動脈と陰茎への血流支配
総腸骨動脈
大動脈
上殿動脈
内腸骨動脈
閉鎖動脈
内陰部動脈
外腸骨動脈
陰茎背動脈・海綿体動脈
Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.8 2005
全身麻酔下術中に尿道バルーン挿入下でPBIを測定
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今回われわれが用いた足趾血圧測定用カフを用
でも近年、water-filledカフを用いて陰茎圧を測定
いたform PWV/ABIによるPBIの測定では、上述し
された論文が発表され、注目されている 5)。また
たドプラ血流計による測定方法より簡便で、陰茎
form PWV/ABIは上肢血圧も陰茎圧と同時に測定し、
にあまり触れなくても測定ができた。また測定値
その比を自動で算出できるが、ドプラ法で同時に
はドプラ血流計による測定値と近似の値を得るこ
両者の血圧を測定するには複数の測定者が必要で
とができた。本法ではpulse-volumeプレスチモグラ
ある。さらに最大の利点はいったんカフを陰茎に
フィを用いているが、この測定方法は海外の論文
巻き機器を設定すれば、何回でも間欠的に測定で
きることである。この利点は手術中の測定には威
力を発揮し、術野を汚染することなく繰り返し、
測定することができる。実際、大動脈瘤の人工血
管置換術においても手術操作を停止することなく
図7 form PWV/ABIのPBI測定・尿道カテーテルの
影響(2003年8月∼2004年10月)
間欠的に測定することができた。
AAAやASOの人工血管置換術において、特に腸
AAA群(n=20, 平均年齢75.3±0.9歳)
y=0.145+0.847×χ;
R=0.943(p<0.001)
1.2
バルーン(+)
骨動脈に動脈瘤を合併しているような場合には、
しばしば内腸骨動脈を同時に再建すべきか否かが
問題となる。これは内腸骨動脈の血流支配領域の
1.1
血流不全から術後に臀筋跛行や陰萎が起こるため
1.0
である。しかしこれらの合併症を防ぐための内腸
骨動脈再建の有無を決定する明確な指標は現在の
0.9
ところ存在しない。そのため可能ならばすべての
内腸骨動脈を再建すべきとする術者も存在する。
0.8
また内腸骨動脈や下腸間膜動脈の断端圧を術中に
0.7
0.7
0.9
0.8
1.0
1.1
測定して、骨盤内血流を評価すべしとする論文も
1.2
散見する6,7)。前述したPBI値0.6∼0.8が陰萎の閾値
バルーン(−)
図8
術中のPBI測定
A:大動脈瘤Y型人工血管置換術。
B:術中PBIの変化。I:手術開始時。I :大動脈ならびに両側総腸骨動脈遮断時。III:人工血管右脚吻合し、右下肢血流再開後。
IV :両側人工血管吻合終了、両下肢血流再開後。V :手術終了時。
A
●
B
●
PBI
Y型人工血管
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
1
@
#
術中測定時
$
%
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とすると、術後陰萎の発生に関してはPBIを術中に
測定し、0.8以上か否かにより内腸骨動脈の再建の
有無を判定できるかもしれない。さらに近年急速
に普及してきた腹部大動脈瘤に対するステントグ
ラフト内挿術においても本法を応用できるかもし
れない。特に腸骨動脈瘤を伴うAAAに対するステ
ントグラフト内挿術ではしばしば下腸間膜動脈や
内腸骨動脈を閉塞せざるを得ず、その際、開腹人
工血管置換術とは異なり、前述した内腸骨動脈や
下腸間膜動脈の断端圧を測定することはできない。
したがって現状ではAAAに対するステントグラフ
ト内挿術後約10%前後で陰萎が発生したり8)、30∼
40%に臀筋跛行が生じているとの報告がある 9,10)。
そのため、ステントグラフト挿入の際には内腸骨
動脈への追加バイパスや追加ステントグラフトの
内挿を推奨している論文も多い11,12)。
Open surgeryと同様、術中にPBIを測定すること
により、内腸骨動脈再建の必要性を判定し、術後
陰萎の発生を予防することができるかもしれない。
まとめ
足趾血圧測定用カフを用いてform PWV/ABIによ
り陰茎/上腕血圧比(PBI)を測定した。従来のドプ
ラ血流計による測定値と近似の値が得られ、その
手技は簡便かつ再現性が得られた。また手術中、
全身麻酔下の患者に応用することで術中に間欠的
に繰り返し測定可能であることが判明した。今後、
血管外科の領域において骨盤内人工血管置換術や
endovascular surgeryでの応用が期待される。
Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.8 2005
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