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中心血圧と末梢血圧の違い - Arterial Stiffness

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中心血圧と末梢血圧の違い - Arterial Stiffness
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第 9 回 臨床血圧脈波研究会 招待講演
中心血圧と末梢血圧の違い
Michael O'Rourke(University of New South Wales)
監修:河野雄平(国立循環器病センター高血圧腎臓内科部長)
臨床で「血圧」といえば、一般に末梢の上腕血圧の
脈の圧脈波の波形である。左側は投与前の状態、右
ことである。しかし、心臓から離れた末梢血管の血圧
側はニトログリセリン(NTG)投与後の波形である
と、大動脈起始部の中心血圧には大きな違いがある。
が、左側の上行大動脈の波形をよくみると、最高血圧
その違いは、血圧値の大小だけでなく、圧脈波の違
を作るピークの手前の「肩」の部分に、ひと回り小
いによる本質的なものであり、臨床的指標としての両
さな別のピークがあることに気づかれることと思う。
者の精度や有用性にも大きく影響する。本講演では、
実は、この小さなピークこそが左室からの血液の駆出
両者の圧脈波の違いとその臨床的意義について解説
によって生み出される駆出波のピークであり、その
する。
後に訪れる大きなピークは末梢からの反射によって
生じた反射波のピーク(R)である。すなわち、上行
中心血圧と末梢血圧はこんなに違う
大動脈においては駆出波のピークより反射波のピー
収縮期血圧は、心臓から遠い血管ほど高くなること
クのほうが大きく、大動脈では反射波のピークが最
は古くからよく知られた事実である。例えば、健康
高血圧となる。
な若年男性の橈骨動脈の収縮期血圧は、上行大動脈に
これに対し、血管抵抗の大きい末梢動脈では駆出
比べ安静時で約 30mmHg、運動後では約 80mmHg も
波が高くなるため、上腕などでは駆出波のピークが
高値を呈することが報告されている。
最高血圧となる。つまり、中心血圧と末梢血圧では、
末梢血圧と中心血圧の違いは、血圧値の大小だけ
みているもの自体が異なっている。
ではない。図 1 は、心臓カテーテル検査を受けたあ
次に、右側の NTG 投与後の圧脈波に目を向けると、
る成人患者において測定された上行大動脈と上腕動
上行大動脈の最高血圧は NTG 投与に呼応して著明に
(mmHg)
図1 上行大動脈と上腕動脈の圧波形
140
R
上行大動脈
NTG投与後
R
70
R
(mmHg)
NGT投与前
上腕動脈
150
R
80
1s
成人男性の上行大動脈と上腕動脈にカテーテルを挿入のうえ、ニトログリセリン
(NTG)0.3mgを舌下投与し、投与前後の圧波形を測定した。
(Kelly RP, et al. Eur Heart J 1990; 11: 138-44.より引用)
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低下しているのに対し、上腕動脈の最高血圧はほと
んど変化していない。実は、上腕動脈においても反
射波のピークは 2/3 程度に低下しているのだが、そ
の変化は駆出波すなわち最高血圧値には反映されな
招待講演
中心血圧測定値の SD は 4.3mmHg にすぎなかった。
末梢血圧測定値に基づく「高血圧」の
診断には多くの問題がある
い。言い換えれば、カフを使った上腕血圧測定では、
問題は、現在の「高血圧症」の診断は上腕血圧値に
中心血圧の変化は読み取れないのである。
基づいてなされている。McEniery ら(2008)は、約 7,000
非侵襲的に測定する中心血圧は
カフによる上腕血圧測定より高精度
人の成人男女の中心血圧値と上腕血圧値を測定した
結果、上腕血圧値に基づく分類で正常高値と判定さ
れたグループと、ステージ 1 の高血圧と判定されたグ
簡便に測定できる末梢血圧とは異なり、中心血圧
ループの中心血圧値は大きくオーバーラップしてい
はカテーテルを挿入しないと測定できない。そこで
ることを見出した。すなわち、上腕血圧値の診断では、
Chen ら(1997)は、20 例の症例の末梢動脈圧波形と
実際には治療が必要であるにもかかわらず、見逃され
大動脈圧波形を比較解析し、両者を関連づける関数
ている患者が少なからず存在する可能性を示唆した。
(transfer function;TF)を求め、これを利用して橈
逆に、治療が不要な人に対して漫然と治療が施さ
骨動脈で測定した末梢動脈圧波形から大動脈圧波形
れ て い る 可 能 性 も 指 摘 さ れ て い る。 図 2 は、 身 長
を推定する方法を考案した。
183cm、体重 79kg の 23 歳の男性の橈骨動脈にて測定
われわれは、62 例の患者のデータを集め、この方
した血圧および圧波形(左)と、その値から算出され
法によって求めた種々の中心血圧の推定値と直接法
た大動脈血圧の圧波形(右)である。154/89mmHg
にて測定した値の相関を検討した。その結果、推定
という上腕血圧値をみる限り、高血圧症である。し
値では実測値に比べて収縮期血圧と脈圧がやや低く、
かし、中心血圧は 123/80mmHg という平均的な値で
拡張期血圧と平均血圧はほぼ一致していた。
ある。
推定中心血圧値(以降は中心血圧値)はばらつき
実は、こうした現象は、長身の若年男性では珍し
が少なく、再現性の高さが示唆された。これに対し、
いことではない。Mahmud と Feely(2003)によると、
カフによる上腕血圧測定値は再現性の低さがしばし
医学部の男子学生の 10%にこうした偽性収縮期高血
ば臨床上の問題となる。Lane ら(2002)の検討によ
圧が認められ、これが「偽性」の現象であることは、
ると、上腕血圧測定値の標準偏差(SD)は収縮期血
中心血圧を測定して初めてわかることである。
圧で 8mmHg を超えていたが、われわれが検討した
図2 偽性収縮期高血圧の一例
23歳男性、身長183cm、体重79kg
橈骨動脈の圧波形
その値から算出された大動脈圧波形
Sp
154
Dp
Sp
123
Dp
78
80
PP
PP
76
43
MP
MP
101
101
(O'Rourke MF, et al. Vasc Med 2000; 5: 141-5.より引用)
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中心血圧は末梢血圧より強く
臓器障害と相関する
剤のほうが臓器保護の面からは好ましいと推定できる。
また、中心血圧は末梢血圧以上に強く臓器障害と
リンドプリル)+利尿薬(インダパミド)とβ遮断
相関することが数多くの研究において示されている。
薬(アテノロール)の左室肥大退縮効果を比較した
東北大学の橋本ら(2007)は、1 年間の降圧治療に
REASON 試験(2004)である。同試験では、両群に
伴う血圧低下と左室肥大の退縮との関連を調べた。そ
おける上腕血圧の低下度は同等であったが、中心血
の結果、末梢血圧変化と左室重量変化の間に有意な相
圧の低下度は ACE-I +利尿薬群のほうが有意に優っ
関は認められなかった一方、大動脈 AI と左室重量変
ており、1 年後の左室重量低下も ACE-I +利尿薬群
化との間に有意な相関が認められた(r = 0.51、p <
のほうが良好であった。
0.001;図 3)。
さらに、約 20,000 例のハイリスク高血圧患者を対
Roman らの Strong Heart Study(2007)は、高
象に、CCB(アムロジピン)+ ACE-I(ペリンドプ
い心血管疾患発症頻度で知られるアメリカ先住民コ
リル)とβ遮断薬(アテノロール)+利尿薬の心血
ホート研究であるが、末梢血圧より中心血圧の脈圧
管イベント抑制効果を比較した ASCOT 試験(2005)
が CV イベントと強く相関していたことを明らかにし
でも CCB + ACE-I 群の優位性が証明されたが、この
た。このほか、今年初めまでに報告された中心血圧
ときも両群の末梢血圧低下度には差はみられなかっ
と臓器障害の関連を検討した数十報の論文では、す
たが、中心血圧は CCB + ACE-I 群のほうが有意に低
べて両者の間に相関が認められている。
値であったことが翌年のサブ解析・CAFE 試験(2006)
この仮説を検証する最初の臨床試験は、ACE-I(ペ
において明らかにされた(図 4)。
末梢血圧を同じように下げる薬物でも
中心血圧への作用が異なれば
臓器保護効果は異なる
これらのエビデンスに基づき、高血圧の薬物療法
においては、中心血圧に対する作用が検証されてい
ない薬剤よりも検証済みの薬剤を考慮すべきである
臓器障害の予防あるいは改善のためには、末梢血圧
とのコンセンサスが近年形成されている。
より中心血圧を低下させることが重要である。前述の
脳血管性認知症の病態形成には
中心脈圧の増大が関与か?
ように、中心血圧の主要な構成成分は駆出波ではなく
反射波である。心臓からの駆出を抑制するβ遮断薬よ
りも、血管拡張作用をもつ ACE 阻害薬(ACE-I)や
また、中心血圧は大動脈の動脈硬化に関与するだけ
AⅡ受容体拮抗薬(ARB)
、Ca 拮抗薬(CCB)のような薬
でなく、細小血管障害である脳血管性認知症などの発
図3
血圧低下と左室肥大の退縮との関連(n=46)
上腕血圧
20
r=0.09
p=n.s.
10
0
ΔLVMI(g/m 2)
ΔLVMI(g/m 2)
10
大動脈AI
20
−10
−20
−30
−40
−100
r=0.51
p<0.001
0
−10
−20
−30
−50
0
ΔSBP B(mmHg)
50
−40
−100
−50
0
50
ΔAIx(A)(%)
(Hashimoto J et al. Am J Hypertens 2007; 20: 378-84.より引用)
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招待講演
症にも関与することが示唆されている。この機序にお
脈圧すなわち周期的に血流が強まる状態は、恒常的
いて重要と推測されるのは中心血圧の「脈圧」である。
に強い血圧がかかるよりも血管内皮が傷害されやす
周知のように、脈圧は加齢とともに増大し、最終
い。したがって、脆弱な小血管に脈圧という刺激が
的には青年期の 3 〜 4 倍にもなり、動脈には強い脈
加わって傷害された結果、脳血管性認知症などが生じ
圧がかかることになる。それでも通常は、血流が細
るとの機序が推測される。同様に、腎臓や肺など微
小血管に達する頃には脈圧はほとんど吸収されてな
小な血管が集中して存在するすべての臓器にとって、
くなるが、一部の高齢者では末梢においても脈圧の
パルスの増大は大きな脅威となることが推測されて
遺残が認められ、特に脳血管性認知症を伴う高齢者
おり、その対策が今後の課題となろう。
ではその頻度が高くなるという(図 5)。
図4 ASCOT-CAFE試験:上腕血圧と中心血圧の経時的変化
140
アテノロール
治療群
上腕血圧
135
アムロジピン
治療群
(mmHg)
133.9
130
133.2
p=0.07
中心血圧
125
125.5
121.2
120
p<0.0001
115
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
5.5
6
経過(年)
(Williams B et al. CAFE study. Circulation 2006; 113: 1213-25.より引用)
高齢者における脈圧の増大と推測される細小血管傷害機序
若年者
高齢者
管
血
脈
毛
細
動
動
血
脈
細
大
左
血
脈
毛
細
動
脈
細
動
血
大
小
脈
動
室
大
小
0
室
0
管
40
管
40
管
80
脈
80
動
圧(mmHg)
120
左
圧(mmHg)
120
大
図5
(O'Rourke MF, et al. J Am Coll Cardiol 2007; 50: 1-13より引用)
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