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激増した昨年の本邦FX取引と為替市場への示唆

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激増した昨年の本邦FX取引と為替市場への示唆
外貨投資の視点
(No.139)
リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト 植野 大作
2014年2月7日
激増した昨年の本邦FX取引と為替市場への示唆
前年比 2.6 倍に激増した
2013 年の本邦外国為替
保証金(FX)取引
本邦の外国為替保証金(FX)取引が高水準の出来高をキープしている。金融先物取
引業協会が先月下旬に発表した店頭FX月次速報によれば、2013年12月の全通貨ペア
の円建て取引金額は280.6兆円、前月比+11.7%と6ヶ月ぶりの増加となった(図1)。「ア
ベノミクス相場」への期待を背景に過去最高の出来高を記録した6月の531兆7626億円に
比べると半分程度の水準だが、第二次安倍内閣が発足した2012年12月までの年間平均
売買高である137.4兆円を大幅に上回る水準が保たれている。この結果、2013年の店頭
FX売買金額は累計4270.9兆円と、2012年の同1648.4兆円の約2.6倍に激増した。
図1:店頭外国為替保証金(FX)取引の月次取引高の推移
(兆円)
600
(兆円)
600
550
550
FXレバレッジ規制
( 2010年8月、50倍上限)
500
500
450
450
400
400
FXレバレッジ規制
( 2011年8月、25倍上限)
350
350
300
300
250
250
200
200
150
150
100
50
100
店頭FX月次取引金額
(折れ線は3ヶ月平均)
0
2009年
50
0
2010年
2011年
2012年
2013年
出所:金融先物取引業協会より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
昨年の本邦 FX 取引売買
高は、日本の貿易取引の
約 30 年分に相当していた
可能性が高い
「店頭の年間FX出来高4270.9兆円」という金額の大きさをイメージするため、本邦の通
関輸出入額と比べてみると、昨年の日本の貿易取引総額は、輸出が69.8兆円、輸入が
81.3兆円で合計約151.0兆円だった。昨年1年間の日本のFX取引の出来高は、同じ時期
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-1-
外貨投資の視点
の貿易取引額の約28.3年分にも達していたことになる。屋上屋を架す議論で恐縮だが、
直近の日本の名目国内総生産(GDP)は479.8兆円(2013年7-9月期の季節調整済み年
率換算値)だった。昨年の店頭FX売買金額はその約8.9年分に相当していたことになる。
店頭取引だけでこの金額なので、取引所取引を加えると、おそらく昨年のFX売買総額は
約5%程度増加、「外為太郎・花子」による昨年の為替売買金額は「日本の貿易総額の約
30年分、GDPの約9年分」程度に達していた可能性が高そうだ。
「アベノミクス相場」への期
待感から、FX 取引口座が
増加、既往の円高局面で
塩 漬 け に な って い た シ コ
リ・ポジションが解れた
いわゆる「高速回転売買」を好む投資家が多く含まれている本邦FX取引の特徴がよく
表れた数字だが、近年の段階的レバレッジ規制の結果、個人投資家によるFX取引の最
高倍率は現在25倍までに抑えられている。2010年8月にFXレバレッジ上限規制が導入さ
れた後、店頭FX売買金額はしばらく年率1500~2000兆円程度で停滞していた。よって、
昨年観察された本邦FX取引の急増は、「宵越しのポジション」を持たずに日計りの超高
速回転売買に勤しむ高レバレッジ投資家層の増加だけでは説明し切れない。各種メディ
アで社会現象のような取り扱いを受けて報道された「アベノミクス相場」への期待に感化さ
れ、昨年初めてFX取引口座を開設した初心者層の新規参入が促されたほか、リーマン・
ショック後の急激な円高・外貨安の局面で塩漬けになっていた低レバレッジ投資家層の
「シコリ・ポジション」が、アベノミクス効果でようやく解れた面もあっただろう。
店頭 FX 業者間の熾烈な
顧客獲得競争により、FX
投資家層の裾野が広がる
と同時に、一人当たりの為
替売買発注頻度が増えた
また、この間の店頭FX業者間の熾烈な顧客獲得競争により、スマートフォンやタブレッ
トを利用したトレード・アプリの利便性が飛躍的に向上したほか、従来は存在しなかった為
替売買戦略選択型の「おまかせトレード」や、将来ある時点での為替相場の水準予測だ
けで単純勝負する「オプション類似トレード」などの新商品の提供も進んだ。通貨ペアによ
る濃淡はあるものの、スプレッド狭小化競争も一段と激化、ドル円ならば通常1銭未満は
当たり前となり、店頭FX業者が顧客に提供する為替レートは、ドル円もクロス円も小数点
以下二桁の「銭表示」ではなく三桁の「厘表示」が標準的になりつつある。昨年4-6月期に
急速な盛り上がりをみせた「アベノミクス・ブーム」による「月間300兆円以上」という異常な
FXトレードは収束した感があるが、業界各社の地道な営業努力の効果もあって、レバレッ
ジの高低にかかわらず、FX取引に参画する顧客層の裾野が広がると同時に、一人当たり
の為替売買発注頻度が増えたと考えられる。今後の店頭FX取引出来高の盛衰は相場環
境にも左右されるだろうが、当面は、「月間250兆円前後、年間3000兆円程度」の規模を
キープするのではなかろうか。
昨年の本邦 FX 投資家の
ポジションは、往復±3 兆
円程度の激動
一方、昨年の本邦FX投資家層による外国為替取引のネット持ち高の動きをみると、①
13年5月までの急速な円安局面で、かなり異例の「順張りの外貨ロング」が過去最大の3
兆円強に膨張した後、②6月の急激な円高局面でロスカットが誘発され円キャリー残高が
▲1兆円以上も目減りしている。ただ、③その後は例によって「逆張りの外貨ロング」が地
味に増えて円キャリー残高が2兆円超に回復、④11月から12月にかけての円安局面で
「幸福な利食い売り」が進むと外貨ロングが急速に圧縮されて1兆円未満に激減する、と
いう目まぐるしい変遷が観察されている(図2)。結果的に、昨年12月末のポジションは、一
昨年の12月末とほぼ変わらぬレベルに里帰りしたことになるが、この間の円キャリー残高
の最大高低差は、上りも下りも±3兆円程度に達している。昨年の本邦FX業界は、まさに
「激動の1年」だったと言えるだろう。
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
図2:店頭外国為替保証金(FX)取引の円キャリー・ポジションの推移
(兆円)
3.5
3.0
2.5
(兆円)
他通貨持ち高
ポンド円持ち高
ユーロ円持ち高
豪ドル円持ち高
ドル円持ち高
本邦店頭FX取引
円キャリー外貨純買越額
3.5
3.0
2.5
2.0
2.0
1.5
1.5
1.0
1.0
0.5
0.5
0.0
0.0
-0.5
-0.5
-1.0
2009年
-1.0
2010年
2011年
2012年
2013年
出所:金融先物取引業協会より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
「欧州通貨円」のポジショ
ンは、時に逆円キャリーに
差し込むも、米ドル円と豪
ドル円のポジションは、変
動しつつも円キャリー残高
をキープ
ただ、この間、変わらなかったことが一つだけある。それは、「ドル円、クロス円の合算で
みると基本的には円売り・外貨買い超過がキープされていた」ということだ。個別の通貨ペ
アでみると、「ユーロ円」や「ポンド円」については、断続的な売り越し超過に転じる局面も
散見されたが、「米ドル円」や「豪ドル円」については、何故か「根雪のような」外貨買い超
過が維持されており、「欧州通貨円」が断続的に「逆円キャリー」の領域に差し込む場面
でも、それを十分カバーしている。理由は良く分からないが、本邦の平均的なFX投資家
層の間では「外貨ロングをベースに設定し、時宜に応じてその金額を増減させる」というト
レード嗜好が保持されている。特に、「米ドル円」と「豪ドル円」においてそうした傾向が顕
著に認められ、その特性は「アベノミクス」による激動相場の最中でも変わらなかった。
本邦 FX 投資家層は、今
年も年間約 3000 兆円前
後の売買金額をキープ、
為替市場に厚みを付与
こうした状況を踏まえ、当面の為替相場に対するインプリケーションを2つ挙げておきた
い。第一に、今後も日本のFX投資家層は、為替市場に流動性を供給する主体としての
強い存在感を維持する可能性が高い。昨年年央に一時月間500兆円を超え、驚愕の盛り
上がりを示したFXトレードの大ブームは下火になったものの、ブームが去っても「月間約
250兆円、年率3000兆円前後」もの外国為替売買を発注する主体は、世界を見渡しても
殆ど見当たらない。もちろん、この数字の中には店頭業者内でマリーされる金額も含まれ
ており、全てがインター・バンクに出ていく訳ではないが、毎月平均でおそらく4割程度が
カバーに出されるとみられ、その金額だけでも十分過ぎる存在感があると言えるだろう。ち
なみに、「外為太郎・花子」が為替売買に参画しているのは、当然だが東京市場だけでな
く、本邦FX業界で最も為替取引が活発化するのは、「ロンドン序盤からニューヨーク序中
盤」の時間帯である。便宜上設けられるニューヨーク・クローズ直後の短い時間帯を除き、
現在日本のFX投資家層は「ほぼ24時間体制」で祝日も休むことなく、国内外の外国為替
市場に流動性を供給している。スマホやタブレットを通じて外国為替売買に参画できるト
レード・アプリの利便性向上により、その傾向は近年一層強まっている。
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
本邦 FX 投資家が、ドル買
い超過のトレード嗜好を維
持する限り、FX 由来の円
高圧力は発生しにくい
第二に、日本のFX投資家層のポジションが、恒常的な円買い・ドル売り持ち超過に転
じない限り、本邦のFX取引に由来する円高・ドル安圧力が継続的かつ大規模に発生す
る可能性は低そうだ。先述の通り、近年の本邦FX投資家層のポジション動向をみると、
「ドル円」通貨ペアに限ってみれば、ほぼ恒常的に「ドル買い・円売り持ち高」を維持する
ようなトレード嗜好の偏りがある。事実、2009年3月と2010年3月という少数の例外を除き、
日本のFX投資家層の月末のドル円持ち高が、「ドル売り・円買い超過」に転じた事例はほ
とんど見当たらない。
金融庁のレバレッジ規制、
投資家層の厚み増大によ
り、ロスカットの嵐で生じる
円高リスクは、昔に比べて
小さくなっている
この間、2011年10月31日にドル円相場が1ドル=75円35銭で底打ちするまでは、断続
的に急落する場面も頻繁に生じており、一部のFX投資家層においては「強制ロスカット
による望まぬドル売り」や、「予め設定したストップロス発動による秩序だったドル売り」を強
いられる局面もしばしばあったと推測される。しかし、2010年8月以降に導入された金融庁
の段階的レバレッジ規制により、平均的なロスカット発動水準までの「のりしろ」が徐々に
厚くなったとみられるほか、FX投資家層の裾野の拡大によって、ドル円相場の急落局面
で無傷の新規FXマネーによる押し目拾いが促されやすくなっていると考えられる。このた
め、最近はドル円相場の調整がある程度の水準まで進むと、「ロスカットのドル売りによる
退出マネー」を凌駕する「新規のドル買いによる参戦マネー」の存在感が、これまでより早
いタイミングで増しやすくなっている印象が強い。
日本の FX 取引は基本的
には逆張りで、上値追及
の主体にはなり得ない
が、ドル円に限れば上値
抑制力より下値サポート
力が強そう
本邦FX投資家層は、基本的には「逆張り」の嗜好を持つ投資家層であるため、ドル円
相場の上昇局面を徹底的に追いかけて趨勢的な値上がりを助長するとは考え難い。ただ、
日本のFX業界において程度の差こそあれ「根雪のような」ドルの買い持ち超過が維持さ
れている限り、ドル円相場の上値を売って値上がりを抑止する力よりも、下値を買い支え
て下落圧力を緩和させるパワーの方が相対的に強い状態は続くとみられる。昨年6月以
降、幾度もあったドル円相場の調整局面ではその傾向が顕著に認められ、「外為太郎・
花子」がドル円相場の急落局面におけるローソク足の下ヒゲを短く刈り込み、反転上昇に
向けた足場固めに貢献していた可能性が高い。実際、昨年10月から11月にかけてドル円
相場が約半年近く続いた三角保ち合いを上抜けする局面では、「200日移動平均線絡み
の攻防」で断続的な押し目買いを入れてきた勢力の存在感が非常に強かったが、本邦の
FX投資家層が当時その有力な一派を形成していたことが確認されている。(当時のプラ
イス・アクションについては、外貨投資の視点(No.123)「ドル円相場日誌【2013年10月
版】」、同(No.128)、「ドル円相場日誌【2013年11月版】」などを参照。)
日米の経済政策、為替需
給環境も当面の円安圧力
残存を示唆
もちろん、将来何が起きるか分からないのが為替相場の常だ。「アベノミクス」の始動後、
これまで比較的有効に機能してきた本邦FX勢力によるドル円の押し目買い戦略が、今後
何らかの理由でレッド・カードを突きつけられた場合には、ドル円、クロス円を両方巻き込
んだストップロスの嵐が猛威を奮い、円全面高・外貨安による下ヒゲの差し込みが深くなる
可能性はあるだろう。ただし、1月8日に発行した外貨投資の視点(No.134)「日本で進む5
つのグローバルスタンダード化と為替相場」で詳述したように、本邦の政策に由来する円
高抑止力は今のところ健在だ。米国で量的緩和の段階的縮小が始まったことにより、当
面は異次元の金融緩和を継続する日本との印象格差も一層鮮明になりつつある。需給
要因に目を転じても、本邦貿易赤字の拡大により、日々マーケットに染み出ている「実需
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
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外貨投資の視点
のドル買い」のパワーが増しているほか、日本企業の活発なグローバル展開により、「背景
の良く分からないまとまった規模のドル買い」が、ドル円相場の下落局面で持ち込まれる
ケースも増えているようだ。既往の円安局面でドル円相場の趨勢的なベクトル形成に影
響を与えてきた上記諸々の政策、需給の環境変化を考慮すると、今後、短期的にドル円
相場が急落する局面があったとしても、当面は本邦FX勢力も含めた押し目買い勢力によ
る下値サポート力が効力を発揮しやすい状況が続くのではなかろうか。
今後、ドル円相場に思わ
ぬ差し込みが生じた場
合、本邦 FX 投資家のリア
クションが円安地合いの
強度を試す試金石になる
可能性も
いずれにしろ、今後ドル円相場が「何らかの理由」で思わぬ調整局面を迎えたときの本
邦FX投資家層のリアクションは、既往の円安・ドル高地合いの強度を試す「リトマス試験
紙」のような役割を果たしそうだ。これまで同様、ドル円相場の差し込み局面での押し目
買いによる下値サポートが健在なら、我々が標榜している円安見通しの蓋然性を高める
役割を果たすだろうが、「ドン引き状態」になるような姿が観察された場合は、円安相場転
換の可能性を示唆する啓示とみなすべきかもしれない。ドル円相場に深い利害関係を持
つ立場上、近年急速に市場規模が膨張している本邦FX業界のモニタリングは、為替相
場のプライス・アクションを考える上で、欠くことのできない必須科目の一つになりつつあ
る。今後の動向を引き続き注視し、時宜に応じた情報提供に努めたいと考えている。
(2月7日 8:40)
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引業協会
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外貨投資の視点
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