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消滅し始めた日米物価格差とドル円相場 - 三菱UFJモルガン・スタンレー

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消滅し始めた日米物価格差とドル円相場 - 三菱UFJモルガン・スタンレー
外貨投資の視点
(No.130)
リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト 植野 大作
2013年12月18日
消滅し始めた日米物価格差とドル円相場
日米の物価上昇率格差が
企業物価段階では 5 ヶ月
連続で逆転
日米の物価上昇率格差が急速に縮小し始めている。12月11日に日銀が発表した11月
の国内企業物価は前年同月比+2.7%と、米国労働省が13日に公表した同じ月の米生
産者価格の前年比+0.7%を約2%ポイントも上回った。企業物価ベースのインフレ率で
日本が米国を上回るのは、今年7月以来5ヶ月連続となる。単月の物価変動を平準化した
3ヶ月移動平均で比較しても、企業物価段階での日米インフレ格差の逆転は、今年9月か
ら11月まで、3ヶ月連続で観測されている(図1)。
図1:日米のインフレ率格差の推移
8%
8%
米国生産者価格上昇率
(3ヶ月移動平均、前年比)
6%
6%
4%
4%
2%
2%
0%
0%
-2%
-2%
-4%
-4%
-6%
日本国内企業物価上昇率
(3ヶ月移動平均、前年比)
日米インフレ率格差
(日-米)
-8%
-6%
-8%
6%
6%
米国消費者物価前年比
(3ヶ月移動平均)
4%
4%
2%
2%
0%
0%
-2%
-2%
-4%
日本消費者物価上昇率
(3ヶ月移動平均、前年比)
-6%
00
01
02
03
04
05
-4%
日米インフレ格差
(日-米)
06
07
08
09
-6%
10
11
12
13
出所:米国労働省、日銀、ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
消費者物価段階でも日米
インフレ率格差が急速に
縮小中
こうした企業物価段階での日米インフレ格差逆転の影響は、やや時間差を伴いつつ、
よりマイルドな形で風下の消費者物価にも波及しつつある。現時点で入手可能な直近の
消費者物価上昇率をみると、日本が10月までの3ヶ月移動平均で前年比+1.0%、米国
が11月までの3ヶ月移動平均で同+1.1%と、まだ若干日本の方が米国より低めだが、今
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-1-
外貨投資の視点
年に入って急速にインフレ率格差が縮小してきた様子が窺える(図1)。現在、日米両国
はともに中央銀行が標榜する「前年比+2%程度」の物価目標を達成できていないが、米
国ではインフレ圧力が非常に抑制された状態が続く一方、日本ではデフレ脱却の兆候が
明滅し始めており、結果的に、長らく埋まることのなかった両国の物価上昇率格差(日本
<米国)は、最終物価の段階でもほぼ消滅しかかっている。
ドル円相場への影響:2 つ
の着眼点
最近の物価関連統計で観測され始めた日米インフレ率格差の逆転、ないし解消の兆
しは、今後のドル円相場の趨勢を考える上で非常に重要な構造変化に発展していく可能
性を秘めている。着眼点として、以下2点を指摘しておきたい。
図2:名目・実質ドル円相場と相対購買力平価の推移
(円)
320
1973年2月
変動相場制移行
(円)
名目ドル円相場(A)
320
300
300
1985年9月G5
プラザ合意
280
260
280
相対購買力平価ライン(B)
(2013年11月89円45銭)
260
240
240
1990年4月G7
パリ合意
220
200
220
1998年4月
円の下落修正合意
200
180
180
160
160
円高トレンド消滅?
140
140
1978年11月
カーターショック
120
100
120
1987年12月G7
クリスマス合意
80
60
150
140
130
120
110
100
90
80
70
60
50
40
100
2011年
緊急G7当日告知型
協調円売り介入(3月)
1995年4月G7
秩序ある反転合意
80
60
150
140
130
120
110
100
90
80
70
60
50
40
実質ドル円相場指数 (=A÷B×100)
(全期間平均 =100)
ドル高政策採用期
73
75
77
79
市場メカニズムによる収斂期?
円高政策採用期
81
83
85
87
89
91
93
95
97
99
01
03
05
07
09
11
13
注:相対購買力平価には基準年を設けず、名目ドル円相場と購買力平価の全期間平均が合致するよう毎月調整
相対購買力平価ラインの傾きは、日本の国内企業物価総平均指数と米国の完成品生産者価格指数に基づき作成
出所:米国労働省、日銀、ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
購買力平価の長期円高ス
ライドが消滅へ
第一に、日米物価格差の解消に伴い、過去数十年間にわたってドル円相場の趨勢を
支配してきた「購買力平価の長期円高スライド」にブレーキが掛かりつつある。日本政府
が為替変動相場制を採用した1973年以降、第一次、第二次石油危機の影響で物価が乱
高下した時期を除くと、日米両国の物価上昇率格差(日<米)を反映して、ドル円相場の
購買力平価は、ほぼ恒常的に右肩下がり(ドル安・円高)の傾向を維持していた。しかし、
上述のような物価の動きを反映して、足下で日米の企業物価に基づく購買力平価は、概
ね水平飛行へ移行、これまで非常に明確だった円高トレンドが消え始めている(図2)。
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-2-
外貨投資の視点
購買力平価の水平飛行が
定着すれば、ドル円相場
は長期ボックス相場に転
じる可能性も
「購買力平価における円高トレンドの消滅」は、現時点ではまだ企業物価段階でのみ
観察される現象に留まっているが、今後同様の傾向が消費者物価へと波及、定着してい
く場合、過去四半世紀以上にわたってドル円相場を長期右肩下がりのトレンドに誘ってき
た「日米物価格差による構造的な円高圧力」は、最終物価の段階でも消滅する可能性が
ある。その場合、実質ドル円相場の循環的な変動が、そのまま名目ドル円相場に投影さ
れることになり、日々のドル円相場は「水平飛行状態に移行した購買力平価」を中心に、
上下にある程度の乖離幅をもった領域で循環変動を繰り返す「長期ボックス相場」に転じ
る可能性がありそうだ。
日米物価格差の消滅に伴
い、短期実質金利の符号
条件の違いも解消へ
第二に、日米物価格差の消滅に伴い、両国の実質金利差に微妙な変化が生じつつあ
る。例えば日米の短期金利をベースに考えると、彼我の名目政策金利がともにゼロ%近
傍まで下がって変化の余地を失って以来、事実上は日米の物価格差が実質短期金利差
を規定する状態が続いている。これまで、日本では物価上昇率がマイナスの状態が定着
していたため、ゼロ金利政策の採用下にあっても実質短期金利はプラスで推移していた
一方、米国ではディス・インフレ懸念が叫ばれつつもデフレ陥落は回避していたため、実
質短期金利はマイナスの状態が定着していた。アベノミクスの採用以前に進んでいた円
高・ドル安の原因については諸説あるが、有力な一因として「日米実質政策金利の符号
条件の違い」を指摘する論調は多かった。日米のインフレ率格差が今後安定的に消滅す
れば、日米の実質政策金利の符号条件の違いによる円高圧力は、その発生源を失うこと
になる。現在、平均的な市場参加者の間では「日米両国で先にゼロ金利解除に踏み切る
のは米国」との見方が大勢を占めており、インフレ率格差によるハンデキャップがなくなっ
た状態で名目短期金利差が「米国>日本」の格差を広げていく場合、それが素直に実質
金利の差としてドル円相場の期待形成に織り込まれていく可能性があるだろう。
図3:日本の長期金利と物価上昇率の推移
6%
5%
消費増税
(3%→5%)
4%
6%
日銀の物価安定目標
06/03理解=大勢1%前後
09/04理解=大勢1%程度
09/12理解=1%程度中心
12/02目途=当面1%程度
13/01目標=安定目標2%
日本10年国債利回り(左軸)
5%
4%
3%
3%
原油高騰
2%
2%
1%
1%
0%
0%
-1%
-1%
-2%
-2%
コア・コア・インフレ率(右軸)
コア・インフレ率(右軸)
(消費者物価除く生鮮食品) (消費者物価除く生鮮食品・燃料)
-3%
92
94
96
98
00
02
04
06
08
-3%
10
12
出所:日本銀行、ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
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外貨投資の視点
長期実質金利では、既に
日本がマイナス、米国が
プラスの状態に移行中
実際、日米両国の実質長期金利では、一足先にその影響が表れ始めている。足下で
日本の消費者物価(除く生鮮食品)は前年比+0.9%付近へ上昇してきているが、日本の
10年国債利回りは、このところ0.6%台で推移しており、物価上昇率より低い「実質マイナ
ス状態」に陥りつつある(図3)。現在、日銀は物価目標2%が安定的に達成されるまで、
毎年50兆円程度のペースで長期国債を購入する政策を採用しており、現行政策の継続
を前提とする限り、日本の長期実質金利は当面の間、実質マイナスの領域で推移する可
能性が高そうだ。翻って、米国の名目10年国債利回りは現在2%台後半で推移しており、
前年比1%台で推移する消費者物価上昇率より高い水準にある。同国のインフレ連動債
市場で確認すると、満期10年の長期実質金利は米連邦準備制度(FED)による量的緩和
の段階的縮小を織り込んで、マイナスからプラスへと転じ始めている(図4)。日米両国の
長期実質金利の符号条件を比較すると、既に「日本がマイナス、米国がプラス」となって
おり、教科書通りに考えれば、円安圧力発生の温床となり始めた可能性がある。
図4:米国金融政策動向と長期金利の要因分解
(兆ドル)
4.50
(%)
6.0
米国名目10年債利回り
(右軸、A+B)
4.00
米連邦準備制度総資産(左軸)
5.0
3.50
4.0
3.00
3.0
2.50
2.0
2.00
期待インフレ率(B)
1.50
1.0
0.0
1.00
-1.0
米10年実質金利(A)
0.50
-2.0
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
来年 4 月以降、断続的な
消費増税の影響で日米物
価格差は一段と変化
こうした状況下、今後の日米物価動向が注目されているが、我々の円債市場分析チー
ムでは、来年4月以降、約数年間にわたって企業物価のみならず、消費者物価段階でも
日米のインフレ率格差が断続的に逆転、ないし概ね解消した状態が定着すると予想して
いる。日銀が掲げる物価目標2%の早期達成は困難であり、ベースとなるインフレ率では
米国より低い状態が続くと見込まれるものの、2014年4月、2015年10月と断続的に実施さ
れる消費税率引き上げの影響によって物価水準の不可逆的な上昇が生じるためだ。各
年度の消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率は、2014年度が+2.8%、15年度が+1.4%、
16年度が+1.6%に達すると見込んでいる。この間、細かい定義の違いはあるものの、米
国の消費者物価上昇率は概ね前年比+1.5%前後で安定的に推移するとみられ、「日本
の消費者物価上昇率が米国をやや上回るか概ね同等」という状況が続きそうだ。企業物
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
価段階で発生する消費増税による物価押し上げインパクトは、消費者物価段階より大き
いとみられ(図5)、足下で観測されている日米企業物価上昇率の逆転現象は、来春以降
に一段と拡大する可能性が濃厚だ。
図5:日本の消費税率引上げに伴う物価水準押し上げ効果
(%ポイント)
5.0
国内企業物価押し上げ効果
(89年は国内卸売り物価)
税率15%まで上昇
軽減税率なしの場合
4 .5
4.5
4.0
消費者物価押し上げ効果
(89年は物品税廃止完了後)
現行の消費増税法
による効果
3.5
2.5
2 .0
1 .9
2.0
1.5
3 .1
2 .9
3.0
1 .5
1 .4
1 .9
1 .3
1 .1
1.0
0.5
0.0
0.0%→3.0%
3.0%→5.0%
5.0%→8.0%
8.0%→10.0%
10.0%→15.0%
1989年4月(推)
1997年4月(推)
2014年4月(予)
2015年10月(予)
より長期(仮)
出所:各種資料より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
日本で段階的な消費増税
が続く間、ドル円相場の購
買力平価は気持ち円安方
向へシフト、実質金利の米
日格差も拡大
上記の見通しを前提に考えると、少なくとも日本で段階的な消費増税が続く間は、購
買力平価の円高トレンドがほぼ消滅、ないし気持ち円安方向へシフトする状態が維持さ
れるとみられる。日銀による早期金融引き締めへの転換や日本国債の暴落による長期金
利急騰を前提としない限り、長期実質金利の符号条件は「日本でマイナス、米国でプラ
ス」という状況が継続しそうだ。間接税率の引き上げに伴う一時的な物価上昇は、日銀の
金融政策運営の際には除去して考えるべきだが、理由が何であれ構造的に物価水準が
上昇すれば、日本国内で流通する財やサービスに対する日本円の購買力はその分確実
に目減りするほか、当該期間中に投資家が受け取る利子収入の価値も物価対比で目減
りする。「消費増税の影響を除くベースで米国と同じ物価目標2%が安定的に達成される
まで異次元の量的緩和を継続する」という現行の日銀の金融政策は、非常に明快な円高
抑止策になるとみられる。
2016 年以降、消費税率が
10%超の水準でどの辺り
まで上昇するのかについ
ても要注意
現行法で規定されている消費増税の影響が前年比でみて剥落する2016年11月以降、
日米のインフレ率格差がどのような展開を辿るのかについては、現時点では分からない。
ただ、長期的な観点で留意すべきなのは、日本国財務省が「消費税率10%までの引き上
げだけでは、持続可能な社会保障財源の確保は難しい」と常々指摘している点だ。金融
政策の物価目標が「グローバル・スタンダード」の2%に引き上げられた現在、消費税率の
水準も長期的にみて主要先進諸国並みのレベルに引き上げられていくならば、2015年
10月以降もどこかのタイミングでは断続的かつ不可逆的な消費増税によって物価水準が
押し上げられる可能性がある。目先の為替相場の予測にすら四苦八苦している状況で、
あまり先のことを語ると鬼に笑われそうだが、長期的なドル円相場の行方を考察する上で、
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
「日本の消費税率引き上げの動きが、一体何%で打ち止めになるのか」というテーマは、
非常に重要な要素になり得るという点は意識しておきたい。
デ フ レ 克 服 を旨 と す る 政
策運営に市場や社会が信
を置くようになれば、日<
米物価格差が大幅に乖離
し続けていた昔の状態に
は戻らない可能性も
もちろん、2016年以降に日本で実施される(かもしれない)追加的な消費増税の影響を
除いたベースでみた日米インフレ率格差がどのように推移するのかを考えることも、超長
期的なドル円相場の行方を考える上では非常に重要だ。この点について、筆者は正確に
予見する能力を持ち合わせていないが、「デフレの克服」を要諦に据えた現行の金融政
策運営に市場や社会が信を置くようになるにつれ、「物価目標2%」という数字の厳格な
達成の成否は兎も角、日本が再びデフレに陥って、米国との物価格差が乖離し続けてい
た昔のような状態には逆戻りしなくなるのではなかろうか。ややエモーショナルな議論にな
るが、最近は各種メディアを通じて「数十年来値上げされることのなかった定番の飲食系
商品がついに値上げに踏み切った」といった類の報道が増えてきている印象がある。消
費者物価上昇率への寄与度では、相変わらずガソリンや電気代などの値上がりの影響が
大きいようだが、最近は幅広い品目で物価上昇の兆候も認められており、「上昇品目の数
が下落品目の数を上回り始める」などの現象も起きているようだ。
「超円高の是正」を起点に
始まった日本の物価上昇
の持続性に注目
1ドル=80円を割り込む超円高の是正を起点に始まった今般の物価上昇は、その初期
段階では「単なる輸入インフレ」と揶揄されることも多かったが、円安によってもたらされた
輸入物価の上昇は、国内市場に流入してくる安価な輸入品に対する国産品の競争条件
を弛緩させる面もある。結果的に、不毛かつ熾烈な値下げ合戦が緩和すれば、利益マー
ジンの圧縮や賃金抑制に歯止めが掛かり、「モノは値下げしないと売れない」、「給料は
出来る限り低く抑えなければ競争に勝てない」などといった縮小均衡のデフレ心理を寛解
させる効果もあるだろう。「単なる輸入インフレ」すら起きず、ただ粛々と「円高デフレの共
鳴現象」が続いていた昨年秋頃までとは隔世の感を覚えずにいられない。
安定的なデフレ脱却の鍵
を握るのは、やはり賃金
上昇の成否になりそう
安定的なデフレ脱却の鍵を握るのは、最終的にはやはり賃金上昇の成否になりそうだ
が、適度な円安によって景況感が良くなれば、やがては国内労働者の賃金や雇用にも波
及してくるだろう。また、企業活動がグローバル化するにつれ、長期的にみると同一業種
内で同じクオリティーの仕事をしている労働者の報酬水準は平準化しやすくなっているは
ずだ。このため、円安が進行してある程度の期間にわたって定着すれば、外貨ベースで
みた国内就業者の賃金報酬が割安となり、「円ベースでの賃上げ余地が広がる」、「外資
系企業が国内採用社員にオファーする報酬水準が上がりやすくなる」、などの可能性もあ
るだろう。円安を起点に物価や賃金に上昇圧力が及ぶまでのタイムラグは、昔に比べて
少し早まっているのではなかろうか。
円高抑止の観点からアベ
ノミクスの成否を判断する
場合、物価目標 2%の達
成の 可否 より も、 主要 先
進国との物価格差が埋ま
った状態を維持できるか
どうかに注目
あくまで私見だが、所謂「アベノミクス」の成功、不成功を決める判断基準を「円高抑
止」という観点から語る場合、「物価目標2%」という数字を杓子定規にみて達成できるか
どうかではなく、長期的にみて過度のインフレを回避しつつ、「他の先進諸国並みの物価
上昇率」を達成、維持出来るか否かが重要だと考えている。そこで改めて主要先進国の
中央銀行が物価目標の対象としている物価上昇率を並べてみると、かつてのように「日本
だけが何故かデフレ」という異常な状態は既に解消されつつあるようにみえる(図6)。他国
の物価上昇率との比較において「日本だけが突出して低い」という状態が解消されれば、
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
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外貨投資の視点
「購買力平価の円高スライド」は徐々に消滅、国内企業がよりスクエアな競争条件で経済
成長に資するパフォーマンス向上に挑戦可能な環境が整うことになる。その意味で、第二
次安倍政権の経済政策運営1年目は、成長戦略などの面で数多の課題を残しつつ、「滑
り出しとしては上々だった」と評価して良いのではなかろうか。今年元旦、初値86円75銭
でスタートしたドル円相場が、「三桁の水準」に上昇して師走を迎えている現状が、何より
も雄弁にその成果を物語っている。こうした傾向の持続可能性については今後の状況を
引き続き精査し、適宜我々の為替相場見通しに反映させたいと考えている。
図6:主要通貨圏の物価目標と直近のインフレ率の実績
直近基調インフレ前年比
物価標中心値
物価目標下限値
物価目標上限値
3.5%
3.0%
3.5%
3.0%
2.3
2.5%
2.5%
1.8
2.0%
2.0%
1.5%
1.0%
0 .9
1.1
1.4
1.2
1.5%
0.9
1.0%
0 .7
0 .2
0.5%
0.5%
0.0%
0.0%
-0.5%
-0.5%
-1.0%
-1.0%
日本
米国
ユーロ圏
英国
カナダ
豪州
スウェーデン
NZ
スイス
注:米国は、上記物価目標のほか、「失業率が6.5%を上回る水準に留まり、物価見通しが2.0%を0.5%ポイント超上回らない」ことなどを超低金利政策継続の条
件に挙げている
英国は上記物価目標のほか、「失業率が7.0%を上回っている」ことを超低金利政策維持のガイダンスに挙げている
直近の実績は、スイスを除き各国がインフレ目標の測定対象としている物価指数のうち、市場がコア・インフレ率と見做しているとみられるもの
米国については、2012年12月12日のFOMC声明で「1-2年の物価見通しが2.0%を0.5%ポイント超上回らないこと」を超低金利政策維持のガイダンスに挙げ
ている
日本は消費者物価除く生鮮食品、米国は個人消費価格除く食品・燃料、ユーロ圏と英国は消費者物価除く燃料・食品・酒・煙草、カナダは中銀基調インフレ
豪州とニュージーランドは消費者物価指数の刈込み平均と加重中央値の平均値、スイスはEU基準消費者物価、スウェーデンは中銀基調インフレ、NZは消費
者物価前年比
出所:各国中央銀行、ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
(12 月 18 日 10:30)
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外貨投資の視点
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外貨投資の視点
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