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米国債格付懸念、為替介入空白懸念とドル円相場
外貨投資の視点 (No.031) リサーチ部 シニア為替・債券ストラテジスト 植野 大作 2012年9月12日 米国債格付懸念、為替介入空白懸念とドル円相場 ドル円相場が6月1日以来 の水準に下落 昨日の外国為替市場でドル円相場は一時77円70銭と6月1日の「米雇用統計ショック」 時に記録した77円66銭に迫る水準にまで差し込む場面があった。本日の東京市場では 「本邦輸入企業のドル買い観測」なども意識されて77円90銭前後まで小戻しているが、最 近妙に底堅かった78円00銭前後の壁を下回る水準での取引が続いている。昨晩のドル 円相場の急落劇を引き起こしたとされる主な犯人および背景は、①欧州序盤に米系銀行 筋が持ち込んだと噂される「まとまった規模」でのドル売り・円買い注文、②米系格付け会 社による米国債最高格付キープへの懸念表明、だったようだ。 「まとまった規模」でのドル このうち、①に関しては、非常に良くある需給トークだ。「誰も売っていないのに値段だ 売り・円買いの噂は、よく け下がる」などという相場はあり得ないため、今回のようにドル円相場が急落した場面で ある需給トークの一種で は、当然そのとき「誰かが売っていた」に決まっている。昨日夕刻のドル円相場の下落 一過性か 「第1波」は、いわゆる「材料砂漠」で「欧州序盤」という怪しい時間帯に到来しており、事 後的に判明する「犯人探し」の結果が今回も示されたに過ぎない。ちなみに、その主体 については「短期筋」との見方が多いようであり、こちらは恐らく一過性の動きだろう。 図1:最近のドル円相場(日足)の推移 85円 85円 84円 84円 83円 83円 ボリンジャーバンド 2σ上限 82円 82円 2 0 日移動平均線 81円 81円 80円 80円 79円 79円 78円 78円 77円 76円 2012年4月 77円 ボリンジャーバンド 2σ下限 2 0 0 日移動平均線 76円 2012年5月 2012年6月 2012年7月 2012年8月 2012年9月 出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン/スタンレー証券作成 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 -1- 外貨投資の視点 昨晩のドル安・円高の第 一方、②が引き起こしたドル円相場の下落「第2波」に関しては、やや心配な材料だと 2派をもたらした米系格付 いえる。昨晩とは別の米系格付け会社が米国債の格付を史上初めて最高水準から引き け会社の懸念表明は少し 下げたのは、昨年8月5日の出来事だったが、今後もしも両社の格付が揃って最高水準 心配な材料 で無くなった場合、「最高格付ファンド」や「一部大手年金筋」などが米国債を売らなけれ ばいけなくなるのではないか、とのマーケット・トークが刺激され易くなるため、「ドル相場 の健康維持」という観点から決して良い話ではない。 ただし、実際に米国債が ただ、冷静に考えてみると、「米国の財務省証券を組み入れずに最高格付けファンド 格下されても、実需への や巨額の年金マネーを運用することが果たして可能か」という命題がある。あくまで私見 影響は比較的軽微 だが、それは多分不可能だ。よって、もしも今後実際に米系2社が提示する米国債格付 けが揃って下がるような事態になった場合、心理的には相応のドル売り材料になりそうだ が、実際の為替需給に永続的な地殻変動が起きる可能性は小さいと思われる。 より 心 配す べ きは 、本 邦 他方、短期的なドル円相場の水準を考える上でより心配なのは、この水準になっても 通貨当局の為替介入「エ 本邦通貨当局による「口先介入」が出てきていないことだ。ここ数ヶ月の経験則では、ド アポケット入り」観測 ル円が77円台に差し込んでくると、①本邦通貨当局要人による口先介入が頻発したり、 ②真贋不明の介入誤認騒動が勃発したりしてドル円相場を78円台に押し戻す動きが見 られたが、昨晩から本日東京の時間帯にかけてはそれらの痕跡が全く見られず、何故か 「音無しの構え」になっている。 政局がらみで日本政府の 現在、日本の政治は与野党2大政党の党首選挙のほか、「近い将来」に意識されてい 円高警戒色が薄まってい る解散総選挙の可能性を睨んで慌しい雰囲気になっているため、本来なら円高を牽制 るとの懸念も すべき面子が忙殺され、介入政策に空白地帯が出来ているとの見方もでている。日本 政府が本当に超円高を阻止したいとの意思を示すのならば、そろそろ何らかのメッセー ジを送らないと、「昨年秋の覆面介入」で作り込んだ「介入警戒ライン」の神通力が低減、 本邦通貨当局が嫌悪する「投機筋」に付け入る隙を与えてしまうことにもなりかねない。 図2:近年実施された為替介入とドル円相場 98円 98円 2010/9/15(10:30過ぎ) 円売りドル買い介入(2兆1249億円) 日本政府単独・当日告知型 82円87銭→85円77銭(△2円90銭) 効力持続期間:15営業日 96円 94円 92円 2011/8/4(10:00過ぎ) 円売りドル買い介入(4兆5129億円) 日本政府単独・当日告知型 77円12銭→80円24銭(△3円12銭) 効力持続期間:3営業日 90円 86円 82円 94円 92円 2011/11/1-4(時刻不明) 円売りドル買い介入(累計1兆195億円) 日本政府単独・後日公表覆面型 推定介入水準(77円89銭-78円02銭) 88円 84円 96円 72円 70円 10/01 86円 82円 80円 78円 78円 74円 88円 84円 ド ル円相場 ( 週間変動実績) 80円 76円 90円 2011/3/18(9:00過ぎ) 円売りドル買い介入(6925億円) 主要7カ国協調・当日告知型 79円20銭→81円98銭(△2円78銭) 効力持続期間:83営業日 76円 2011/10/31(10:25過ぎ) 円売りドル買い介入(8兆722億円) 日本政府単独・当日告知型 75円62銭→79円53銭(△3円91銭) 効力持続期間:10ヶ月超(継続中) 74円 72円 70円 10/07 11/01 11/07 12/01 12/07 出所:ブルームバーグ、各種報道より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 -2- 外貨投資の視点 ドル円相場のトレンドを決 ただし、これらの材料は、いずれもドル円相場のファンダメンタルズが規定する骨太の める本筋の材料は引き続 トレンドを決するものではない。米系格付け会社が提起した問題も、まだ懸念表明の段 き「米国の金融政策運営」 階であり、当面のドル円相場の趨勢を決める「本筋」の材料は、やはり米国の金融政策 運営だとみられる。足下のドル円相場は諸々の需給トークをこなしつつ、木曜日の深夜 に結果が発表される米連邦公開市場委員会(FOMC)を目前に控えた水準の「地均し」 という雰囲気が濃厚になっているが、これまで再三指摘してきたとおり、その後本格的に 動き始めるドル円相場「秋の陣」の基本的な味付けは、①9月13日の米FOMCで提示さ れる追加金融緩和策の内容、②その結果を踏まえた米国株価、米国債利回りの反応、 ③それらを受けてドル円相場が動意づいた場合の日本政府および日銀の政策対応、と いう3段構えのチェック・ポイントを経て決まると思われる。 まずは今週木曜日の FOMCの結果を注視 現時点で我々は、①米国景気の「中だるみ局面」でFEDが思い切った金融緩和に踏 み切れば、その後の米国の景況感はむしろ改善する可能性がある、②1ドル=75円台 の攻防戦が意識されるような局面では日本政府による為替実弾介入の再開と相前後し て日銀の金融緩和が促される、と考えている。このため、「ドル円相場の差し込みはあっ ても年内75円台まで」というシナリオを維持しているが、その真贋を見極める上で、将に 「正念場」の局面が近づきつつあると言えそうだ(我々のドル円相場見通しの詳細につ いては、8月30日発行の外貨投資の視点No.27「膠着するドル円相場と今後の展望」を 参照)。予断を持たずに今週木曜日のFOMCの結果を注視し、適宜判断を下していきた いと考えている。 (9月12日 14:20) 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。 -3- 外貨投資の視点 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。本 資料で直接あるいは間接に採り上げられている有価証券は、価格の変動や、発行者の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価 の変化、金利・為替の変動などにより投資元本を割り込むリスクがあります。ここに示したすべての内容は、当社の現時点での判断を示している に過ぎません。本資料は、お客様への情報提供のみを目的としたものであり、特定の有価証券の売買あるいは特定の証券取引の勧誘を目的と したものではありません。本資料にて言及されている投資やサービスはお客様に適切なものであるとは限りません。また、投資等に関するアドバ イスを含んでおりません。当社は、本資料の論旨と一致しない他のレポートを発行している、或いは今後発行する場合があります。本資料でイン ターネットのアドレス等を記載している場合がありますが、当社自身のアドレスが記載されている場合を除き、ウェッブサイト等の内容について当 社は一切責任を負いません。本資料の利用に際してはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。 当社および関係会社の役職員は、本資料に記載された証券について、ポジションを保有している場合があります。当社および関係会社は、 本資料に記載された証券、同証券に基づくオプション、先物その他の金融派生商品について、買いまたは売りのポジションを有している場合が あり、今後自己勘定で売買を行うことがあります。また、当社および関係会社は、本資料に記載された会社に対して、引受等の投資銀行業務、 その他サービスを提供し、かつ同サービスの勧誘を行う場合があります。 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の役員(会社法に規定する取締役、執行役、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が、以下の会社の役員 を兼任しております:安藤建設、ディップ、カゴメ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、アコム、三菱UFJリース、三菱倉庫。 債券取引には別途手数料はかかりません。手数料相当額はお客様にご提示申し上げる価格に含まれております。 本資料は当社の著作物であり、著作権法により保護されております。当社の事前の承諾なく、本資料の全部もしくは一部を引用または複製、 転送等により使用することを禁じます。 c 2012 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd. 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