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人民元、22年3ヶ月ぶりの20円台に高騰 - 三菱UFJモルガン・スタンレー

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人民元、22年3ヶ月ぶりの20円台に高騰 - 三菱UFJモルガン・スタンレー
外貨投資の視点
(No.223)
リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト 植野 大作
2015年6月3日
人民元、22年3ヶ月ぶりの20円台に高騰
ポイント





人民元の対円相場が高騰、2日(火)の上海市場で一時1元=20円16銭9厘と1993年3月以来の水準まで上昇
3月中旬の全人代終了後、ドル人民元相場は再び膠着、当面の人民元円相場はドル円相場に連動して上下
既往の中国為替政策の履歴や米中貿易不均衡の実情から、米財務省は人民元=過小評価との評価を維持
中国が目指す「人民元の国際化」に向け、為替市場の自由化が進めば、超・長期では人民元高圧力が発生
人民元円相場の上昇により、日本経済に対して好悪の影響が複雑に錯綜、対ドル相場と同等の注意が必要
人民元円相場が高騰、一
時 1 元=20 円 16 銭 9 厘
と 22 年 3 か月ぶりの水準
まで上昇
人民元の対円相場が歴史的な高値圏に上昇している。6月2日(火)の上海市場では
一時20円16銭9厘と1993年3月30日以来、約22年3ヶ月ぶりの水準まで高騰する場面があ
った。かつて人民元が20円台を超えるレベルで取引されていた1993年3月当時は、中国
が「関税及び貿易に関する一般協定(GATT)」に加盟する以前の「二重為替レート制」で
人民元を分別管理していた頃であり、現在とは為替制度が全く違っていた(図1)。中国政
府が現在採用している「管理フロート制」の基礎となる為替制度の抜本的な変更を行った
のは2005年7月21日(木)である。足下の人民元円相場は、現行の管理フロート制の下で
は最も高い水準にあり、事実上の過去最高値圏で取引されていると言って良いだろう。
過去約 4 年間で人民元の
対円相場は 7 割以上も上
昇、今後の展開と日本経
済への影響に要注意
そこで改めて2007年7月以降の人民元円相場の足跡を振り返ってみると、ドル円相場
で1ドル=70円台半ばまでの「超・円高」が進んだ2011年3月に記録した1元=11円62銭6
厘が、日本円に対する人民元の過去最安値だった。爾来、わずか約4年程度の短い間で、
人民元は円に対して最大約73.5%も値上がりしたことになる。近年著しく増加する中国か
らの訪日観光客等による「爆買い」が、日本各地で話題になるのも当然だ。しかし、日本
円の為替レートが大幅に変動した場合、相方の通貨が米ドルである場合はもちろん、中
国人民元であっても、メリットとデメリットがあるはずだ。歴史的水準に高騰した人民元円
相場は、この先どのような展開を辿り、日本経済や我々の生活環境にどのような影響をも
たらすのだろうか。以下、このテーマに関する私見をまとめておきたい。
全人代終了後、ドル人民
元相場は何故か再び膠
着、当面の人民元円相場
の方向感はドル円相場に
依存して変動
まず短期的な人民元円相場の動きについては、当面はドル人民元相場の変動ではな
く、ドル円相場の動きに依存して決まることになるだろう。昨年3月に中国人民銀行が「対
ドル相場の1日当たりの許容変動幅を±1.0%から±2.0%に拡大する」ことを発表して以
来、人民元相場はこれまでより柔軟に動く様子が確認される時期もあったが、最近は何故
か再び動かないよう制御されているからだ。今年3月15日(日)に全国人民代表大会(全
人代)が終了した後でみると、ドル人民元相場は安値が1ドル=6.1818元、高値が同
6.2207元の非常に狭い値幅でしか動かなくなっており、この間の最大高低差で求められ
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-1-
外貨投資の視点
る変動率は僅か0.629%に抑え込まれている(図2)。中国政府による管理フロート制の運
用は、いわゆるブラック・ボックスなので理由はよく分からないが、最近は1ドル=6.2000元
界隈をひとまずの「指定席ボックスシート」に定めているようだ。
図1:ドル・日本円・人民元相場の推移
4.0元
170円
ドル円相場(A)
(左軸)
円安
150円
元高
ドル元相場(B)
(逆目盛、右軸)
5.0元
130円
6.0元
110円
7.0元
90円
8.0元
70円
9.0元
36円
32円
28円
元高/円安
人民元円相場
(左軸)
24円
20円
16円
12円
8円
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
出所:ブルームバーグより三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
図2:中国の金融政策運営とドル人民元相場
(%)
元高
24
1 0 年6月21日
弾力運用再開
22
20
1 4 年3月15日
許容変動幅拡大
1 . 0%→2.0%/日
1 2 年4月16日
許容変動幅拡大
0 . 5%→1.0%/日
0 7 年5月18日
許容変動幅拡大
0 . 3%→0.5%/日
18
6.5
ドル人民元相場
(逆目盛、右軸)
16
14
12
(人民元)
6.0
0 5 年7月21日
2 . 1%切り上げ
管理フロート導入
大手銀行
預金準備率
(左軸)
10
8
7.0
上海銀行間金利
(翌日物、左軸)
1 3 年7月19日
貸出金利
下限撤廃
1 5 年3月以降
預金金利
上限緩和
7.5
貸出基準金利
(1年物、左軸)
6
8.0
預金基準金利
(1年物、左軸)
4
2
0
8.5
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
出所:ブルームバーグ等から三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
中国政府が経済政策総動
員で景気回復最優先のス
タンスを維持している間、
ドル人民元相場はしばらく
横這い基調で推移か
2005年7月21日に現行の管理制度の基盤になる「管理フロート制」を導入して以来、中
国人民銀行は段階的に人民元の許容変動幅を拡大しながら「柔軟な為替相場への移
行」をアピールしているが、ドル人民元相場の実際の値動きに投影される為替政策の運
用実績をみると、基本的には国内の金融政策との連動性を保ちながら、しっかりと管理さ
れているのが実情だ。前掲の図2をみれば、金融引き締め局面では緩やかな元高・ドル
安の進行を是認する一方、金融緩和に転じる局面では「管理フロート制」を「安定運用モ
ード」に切り替えて、対米ドルでの人民元の「基本的安定」を維持する方針に転じていた
ことが分かる。最近の中国人民銀行は、相次ぐ政策金利の引き下げや預金準備率の思
い切った切り下げなどに示される通り、先の全人代で2015年の目標に掲げた「7.0%成
長」確保を最優先課題に据えた金融緩和の推進に邁進している。中国政府による過去の
管理フロート制の運用履歴から類推する限り、当面のドル人民元相場は、近年の中心に
据えられた1ドル=6.2000元付近を中軸にして、ひどい場合は上下1%未満、やや広めに
みても上下数パーセント程度のレンジ内で管理される状態が続くのではなかろうか。
当面の人民元円相場は、
「 ド ル 円 相 場 ÷ 6.20 ±
数%」のレンジをキープし
つつ、方向感を模索
その場合、人民元と日本円の交換レートは「ドル円相場÷6.20±数パーセント」で計算
されることになる。足下のドル円相場は125円台目前まで上昇しているが、この先一気に
130円を目指して続伸するなら1元=21円台も視野に入る一方、ここもとのドル円相場で
観測される急激なドル高・円安の反動などから1ドル=120円を割り込む水準へ押し戻さ
れる場合は、1元=20円台の安定確保が難しくなり、19円台に軟化する可能性が高まりそ
うだ。いずれにしろ、中国政府が景気の回復を最優先課題に掲げ、ドル人民元相場の安
定を志向する「管理フロート制」の運用を続けている間は、人民元円相場の方向感は、ド
ル円相場の動きによって概ね決まる状況が続きそうだ。
ドル円相場の上昇とドル
人民元相場の下落の結
果、人民元円相場は歴史
的な水準にまで値上がり
ただし、ここもとの人民元円相場が22年3ヶ月ぶりの高値圏まで上昇してきた背景は、ド
ル円相場の12年6ヶ月ぶり高値圏への上昇だけでは説明できない。現行の管理フロート
制が導入される前には1ドル=8.2765元界隈で事実上の米ドルペッグ状態にあったドル
人民元相場が、過去約10年間で同6.00~6.20元台まで元高方向に動いたことの影響も
歴史的な元高・円安局面出現の一助となっている。よって、超・長期的な視点で人民元
円相場の将来を考える場合、最近の中国政府が目指している「人民元の国際化」に必要
な為替市場改革の進捗によって、中長期的にみたドル人民元相場の水準が大幅に変わ
り、ドル円相場との対比でみた人民元円相場の適正な変動レンジがシフトする可能性が
あることに留意する必要がある。
中国政府が求める人民元
のSDR参入には、為替市
場の自由化改革が必須の
前提条件になっている
周知のように、中国政府は今年の秋に国際通貨基金(IMF)が5年に1度実施する「特
別引出権(SDR)」の見直しに際して、現行の米ドル(41.9%)、ユーロ(37.4%)、英国ポン
ド(11.3%)、日本円(9.4%)で構成されるSDRの通貨バスケットに人民元を加えることを強
く求めている。こうした中国政府の要請に対し、先週5月29日(金)に閉幕した主要7ヶ国
(G7)財務相・中央銀行総裁会議で議長を務めたショイブレ独財務相は「原則的には(人
民元をSDRに加えることが)望ましく、技術面での条件を検討すべきだとの見解で(G7諸
国は)完全に一致している」と述べている。「国際通貨としての条件さえ満たすなら、人民
元のSDRへの参加を歓迎する」との見解は、G7諸国による共通認識になりつつある。た
だ、為替相場の変動が人為的に管理されている現在の状態のまま、IMFが人民元の
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
SDR参入を認めることはありえない。鍵を握る米国のルー財務長官は、「IMFの基準を人
民元が満たすためには、一段の資本市場の自由化に基づく為替市場改革が必要であ
る」との見解を繰り返し述べている。
今秋の人民元のSDR参
入は難しそうだが・・・
中国が現行の「管理フロート制」を放棄せずに、上下双方向への為替市場介入を実施
している限り、SDR構成通貨としての採用は、前回2010年に続き、今回も見送られる可能
性が高いだろう。いわゆる「国際通貨」の基本的要件の一つである「市場メカニズムに基
づく為替相場への移行」を決断するか否かは、中国政府の意思決定に委ねられているが、
この秋口までの短期間に人民元市場の抜本改革が行われる可能性は低いとみられる。
中国政府が希求している人民元の国際化に必要な変動相場制への移行は、次回2020
年の秋までの検討課題になりそうだ。
2013 年秋に開催された三
中全会で、中国共産党は
「2020 年まで」の市場化
改革を宣言
もっとも、この先2020年頃までの間には、中国政府が一段の人民元の市場化改革を進
めていく可能性が高い。2013年11月12日に閉幕した第18期中央委員会第3回全体会議に
おいて、中国共産党は「今後の資源配置について2020年までに決定的な役割を市場に果
たさせる」との方針を明示していたからだ。その3日後となる11月15日に公表された中国人
民銀行の関連書籍の中では、「人民元相場の変動幅を秩序だって拡大し上下双方向への
弾力性を強化する」、「市場原理を更に強く機能させるため、原則として常態的な為替市場
介入を行わなくする」などの長期的な指針も提示されていた。中国のような安定的な政治
体制の国が、共産党=政府の方針に則って金融・為替市場の自由化改革を一段と進めて
いく場合、超・長期的にみると人民元の対ドル相場は値上がりせざるを得ないと考えられる。
本レポートで主張し続けてきたことの繰り返しになるが、以下の2点を再確認しておきたい。
中国は安定的な経常収支
の黒字国であり、一時的
な資本流出が収まれば、
通貨高圧力が再燃
第一は、人民元相場を取り巻く為替需給の基礎的環境である。周知のように、中国は恒
常的な経常収支の黒字国であり、「自然体の需給」に任せれば国境を跨る経常収支取引
に由来する安定的な元高圧力が稼働する。2014年の4-6月期以降に限ってみれば、金
融・資本収支や誤差脱漏を通じた国外への資金流出が目立つ時期もあった(図3)が、
2014年の年足ザラ場の最大高低差でみても、ドル人民元相場は1ドル=6.0393元から
6.2674元と約3.8%の元安が進んだに過ぎない。昨年年央から年末にかけて「過去最大規
模の海外への資金流出」が起きたにもかかわらず、その程度しか元安が進まないところに、
経常収支黒字国の通貨である人民元の強さが現れている。そもそも、一部のメディアが当
時喧伝していた「中国からの歴史的な資金流出」で強烈な元安圧力が本当に発生してい
たのなら、ユーロ人民元相場や人民元円相場で中国元が現行制度下での最高値にまで
買い進まれたことは全く説明がつかない。
金融・資本収支の符号条
件は猫の目のように変わ
るが、経常収支の黒字基
調は安定
ちなみに、中国の金融・資本収支および誤差脱漏を通じた資金流出超過が目立ち、最
近のように外貨準備が目減りした時期は2012年の中頃にも一度あったが、そのときも一時
的な現象だった。一般に金融・資本収支の符号条件は、その時々の金融市場環境や群集
心理の揺らぎに影響されて符号条件が猫の目のように変わりやすいが、貿易・サービス収
支や所得収支、移転収支などによって構成される経常収支は、国内の貯蓄投資バランスと
いう構造的な要因によって黒字か赤字かの別が決まっているため、国境を跨る資金流出入
への影響が比較的安定している。今後、中国が恒常的な経常収支の赤字国に転落しない
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
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外貨投資の視点
限り、長い目で見た元高圧力が人民元相場の底流を支配する状況が続くだろう。これまで
は基礎収支の黒字基調に由来して発生する元高圧力を管理フロート制の下で抑え続けて
きたが、中国政府が人民元の価格形成を市場メカニズムに近づけていく方針を強化する
つもりなら、長期的に見た元高是認は不可避の選択になる。
図3:中国の国際収支構造
(億ドル)
2000
(億ドル)
2000
外貨準備増減(右軸)
1500
1500
1000
1000
500
500
0
0
-500
-500
経常収支
(左軸)
資本収支・誤差脱漏(左軸)
-1000
-1000
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
注:資本収支等は経常収支と外貨準備増減の差額として計算、概念上は誤差脱漏を含む
出所:ブルームバーグ等から三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
米国の対中国貿易赤字は
年率 42 兆円と空前の規
模に膨張、更に拡大する
可能性も
第二に、二国間収支の状況に目を転じると、米国と中国の間において歴史的に類例を
みない著しい貿易収支の不均衡拡大が続いている。1980年代から90年代にかけては、米
国にとって最大の貿易赤字相手国は恒常的に日本だったが、2000年代初頭に中国が日
本を抜き去った後は、全く前例の無い強烈な速度で中国を相方とする米国の貿易赤字が
一方的に拡大、2014年の実績では年間約3500億ドル、1ドル=120円で日本円に換算する
と約42兆円もの規模に達している(図4)。このような状態でドル人民元相場の価格形成を
自然体の為替需給に委ねる市場改革を進めた場合、長期的に見るとかなり根強いドル安・
元高圧力が発生するのは自明の理である。
米ドル実効為替指数で中
国元のウェイトは断トツの
首位に躍進、米国内で元
過小評価への不満が蓄積
かつての日米貿易摩擦の事例を引き合いに出すまでもなく、政治的にみても、米国に
対して著しい貿易黒字を一方的に稼ぎ続けている国に対しては、米国の政財界による通
貨安是正要求が強まりやすい。米国連邦準備制度理事会(FRB)が公表している米ドル実
効為替指数の貿易ウェイトをみても、かつては米国にとって「地続きの隣国」カナダと並ぶ
重要な貿易相手先として「ツー・トップ」を形成していた日本円の凋落と反比例するかのよう
に中国との貿易ウェイトが増大、足下では断トツの「ワン・トップ」に躍進している(図5)。過
去数十年間もの長きにわたって両国の景気サイクルとは全く無縁の一次関数のような形状
で米中二国間の貿易不均衡が拡大し続けている現状からみて、足下の人民元相場が米ド
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
ルに対して相当に過小評価されていることは、まず間違いないだろう。少なくとも、米国の
政府や議会、及び産業界ではそのような認識が不可逆的に強まっている。
図4:米国の貿易赤字主要対象地域の推移
(億ドル)
500
メキシコ
カナダ
0
-500
日本
-1000
-1500
OPEC
-2000
ヨーロッパ
-2500
-3000
中国
-3500
-4000
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
注:センサスベースから国際収支ベースに変換。
出所:米商務省より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
図5:米連邦準備制度理事会(FRB)実効為替指数の貿易ウェイトの変遷
25%
中国
20%
ユーロ
15%
カナダ
メキシコ
10%
ドイツ
日本
韓国
05%
イギリス
00%
1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014
出所:FRBより三菱UFJモルガンスタンレー証券作成
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-6-
外貨投資の視点
1990 年代に中国が人民
元半値政策を仕掛けてい
た当時、米国は為替報告
書で中国を操作国認定、
直近報告でも「人民元=
過小評価」の判断を提示
ちなみに、米財務省が原則として半年ごとに取りまとめて公表している「国際経済と為替
政策に関する議会への報告書(通称:半期為替報告書)」のバック・ナンバーを紐解いてみ
ると、中国政府が異例の「人民元の半値政策」をドルに対して仕掛けていた1992年上期か
ら94年上期にかけて、米国政府は中国を「為替操作国」に認定して公文書で真っ向から非
難している。その後、米国政府は中国に対する政治的配慮から公式な「為替操作国」とし
ての名指しは控えているが、G20などの国際会議や米中戦略経済対話などで政府要人が
会談する度に「市場で決定される為替レート」への「一層迅速な移行」を求め続けているの
は周知の通りだ。今年の4月に公表された直近の為替報告書をみても、全32ページの約1
割にあたる3ページ程度が中国に関する記述に割かれており、「中国政府が未だに為替市
場介入を実施しているとみられるが、その実態を公開していない」ことについて触れた上で、
「人民元が依然として相当割安」であり、「中長期的に見て通貨の過小評価を是正する必
要がある」との判断が明記されていた。
図6:ドル人民元相場の長期推移と主なイベント
2元
3元
①
4元
5元
2元
①80年代末は1ドル=3.8元程度で元の価値はドルの4分の1以上
②元安誘導に対し、米国は92年上期から94年上期まで中国を為替操作国に認定
③GATT加盟に合わせ94年1月に二重相場制を廃止、同時に元をを半値以下へ
④管理フロートを採用、小幅の元高誘導を実施、97年のアジア通貨危機で停止
⑤05年夏まで1ドル=8.27元台で事実上のドル・ペッグ制を採用
⑥05年7月21日に2.1%の元切り上げを実施、管理フロート制に移行
⑦約3年間の元高誘導で対ドルで最大約19%の元高・ドル安が実現
⑧08年の北京五輪、リーマン危機で管理フロートの安定運用=ドル・ペッグ再開
⑨10年6月に管理フロートの弾力運用再開、為替制度改革を進めて元高を容認
⑩12年4月と14年3月の許容変動幅拡大に伴い、従来よりも柔軟に動く状態に変化
3元
4元
5元
②
⑨
6元
7元
③
8元
9元
10元
1988
6元
⑧
7元
ドル人民元相場
(逆目盛)
⑩
⑥
8元
⑦
二重相場制
時代の
市場レート
④
9元
↑人民元高↑
↓人民元安↓
⑤
10元
1991
1994
1997
2000
2003
2006
2009
2012
2015
注:1994年以前の市場レートは公定レートと上海外貨調整センターのレートの加重平均
網掛けは、米財務省が中国を為替操作国に認定していた期間
出所:ブルームバーグ、米国財務省より三菱UFJモルガン・スタンレー証券作成
2020 年 ま で の ど こ か で
は、中国政府の為替市場
化改革が進み、一段の元
高・ドル安も進行か
1989年に勃発した天安門事件の以前、米中間の貿易収支はほぼ均衡していたが、当時
のドル人民元相場は1ドル=4.0元前後で推移しており、現在の6.2元前後に比べて5割以
上も高い水準にあった(図6)。米国政府としては、当時のドル人民元相場の水準近辺に至
るまで、「結果としての元安是正」を促す人民元市場の自由化改革を要求し続けることにな
るだろう。ルー財務長官は最近の講演で、「人民元に上昇圧力がかかったときに中国が為
替介入を手控えるかどうかが重要」との認識を示している。これまで、中国政府は自国の通
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
-7-
外貨投資の視点
貨政策について「外圧峻拒」の建前を貫いており、米国政府が露骨に政治的な圧力をかけ
過ぎると逆効果になって元高が進みにくくなる時期もあった。ただ、上述のように、最近は
当の中国政府が「人民元の国際化=市場化改革の推進」を志向している。あくまで私見だ
が、今後は米国が露骨に圧力を掛けなくても、自国通貨の国際化を目指す中国政府の主
体的な意思決定に基づく為替市場改革を背景に趨勢的な対米ドルでみた人民元の割安
是正が進んでいくことになるだろう。中国共産党が1年半前の三中全会で掲げた「2020年ま
で」という時間軸は、現代の西側諸国の価値基準でみると、気が遠くなりそうな長さだが、
4000年以上の悠久の歴史を持つ中華安定政権の感覚では普通なのかもしれない。
表1:中国人民元の対円相場のマトリクス
(←
)
元
高
(
ド
ル
人
民
元
相
場
→ )
元
安
4.00元
4.25元
4.50元
4.75元
5.00元
5.25元
5.50元
5.75元
6.00元
6.25元
6.50元
6.75元
7.00元
7.25元
7.50元
7.75元
8.00元
100円
25.0円
23.5円
22.2円
21.1円
20.0円
19.0円
18.2円
17.4円
16.7円
16.0円
15.4円
14.8円
14.3円
13.8円
13.3円
12.9円
12.5円
(←円高) ドル円相場 (円安→)
105円 110円 115円 120円 125円 130円 135円
26.3円 27.5円 28.8円 30.0円 31.3円 32.5円 33.8円
24.7円 25.9円 27.1円 28.2円 29.4円 30.6円 31.8円
23.3円 24.4円 25.6円 26.7円 27.8円 28.9円 30.0円
22.1円 23.2円 24.2円 25.3円 26.3円 27.4円 28.4円
21.0円 22.0円 23.0円 24.0円 25.0円 26.0円 27.0円
20.0円 21.0円 21.9円 22.9円 23.8円 24.8円 25.7円
19.1円 20.0円 20.9円 21.8円 22.7円 23.6円 24.5円
18.3円 19.1円 20.0円 20.9円 21.7円 22.6円 23.5円
17.5円 18.3円 19.2円 20.0円 20.8円 21.7円 22.5円
16.8円 17.6円 18.4円 19.2円 20.0円 20.8円 21.6円
16.2円 16.9円 17.7円 18.5円 19.2円 20.0円 20.8円
15.6円 16.3円 17.0円 17.8円 18.5円 19.3円 20.0円
15.0円 15.7円 16.4円 17.1円 17.9円 18.6円 19.3円
14.5円 15.2円 15.9円 16.6円 17.2円 17.9円 18.6円
14.0円 14.7円 15.3円 16.0円 16.7円 17.3円 18.0円
13.5円 14.2円 14.8円 15.5円 16.1円 16.8円 17.4円
13.1円 13.8円 14.4円 15.0円 15.6円 16.3円 16.9円
140円
35.0円
32.9円
31.1円
29.5円
28.0円
26.7円
25.5円
24.3円
23.3円
22.4円
21.5円
20.7円
20.0円
19.3円
18.7円
18.1円
17.5円
出所:三菱UFJモルガン・スタンレー証券
人民元の対ドル相場がこ
の先一段と上昇した場
合、長期的には対円相場
の変動レンジも切り上がり
筆者の持論である「超・長期でのドル人民元相場=天安門事件前への里帰り説」が、も
しもこの先実現に向かっていくと仮定した場合、人民元円相場でも一段の元高・円安が進
むことで、日本国内ではそれによって「利益を得る勝ち組」と「損害を被る負け組」が、ハッ
キリ分かれて悲喜こもごもの影響が及ぶ可能性が高い。本稿執筆時点における人民元円
相場の直近高値は、(1ドル=)約125円05銭を(1ドル=)約6.200元で割り算して求められ
た数字なので、1元=20円16銭9厘となっているが、表1に示す通り、もしも今後ドル人民元
相場が1989年の当時の水準である1ドル=4.0元前後まで元高になった場合、そのときのド
ル円相場が仮に今よりずっと円高の1ドル=100円程度のレベルにあってでも、元と円の関
係では1元=25円00銭程度と今より更に元高になる。1ドル=4.0元は流石に過激な前提
かもしれないが、1ドル=5.0元で計算しても、ドル円相場が1ドル=100円以上の水準で取
引されていれば、1元=20円を超える計算になるため、今より2割以上も元高・円安の水準
になる。要するに、「中長期的にみたドル人民元相場が、もしも米中貿易不均衡の一方的
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではなく、利用に際し
てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
拡大が始まる以前の水準に回帰する」と仮定した場合、人民元は日本円に対しても大幅に
値上がりする可能性を秘めていると言えるだろう。
長期的にみた人民元の値
上がりが続けば、中国人
を顧客とする商売が潤
い、中国製品と競合関係
にある産業の競争条件も
緩和へ
その場合、日本経済に対する好影響としては、中国人民元を日本円に換算した際の購
買力が膨張することで、①中国本土におけるメイド・イン・ジャパン製品への需要増大や、
②中国からの来日観光客及び一人当たり支出額の増加、などが期待される。尖閣問題や
歴史認識問題などに絡んだ中国の対日国民感情が一段と悪化しないことが条件になるが、
その場合は、日本からの中国向け輸出は一段と増加し、「銀聯(ぎんれん)カード」による買
い物客の「爆買い」や宿泊施設の稼働率アップが、日本各地のショッピング街や観光地で
一層目立つようになるだろう。また、日本円に換算した人民元の値上がりにより、③日本国
産の農林水畜産物のスーパー店頭における中国産品との価格競争条件が緩むことが期
待できるほか、④世界各地の市場で中国製品と競合する日本企業の製品にも「人民元高・
円安」の恩恵が及ぶことになるだろう。
他方、人民元の上昇によ
って、日本企業の「買い負
け」、日用品の値上がり、
中国での生産コストの上
昇、国際社会での日本の
相対的地位の低下、など
のデメリットも想定される
他方、人民元高・円安が一段と進行した場合に警戒すべき悪影響としては、中国企業の
購買力増大が天然資源の落札価格を再び高騰させる可能性があり、①日本企業の海外
資源調達コストにも膨張圧力がかることが懸念されるほか、②資源獲得競争の現場で日本
の「買い負け」リスクが再燃するかもしれない。かつては「二桁パーセント」が当たり前だと思
われていた中国の潜在成長率が経済規模の拡大とともに徐々に低下し、「新常態(=ニュ
ーノーマル)」と呼ばれる新たなレベルに落ち着くまでは、近年の中国向け鉄鉱石価格の
下落に象徴される通り、かつてのような「資源ブーム」の再燃は起きないかもしれない。だが、
古今東西、景気や物価は必ず循環するものであり、モノの値段が安くなるのは、やがて値
上がりする予兆であることが殆どだ。中国企業の購買力アップによる日本企業の買い負け
は、一部の高級海産物などでは既に再発が警戒されているようだが、将来的には鉱物性
燃料や金属資源などでも再び話題となる可能性はあるだろう。また、③円安に伴って発生
する消費生活への打撃という面では、2011年秋の1ドル=75円台から124円台まで進んだ
対米ドル円での円安の影響もさることながら、ほぼ同じ時期に1元=11円台から20円台まで
8割近くも進んだ対人民元での円安も日用品や衣料品や食料品などの値上げを通じた痛
撃になっているはずだ。加えて、④中国の製品価格や人件費が安いという前提で成立して
いた内外の各種ビジネス・モデルは、一段の見直しを余儀なくされるとみられるほか、⑤米
ドル換算で比較した中国と日本の経済規模の格差が一段と拡大し、国際政治やビジネス
の現場における日本の影響力や発言力が低下する可能性もあるだろう。
この先、人民元はかつて
の日本円が歩んだ道をマ
イルドな形で歩むことにな
りそう
総じて、現在我々が目撃している22年3ヶ月ぶりの人民元円相場の1元=20円台への上
昇は、今後もまだまだ続く歴史的な元高・円安トレンドの序章に過ぎない可能性がある。か
つて1990年代の前半に中国政府が対米ドルで仕掛けた「掟破りの自国通貨の半値政策」
採用後の米中貿易不均衡の理不尽な拡大や、その後現在に至るまでのドル人民元相場
の歴史的経緯に鑑みると、この先中長期的にみて人民元が国際通貨に脱皮していく過程
で発生する対米ドル相場の漸進的な値上がりは、政治的にも経済的にも恐らく不可避にな
る可能性が高そうだ。「中国の期待成長率が新常態(ニューノーマル)に向けて不可逆的
に低下していく中で長期的な人民元高はあり得ない」との指摘には傾聴すべき点もあるが、
筆者の基本的な認識は、米国政府が半期為替報告書で主張し続けているのとほぼ同じで、
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てはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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外貨投資の視点
「これまでの人民元相場が中国政府の人為的なコントロールの下で不当なほど割安水準
に抑制されていた」という点にある。かつての日本も戦後復興後の高度成長期から石油危
機後の安定成長期、バブル崩壊後の低成長期、と潜在成長率が低下し続ける中で趨勢的
な自国通貨の増価を体験した。大雑把に言って、この先の中国人民元は「かつての日本
円が辿ってきた道」をよりマイルドな形で歩むことになるのではなかろうか。
「円安の功罪」を論じる際
に、対ドル相場だけでな
く、対人民元相場にも目配
りが必要な時代に
こうした筆者の見立てが間違っていなければ、向こう5年、あるいは10年程度の長い時間
軸でみた場合の人民元円相場が今よりもっと上昇している可能性を意識しておくべきだろ
う。本稿で列記したような重層的かつ複雑な影響が日本経済にも及ぶ可能性が高いことを
考慮すると、今のうちから必要な対策を準備する必要がある。為替円安の功罪を論じる際
に、ドル円相場だけにスポットライトを当てるのではなく、人民元円相場についても同じレベ
ルの問題意識を持って考察すべきだと思われる。
(6月3日 10:48)
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