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保育における「遊び」の評価に関する研究 A Study on Assessment of
保育における「遊び」の評価に関する研究 A Study on Assessment of Play in Early Childhood Care and Education 児童学研究科 児童学専攻 07-0632 齊 藤 美代子 1 研究の動機 幼稚園で進められている「自発的な活動としての遊び」については、極めて多様に展開 されていることもあり、その遊びが教育的に意味をもつかどうかを判断することは、必ず しもたやすいことではない。また、教師が幼児の活動を予想し、環境を構成しても、その 環境の何が幼児の「遊び」に効果的に働いたのかは単純には捉えられない。そこで、幼児 の園生活の基軸となっている「自発的な活動としての遊び」について、その教育の成果を 問う「評価」という視点から考えていくことは大きな課題であると考える。 2 研究の背景 幼稚園教育の規準となる幼稚園教育要領での「ねらい・内容」は「心情・意欲・態度」 で構成されており、評価の対象や時期、方法、内容等については明確になりにくい。さら に、指導についても構成された環境と幼児が生み出す遊びとの関連が必ずしも直線的に捉 えられない。また、教師の生活観や発達観等によっても、幼児の捉え方が異なることがあ る。これらから、日々進められている保育の評価については、主観的になったりあいまい になったりすることも多い。一方、今、学校教育については、 「学校評価ガイドライン」 、 幼稚園についても「幼稚園学校評価ガイドライン」が策定され、その教育の内容や成果に ついて、社会的にも大きな関心がもたれており、各学校では、そうした関心に応えていく ことが求められているといえる。 3 研究の目的 本研究では、日々の保育において、幼児の生活の基軸となっている「幼児の自発的な活 動としての遊び」のなかで、幼児自身がどのように「遊びを生み出し、進めているか」幼 児自身が「どのような経験をしているか」を捉え、指導計画における「幼児の実態」の把 握や「ねらい・内容」の設定、環境の構成と具体的な教師のかかわり等の指導との関連を 明らかにする。これらから、 「自発的な遊び」の「評価」に際して、評価の対象、規準、評 価の進め方、その際の配慮事項について明らかにし、指導の改善の視点を捉える。なお、 本研究では、 「指導」ついては、 「教師側の教育的なかかわり全体を指す」こととし、いわ ば広義に捉える。 1 4 本研究の構成 本研究では、次のように研究内容及び結果について述べる。 序章 研究の動機 研究の背景 研究方法 研究の目的 第 1 章 概念規定 1 「遊び」の捉え方を考える 基本的な文献に当たりながら本研究での「遊び」の捉え方を考える。 2 「評価」について考える 一般的な「教育評価」に関する捉え方を明らかにし、本研究における「評価」の 捉え方を考える。 3 幼稚園教育における指導と評価 それらを踏まえて幼稚園教育における「遊び」と「評価」の課題を捉える。 第 2 章 研究の内容 具体的な遊びの場面から、 「評価」の進め方を考える 第 3 章 研究の結果 研究内容から明らかになった「遊び」における「評価」の対象、規準、進め方、 配慮事項等、並びに指導の改善の視点を捉える。 5 概念規定 「遊び」の捉え方については、それを捉える立場や状況によって様々である。西村は、 「遊ぶとは」 「ある特定の行動ではなく、その行動をとりつつある私の独特のあり方」 「あ る特定の活動というよりも、ひとつの関係であり、この関係に立つ、ある独特のあり方、 存在様態であり、存在状況である」とし(注 1)、横井は「 『遊び』を返してくれる事象や事 物と取り結ばれた関係の間で生じるもの」 (注 2)としている。本研究では、 「遊び」がその 「対象」としての「事象や事物」と「一定の関係」をもつことで生み出された「行為」が 「遊び」としてなりたっていくという考え方を重視し「遊び」そのものの是非ではなく幼 児が何を「遊び」としているのか、その行為の意味は何かを重視する。 「評価」については、タイラー(Tyler.R.W)が評価の目的として示した「子どもたちを値 踏みするのではなく教育活動を反省・改善するために実施するもの」(注3)を重視した。 また、 評価を過程の中で行うというスクリヴァン(Scriven.M)およびブルーム(Bloom.B.S.) の教育機能を捉える「診断的評価」 「形成的評価」 「総括的評価」を参考にした。(注4) 2 6 研究の内容・方法 (1) 「遊び」および「評価」関する文献研究 (2)担任教師の週案と指導後の面談および観察園の教育課程等の資料の収集 (3)幼児の記録の収集と分析・考察の視点 ① 観察場面 幼児が自発的に進める遊びの場面 自然観察法 ② 記録方法 ビデオカメラによる撮影 行動描写法による記録 ③ 観察園 都内公立D幼稚園(2年保育)、N 幼稚園(3 年保育)4歳児学級 ④ 分析・考察の視点 ・ 「診断的評価」―幼児の発達や状況への理解等、遊びに取り組む前の状況 ・ 「形成的評価」―「ねらい・内容」と遊びを進める幼児の「楽しさ」教師の具体的 かかわり方等 ・ 「総括的評価」―「診断的評価」 「形成的評価」としての捉え、 「ねらい・内容」の 適否、幼児の育ちの方向等を捉える これらから「評価」の具体的な進め方、配慮事項、教師の役割、指導の改善につい て明らかにする。 7 研究の結果 幼児の具体的な「遊び」の場面の記録を通して、分析・考察し、以下の結果を得た。 (1) 「遊び」の指導は、 「診断的評価」から始まる 「遊びの指導」は、 「幼児をどのように遊ばせるか」ではない。また、 「評価」は、 それぞれの場で進められている「遊び」そのものを対象とするものでもない。そ の対象は幼児であり、幼児の「発達に必要な経験」と「遊びが楽しい」という思 いに支えられていることが重要である。 ①「診断的評価」が、教師の直接的なかかわりを規定していく ②「教師の願い」や設定された「ねらい・内容」の意味を捉えていく (2) 「遊び」への理解が「形成的評価」に大きく影響する ①「遊び」の指導は、具体的な場面での「評価」に基づき、調整されていく ②「遊び」の何が幼児の「楽しさ」になっているのかを捉える ③4歳児の「遊び」は「もの」とのかかわりが影響する ④遊びの「空間」が生み出されることが遊びの安定した進捗にかかわる ⑤遊びは、幼児が感じ取る「楽しさ」に支えられている 3 ⑥遊びは、応じてくれる友達がいることで、様々な楽しさが生み出されていく (3) 「総括的評価」が「遊び」の指導を方向付ける ①指導の「評価・反省」は「診断的評価」の吟味が重要である。 ②「遊び」経過の中での教師のかかわりを吟味する。 ③「遊び」の特徴を考慮した教師のかかわりが重要である。 ④「遊べない」ことも幼児にとっては大切な経験といえる。 ⑤「総括的評価」が指導の改善につながる。 「総括的評価」で、 「幼児を捉える視点」を変えたり補ったりして広げた場合、そ の実際と理由を捉えていくことが、次の指導の改善につながる。つまり、 「指導の 改善」とは、常に、多様な幼児の姿に応じ、教師が幼児への理解を深めていく、 幼児と教師の相互の関係をきずいていく過程にあるといえよう。 (4) 「遊び」の「評価」のダイナミズム 「評価」には一定の「基準」が必要であり、基本的には、教育課程に位置づけら れた方向にそって設定されている「ねらい・内容」にそって行われるものである。 しかし、保育の中での「遊び」の「評価」は、教師が幼児の発達や生活の状況を理 解する過程、具体的な「遊び」にかかわっていく過程、それを振り返る過程にあり、 教師と幼児が相互にかかわり合い、 「共にある」存在として、常にダイナミックな交 流と動きの中でなされていくものといえよう。 注 注 1 西村清和 『遊びの現象学』 勁草書房 1990 P.19 注 2 横井和子 「 『遊び』それ自体の発達についての一考察―『遊び』のありようと変容の解明を めぐってー」 保育学研究 第 45 巻第 1 号 2007 注 3 田中耕治 『よくわかる教育評価』 ミネェルヴァ書房 P.4 注 4 前括書 P.8 4