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多様化・深化を迫られる中国ビジネス

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多様化・深化を迫られる中国ビジネス
中国動向
多様化・深化を迫られる中国ビジネス
_ 在中日系現地法人の現状と今後の展望 _
中国では経済発展に伴い、台頭する都市部の中間層を中心に個人消費が急拡大している。
また、WTOへの加盟に加え、2008年の五輪、2010年の万博といった大型イベントも目
白押しとなっており、外資系企業の間で中国市場への期待感が否応なく高まっている。こ
うした環境のもとで、日本企業の対中ビジネスはどのような方向に向かうのであろうか。
い層の企業が再び中国に注目するようになっており、
「第三次対中投資ブーム」
の到来と
対中投資の特徴
「第三次投資ブーム」が到来しているといえよう。
これまで中国に進出した日本企業を業種別にみる
と、電機が19.9%と一番多く、次いでサービス
(9.7%)
、
日本企業の対中投資が近年急拡大している。財務
機械(9.1%)
、繊維(8.5%)
、輸送機械(8.2%)
、鉄・非
省の直接投資統計によると、日本企業の対中直接投資
鉄(6.3%)、化学(5.5%)、商業(4.7%)、食糧(4.2%)
額は製造業が牽引役となって3年連続して増加し、
の順となる
(財務省直接投資統計の89∼2002年度累積
2002年度には1999年度の実績比2.5倍増の2,152億円
額)。また、進出時期では、繊維、電機などが90年代
を記録した(図表1)。また、同統計によると、投資規
半ばに進出件数のピークを迎えたのに対し、輸送機
模1億円以上の件数は2002年度は中国だけで263件を
械や化学、商業は90年代後半に急増しており、進出の
記録しており、ASEAN4(タイ、マレーシア、フィリピン)
タイミングが業種によって大きく異なっている。
合計の124件、NIES4(韓国、台湾、香港、シンガポー
ル)合計の133件を上回った。
日本企業の対中投資は、過去に何度か大きな盛り
さらに、中国側の統計から、主要地域別に日本企業
の直接投資総額に占める割合を2001年末時点の累計
でみると、日本企業のプレゼンスが一番高いのは大連
上がりをみせてきた。
「第一次投資ブーム」は、中国政
府の進出要請を受けた企業や、改革・開放が軌道に
図表1 日本企業の対中直接投資の推移
のったことを評価した企業の間で80年代半ば頃から
(億円)
実施された対中投資によってもたらされ、89年の天安
4,500
門事件の発生により終息することになった。その後、
4,000
證
郤小平氏が実権を回復し、92年にいわゆる「南巡講
3,500
話」を通して中国が市場経済路線を歩むことが明確に
なったため、中国ビジネスへのコンフィデンスが高ま
り、
「第二次投資ブーム」と呼べる進出ラッシュを迎え
3,000
2,500
2,000
1,500
た。このときは、特に輸出型企業を中心とした対中進
1,000
出が増加したものの、アジア通貨危機が発生したこと
500
によりアジア投資が急速に冷え込み、対中投資も沈
静化した。そして現在、大企業から中小企業まで幅広
10
みずほリサーチ January 2004
支店
非製造業
製造業
0
1989 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02(年度)
(資料)財務省「対外及び対内直接投資状況」
の25.1%であり、次いで上海(12.3%)
、江蘇省(8.4%)、
と、前者については21.7%、後者については34.5%が
北京(7.3%)、天津(6.5%)、山東省(6.2%)、広東省
「9%以上」となっており、国内販売型企業の好調ぶり
(1.9%)
となる
(契約額ベース)
。なかでも、上海ではこ
が浮き彫りになる。
の比重が98年の4.4%から2001年には18.0%へと大き
「第一次投資ブーム」から四半世紀を経た現在、さ
く変化しており、日本企業が近年同地への投資を加速
まざまな統計から中国における日本企業の経営パフォ
する傾向にあることがうかがえる。
ーマンスをみると、総じて上昇基調にあることがうか
がえる。
在中日系企業の経営パフォーマンス
書店のビジネス本のコーナーにいくと、中国ビジネ
日系企業に比べ事業展開が速い
米系企業
スの難しさについて論じた本が溢れているが、中国に
進出した日本企業の実際の経営パフォーマンスはどの
日本企業の対中投資は諸外国と比較してどの程度
の水準にあるのだろうか。中国が発表した投資受入額
ようになっているのであろうか。
まず、在中日系現地法人の全体の売上高伸び率を
(実行ベース)
を累計することによって2001年末時点の
みると、99年末よりプラスに転じており、その後ほぼ
各国・地域の投資ストックを計算し、その全体に占め
順調に推移している
(図表2)
。特に、近年目立つのは
る割合をみると、香港のシェアが47.3%と突出したも
中国国内販売の伸びの高さであり、2003年第2四半期
のになる。ただし、このなかには狭義の香港企業の他
に全体の売上が前年同期比22.0%増加したのに対し、
に中国本土企業からの迂回投資ならびに主要国の香
国内販売は同27.9%増加した。また、収益性の状況に
港経由分も相当分含まれているとされている。そのた
ついて、日中投資促進機構が進出356社に対して実施
め、実質的な主要投資国・地域は香港に次ぐ地位に
したアンケート調査でみると、2001年度に赤字となっ
ある米国(8.7%)、日本(8.1%)、EU15カ国(7.6%)、
た企業は全体の17.7%に留まり、圧倒的多数が黒字で
台湾(7.4%)
といったところであり、なかでも、日米は
あると回答した。売上高経常利益率についても、
「9%
ほぼ拮抗している。
以上」と回答した企業が最も多く、全体の28.6%を占
しかし、中国における日米企業のオペレーションの
めた。これを輸出型企業と国内販売型企業で分ける
動向にはさまざまな差異がある。図表3は縦軸に日米
企業が創出した付加価値が中国のGDPに占める割合、
図表2 在中日系現地法人の売上高伸び率(前年同期比)
つまり収益性の動向を示し、横軸に売上が中国のGD
(%)
Pに占める割合、すなわちプレゼンスの大きさを示す
50
30
ことによって、日米企業のポジショニングを比較したも
うち、中国国内販売
40
のである。これによると、日米とも98年(度)に一旦低
うち、
日本への輸出
迷しているものの、基本的には右上方向に移動してい
20
ることから、収益性、事業プレゼンスは着実に向上し
10
売上全体
0
ているといえる。ただし、米系企業の方が98年の落ち
込み幅が小さいうえにその後の伸びも大きいため、96
▲10
年(度)時点では日系企業がリードしていたものが99年
▲20
▲30
(度)以降は米系が優位に立つようになった。また、両
1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2(四半期)
1999
2000
01
(資料)経済産業省「海外現地法人四半期調査」
02
03 (年)
者のR&D(研究開発)の取り組みをみると、米系企業
が99年から急速にR&D投資を拡大させたことにより、
みずほリサーチ January 2004
11
中国動向
それまでほとんど変わらなかった日米のR&D投資ギ
かったのに対し、最近ではこれに加えて国内市場へ
ャップは大きく拡大している。日米企業の在中現地法
の浸透を狙った投資に注目が集まるようになっている
人の売上高に占めるR&D投資の割合は米系が1.9%
のだ。昨今の国内販売型企業の業績の好調ぶりも、今
(2000年)であるのに対し、日系は0.2%(2000年度)に
後中国をマーケットとする型の投資をさらに増加させ
留まっている
(データ出所は図表3に同じ)
。
ることになる可能性が高い。
日系に比べ、米系の方が中国での事業展開スピー
しかし、すでにある販路やブランドを活用できた輸
ドが速いうえに、中国のR&D能力をいちはやく自社の
出型のビジネスモデルとは異なり、国内販売型で成功
経営資源に取り込もうとしているといえよう。
するためには、これらを新たに中国内に構築すると同
時に、中国の消費者のニーズを把握することなどが欠
高くなる中国ビジネスのハードル
かせない。
例えば、衛生陶器メーカーのTOTOは、構造部のみ
日本企業の対中進出熱が高まるなか、その内容にも
で販売され、内装は新規入居者が別途発注するとい
変化の兆しが出てきている。日本企業の対中進出は
う中国の分譲マンション事情のもとで、水まわり製品
どのような方向に向かうのであろうか。
として指名買いされることを狙い、ブランドイメージ向
国際協力銀行のアンケート調査によると、日本企業
上に取り組んだ。そのため、広告は商品機能説明よ
が対中投資を有望と考える理由として「安価な労働力」
りもイメージを重視したものを打ち、高級オフィスビル
と
「マーケットの今後の成長性」の2つが常に上位を占
等で同社製品が目に付くよう営業活動を実施してきた。
めてきた。しかし、前者への回答率は95年の61.9%か
その結果、現在では同社製品はステイタスシンボルと
ら2002年には68.9%になったのに対し、後者は同
して認知されるようになり、高額商品を軸とした展開
56.7%から86.3%に急増している。つまり、これまで
が可能となった。また、松下電器産業は、現地スタッ
は「製造拠点としての中国」に主眼を置いた進出が多
フによる官能試験を繰り返すなどして、中国の代表的
な12種類のコメをすべて美味しく炊ける条件をプログ
図表3 日米の在中現地法人のポジショニング比較
(付加価値がGDPに占める割合、%)
を中国でも展開することによって、中国ならではの嗜
0.55
2000年
0.50
米系企業
0.45
収
益
性
の
動
向
1999年
0.40
日系企業
1999年度
1996年
1996年度
ち抜くためには、継続的なコスト削減努力が不可欠と
なるが、そのためにも部品や原材料の現地調達率を
1997年度
向上させることが重要な鍵となる。
0.25
1998年度
0.20
けでなく、R&Dからマーケティングまで幅広い役割を
担うことが迫られている。さらに、激化する競争に勝
1997年
1998年
0.30
好を織り込んだ商品を投入できるようになった。
このように、中国拠点の機能は、製造拠点としてだ
2000年度
0.35
ラムした炊飯器を開発した。同社はこうしたR&D機能
日本企業の中国でのオペレーションは今後ますます
多様化すると同時に深化すると見込まれる。越えね
0.15
1995年
(売上がGDPに占める割合、%)
0.10
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
ばならない中国ビジネスのハードルは次第に高くなっ
てきている。A
事 業 プレゼ ンス の 動 向
(注)1. 日米ともに「香港を含まない中国」における製造業のベース。
2. 日系企業の付加価値は売上−
(売上原価−販売管理費+給与総額+賃借料)
で試算。
(資料)商務省”Survey of Current Business”
、経済産業省
「我が国企業の海外事業活動」、
CEIC 統計
12
みずほリサーチ January 2004
みずほ総合研究所 アジア調査部中国室 主任研究員
内堀敬則
hironori.uchibori@mizuho-ri.co.jp
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