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企業にとって重要度を増す 中高年向け

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企業にとって重要度を増す 中高年向け
新 春 対 談
高齢者の能力を生かす経済・社会へ
企業にとって重要度を増す
中高年向けマーケティング、商品開発
日本経済は緩やかな回復基調にある。ただし、最大のウェートを占める個人消費の伸びは力強さに欠
け、デフレからの脱却もまだ見えてこない。高齢化の進むデフレ社会の中で企業経営はいかにあるべき
か。中高年の活用方法、マーケティングのあり方、教育問題など多岐にわたって意見を交換する。
精神科医 ヒデキ・ワダ・インスティテュート代表
和田秀樹
みずほ総合研究所 執行役員チーフエコノミスト
公文 敬
欲望を刺激するものが出てこないということと、先々
消費不振の背景に
魅力的商品の不足と不安心理
が見通せない不安、例えば年金問題、雇用の不安な
どの状況の中で、お金を遣う気になれないということ
でしょう。
公文
私どもでは2003年度の日本の実質成長率は
2.2%、2004年度は2.3%と予測しています。アメリカの
景気が力強く回復してきていることに引っ張られて、
アメリカ型に変わりつつある
日本の消費行動
日本経済も何とか回復軌道に乗ってきたのではない
かと見ていますが、デフレ傾向からは脱却できず、本
公文
格的な回復にはならないと考えています。
期的な商品が消費を大きく引っ張ったことがありまし
その最大の理由のひとつは、日本経済の6割弱を占
かつてビデオデッキやビデオカメラといった画
たが、最近はそんな商品が見当たらないということで
めている個人消費がなかなか本調子にならないだろ
しょうか。
うということです。和田さんは今回の不況を「心理不
和田 日本人の消費行動がアメリカ型になってきてい
況」
「消費不況」
と評価していますね。
るのではないかと感じています。日本でDVDプレーヤ
和田
ーが発売された当初は、高いし、なかなか売れなかっ
精神分析学的な考え方で言うと、人間を動か
す動機として概ね二つあると言われています。一つは、
た。しかし、そんな時ソニーがプレイステーション2を
フロイトが「人間は無意識の性欲で動かされている」
39,800円で売り出して、これにはゲーム機にDVD再生
と言っているように、欲望で動くということです。
“買い
機能もついているということで爆発的に売れました。
たいものがないから買わない”ことがあてはまります。
安くならないと買わない、安くなるまで待っている
もう一つの心理学的動機論でよく言われているのが
という国民性になると、新製品を売り出す時の値段を
“人間は不安で動く”ということです。不安なときは不
いつもかなり安く設定しなければなりません。こうい
安に振り回され不安回避に動く、また不安が強いとき
う社会では新製品の開発がままならなくなってしまい
人間は動けない。
ます。
つまり、買いたいものが一通り出そろってしまって
みずほリサーチ January 2004
1
もう一方で注目したいのは、普段ものすごく安いも
のを買っている人が、銀座に行ったら思い切り高い
物を買ってしまう。この消費行動の背景には、日本人
の特性が変化してきたことがあるのではないかと見て
います。
自分が悪かったら自分を責め、論理的にものを考
え、過去にこだわる、几帳面で人間関係が濃いという
ような人のことを、私はメランコ
(そううつ)型と呼んで
います。かつての典型的な日本人パターンといわれて
います。
和田秀樹
精神科医
ヒデキ・ワダ・インスティテュート代表
川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤
講師(医療経済学)。著書は『買う気にさせる心理
ところが、最近は、わりと周りの世界に合わせてしま
う、自分の価値観をあまり持たないで、周りがいいとい
ったらそれがよくなってしまう、シゾフレ
(分裂)型人間
が増えてきました。消費をするにあたって、場の雰囲気
学』、
『こころが変われば景気がよくなる』、
『大人の
に弱く、ドン・キホーテに入ると買い物をしたくなり、ダイ
勉強法』
、
『痛快!心理学』など多数。
ソーやユニクロでもすぐそのモードになる。これが銀
http://www.hidekiwada.com
座ではセレブモードで高い買い物をしてしまう。
別の店に行けば2万円安く買えるのに、セレブの雰
囲気に酔ってしまって2万円高いのが気にならなくな
高額商品が売れ出した背景は?
ってしまう、そういった新しい消費感覚があるのでは
ないかと思っています。
公文 日本ではデフレの進行とともに、少しでも安い
ものに人が殺到する、いわゆるユニクロ現象が起こ
り、家庭にもコスト意識が浸透したと言われました。
消費不況は先進国のトレンド
供給面からの対応には限界
そして、それがまた一段と価格を押し下げていくとい
う悪循環が起こりました。しかし最近、一部で高額商
公文
品が売れ出しているといいます。消費者が買い控え
本経済の根本問題は需要不足にある、供給面ばかり
に疲れてきたとの声もあるのですが、これは心理学的
の強化を目指しても問題は解決しないのではないか
にみるとどういうことなのでしょうか。
と言っておられますが。
和田
和田
高額商品の売れ方については2種類あると思
和田さんは、いまは消費不況の時代であり、日
米国以外の世界の先進国がすべて人口減少、
います。ひとつは、新富裕層が現れてきたことによる
高齢化の問題を抱える中で、消費は減ると考えるのが
ものです。バブル時からそんなに所得水準が下がっ
妥当です。消費不況そのものは世界のトレンドだと思
ていない人、例えば年収1,
000万円の人がデフレの影
うんです。歴史の進歩というのは、生産性を上げるこ
響、商品価格が下がったことで、相対的に年収アップ
とだと考えられてきました。しかし、そのパラダイムで
になっていることです。公務員や景気の影響を受け
は、もうやっていけないのではないかと思います。
ていないサラリーマンの間に、金余り現象が起きてい
公文
ます。その人たちが、高いものを買うようになったの
口が増え続けているのは現在の先進国の中ではアメ
ではないかと思います。
リカだけです。逆に、人口減少の先頭を切っているの
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みずほリサーチ January 2004
国連の人口推定によると、2050年時点で、人
新 春 対 談
が日本、イタリア、ドイツです。
何十年も先の経済の姿を描くのは至難のわざです
が、経済を構成するいろいろな要素の中で最も信頼
性の高い予測ができるのは人口の動きではないでし
ょうか。日本では2007年から人口が減少に転じると見
込まれていますが、注目したいのは、消費の中心層で
ある15∼64歳の層の動きです。実はこの層の人口は
90年代半ばから既にマイナスになっているのです。
2010年までの10年間で見ますと、年に47万人減って
しまう。人口が増えてくるのは当然という大前提が狂
ってしまうのです。私もいままでの経済学をリードして
公文 敬
きた“供給力が成長を決定する”という考え方は、こ
みずほ総合研究所
執行役員チーフエコノミスト
れから変わってくるんじゃないかと思っています。
高齢化社会に向かう日本に
アメリカ流競争政策は不適
デン、4位がデンマーク。このフィンランド、スウェーデン、
デンマークは高齢化社会です。すると高齢化社会の
1950年に26.6歳だった日本人全員の平均年齢
勝ちパターンを勉強したほうが、アメリカ型よりも日本
は、2000年に41.4歳になっています。この間アメリカは
のモデルとしてはいいのかもしれないという気がして
30.2歳から35.3歳、日本のほうが3倍のスピードで高齢
います。
公文
化が進んだという計算です。ちなみに中国は1997年
時点で31.9歳と非常に若い。人口構成の違いが、最
近の各国の経済の動きを相当左右しているのではな
年金・医療問題の特効薬は
働き続けること
いかと思います。こうした人口構成の観点からみた政
策はどうあるべきとお考えですか。
公文
和田
療の問題が浮上してきます。日本も深刻な財政上の問
今、日本の政策はアメリカ流を指向していると
思いますが、私は、アメリカがうまくいっている時に、
“どうしてうまくいっているか”の分析が甘かったので
高齢化社会になりますと、必然的に年金、医
題に直面しているわけですが、日本の将来の姿を考
える上で、これをどう解決していくかが大きな問題で
はないかと思います。若い社会だと競争させるとか、
す。
インセンティブをつけるとか、給与格差をつけるとかい
和田 この問題を解決するには年金の受給開始を遅
ったことにも意味がありますし、生産性も上がります。
らせるしか方法はないと思っています。65歳からを高
ところが中高年の人にもっと競争しなさいとか、需
齢者とすると、全国で2,400万人弱いる。ところがシカ
要の中核を担う中高年をリストラでどんどん辞めさせ
ゴ大学のニューガートン教授の定義に従って75歳以
てしまうとかいうのは、消費ということを考えれば、実
上と65歳から75歳の人で要介護者だけを高齢者とみ
態を見ないかなり危ない処方だと思います。
なすと、未来永劫にわたって2,000万人を超えること
2003年10月に、WEF(世界経済フォーラム)が世界
の競争力ランキングを発表しました。前年1位だった
アメリカがフィンランドに抜かれて2位、3位がスウェー
はありません。ただ、年金支給を遅らせる代わりに、
働く場所は用意しないといけません。
長野県は、平均寿命が男性1位、女性3位の長寿県
みずほリサーチ January 2004
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ですが、老人医療費は日本でいちばん安い。80年代
開拓していくと同時に高齢者を雇っていかないと、マ
に長野の男性が長寿1位になったとき、その理由とし
ーケットを掘り起こすことができないという形で、新た
ていろいろなファクターが考えられました。しかし、最
な産業の創出だとか高齢者の能力特性に合わせた仕
終的なファクターとして残っているのは、就労率なん
事を開発していくことが妥当だと思います。
です。長野は高齢者の就労率が一番高い。
沖縄県の場合を考えると面白いです。平均寿命が
女性は1位なのに男性は26位です。そして高齢者の就
中高年向けマーケティング成功の鍵は
“情”
“個別性”
労率が低い。だとすると、高齢者の就労というのは、
たぶん寿命にもいい影響を与えるし、老人医療費を
公文
減らすということになります。
べきと指摘されています。また、1955年生まれ以前が
和田さんは、マーケティングに心理学を用いる
メランコ人間主流で、それ以降がシゾフレ人間だと言
高齢者マーケットの開発に
能力を発揮するのは高齢者
っておられますが、これらは会社の経営のパターンと
関係があるとお考えですか。
和田
公文
若い人向けのマーケティングをやろうとしたとき
企業に目を転じていきたいと思いますが、年
には、どうしてもシゾフレ型の人間が対象になります
金の支給開始を遅らせることと企業の定年延長の問
ので、例えば“浜崎あゆみ”みたいなカリスマを使うと
題は切っても切れない関係にあり、抵抗があるようで
か大宣伝をしてメガヒットを狙うとか、若い人向けのマ
す。
ーケティングは、そこそこうまくいっていると思います。
和田
若いほうが向いている仕事と高齢者に向いて
いる仕事というのが、たぶんあると思います。いま高
ところが、中高年の人たちは置いてきぼりになってい
ます。
齢者は邪魔だと考えているのは、
“企業には若い発想
もうひとつは、シゾフレ型の人たちというのは人間
が必要だ”という幻想にとらわれているからではない
関係が薄いですから、安くしてくれるところだったら簡
でしょうか。
単に店を変えますけど、メランコ型の人たちは人間関
高齢者が大事なマーケットだと考えたときに、高齢
係を大事にしますから、ずーっと来てくれるセールス
者の気持ちが分からなければいけないのではないか
マンから買う。そんな“情”だとか人とは少し違うとい
と思うのです。従来の日本の雇用システムのおかげで、
った“個別性”を大事にします。新たに中高年以上の
現時点では高齢者はお金を持っています。これから
マーケティングを考えるときに、意外にもともとの商売
の時代、デジタルカメラであれパソコンであれ、高齢
の原点、お客様の立場になって考えるとか、わりと古
者に使わせて企画開発もしていかなければいけませ
いタイプのマーケティングを、もう一度見直してもいい
ん。高齢者は新しいことを覚えたり、敏捷性といった
んじゃないかと思います。
面では劣りますが、いわゆる知恵といわれる結晶性
知能は上がってきます。それを生かす雇用形態にす
ればよいのです。
学力の低下は深刻
詰め込み教育は否定すべきではない
もうひとつは人としての温かさというものが、商品価
値を持つと思っています。高齢者がお金を使う動機
公文 若年層の雇用に移りたいと思いますが、ここで
というのは、例えば高級陶器といった商品性そのもの
は教育の問題が重要だと思います。どのようにみてお
ではなく、温かいサービスをしてくれたからということ
られますか。
になるのかもしれません。高齢者向けのマーケットを
和田
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みずほリサーチ January 2004
90年代からの学力低下は、かなり深刻な問題
新 春 対 談
です。学力低下というより、できない生徒がものすご
くできなくなっている。また、1999年に国際学力調査
が行われた時に、中学2年生の41%が学校の外で塾
も含めて、全然勉強しないことが統計で明らかになり
ました。
昔は無理して東大卒を採用しなくても、大学に受か
っているだけである程度の基礎的な教育レベルは身
につけているという点では信用できた、後から逆転が
利いた、少なくとも頑張るということができたわけで
す。ところが、いまは採用するときに、これはという人
がなかなかいない。かつてのおしなべて“優秀な日本
人”
という安心感がなくなってきていると感じます。
公文
私の実体験を通した印象ですが、イギリスでは
私どもの小さな現地法人でも極めて優秀な高学歴の
人を採用することができましたが、一般のいわゆるク
提に、企業経営者は今後どんなことを考えて経営に
ラークレベルの人達との能力格差があまりに大きくて
携わっていけばいいのでしょうか。
驚かされました。ドイツでは突出した能力の人はなか
和田
なか採用できませんでしたが、一般の職員の資質は
があるんじゃないかという気がします。若い人にユニ
押し並べて高水準でした。かつての日本、ドイツで企
ークな発想ができるとは限らないんです。むしろ能力
業が成功したのは、平均レベルの高い従業員で構成
的に、比較的あてになる中高年者を大事にし、また客
されていたということではないでしょうか。しかし、今、
としての彼らを意識しながら商売をしていくほうがい
日本、
ドイツは少数のとび抜けた人材が企業を動かす、
いのではないか。平均年齢40歳の社会で、
“20歳代向
いわゆるアングロサクソン型の後塵を拝すようになっ
け商品開発だ”とばかりは言っていられないと思いま
てしまいました。強力なリーダーシップを発揮できるよ
す。むしろ企業経営者は、自分の実感に従った経営
うな人材を生み出すような教育というのは、どうある
手法に自信をもっていいのではないかと思います。
べきでしょう。
公文 日本で中高年がリストラの対象になるのは、若
和田
手の能力が必要というよりも給与が高いからでしょう。
私は高校までの受験勉強は、そんなにいじる
だからこそ中高年の人たちを雇い続ける価値
必要はないと思いますが、やはり大学・大学院の教
コスト削減優先で失ってしまっているものも多いので
育を変えていかないといけない。詰め込み教育が悪
はないでしょうか。
いのではなくて、詰め込んだ知識を使わない教育が
ドイツでは、人員整理は若手からというのが社会的
悪いという気がします。むしろ、東大をはるかに凌駕
なルールとなっています。若手は再就職のチャンスが
するような超難関の少数精鋭の大学を作って優秀な
多いが、中高年はなかなか難しいからということのよ
人材を養成すべきではないでしょうか。
うです。ある意味、中高年を大事にする社会であると
思うのですが、どうも日本には、そういう視点が少し欠
平均年齢の上昇に合わせた企業経営を
けていたのではないかという気がします。
今日は、様々な角度からお話を伺って私も中高年の
公文
シゾフレ型の人たちが増え、日本人全体の平
均年齢もかなり上昇してきている。こういった姿を前
1人として、大変心強い思いがいたしました。どうもあ
りがとうございました。A
みずほリサーチ January 2004
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