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注目される世界の資金の流れ

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注目される世界の資金の流れ
今月の視点
注目される世界の資金の流れ
―積極化が求められる企業、投資家の投資行動―
現在、金融緩和とオイルマネーなどを背景に世界的にマネーが活発化している。そして、米
国が適切な政策を進め、BRICsや産油国を巡る資金が潤沢であれば、この状況は今年も継続
しよう。日本についても、今年の良好な経済金融環境の持続には、企業が投資行動を一層積
極化させることが鍵となろう。
みずほ総合研究所 チーフエコノミスト
中島厚志
ひとつは、世界経済を牽引する米国経済が腰折れ
活発化するマネーの動き
ないことである。経済が堅調に成長してこそ、また、ド
ル相場が安定してこそ、資金は順調に米国に流れ込
足元世界経済は減速しつつある。中心となる米国経
み、世界にも流れ出ていく。そして、米国経済が順調
済を見ても、減税効果の一巡や利上げの浸透を背景
であるためには、もちろん個人消費や企業業績が堅
に、景気は踊り場的な位置づけにある。また、高成長
調であることが大事であるが、それを支える政策対応
を続ける中国経済も、一部過熱感が拡大しており、引
の良し悪しも見逃せない。
き締め気味の政策によって景気は頭打ちとなりつつあ
世界を巡るマネーの流れが潤沢でありつづける二
る。1月25日に発表された国連の世界経済見通しでも、
番目の条件は、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)
世界の実質経済成長率は2004年の4.0%から2005年
に代表される高成長国や資源国などがその成長を続
には3.25%に減速するとの予測である。
けることである。米国に流れ込む資金を見ても、多く
もっとも、世界の資金の流れを見ると異なる姿が見
はカリブ海を含むその他地域やアジアなどから来て
えてくる。図表1からも分かるように、ここ数年米国を
いる。オイルマネーや高値で推移する市況に裏付けさ
中心とする資金の流れは拡大している。2004年を見
ても、低金利、景気回復期待の高まりや原油価格高
に伴うオイルマネーの増加などから世界的にマネーの
●図表 1 米国の対内・対外投資と経常赤字
(千億ドル)
12
動きは活発化している。
10
マネーの流れが続く条件
日本
中南米
その他アジア
その他
EU
8
米国経常赤字
6
経済に潤沢なマネーフローが維持されるためには、い
米
国
対
内
投
2
資
↑
0
↓
米
▲2
国
対
外
▲4
2000
01
02
03
04(年) 投
(注)1. 対内・対外投資はおのおの直接投資、株式投資、債券投資の合計額。 資
くつかの条件が必要なことは言うまでもない。
2. 2004 年は予測値。
(資料)米国商務省、米国財務省
活発なマネーの動きはなにより金融市場に影響を
及ぼしている。全体として見ると、世界の市場で株高
と債券価格高が続く構図であり、金融証券市場全般
に資金が流れ込んでいる様子が見て取れる。
とはいえ、投資家にとって居心地の良い足元の構
図がこのまま長続きするとは限らない。今後とも世界
4
みずほリサーチ March 2005
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今月の視点
れた資源国の好況、また高い経済成長を続ける中国
を演出した過剰流動性も発生していない。
やインドなどがあってこそ世界の資金の潤沢さは続き、
外貨準備の運用などを通じたドル資産への投資が続
鍵を握る企業の投資行動
くことになる。
もちろん、エネルギー価格や資源価格が高止まりす
80年代後半との類似性を元にすれば、順調なマネ
ることはプラス材料とばかり言えず、世界経済の成長
ーの流れを遮るような内外の政策対応がなければ、
を抑制する面がある。しかし、米国に流れ込む潤沢
今年の日本経済は相応に堅調であると思われる。資
な資金がドル相場の安定を支えていることも考えると、
産価格の回復、上昇もそれなりに期待できよう。
資源・エネルギー価格の急騰は好ましくないが、一方
で急落を好ましいと言い切るわけにもいかない。
政策対応が引き締め的でないとしても懸念は残る。
やがて過剰流動性が生じて資産バブルを招く可能性
である。もっとも、まだその状況には至っておらず、当
日本経済のバブル期との異同
面の懸念はむしろその逆にあるともいえる。すなわち、
企業が今後その潤沢な資金を活用して業績の一段の
さて、現在の世界のマネーフローを踏まえると、日本
の経済や金融市場はどう見ればよいのだろうか。
拡大とさらなる景気回復に結びつき、資金需要が回復
していくかとの点である。企業の財務体質はバブル崩
現在、日本の景気はやや減速しており、踊り場的な
壊前の水準にまで復しており、今年の日本経済成長の
状態にある。しかし、マネーフローの面から捉えると、依
鍵は、企業が、潤沢な内部資金をため込むことなく設
然良好な金融環境が見えてくる。すなわち、日銀の量
備投資に、配当に、そして雇用所得に回していくかに
的緩和が継続する一方、企業の投融資額はその利益
係っている。
の範囲内に止まっている結果、巨額の財政赤字はあ
一方、潤沢な国内資金がほどほどにリスクのある資
っても、国内全体では金余りとなっている状況である。
産に向かうことも、今年の日本経済の課題であろう。
加えて、国内の余剰資金は米国債の投資など海外
現在の国内の資産運用状況を大雑把に括ると、資金
投資に流れているが、一方で海外からは国内の株式
はリスクのない日米国債に投資され、株式や不動産と
市場や不動産市場に多額の資金が流れ込んできても
いったリスクのある資産には海外投資家が投資する
いる。マネーフローから見れば、日本の経済や金融資
形となっている。しかし、これでは国内の投資家や企
本市場も、日銀の金融緩和と世界的に潤沢なマネーフ
業、個人は資産価格上昇のメリットを享受しにくい。
ローに支えられて、良好な環境の中にあると見ること
過度にリスクを取る姿勢は危険にすぎ、慎むことが必
ができる。
要としても、国内資金が適切にリスクを取りにいくこと
もっとも、これらの状況は、いくつかの面でバブル
経済となった1980年代後半に似ているように思われ
が、今年の景気回復を支え、さらに良好な金融環境を
形成することにもなる。
る。当時、プラザ合意をひとつの契機とした内外の金
景気回復が持続しており、デフレ脱却を最優先とし
融緩和と過剰流動性の発生によって、世界経済は好
てきた日本経済や企業も、そろそろ新たな成長戦略に
調であり、日本経済も高成長を謳歌した。一方で、物
優先度を移す時期に差し掛かっている。もちろん、厳
価が安定していた。これらの状況は今回も近似して
しいバブル崩壊の経験を踏まえると、80年代後半の
いる。
ように過度に金融資産のリスクを取ることを繰り返し
とはいえ、80年代後半と現在の日本経済とでは違
てはならない。とはいえ、世界のマネーフローが良好
いもある。とりわけ大きな違いは、現在株価や不動産
な状況となっている折、企業が相応に積極的な投資
価格の高騰が全体としては生じておらず、ごく一部を
戦略を取ることが必要な段階に入ってきていることも
除いて資産バブルは起きていないということにある。
認識しなければならない。A
企業の資金需要が乏しく、80年代後半に資産バブル
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みずほリサーチ March 2005
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