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注目され始めた売掛債権による資金調達

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注目され始めた売掛債権による資金調達
金
融
動
注目され始めた売掛債権による資金調達
向
長引く資産価格の下落によって土地の担保
に資金調達できるメリットも大きい。
価値が目減りするなか、企業が保有する売掛
わが国の企業は、2000 年度末時点で土地資
債権を裏付けとした資金調達が注目されてい
産に匹敵する191兆円の売掛債権を保有してい
る。中小企業ではまだなじみが薄いものの、物
る。しかしながら、企業の資金調達において売
的担保の制約にとらわれないファイナンス手
掛債権は積極的に利用されていないのが現状で
段として、今後の利用拡大が期待される。
ある。例えば、証券化された売掛債権の割合は
積極的に活用されていない売掛債権
2%弱であり、米国の 13%に比べるとかなり
見劣りする
(図表1)
。また、富士総合研究所が
売掛債権とは、企業間で商品やサービスを
今年2月に実施したアンケート調査では、
売掛
売買する際に、将来、売り手が買い手から代金
債権を活用した資金調達を
「利用したことがあ
を受け取る権利をいう。売掛債権の回収には
る」と答えた企業は全体の 10%程度に過ぎな
通常数カ月を要するが、金融機関などに売掛
かった。ただし、
「利用したことはないが関心
債権を譲渡あるいは担保提供して資金化を早
はある」との回答も約 30%あり、潜在的な利
める方法がある。具体的には、①売掛債権を担
用ニーズは大きいものと思われる。
保にして融資する「売掛債権担保融資」
、②
ファクタリング会社に売掛債権を売却して資金
債権の譲渡に対する抵抗感がネック
調達する「ファクタリング」
、③信用力の高い
売掛債権があまり活用されていないのはど
大企業向けの売掛債権をベースに、下請企業
うしてなのだろうか。ひとつには、中小企業に
が金融機関からファイナンスを受ける「一括
よる債権譲渡は資金繰りの行き詰まりを示唆
支払い方式」④売掛債権を裏付けとする資産
すると受け止められる傾向があり、この風潮
担保証券などを組成し、資本市場から直接資
が企業の取り組みを慎重にさせている。富士
金を調達する「証券化」
、といったところが主
総研のアンケート調査でも、売掛債権を活用
な手法である。
した資金調達手法を利用したくない企業
(回答
企業はこれらを利用することで、資金繰り
企業全体の約57%)
のうち、およそ3割が「資
に余裕ができるほか、証券化などの場合には
金繰りに困難を来していると誤解されかねな
バランスシートのスリム化につながる。また、
い」を理由にあげている
(図表 2)
。
中小企業にとっては、物的担保にとらわれず
(図表2)売掛債権を活用した資金調達手法を利用したくない理由
(図表1)売掛債権の証券化比率
(米国:2002年3月末、日本:2001年3月末)
13.1%
米国
222.3
190.8
0
50
100
150
未証券化額
33.5
3.3
200
250
証券化額
300(兆円)
(資料)財務省『法人企業統計(平成12年度)』、
日本銀行『資金循環勘定』
Federal Reserve Board, “Flow of Funds Accounts of the
United States”により推計
10
みずほリサーチ Oct. 2002
30.8
資金繰り困難と誤解されかねない
27.5
事務作業が面倒
1.7%
日本
31.0
仕組みがよく理解できない等
資金調達コストが高くなる
譲渡承諾を与えたくない
との債務者の抵抗
その他/無回答
25.4
12.9
0
10
20
24.0
30
40(%)
(注)会員企業へのアンケート調査結果。売掛債権を活用した資金調達を
利用したくない企業(回答企業全体の57.6%)に対してその理由
を聞いたもの。上位2つまでの複数回答。
(資料)富士総合研究所『市場型間接金融の現状と拡大に向けた展望』
企業間の取引契約において、債権の譲渡を
しながら現状では、民間ベースだけでは保
禁止する特約が多用されていることも、売掛
証・保険の定着や拡大が難しい。そのため、過
債権の活用を妨げている。中小企業庁の調査
渡的な対応として、
公的な信用補完措置が有効
によると、わが国のおおむね半分の取引にお
であると考えられる。
いて債権譲渡禁止特約が用いられている。債
こうした問題意識のもと、中小企業庁は、売
権の二重譲渡などのトラブルや、資金の振込
掛債権を担保として金融機関が融資する際に、
み先を変更する事務負担を避けたいという、
信用保証協会が融資額の 90%を保証する「売
債務者側の意向が反映されているようである。
掛債権担保融資保証制度」を昨年12 月に創設
他方、金融機関にとっては、売掛債権に付随
した。受付開始から数か月間は利用件数が伸
する様々なリスクの存在も無視できない。具体
び悩んだ。その理由としては、中小企業の間で
的には、まず、売掛債権の債務者の経営破たん
制度が十分に認知されていなかったことが大
により資金を回収できなくなるデフォルト・リ
きい。また、利用企業は売掛債権を担保として
スクがある。そのほか、債権者にかかわるリス
金融機関と信用保証協会に譲渡する必要があ
クとして、①債権自体が実際には存在しない、
るため、先に述べた譲渡禁止特約の存在も
あるいは存在したとしても既に他者に譲渡され
ネックとなってしまう。
ているフロード
(不正取引)
・リスク、②商品の
そこで政府は、
パンフレットを関係機関に配
返品や事後的な単価調整などにより、当初の債
布して制度のPRに努めるとともに、
民間企業
権が減少するダイリューション
(希薄化)
・リス
と結ぶ物品調達の契約から譲渡禁止特約を率先
ク、③債権者が債務者から回収した資金を他の
して解除するなどの対応をとった。
そうした取
目的に流用してしまい、資金の流れが把握でき
り組みの甲斐もあって、
今年度に入ってから保
ないコミングル
(混在)
・リスク、といったもの
証承諾件数は急速に増えている
(図表 3)
。
がある。金融機関にとって、これらのリスクを
こうした制度金融がひとつのきっかけとなっ
的確に判断するのは容易でない。
て、売掛債権による資金調達を阻害してきた
また、金融機関は買い取った債権の権利を第
諸々の要因が除去され、いずれは純粋な民間
三者に主張するために対抗要件を具備する必要
ベースでも、
中小企業を対象とする同様のファ
があるが、その手続きにも相当の手間がかかる
イナンス手法が積極的に展開されるよう期待し
といわれる。そのため、債権の本数やロットが
たい。 (野田 彰彦 TEL.03-3201-0526)
小さい中小企業の場合、
利用困難なほどコスト
が高くなってしまうのである。
当面は公的な信用補完も有効
本来ならば、売掛債権に随伴する上記のよ
うなリスクを民間保険会社などによる保険や
保証でヘッジして、中小企業に新たなファイ
ナンスの道筋を付けることが望まれる。しか
(図表3)売掛債権担保融資保証制度の承諾件数(累計)
(件)
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
2001/12 2002/1 2
3
4
5
6
7
8(年/月末)
(資料)中小企業庁ホームページ
みずほリサーチ Oct. 2002
11
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