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2005年度一般会計予算と日本経済

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2005年度一般会計予算と日本経済
日本経済
2005年度一般会計予算と日本経済
―歳出減らず、負担は高まる―
2005年度の一般会計予算は、家計に負担を強いる一方、歳出削減への踏み込みに
欠けるものとなった。本稿では、2005年度の一般会計予算の概要とそれが日本経
済に与える影響を考察するとともに、財政健全化のための施策について考える。
昨年12月24日、2005年度の一般会計予算(政府案)
体が行政サービスを遂行することができるように国が
が発表された。一般会計予算には歳出と歳入があり、
地方に交付する使途制限のない財源である「地方交
歳出は「一般歳出」、
「国債費」、
「地方交付税交付金
付税交付金等」を加えた一般会計の総額は、2004年
等」、歳入は「税収」、
「税外収入」、
「公債金(新規国債
度当初予算から700億円増加し82.2兆円となった。
の発行による新たな借金)」などに分類できる。本稿
普通国債の残高が名目GDPと同程度まで累増して
では、2005年度一般会計予算についての評価を行う
いることを反映し、国債費は2004年度当初予算から0.9
とともに、財政健全化のための施策について考えるこ
兆円増加し18.4兆円となった。また、地方交付税は、
ととしたい。
国と地方の三位一体改革の中で大幅な削減を目指し
ていたが、財務省が地方公共団体の財政運営に相応
2005年度一般会計歳出の概要
の配慮を行った結果、2004年度当初予算からの削減
幅が0.4兆円に留まり、16.1兆円となった
(図表1)
。
国の政策的経費を表す「一般歳出」は、47.3兆円と
2004年度当初予算から3,500億円の減少となった。一
2005年度一般会計歳入の概要
般歳出の減少は3年振りのことである。社会保障関係
費と科学技術振興費以外の歳出が削減された。詳細
2005年度の「税収」は、2004年度当初予算からは
にみると、高齢化に伴う医療費の支払い増などを映
2.3兆円増加した。しかし、2004年度補正後予算から
じて「社会保障関係費」が2004年度当初予算から0.6
兆円増加し20.4兆円となった。一方で、公共投資など
への支出である「公共事業関係費」が2004年度当初
●図表 1 一般会計歳出の推移
(兆円)
24
国債費
社会保障関係費
予算から0.3兆円減少し7.5兆円となった。また、その
他、各省庁の裁量に任せられた経費(「裁量的経費」)
20
については、国の国際競争力確保のために科学技術
振興費が2004年度当初予算から増額された以外は、
16
地方交付税
交付金等
政府の途上国援助(ODA)、防衛関係費などが軒並
み前年の水準を下回ったことから、2004年度当初予
算から0.6兆円減少し19.4兆円となった。
12
8
一般歳出は減少することになったものの、一般歳出
に、①過去に発行した国債の利払いや償還にかかわ
る経費である「国債費」
と、②都道府県など地方公共
団体間における財政力の格差を解消し各地方公共団
公共事業関係費
0
1990
95
2000
05
(年度)
(注)2003年度までは決算、2004年度は補正後予算、2005年度は当初予算ベース。
(資料)財務省
みずほリサーチ March 2005
3
日本経済
の上乗せはほとんどなかった。このことは、2004年度
2005年度一般会計予算の評価
当初予算における税収見積もりが保守的でありすぎ
たことが、2005年度の税収が2004年度当初予算から
一般歳出が3,500億円減少したことから、今次予算
増加した主要因であることを示している。
歳出から税収などの歳入を差し引いてなお足りな
に関し緊縮財政と捉える見方もある。しかし、三位一
い部分、すなわち「公債金」は34.4兆円と2004年度当
体改革の中で、地方への補助金を1.1兆円減少させて
初予算及び2004年度補正後予算から2.2兆円の減額
おり、この分は機械的に一般歳出が減少している
(代
となった。ただし、2004年度補正予算で台風や震災
わりに、見合いとして地方への税源移譲が行われたほ
による災害復旧費等の計上がなければ、2004年度補
か、交付金が増加している)
。このことを踏まえると、一
正後予算でも公債金は抑制されていたはずであり、
般歳出の減少は、歳出元が国から地方に移ったこと
2005年度予算の寄与は小さい(図表2、図表3)
。
で実現された面が大きく、歳出内容自体を抜本的に見
直して不要なものを削減した結果実現されたものでは
●図表 2 一般会計歳入の推移
(兆円)
ないと考えることができる。
税収
60
歳出の具体例を挙げると、関西国際空港2期事業
50
(新滑走路建設)に200億円が計上されたほか、整備
40
新幹線は3区間(総事業費1.2兆円)で着工を認め700
30
億円が計上された。これらは、後年度の歳出増加に
公債金
(新規国債発行額)
20
つながるものであることから、費用と社会的な効果を
より厳密に比較考量して歳出の選定を行う必要があ
10
0
ったが、それについて十分な説明責任が果たされた
1990
95
2000
かどうか疑問なしとはし得ない。特に、2005年度予算
05
(年度)
(注)2003年度までは決算、2004年度は補正後予算、2005年度は当初予算ベース。
(資料)財務省
が定率減税の縮小(実質的に2005年度は0.2兆円程
度、2006年度は1.4兆円程
●図表 3 2005 年度一般会計予算
(単位:兆円)
2004年度
当初予算
当初予算
当初比増減
税収
税外収入
公債金
(国債発行額)
前年度剰余金
引き上げ(2005年度は0.6
2005年度
補正後予算
度の増税)や社会保険料の
前年当初比
増減
前年比
(%)
兆円、2006年度は0.4兆円
の負担増)など、家計に大
41.7
44.0
2.3
44.0
2.3
5.4
3.8
4.8
1.0
3.8
0.0
0.3
36.6
36.6
0.0
34.4
▲ 2.2
▲ 6.0
ることを踏まえると、納税
者の納得感を得るために
きな負担を強いるものであ
0.0
1.5
1.5
0.0
0.0
0.0
歳入計
82.1
86.9
4.8
82.2
0.1
0.1
国債費
17.6
18.3
0.7
18.4
0.9
5.0
地方交付税交付金等
16.5
17.7
1.2
16.1
▲ 0.4
▲ 2.5
一段切り込むべきであった
一般歳出
47.6
49.7
2.0
47.3
▲ 0.3
▲ 0.7
社会保障関係費
19.8
20.4
0.6
20.4
0.6
2.9
と思われる。
は歳出内容の見直しにもう
7.8
8.9
1.1
7.5
▲ 0.3
▲ 3.6
なお、確かに、プライマ
20.0
20.4
0.3
19.4
▲ 0.6
▲ 3.2
リーバランス
(「新規債務を
0.4
1.3
0.9
0.4
▲ 0.0
▲ 11.5
除く税 収 等 の 歳 入 」から
82.1
86.9
4.8
82.2
0.1
0.1
「過去の債務に対する元利
プライマリーバランス
▲ 19.0
▲ 18.3
0.7
▲ 15.9
3.1
−
国債依存度
44.6%
42.1%
▲ 2.5%Pt
41.8%
▲ 2.8%Pt
−
公共事業関係費
その他
改革推進公共投資
事業償還時補助等
歳出計
(資料)財務省
4
みずほリサーチ March 2005
払いを除いた歳出」を差し
引いた財政収支)や国債依
存度(歳入のうち、公債金が占める割合)は2004年度
雇用所得環境が改善し易い状況にあることに違いは
当初予算よりは改善している
(図表4)。しかし、これ
なく、個人消費はマインド主導の回復から雇用所得の
は、主に国民負担の増加や2004年度補正予算におけ
裏付けのある回復へと移行していくことが期待されて
る税収の上振れによって実現したものであり、歳出削
いる。しかしながら、先述の通り、2005年度予算にお
減の寄与は小さい。
いては、勤労者世帯を中心に増税や社会保障費の引
き上げが決定された。消費性向が高い勤労者世帯の
2005年度一般会計予算が
日本経済に与える影響
可処分所得減少につながる公的負担の拡大には、個
人消費回復の腰を折りかねないリスクがあると考えら
れる。
2005年度一般会計予算が日本経済に与える影響を
個人消費の失速がきっかけとなって景気が後退局
考えると、家計部門(個人消費、住宅投資)に対する
面入りした例として記憶に新しいのは、消費税率の引
悪影響が懸念される。
き上げや実質的な所得税及び住民税の増税が行わ
わが国の景気は、2004年度入り後、米国を中心と
れた1997年度である。消費税率の引き上げ等による
する海外経済の成長鈍化や国内のIT
(情報技術)関
家計部門の負担の高まりは、個人消費の抑制につな
連業種における在庫調整などにより、一旦調整局面
がり、在庫調整を引き起こした。
に入っているが、回復の基調自体が失われた訳では
97年度と今次局面(2005年度以降)
を比較すると、
ない。米国経済がソフトパッチ(軽微な調整)から立ち
今次局面における実質的な家計負担の増加額は、雇
直り、国内IT業種の在庫調整も一巡するとみられる
用者報酬(マクロでみた雇用者に対する給与の総額)
春先にかけて、わが国の景気は国内民間需要を中心
の伸びとの比較で見ると決して小さいとは言えない。
とする自律的な回復過程に復する可能性が高いと考
97年度は、消費税の引き上げによる3.5兆円、それま
えられる。ただし、自律的な景気回復のモメンタムが
で行われてきた特別減税の廃止による2.0兆円(所得
維持されるためには、わが国においてGDPの50%超
税1.4兆円、住民税0.6兆円)
、社会保険料の引き上げ
を占める個人消費の回復持続が必須の条件である。
による0.9兆円を合計して家計は6.4兆円の負担増を
足元は、これまでのリストラ断行により企業における
強いられた。しかし、その一方で雇用者報酬は96年
雇用の過剰感がほぼ払拭されていることから、今後は
度から6.2兆円増加していたほか、家計に特段の負担
●図表 5 家計負担と雇用者報酬(97年度との比較)
●図表 4 プライマリーバランスと国債依存度の推移
(%)
(兆円)
45
0
国債依存度(左目盛)
(兆円)
7
社会保障負担
6
40
▲5
5
雇用者報酬
4
35
▲10
30
▲15
25
▲20
プライマリーバランス
(右目盛)
20
1993
95
2000
▲25
05(年度)
(注)2003年度までは決算、2004年度は補正後予算、2005年度は当初予算ベース。
(資料)財務省
税所
・得
社
会増
2
負、
担
1
増
↑
0
↓
税負担
所
税
▲1
・得
1995
96
97
2004
05
06
社
(年度)
会減
(注)1. 雇用者報酬、社会保障負担の97年度まではSNAにおける実績ベース。負 、
2. 税負担は前年との差を考慮したベース。
担
3. 2005年、2006年度の値はみずほ総合研究所試算。
減
3
(資料)財務省、内閣府、厚生労働省
みずほリサーチ March 2005
5
日本経済
増があった訳ではない95、96の各年度における雇用
たな借金である公債金は2006年度以降再び増加に転
者報酬も、その前年度からそれぞれ5兆円以上も増加
じる見込みである。内閣府は高い名目成長率を見込
していた状況にあった。
んでいるが、仮にこれが実現しなければ、税収の下振
翻って、2005、2006年度は家計負担の増加こそおの
おの0.9兆円、1.8兆円程度と97年度と比べれば少額
に留まるものの、最近までのパートタイマー化の進展な
れが予想され公債金は一段と増加することになる
(図
表6、図表7)
。
財政の健全化には、①景気回復による税収の自然
どにより、雇用者報酬の前年度からの増加は、2005、
増、②適時性のある増税、③聖域なき歳出削減、をバ
2006年度ともに2兆円弱に留まる見込みである。また、
ランス良く組み合わせることが必要である。ただし、
雇用者報酬の増加が小幅に留まるなか、2004年度よ
少なくとも2005年度予算において政府が編成したの
り既に家計負担が増加している状況にある。今後、家
は、家計への増税のみであり、歳出の削減に本気で
計は97年度に感じた以上の可処分所得の減少を実感
取り組む意欲を確認することはできなかった。
することになる可能性も考えられる
(図表5)
。
「中期展望」において内閣府が描く経済成長率のシ
ナリオが正しいとすれば、2006年度以降の一般会計
財政健全化のために何が必要か
の予算編成は自律的な景気の回復が視野に入る状
況の中で行われる見込みである。改革断行への意欲
2005年度予算を受け、内閣府は「構造改革と経済
が鈍りかねない景気回復下において、
「『中期展望』が
財政の中期展望−2004年度改定」
(以下「中期展望」)
示すような歳出の増加をいかに抑制していくか」が財
において、中長期的な財政の姿を試算している。これ
政健全化への第一歩を踏み出すに当たっての課題に
によると、税収は、名目経済成長率の回復や家計に
なると考えられる。A
対する増税を前提に大幅な増加を見込んでいる。そ
の一方で、歳出は高齢化の進展を映じた社会保障関
みずほ総合研究所 経済調査部
係費の増加や金利上昇による国債費の増加により拡
エコノミスト
大の一途をたどることが想定されていることから、新
[email protected]
●図表 6 内閣府「財政の中期展望」
年度
(単位:兆円程度)
2005
2006
2007
2008
2009
歳入
82.2
84.5
89.6
93.3
98.3
税収
44.0
46.2
47.8
50.2
53.6
3.8
3.9
4.0
3.7
3.8
公債金
34.4
34.5
37.8
39.3
40.9
歳出
82.2
84.5
89.6
93.3
98.3
その他収入
一般歳出
47.3
47.7
49.0
50.5
52.4
社会保障関係費
20.4
21.3
22.6
24.2
25.9
公共事業関係費
7.5
7.3
7.1
6.9
6.7
その他
19.4
19.1
19.2
19.5
19.8
地方交付税等
16.1
17.3
19.7
19.9
20.3
国債費
18.4
19.1
20.5
22.9
25.6
(%) ▲ 4.0
プライマリーバランス
▲ 3.1
▲ 2.7
▲ 2.1
▲ 1.5
(注)1. プライマリーバランスは SNA
(国+地方)
ベースの対名目GDP比。
2. 歳出、歳入の2005年度は当初予算案。
3.シャドー部分は中期展望。
(資料)内閣府
6
みずほリサーチ March 2005
名取就一郎
●図表 7 「中期展望」
の前提となる名目成長率予測
(%)
予測
5
4
3
2
1
0
▲1
▲2
▲3
1997
2000
(注)中期展望策定に当たっての前提。
(資料)内閣府
05
09
(年度)
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