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米株市場最高値と FRB、Fed ビューか BIS ビューか

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米株市場最高値と FRB、Fed ビューか BIS ビューか
リサーチ TODAY
2014 年 7 月 17 日
米株市場最高値と FRB、Fed ビューか BIS ビューか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
今年5月にTODAYで「米株はバブルか?」としたテーマを取り上げたことがあった1。そこでは、みずほ総
合研究所が発表したリポート「米国株はバブルなのか」をベースに議論した2。そこでの我々の認識はPER
等のバリュエーションからみるとまだバブルとは言い切れないとのものだった。ただし、その後も米国株式は
上昇を続け、7月3日にはダウ平均が節目となる17,000ドルを上回るに至っている。下記の図表は米国株
式の状況を示しているが、最近の水準は2007年のサブプライム問題に至る前の経済活況の時期を大きく
上回っている。こうした状況について、中央銀行であるFRBがどのようなスタンスにあるのか、欧米における
金融市場へのFRBの対応の潮流を探ることが本論の目的である。
■図表:米国株式の推移
(2006年初=100)
200
180
NASDAQ総合指数
ダウ平均
S&P500
160
140
最高値更新
120
100
80
60
40
06
07
08
09
10
11
12
13
14
(年)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
株式市場の高騰に対するFRBの対応について筆者は、従来からFedビューとBISビューの違いとしてきた。
次ページの図表はFedビューとBISビューを比較したものである。Fedビューにおいては、資産価格の上昇と
その下落には中央銀行の関与は限定されるべきとし、一度、その大幅な下落が生じる場合は果断な金融
緩和を中央銀行が行うべきとする。一方、BISビューにおいては、資産価格の高騰が生じる前の段階で、中
央銀行が予防的な金融政策によって抑制的に対処すべきとの処方箋になる3。
1
リサーチTODAY
2014 年 7 月 17 日
■図表:FedビューとBISビューの比較
Fed ビュー
資産価格が大幅な上昇を示しても金融政策
内 で対応する必要はない
容 予防的引き締めはコストが大きい
処
方
箋
バブルが崩壊すれば思い切って金融緩和を
行う
バブルが発生してもそれが崩壊してから対
応すればいい
BIS ビュー
資産価格の上昇期における過度な金融拡張を
重視し、その時期に資産価格の上昇を抑制する
予防的引締め的政策運営を行う
(lean against the wind)
インフレ、デフレを発生させないように物価の
安定を精力的に追求する
(資料)みずほ総合研究所
7月3日の講演でFRBのイエレン議長は、米国株式はバブルではないとし、バブルに対しては金利の引
き上げではなく金融のプルーデント対策で対処すべきとした。こうした動きは、すでにBISが発していた典型
的なBISビューのメッセージであった「中央銀行は緩和的な動きを早期に転換すべき」とするスタンスに対応
したものであった。今日も予防的引き締めはデフレをもたらすとして、そのコストは大きいとの見方が米国で
は一般的である。もちろん、客観的な環境としてすでに2007年以降の深刻な金融危機を経てきただけに、
米国においてもそれまでのようなナイーブな形でFedビューへの信奉が続く状況ではなく、今日もBISビュー
による予防的引き締めに対する様々な議論が戦わされている。ただし、FRBが基本的にはFedビュー的なス
タンスを続けるとすれば、金融政策は緩和的状況が予想以上に続く可能性がある。今日の長期金利が上
がりにくいのは以上のスタンスを市場が認識しているからと考えられる。
今日の米欧における金融当局は、2007年以降の金融危機に対し公的資金での対応、納税者負担が必
要になったことに対し、その反省と政治的なアリバイ作りから金融規制を強めて「再発を防止」するとのスタ
ンスにある。一方、大恐慌以来ともいえるバランスシート調整に対して、各国中央銀行が未曾有の金融緩
和を行い、その資金が様々な分野でバブル的な動きを生じさせている。すなわち、現在の金融の状況はか
つてないほどに金融アクセルを全開にしながら、同時に金融規制で今まで以上のブレーキを導入しようと
する「自己矛盾」を抱える状況にある。
しかも、ブレーキは、政治的スタンスとして国民にいかに金融に厳しい対応を行っているかを示す必要が
あるだけに厄介だ。そのアリバイ作りが、大手銀行への追加的な資本付加であり、さらに変動に対処したス
トレステストを徹底させること、すなわち変動にいかに対処できるかのシミュレーションを行わせることになる。
今後もこのような自己矛盾的な両方の動きが続くと展望され、その行く末がどうなるのかはまだわかってい
ないことに、今日の本質的な問題があるようにみえる。
1
「米国株式はバブルか?」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2014 年 5 月 16 日)
武内浩二「米国株はバブルなのか」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014 年 5 月 1 日)
3 Fed ビュー、BIS ビューに関する議論は、小野亮「後始末型金融政策は万能か」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014
年 7 月 9 日)を参照いただきたい。
2
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
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