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世界中、地政学リスクばかり、原油価格は高止まり

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世界中、地政学リスクばかり、原油価格は高止まり
リサーチ TODAY
2013 年 10 月 18 日
世界中、地政学リスクばかり、原油価格は高止まり
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
先月は国際的にシリア問題が大きな注目を集めたが、今日、地政学的なリスクはシリアだけではない。下
記の図表は地政学的な問題をプロットしたものであるが、問題の所在は世界的なレベルに拡散している。
シリアを中心とした中東・北アフリカ地域に限定してもアラブの春以降の不安定化は続いている。第二次大
戦後、米国・ソ連の2大強国による冷戦下による世界への覇権が大きく転換した。ソ連崩壊で出来たロシア
の影響力の低下、米国のもつ影響力の低下と、中国という新たな覇権国家の台頭のなか、地域での紛争
が増加する状況にあり、こうした構造は2010年代の特徴と考えていいだろう。
■図表:主な地政学的問題
イスラエル
シリア(内戦)
反イスラエルを掲げるアラブ諸国との
対立が続いており、特に核開発を行う
イランとの関係は深刻。過去には、
アラブ諸国との間で中東戦争を引き
起こしており留意が必要。
2011年1月に反政府デモが発生。それ以降、
アサド政権による反体制派への弾圧が激化し、
内戦状態に発展。アサド政権の化学兵器使用
をきっかけに一時米国が軍事介入を公言。
現在、シリアが保有する化学兵器の国際管理
に関する安保理決議に向けて調整中。
北朝鮮
核開発を進行中。北朝鮮が
瀬戸際政策を強めれば、東ア
ジア情勢の緊迫化が懸念される。
リビア
内戦終息後も国内の混乱が続く。
ストライキの発生で原油生産は
足元で急減。原油輸出は内戦開始
(2011年)以降でも最低の水準。
東アジア海洋域
中国は、北朝鮮、韓国、日本、
フィリピン、ベトナム、マレーシア、
インドネシア、ブルネイの8カ国と
海洋領有権を巡って係争中。特に、
ベトナム、フィリピン、日本との
摩擦が高まっている。
ナイジェリア
OPECに加入する
アフリカ最大の産油国。
原油盗掘によるパイプ
ラインの破壊によって
生産停止が頻発。
イラン
エジプト
8月に事実上の軍事クーデターが発生。
中東原油の輸送経路であるスエズ運河
とスメドパイプラインを抱えており、政情
不安は原油供給の途絶リスクとなる。
イラク
米軍撤退後も国内テロが頻発し、
パイプラインの破壊も発生している。
核開発の中止を求める欧米と
の対立が長期化している。欧米
による経済制裁によって国内経
済は困窮し、原油生産も減少。
核開発に危機感を持つイスラエル
との対立も深刻。
(資料)各種報道等よりみずほ総合研究所作成
リスク管理の世界では、今日、「テールリスク」と呼ばれる事象が重視される。それは、起こる可能性は低
いものの、万が一生じた場合にはその影響が大きいリスクを指す。本論における地政学的リスクはまさにそ
の好例であろう。紛争という「万が一」のケースが生じた場合、金融市場では何が起き、世界経済にどのよう
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リサーチTODAY
2013 年 10 月 18 日
な影響が生じるかについては、「ストレス・テスト」とされる思考実験が必要になる。みずほ総合研究所は先
月、原油に関するするリポートを発表し1、シリアを中心とした中東情勢の変化に伴う原油価格への影響分
析を行っている。同リポートによる原油価格の予想結果は下記の通りだが、2010年代は過去の地政学的影
響を受けて、一時的に原油価格が跳ね上がる動きが繰り返された。
■図表:原油価格推移と予想
(ドル/バレル)
イランの核開発
を巡る緊張
140
WTI
(四半期平均)
120
シリアへの軍事介入
を巡る高騰
予測
リビア空爆時
100
80
60
WTI
(年平均)
40
20
0
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14 (年)
(注)予測は、みずほ総合研究所
(資料)Bloomberg
今後の原油市場の需給環境を展望すれば、シェール革命に伴い米国の供給量が拡大する一方で、世
界的な需要が2000年代半ばまでの経済活況時にみられたペースには戻らないことから、需給全体では下
押し圧力が生じうる。ただし、本論にも示した2010年代以降の地政学的な変動要因の高まり、なかでも中
東・北アフリカという、依然として原油の産出の大半を占める地域での不安が拡大する状況が続いている。
各国の民主化運動は、独裁や、イスラム主義、君主制といった権威主義と対立するだけでなく、それらの権
威主義の間にあったこれまでの対立を助長し、なおかつテロを含む地域の不安定さも誘発しやすい構造を
生み出している。しかも、昨今、米国のオバマ政権の求心力が益々低下しているだけに、地域紛争の安定
化が容易でなくなっている点も非常に気掛かりだ。従って、中期的にはこのような緩和的な原油需給環境
のもとではあるものの、地政学的なリスクに伴うリスクプレミアムが加わることで、原油価格については90ドル
台を大きく下まわらないような高値が続きやすいと考えられる。
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井上淳「中東情勢を巡る原油の高騰リスク」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2013 年 9 月 13 日)
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
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