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米国住宅市場の供給制約は小さく、景気回復余力あり
リサーチ TODAY 2014 年 10 月 9 日 米国住宅市場の供給制約は小さく、景気回復余力あり 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 今年は年初より米国の住宅市場では改善の遅れが指摘されていた。イエレンFRB議長は、7月16日、17 日の議会証言で、住宅市場の2014年以降の動きについて「失望させられた」と、懸念を示していた。下記 の図表で関連指標の動きをみると、中古住宅販売は2013年後半から2014年初まで減少傾向を示し、新築 住宅販売は昨年から盛り上がりに欠ける推移を続けていた。しかし、夏場以降は中古住宅が増加傾向を示 し、足元では新築住宅が大きく増加するなど、住宅販売の改善が確認される。みずほ総合研究所は8月と 9月の2回にわたり、米国の住宅市場の供給制約に関する検証リポートを発表している1。8月には米国の建 設従業員の側面から、9月には住宅資材・用地問題から分析を行ったが、どちらも大きな制約要因にはな っていないというのが今回の結論である。 ■図表:米国の住宅販売件数の推移 650 (年率、千件) (年率、千件) 中古住宅 販売件数(右目盛) 550 5,000 4,500 450 350 4,000 新築住宅 販売件数 中古住宅販売は減少したが、 均してみれば増加傾向。 新築住宅販売は大きく増加。 3,500 250 2011/02 5,500 2011/08 2012/02 2012/08 2013/02 2013/08 2014/02 2014/08 (資料)米国商務省、全米不動産協会(NAR)よりみずほ総合研究所作成 まず、8月のリポートでは、建設従業員の問題から供給制約を検証したが、建設業に関する失業率、欠 員率、賃金動向をみると全米レベルでの建設従業員の労働需給は依然として緩和的と評価でき、建設労 働者が供給制約になっているとは認められなかった。南部では一部にひっ迫の兆候があるが、全米への影 響はまだ限られる。一方、9月のリポートでは住宅資材・用地問題を分析した。そこでは、住宅用建設資材 の不足は軽微であるが、開発用地については厳しい土地の開発規制が影響し不足が深刻な面もあるとし た。ただし、建設コストが供給制約になっている様子はなく、戸建て住宅に関してはコスト上昇を販売価格 1 リサーチTODAY 2014 年 10 月 9 日 に転嫁できている。集合住宅については建設コストそのものが抑制されており、コストが供給制約になりにく い状態にある。 このように、米国の住宅市場の供給制約は、一部の開発用地不足を除けば、さほど深刻ではないといえ る。下記の図表に示された住宅着工件数の推移をみると、戸建て住宅の着工件数は、2013年に年率60万 件程度の水準で頭打ちの状況を示した。こうした推移は、一時的に供給制約が影響した可能性をうかがわ せるが、足元では持ち直し始めている。また、集合住宅着工件数は2013年半ばころから概ね増加傾向を続 けており、供給制約が大きな重石になった様子はない。その結果、住宅が米国の景気回復の制約にもなり にくいと考えられる。 ■図表:米国の戸建て・集合住宅着工件数の推移 800 (年率、千件) 600 足元で2013年の 停滞から脱却の兆し 戸建て住宅着工件数 400 200 2013年半ば頃から 概ね増加傾向。 8月には減少。 集合住宅着工件数 0 2011/02 2011/08 2012/02 2012/08 2013/02 2013/08 2014/02 2014/08 (年/月) (資料)米国商務省よりみずほ総合研究所作成 10月3日に発表された9月の雇用統計は予想を上回る改善を示し、米国景気の改善基調が確認された。 本論で述べたように、米国の回復のカギを握る住宅分野で供給面からの制約が限られるとすれば、米国経 済の全般的状況については安心感が増してきたと評価される。一方、地政学的には米国が「イスラム国」に 対する軍事行動の拡大に踏み切ったことは、対テロ戦争の終結を公約としてきたオバマ政権にとっては重 大な方針転換であり、今後の米国政治・政策に大きな影響を与えうる2。中間選挙を11月4日に控え、内外 の政治的環境は不透明感を強めているが、経済面では2015年に向け米国経済の回復が世界をリードする 状況にある。世界経済全体には足踏み感が生じているが、米国経済は次第に回復感を強めており、それ がドル高の一因にもなっている。 1 2 山崎亮「米国の建設従業員は足りないのか」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014 年 8 月 6 日) 山崎亮「米国の住宅資材・用地問題の分析」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014 年 9 月 17 日) 安井明彦「米国による軍事行動拡大の意味」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014 年 9 月 19 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2