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PDF/668KB - みずほ総合研究所
2014.3-4 vol.11 みずほ総研 http://www.mizuho-ri.co.jp T imely & T opical 法人減税が「プロビジネス的政策」の帰趨を決する 宮崎和貴 みずほ総合研究所 上席執行役員 首席エコノミスト 安倍政権の経済政策「アベノミクス」が始動して1年 税を実行すれば、企業は税負担軽減によって競争力が向 が過ぎ、この間の政策の進捗度などを評価すれば、日本 上するほか、新たな起業の創出や外国企業の誘致といっ 経済再生の「土台」はある程度築かれたといえるでしょう。 た波及効果も見込めるでしょう。 「第一の矢」の金融緩和は海外投資家を中心に期待感を醸 第2に、資本コストの低下による国内設備投資の活性 成し、円安・株高の進展に大きく寄与する一方、 「第二の 化です。みずほ総研の試算では、仮にドイツ並みの水準 矢」の財政出動による公共事業は景気を底上げし、実体 まで引き下げると、10 年間で累計4兆円程度の投資押し 経済にも好影響が表れ始めています。 上げ効果が見込まれることがわかりました。設備は将来 ただ、企業や消費者のデフレマインドは転換しつつあ の企業収益の源泉です。国内に設備があれば、企業収益 るとはいっても、デフレ脱却と景気回復の足取りは道半 の増加だけでなく、家計の賃金増加という形でも、その ばです。今後の成否は「第三の矢」の成長戦略にかかっ 成果を享受できます。 ています。安倍首相が「プロビジネス(企業活動重視) 」 そして第3に、 「アベノミクスで日本経済が再生できる」 の姿勢を前面に打ち出し、 「産業競争力強化」や「国家戦 という市場の「期待」をつなぎとめることです。現在の 略特区」などの政策によって「成長の道筋」を示した点 アベノミクスは、円安・株高という外部環境に大いに助 は評価できますが、 「経済の好循環」を実現するためには けられていることは間違いありません。ここで、これま 具体策の設計と実行が伴わなければいけないと思います。 で掲げてきた「プロビジネス」の姿勢に反して法人減税 なかでも、規制改革と並び成長戦略の本丸の1つとみら の実行を見送れば、 市場は「日本経済はやはり変われない」 れる「法人実効税率(国税と地方税の法人所得に対する と一気に失望し、円高・株安へ再び戻る事態も想定され 比率)の引き下げ」は、3つの観点から必ず実行すべき ます。そうなれば、再生の機運が高まっている日本経済 であると考えます。 は腰折れしてしまいます。 第1に、日本国内の立地競争力の強化です。復興特別 法人減税以外にも成長戦略の「柱」となる政策はあり 法人税の廃止を1年前倒ししたことにより、2014 年度の ますが、それが実効性の高いものであっても実際に効果 日本の法人実効税率は 35.64%(東京都の場合)に低下し が表れるまでには数年の時間を要するでしょう。それま ますが、ドイツ(29.55%)や中国(25.00%) 、シンガポー での間、日本経済が持続的に成長していくとの内外の「期 ル(17.00%)などに比べ依然として高水準です。法人減 待」を失うわけにはいかないのです。 (談) 1 R ecent R esearch アベノミクスの評価 どでも成果を上げたと評価した。 及第点をもらったアベノミクス 2年目の宿題は「ビジネス環境 No.1」 中国・韓国などとの対外摩擦をマイナス要因として指摘し、 ただ、安倍政権の財政健全化に対する不明確な姿勢や、 「三本の矢」の合計 75 点から5点を差し引いた結果、全体 の採点は 70 点となった。 みずほ総合研究所は1月末、 安倍政権による経済政策「ア 政策提言では、 「三本の矢」を強化・補完する 10 項目を ベノミクス」の1年間(2013 年)を 100 点満点で「70 点」 具体的に示した。ドイツ並みの水準に法人実効税率を引き と採点する緊急リポートを公表した。リポートでは、法人 下げ、立地競争力強化や国内投資活性化を促すことや、メ 税制の見直しやメガ FTA 交渉の推進など、デフレ脱却・ ガ FTA 交渉全体を統括する司令塔(経済連携戦略本部) 日本経済再生に向けて課題となる 10 項目の政策提言も示 を設置し、並行して国内改革を実施することで交渉を推進 している。 することなどを挙げ、各提言の相乗効果で「世界で一番ビ アベノミクス1年の全般的な評価については、 「 『期待』 ジネスがしやすい環境」を作ることを求めている。 を醸成するという面では、大きな成果」があったとしてい また、 14 年前半が 「アベノミクスの正念場」 と捉えており、 る。そのうえで、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民 成長の好循環実現は官民の共同作業であり、今後は民間の 間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」からなる経済政 取り組みが欠かせないとした。物価が上昇傾向に転じ、消 策について、100 点満点で 75 点程度の評価が可能とした。 費増税も予定されていることから、好循環にシフトできる 具体的には、 「量的・質的金融緩和」を実施した 13 年4 かどうかは「賃上げ」がカギを握ると指摘。所得の拡大を 月以降、 円安・株高の動きを促したなどとして、 金融政策(第 ベースとする好循環が持続的なものとなれば、財政の健全 一の矢)の評価を 40 点満点で 35 点と採点した。また、財 化も進み、安定的で成熟した経済社会のモデル(日本モデ 政政策(第二の矢)についても、 10 兆円規模の補正予算(12 ル)を築くことができるとしている。 年度)を組むなど、景気底上げに寄与したとして、30 点満 点で 25 点と高めの評価を与えている。他方で成長戦略(第 『緊急リポート』2014 年 1 月 23 日 アベノミクス 1 年間の評価は 70 点~ビジネス環境 No.1 に向 けた 10 の政策提言~ ☞ h ttp://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/ urgency/report140123.pdf 三の矢)の評価は 30 点満点で 15 点と低めの評価となった。 踏み込み不足の規制改革も散見されるものの、 13 年末に 「産 業競争力強化法」を可決・成立させたほか、幅広い経済活 性化策を盛り込んだ成長戦略をまとめ、TPP 交渉参加な ■アベノミクス 1 年間の採点表 金融政策 (第一の矢) 財政政策 (第二の矢) 配点 評点 40 点 35 点 30 点 25 点 30 点 15 点 評価におけるポイント ○「異次元の金融緩和」でレジーム転換を印象付け、為替の円安にも成功 ○ 本格的な貸出増には至らず ○ 経済対策により補正予算を編成し、景気の底上げに寄与 ○ 公共投資に依存する従来型の対策から脱しきれず ○ 幅広い経済活性化策を盛り込んだ成長戦略を予定通り取りまとめ、またTPP 成長戦略 (第三の矢) 交渉参加などで成果を上げた ○ 規制改革の踏み込み不足や法人実効税率引き下げの見送り等の課題も 「三本の矢」合計 100 点 マイナス5点 ○不明確な財政健全化への道筋 ○中韓等との対外摩擦 最終評価 70 点 資料:みずほ総合研究所作成 75 点 ■「ビジネス環境 No.1」に向けた10の政策提言 法人税制の見直し 雇用の流動化 金融緩和の追加措置 医療サービスの拡大 メガ FTA の推進 農業の再生 東京五輪に向けた施策 攻めのインフラ政策 家計のリスク資産投資 現実的なエネルギー政策 資料:みずほ総合研究所作成 お問い合わせ・取材のお申し込み みずほ総合研究所総合企画部広報室 03-3591-8828 または [email protected] 2 P roducts & S ervices 新入社員・新任担当者の「基本スキル」を高める ビジネスセミナーを多数開催 ■「新入社員実務セミナー」開催コース 社会人の基本と仕事のすすめ方 東京 教育事業部 ビジネスマナー基本体得 コミュニケーションスキル強化 ビジネス文書・E メール入門 ずほ総合研究所では、総務・ み の特性を踏まえた指導を行い、社 人事、財務・会計、経営・ 会人として必要な基本スキルが 内部統制、ビジネススキルなどを 身につく実習中心の参加型セミ テーマに、実務に役立つ「みずほ ナーである。 セミナー」を年間約 550 講座、東 また、4月・5月は人事異動が 京・大阪の2会場で開催している。 多い時期でもあり、新任担当者な 新年度である4月は、新入社員 どを対象に、基礎・入門講座を多 の早期戦力化に役立つ「新入社員 数開講。講師による基礎知識や最 人事担当者の基礎知識 実務セミナー」を2日~8日に集 新事例の解説など、1日あるいは 基礎からわかる貿易実務セミナー 中開催する。少人数制で、経験豊 2日間で集中的に習得できる内 かな講師陣が受講者一人ひとり 容となっている。 P referred R eports 調査リポート 大阪 1から学ぶビジネスマナーと 仕事のすすめ方 ■「基礎・入門」実務セミナーのテーマ例 2日間で学ぶ「内部監査」の基本と実践 簿記・経理事務と決算書入門 新任総務担当者の基礎実務 新任管理者 絶対押さえたい管理の基礎 http://www.mizuhosemi.com/ 2014 年1~2月にコーポレート・サイトでアクセス数の多かったリポートから紹介しています。 『みずほインサイト』2013 年 12 月 25 日 設備投資が年平均7%増でも 企業の資金余剰は解消されず 企業の借入需要は増えるのか ~現預金の取り崩しを考慮した借入増加額の試算~ ☞http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/jp131225.pdf 調査リポート 住宅・雇用・政策の課題が解消し 米景気は本格拡大のチャンス オピニオン 『みずほインサイト』2013 年 12 月 24 日 米国版「3 本の矢」 と投資復活の期待 ~米国経済の回顧と展望 (Back to the future?) ~ ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/us131224.pdf 『エコノミスト Eyes』2014 年 1 月 10 日 消費増税の景気下支えにも 春闘賃上げ率は3%程度必要 今度は経営側に必要な 「異次元」賃上げ決断 ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/opinion/eyes/pdf/eyes140110.pdf オピニオン 世界的にも厳しい物価目標達成は 金融政策の 「戦略・戦術」がカギ オピニオン 『私論試論』2013 年 12 月 27 日 世界的ディスインフレが促す日銀「次の一手」 ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/opinion/shiron/pdf/shiron131227.pdf 『コンサルタント・オピニオン』2013 年 12 月 10 日 「成長の道筋」を全社で共有し 経営環境の急変に柔軟対応 中期経営計画を策定し 「組織の力」を引き出す ☞h ttp://www.mizuho-ri.co.jp/publication/opinion/business/pdf/ business131210.pdf お問い合わせ・取材のお申し込み みずほ総合研究所総合企画部広報室 03-3591-8828 または [email protected] 3 2014 年 2 月 20 日現在の情報に基づいて作成しています。予定は変更される場合があります。 B iz C alendar 3 (日付は現地時間) 4 2014 月 月 ▶日銀短観(3 月調査) 1 ▶ハッカーコンテスト「SECCON2013」全国大会 (~ 2 日、東京電機大学千住キャンパス) 5 ▶ユーロ圏 2013 年 10 ~ 12 月期の GDP 改定値 !1 ▶中国の全国人民代表大会開幕 ▶地球温暖化対策税(環境税)が増税 6 ▶ ECB 定例理事会(フランクフルト) ▶高校無償化を年収 910 万円未満の世帯に縮小 10 ▶日銀金融政策決定会合(~ 11 日) 1 !1 ▶消費税率を 5%から 8%へ引き上げ ▶住宅ローン減税の年間減税額を引き上げ ▶病院・診療所での初診料、再診料などを引き上げ ▶住宅購入者に最大 30 万円の「すまい給付金」給付開始 ▶自動車取得税を引き下げ ▶ 13 年 10 ~ 12 月期の GDP 速報値(2 次) ▶自動車重量税、エコカーで減税拡大、経年車(13 年超 18 年未満)で増税 11 ▶東日本大震災から 3 年 18 ▶米 FOMC(~ 19 日) 2 ▶ユーロ圏 13 年 10 ~ 12 月期の GDP 確定値 19 ▶ ECB 定例理事会(フランクフルト) 3 ▶ ECB 定例理事会(フランクフルト) 20 ▶大気汚染に関する日中韓3カ国政策対話(~ 21 日、北京) 7 ▶日銀金融政策決定会合(~ 8 日) ▶ EU 首脳会議(~ 21 日、ブリュッセル) 24 !2 ▶日本取引所グループ、 東京と大阪の両取引所のデリバティ ブ市場を大証に統合し、名称を「大阪取引所」に変更 ▶核安全保障首脳会議(~ 25 日、オランダ ・ ハーグ) ▶気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 38 回総会 (~ 29 日、パシフィコ横浜) 27 ▶米 13 年 10 ~ 12 月期の GDP 確定値 31 ▶日本赤十字社が東日本大震災被災者への義援金受け付け終了 11 ▶ IMF・世界銀行春季総会(~ 13 日、ワシントン) ▶G20 財務相・中央銀行総裁会議(ワシントン) ▶独立行政法人原子力安全基盤機構を廃止して原子力規制庁 に統合 ▶羽田空港国際線ターミナルの拡張部分が供用開始 ! !2 ▶マイクロソフトが「ウィンドウズ XP」 、 「オフィス 2003」 のサポート終了 !3 25 月内 9 12 ▶第 8 回軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合 (広島市) 16 ▶ ECB 定例理事会(フランクフルト) 29 ▶米 FOMC(~ 30 日) 30 ▶日銀金融政策決定会合 ▶米 1 ~ 3 月期の GDP 速報値 ▶公示地価の公表 月内 ▶ BRICS 首脳会議(ブラジル・フォルタレザ) ! ① 例 年 3 月の全人代でその年の成長目標が公表される。既に複数 の省・自治区が、前年よりも成長目標を引き下げており、中国 指導部が成長目標(+ 7.5%前後) を引き下げる可能性も示唆。 !3 ▶オバマ米大統領がアジア歴訪 ① 1 7 年ぶりの税率引き上げ。社会保障の安定、財政再建には必 要な措置だが、種々の負担軽減策でも国民負担は大きく、増 税後は消費低迷による一時的なマイナス成長が不可避。 ② 近 年、金融取引のグローバル化・高度化により、デリバティブ 取引の需要が拡大。取引高世界 17 位にとどまる市場が存在感を どれだけ出せるかが課題。 ② セ キュリティ更新プログラムの提供が終了。標的型攻撃によ り、重大な情報漏えい事故のリスクが増大するが、13 年末時 点でなお 1,000 万台超のパソコンが XP を使用といわれる。 ③ 温 暖化が生態系に与える影響などについて評価する最終報告書を 承認する。温暖化による海面上昇などで、今世紀末までにアジア を中心に数億人が移住を余儀なくされるなどと予測。 ③ 昨 年 10 月の政府機関一部閉鎖により、アジア太平洋経済協 力機構(APEC)への出席に合わせた東南アジア歴訪を中止 しており、アジア重視戦略の建て直しと信頼回復を図る狙い。 P roducts & S ervices 経営の現場で役立つ 「実務小冊子シリーズ」好評発売中! みずほ総合研究所では、財務・会計や 処理などを紹介した『経営改善と財務情 人事、法務など日々のビジネスで直面す 報の開示拡充に役立つ! よくある財務 る経営課題について、実務に徹した切り 相談 25 例』で、好評発売中。 口で解説した小冊子を刊行している。 最新号は、非上場の中小・中堅企業に も適用することが有用と考えられる会計 ■みずほ総合研究所相談部 編集・発行 (http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/ book/publishing.html) 発行●みずほ総合研究所総合企画部広報室 03-3591-8828/[email protected] 発行日● 2014 年 3 月 1 日 c 2014 Mizuho Research Institute Ltd. 4