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PDF/704KB - みずほ総合研究所
2012.7 vol.1 みずほ総研 http://www.mizuho-ri.co.jp T imely & T opical 電力不安定供給と日本経済 矢野和彦 みずほ総合研究所 経済調査部長 電力需要が増える夏場を迎え、日本経済は電力の安 とはありません。経済界の多くは、製造業を中心に企 定供給をいかに実現していくかが問われています。政 業の海外移転に拍車がかかる恐れがある、と見ていま 府は一部原子力発電所の再稼動は避けられないとして す。ただし、製造業が電力の不安定供給だけを理由に、 いますが、各地の原発停止・再稼動の遅れに伴う電力 日本から飛び出すとは思いません。世界を見渡せば、 不足の長期化は避けられそうになく、産業活動とりわ 電力インフラの整備が遅れている国・地域は少なくあ け製造業の生産活動への悪影響が懸念されています。 りません。中国や韓国ですら、昨年はブラックアウト みずほ総合研究所では、ラフな試算ですが、関西電 (大停電)が起きました。翻って、日本の停電の少な 力と九州電力の管内ですべての原発が再稼働せず、7 さは世界でも突出しており、電力供給は諸外国に比べ ~9月に電力不足が生じた場合、それだけで 2012 年 てはるかに安定しています。 度の実質GDPは 0.2% pt 程度押し下げられると見て とはいえ、製造業にすれば国内の立地条件は東日本 います。他方、電力供給の不足分は、主に火力発電で 大震災前から「5重苦(歴史的な円高、高い法人税率、 穴埋めできたとしても、液化天然ガスなど燃料費の大 厳しい労働規制、温暖化ガス排出抑制、経済連携の遅 幅な増加は必至で、貿易収支の悪化が避けられません。 れ) 」といわれ、 震災後は電力不足が加わった「6重苦」 最近の燃料価格の平均輸入単価で試算すると、燃料の に直面しています。製造業の海外移転は趨勢的に進ん 輸入量増加はGDPを 0.2% pt 程度押し下げます。前 でおり、中長期的には空洞化を招くリスクがあります。 述の電力不足の影響と合わせてトータルでは、短期的 1970 年代の石油危機の後、日本の産業界は省エネ投 には 0.4% pt 程度のGDP押し下げ効果となります。 資を加速させ、産業構造の転換も進めて急回復を遂げ この程度のマイナス幅であれば、為替や資源価格、 た経験をもっています。同様に今日の状況も、日本の 海外景気などにもよりますが、国内の復興需要の高ま 産業界が持ち前の技術力を発揮して電力などのエネル りで相殺されるでしょう。ですから私は、電力不足の ギー効率を高める新技術開発や、エネルギー・環境戦 短期的な影響については、社会生活への影響はともか 略の改革をはじめ産業の高付加価値化を加速させるう く、マクロ経済への影響という意味では限定的なもの えでむしろ好機である、ととらえるべきです。 (談) にとどまるのではないかと考えています。 関連情報 2012・13 年度 内外経済見通し/ 2012 年1~3月期 GDP 2次速報後改訂(2012 年6月8日) ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/forecast/ outlook_120608.pdf もちろん、産業部門の電力消費量の約 85%を占める 製造業にとって、電力の不安定供給がプラスに働くこ お問い合わせ・取材のお申し込み みずほ総合研究所総合企画部広報室 03-3591-8828 または [email protected] 1 R ecent R esearch 企業年金 ミャンマーに先行する 日本企業のカンボジア向け投資 AIJ 問題を受けて進む 厚生年金基金制度の改革論議 AIJ 投資顧問による年金資産消失問題は、現在の企業 アジアの発展から取り残されたイメージの強いカンボ 年金制度が抱える構造問題を浮き彫りにした。なかでも ジア。しかし、2000 年代における年平均の経済成長率は 深刻なのは、同種同業の企業による「総合設立」の厚生 8.0%に達し、政情も安定しつつある。近年、中国やタイ、 年金基金の状況だ。ピーク時に 1,800 以上を数えた基金は、 ベトナムなどで労働コストが高騰するなか、カンボジア 2000 年代前半から解散や代行返上が相次ぎ、10 年度末に が有する低廉かつ豊富な労働力に着目する日本企業の間 は 600 基金を割り込んでいる。現存する厚年基金の大半 では、同国へ生産拠点を移転する動きが加速している。 は総合設立だが、基金全体の4割弱が最低責任準備金を 日本企業のカンボジア進出は、2006 年まで累計 14 件 保有していない「代行割れ」の状況にある。 にとどまっていたが、07 年以降の直近5年間では 39 件 AIJ 問題を受けて厚生労働省は4月、 「厚生年金基金等 に達した。同期間の投資額は累計 2.9 億ドルと、1994 年 の資産運用・財政運営に関する有識者会議」を設置し、 から 06 年までの累計額(2.2 億ドル)を上回った。 厚年基金の制度改革に向けた議論を進めてきた。5月中 カンボジアは、労働力供給という点では周辺国のミャ 旬には、分散投資を徹底する目的で「政策的資産構成割 ンマーに見劣りするものの、外資規制は少なく、外資誘 合(基本ポートフォリオ)の策定」の義務化をはじめ、 致の環境整備に積極的な点が日本企業進出の誘因となっ 基金のガバナンス強化や、外部チェックによる運用管理 ている。同国には現在、稼働中または入居可能な工業団 体制の強化など、新たな規制案がまとめられた。 地がすでに7カ所も整備されている。また、 投資制度では、 一方、企業年金連合会による中小基金の共同運用案は 外国人の土地所有が禁止されている以外に外資への制限 継続協議となっており、それを含めて有識者会議は、積 が見当たらない。さらに輸入関税や付加価値税の免除な み立て不足解消のための給付水準引き下げや解散基準の ど税制上の優遇措置も講じられている。 緩和を検討し、6月末をめどに報告書をまとめる予定で ただし、タイを中核とするインドシナ地域のサプライ ある。こうしたなか、民主党は厚年基金の将来的な廃止に チェーンで、カンボジアが労働集約的工程を補完する拠 言及した案を示し、議論に反映させる意向をもっている。 点としての地位を確立するには、電力供給能力の引き上 厚年基金などの企業年金制度改革の行方が注目される。 げなどの環境整備が急がれる。 ■代行割れしている年金基金数 ■日本のカンボジア向け直接投資 (基金数) 610 (万ドル) 610 15,000 600 478 262 264 200 01 10,000 262 264 175 94 0 02 2000 03 04 01 242 175 161 24 19 05 02 06 03 07 04 213 161 242 (万ドル) 15,000 不動産開発 農業・資源 製造業 10,000 件数(右目盛) 478 400 4 00 アジア投資 (件) 20 不動産開発 農業・資源 製造業 件数(右目盛) 15 213 24 19 08 05 09 06 10(年度末) 07 08 09 10(年度末) 10 5,000 5,000 0 0 5 19 資料:厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議(第 1 回) 資料(2012 年 4 月 13 日)より作成 2000 02 04 2000 0206 0408 19 0610 0 1108 (年) 資料:カンボジア開発評議会資料より作成 『みずほリサーチ/5月号』2012 年5月 1 日 加速する日本企業のカンボジア投資~タイ、ベトナムの補完 的拠点としての活用に期待~ ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/ research/r120501asia.pdf 『みずほインサイト』2012 年5月 24 日 企業年金の現状と改革の見通し~注目される厚生年金基金制 度改革の行方~ ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/ insight/pl120524.pdf お問い合わせ・取材のお申し込み みずほ総合研究所総合企画部広報室 03-3591-8828 または [email protected] 2 10 1 P roducts & S ervices 国 PPP・PFI 案件の 取り組み強化へ 「PPP 事業推進室」 を新設 研究開発部 「みずほセミナー」 新任役員向け講座を 短期集中開催 や自治体の事業費縮小に加え、高 度中には官民共同出資のインフラファ 度成長期に建設された公共インフ ンドも設立予定だ。こうした動きを受 ラの老朽化とその維持管理・更新費の けて、みずほ総研は「PPP 事業推進室」 増大が新たな課題となるなか、PFI 活 を新設し、空港等をはじめとするイン 用を推進するための環境整備が進んで フラ関連の PPP・PFI 案件に積極的に いる。昨年の PFI 法改正に続き、今年 取り組んでいる。 み ずほ総研では、総務・人事、財務・ 分野 セミナー名 会計、経営・内部統制、ビジネス 法務 最新 取締役・執行役員の法的責任と コンプライアンス 戦略 新任取締役・執行役員が果たすべき 戦略的役割 計数 新任役員のための決算書の見方、経 営指標の高め方 スキルなどをテーマに、実務に役立つ 「みずほセミナー」を年間約 550 講座、 東京・大阪で開催している。7・8月は、 特別企画として、今期就任した新任役 員などを対象に、短期集中講座4コー スを開講する。 教育事業部 P referred R eports 調査リポート 2012 年夏の民間企業ボーナスは 前年比▲ 0.8%と 2 年連続減少 調査リポート 海外生産拡大で売上高 24 兆円減でも 日本の製造業は空洞化せず 調査リポート マーケ 新任役員に必須!市場を制するマー ティング ケティングの基本 詳しくは http://www.mizuhosemi.com/ まで 2012 年5~6月にコーポレート・サイトでアクセス数の多かったリポートから紹介しています。 『みずほインサイト』2012 年 4 月 6 日 2012 年夏季ボーナスの見通し ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/jp120406.pdf 『みずほリポート』2011 年 3 月 29 日 製造業の海外展開について~日本の製造業は「空洞化」しているのか~ ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/report/report11-0329.pdf 『みずほリポート』2012 年 5 月 28 日 中国ビジネス、人件費上昇に加え 景気減速が懸念材料として急浮上 オピニオン アジアの景気動向への意識を高める日本企業~ 2012 年 2 月アジアビジネス アンケート調査結果~ ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/report/report12-0528.pdf 『コンサルタント・オピニオン』2011 年 11 月 15 日 2012 年 1 月、節税メリットも活用できる 「マッチング拠出」がスタート オピニオン 従業員の年金資産を厚くする「マッチング拠出」 ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/opinion/business/pdf/ business111115.pdf 『エコノミスト Eyes』2012 年 5 月 30 日 政策の「予見可能性」低下が続けば 日本企業の国内投資は萎縮 「泥縄的政策運営」が損なうニッポンの利益 ☞ http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/opinion/eyes/pdf/eyes120530.pdf お問い合わせ・取材のお申し込み みずほ総合研究所総合企画部広報室 03-3591-8828 または [email protected] 3 2012 年6月 15 日現在の情報に基づいて作成しています。予定は変更される場合があります。 B iz C alendar 7 1 8 2012 月 !1 フランスが株や債券の取引に幅広く課税する「金融取引税」導入 2 ECB定例理事会(フランクフルト) 3 東京しごとの日(従業員の家族による職場訪問「ファミリー デー」 (7月1日~8月 31 日)を実施) 世界銀行総裁にジム・ヨン・キム氏就任(任期は5年間) 5 日本初のタクシー営業開始から 100 年 ユーロ圏の金融安全網「欧州安定メカニズム(ESM) 」発足 6 米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の米国 債格下げから 1 年 8 日銀金融政策決定会合(~ 9 日) !1 「改正育児・介護休業法」が全面施行 「新関西国際空港株式会社」業務開始 オーストラリアが「炭素価格制度」 (炭素税)導入 !2 日銀短観(6月調査) 14 ユーロ圏4~6月期のGDP速報値 政府による電力需給対策開始(~9月 28 日) ECB定例理事会(フランクフルト) 9 ユーロ圏財務相会合(ブリュッセル) !3 27 米共和党全国大会(~ 30 日、タンパ) !4 TPP参加9カ国の拡大交渉会合(~ 10 日、サンディエゴ) 5 !2 13 4~6月期の GDP 速報値(1次) 路線価公表 ! 3 30 APEC財務相会合(モスクワ) 民主党が圧勝した第 45 回衆院選投開票から3年 31 2013 年度予算の概算要求提出期限 11 日銀金融政策決定会合(~ 12 日) 世界最大の家電見本市「IFA2012」 (~9月5日、ベルリン) 12 経済同友会夏季セミナー(~ 14 日) 期日未定 ▶厚生労働省が 2011 年の雇用動向調査を公表(上旬) 13 中国1~3月期の経済指標(GDP、CPI 上昇率など) 16 APEC環境相会合(~ 18 日、ハバロフスク) ▶ASEANとの経済関係強化へ、日本政府が貿易円滑化など の 10 年計画を策定 19 ECB定例理事会(フランクフルト) ▶今後5年間のインフラ整備指針「社会資本整備重点計画」を 閣議決定 27 米4~6月期の国内総生産(GDP)速報値 31 米 FOMC(~8月1日) ▶東海道新幹線に、ブレーキ性能など制動能力を高めた新型車 両「N700A」完成・試験走行(営業運転は 2013 年 2 月) !4 ▶インド産レアアース、日本の国内需要の1割強を輸入 期日未定 ▶東京証券取引所が株式売買速度を1ミリ秒以下に高速化 ▶デジタル製品の関税撤廃拡大へ、WTO 協定の改定交渉 ▶ ASEAN 経済相会合(カンボジア・シェムリアップ) ▶米 FRB 議長議会証言(半期金融政策報告) ! 月 1 再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度スタート ( 「再生可能エネルギー特別措置法」施行) 2 (日付は現地時間) ! ▶日本の技術活用条件付き円借款によるベトナムのインフラ整 備事業で、ホーチミンの都市鉄道着工 1 E U全体で導入合意は得られていないが、3 月にフランス 単独で導入を発表、オランド大統領も選挙で公約。 1 従 業員数 100 人以下の事業主に、これまで猶予されてきた 「短時間勤務制度」 「所定外労働の制限」などを適用。 2 国 内需要中心にプラス成長を維持するが、輸出伸び悩みと 個人消費の減速で、成長率は年率+1%台に鈍化と予測。 2 自 動車の在庫復元の動きは一巡しているが、素材やITの 在庫調整の進展などから、業況は小幅に改善する見込み。 3 ロ ムニー氏が共和党大統領候補に正式に選出され、11 月の 本選を共に戦う副大統領候補を指名。 3 3 月公表の公示地価(1月1日)は、全国全用途平均で4 年連続下落しており、路線価も4年連続下落の公算。 4 5 月の日印閣僚級経済対話で合意。インドから年間 4,000 トン輸入することで、過度の中国依存状態を解消へ。 4 年 内妥結へ不透明感が強まるなか、TPP交渉参加へ意欲 を示す日本など新規参加希望国の取り扱いも協議。 B ook R eview グループ内組織再編 ~機能整備から実務まで~ 層重要になっています。本書では、 より効率的かつ効果的なグループ経 営実現へ向けたグループ内組織再編 の基本構想策定や管理機能設計の進 経営環境の不確実性・複雑性が高まるな め方、再編手法に関わる税務・会計・ か、企業が生き残りを図り、成長を目指し 法務など諸手続きの留意点を解説し ていくうえで「グループ経営」の視点が一 ています。 発行 東洋経済新報社 定価 2,940 円(税込) 発行●みずほ総合研究所総合企画部広報室 03-3591-8828/[email protected] 発行日● 2012 年 7 月 1 日 c 2012 Mizuho Research Institute Ltd. 4