...

本文ファイル

by user

on
Category: Documents
2

views

Report

Comments

Transcript

本文ファイル
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
春季賃金引き上げ率の決定要因
Author(s)
島田, 章
Citation
経営と経済, 71(4), pp.1-16; 1992
Issue Date
1992-03-25
URL
http://hdl.handle.net/10069/28588
Right
This document is downloaded at: 2017-03-31T20:46:47Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
経営と経済第71巻第4号1992年3月
春季賃金引き上げ率の決定要因
島田章
1.序
本論の目的は,春季賃金引き上げ率がどのような要因によって決定される
かを,賃金決定のモデル化とそれにもとづいた回帰分析によって明らかにす
ることである。
Gordon[17]は,日本やイギリスの過去の国民所得の変化に対する賃金の
反応の程度がアメリカのそれに比べて数倍高いことを指摘し,それぞれの国
の労働市場の実態について検討した。日本については,春闘とボーナス・シ
ステムに注目した。一方,労働雇用量の変動にかんしては一般に,アメリカ
l)
のはうが日本よりも高いといわれている。
2)
賃金決定の制度と実態は,国によっておおきく異なる。日本の場合は,春
闘をつうじた賃金交渉による決定が支配的である。日本の賃金決定の特徴を
ひとことで表現すれば,年1回おなじ時期にすべての産業が賃金交渉を行い,
決定された賃金(契約)は1年間有効である。このような特徴は日本特有の
ものである。これに対して欧米−とりわけアメリカやカナダーでは,すべて
の産業が同じ時期に賃金交渉を行わないため,賃金契約期間が重なり合って
いる。また契約期間も,1年間とは限らない。2年間あるいは3年間の場合
3)
もある。さらに生活費調整(cost−Of−livingadjustments)のようなかたちで,
1) ただしTachibanaki[22]によれば,労働雇用量を労働時間(workinghours)ではか
ると,日本はアメリカよりも変動が大きい([22],p.654)。
2) 日本と欧米の賃金決定制度の比較については,Sachs[20]が便利である([20],pp.316
−319)。
3) 日本の賃金が伸縮的であることの理由のひとつとして,賃金契約期間が欧米より
も短いため,経済環境の変化にすみやかに対応できることがあげられる(Tachibanaki
[22],p.658)。
2
経営と経済
インデクセーションが導入されている国も多い。
本論は労働市場の実態(とくに,賃金や雇用の伸縮性)の国による相違の
解明の第一歩として,春闘による賃金決定を考察の対象とする。
賃金がどのように決定されるかについては,さまざまな考え方がある。賃
金決定にかんする理論的な研究としては,松川 [
7Jや F
e
t
h
k
ea
n
dP
o
l
i
c
a
n
o
口3
J[
l4
J[
1
5
J などがあげられる。前者は,日本とアメリカの賃金決定時
期の相違をモデルによって説明することを試みた。また後者は,経済の安定
性と賃金決定時期の集中化にかんする分析を行った。
実証研究の紹介は,本論と類似の目的をもった文献にとどめておく。島田
[5Jでは,春闘の発展過程を概観している([5J
,p
p
.
1
7
8
1
8
2
)。佐野 [4J
では,個別の産業の春季賃金引き上げ額の決定要因を回帰分析によって明ら
,p
p
.
1
2
1
1
6
0
)。また神代[1Jは
, 1
9
6
0年代半ばから 7
0
かにしている([4J
年代終わりにかけての春季賃金引き上げ率および額を被説明変数とした賃金
関数の推計を行っている。神代 [
2J は
, 1
9
7
0年代半ばから 9
1年までの期間
の春季賃金引き上げ率の回帰分析を行い,円高以降(19
8
6年以降)に顕著と
なった労働市場の逼迫に対する賃金率上昇の鈍化の理由を探っている。さら
9
6
0年代以降の賃金決定のかんする詳しい研究として,島田-細川 1
.清家
に1
4) インデクセーションとマクロ経済の安定性については, Gray[
l8
J を参照せよ。日本
a
c
h
s
[
2
0
J によれば,年 2回のボー
では,毎月の賃金はインデックスされていない。 S
ナスによって名目賃金率の目減りの大きな部分が補償されているが,交渉においてそ
[
2
0
,
]p
.
3
1
8
)
oK
o
s
h
i
r
o[
l9
Jや Weitzman[23J
の率がはっきり決められるわけではなし、 (
などによれば,ボーナスは p
r
o
f
i
t
s
h
a
r
i
n
gであると考えられている。
5) たとえば日経連は物価を上昇させない賃金引き上げの達成(生産性基準原理)を主
張し,賃金引き上げを労働生産性の上昇の範囲内に止めようとする(笹島 [3J
,p
.
2
0
3
)。
しかし労働分配率が一定でない場合,このような主張は説得力をもたない。
6) アメリカの現実に対応する賃金決定時期の団塊化(松 J
I
I [7J,p
p
.1
l1-148) と日
I
I [7J,pp.149-182) の両方を
本の春闘に対応する賃金決定時期の完全集中化(松 J
モデルで説明した。
7)
本論では,後からわかるように,産業別の春季賃金引き上げ額ではなく経済全体の
春季賃金引き上げ率の決定要因を探っている。
春季賃金引き上げ率の決定要因
3
[6J があげられる。彼らは,春季賃金引き上げ率の決定要因の分析,賃金
決定の国際比較,賃金関数におけるインフレ予想の役割および同時方程式に
よる賃金決定の分析などを行っている。
神 代 [1Jや島田・細川・清家 [6J によれば,
r
高度成長期」において
は,有効求人倍率等の労働市場の需給逼迫度によって春季賃金引き上げ率が
説明された。一方,
r
安定成長期」に入ると,春季賃金引き上げ率または額
を決定する要因として,労働市場の需給逼迫度とともに消費者物価上昇率や
企業業績などの重要性が増してきた。神代 [2J でも,決定要因が期間によ
っておおきく変化することが指摘されている。
本論は,
r
高度成長期 J(
19
6
0
年前後から第一次石油ショックをきっかけに
4年まで)と「安定成長期 J (第一
過剰流動性によってインフレが高進した 7
次石油ショックによって戦後最大の不況におちいり赤字国債が発行された
1
9
7
5年から 9
0年まで)で,春季賃金引き上げ率の決定要因がどのように変化
したかを明らかにする。その際とくに,企業業績の果たす役割についての検
討を行う。
本論ではまず,賃金決定をモデル化するまえに,いくつかの要因を取り上
げて春季賃金引き上げ率との相関関係を調べる。これによって得られた結果
を参考にして,賃金決定をモデル化し回帰分析を行う。
2
. 相関関係
本節は賃金決定のモデル化の準備として,一般に春季賃金引き上げ率と関
係があると思われている要因を選び,春季賃金引き上げ率とそれらの要因と
の相関の程度を調べる。
2
.1 インフレ率,企業業績および労働市場の需給逼迫度
春季賃金引き上げ率は,労働者と企業家の交渉によって決定される。交渉
8)
一般に第一次石油ショック後に経済構造が変化したといわれているが,厳密にはチ
ャウ・テストを行って確認しなければならない。
4
経営と経済
において,労働者が要求する引き上げ率に影響を与える要因のひとつとして,
インフレ率が考えられる。労働者にとって問題なのは「賃金で買えるものの
量Jである。それは名目賃金率ではなく,名目賃金率を物価水準で割った値
である。したがって労働者が要求する引き上げ率は,インフレ率(具体的に
は,消費者物価上昇率)を考慮して決定されるであろう。
一方,企業家が受け入れられる賃金引き上げ率は,企業家の支払能力に左
右される。企業家の支払能力は,企業の業績によって決まる。
さらに労働者と企業家の双方に影響を与える要因として,労働市場の需給
逼迫度が考えられる。労働の需給が逼迫していれば,労働者の交渉力が高い
であろう。すなわち労働者が求める引き上げ率は高く,また企業家も高い引
き上げ率を受け入れざるを得ないだろう。
要するに春季賃金引き上げ率に影響するおもな要因として,インフレ率,
企業業績,および労働市場の需給逼迫度の 3つが考えられる。これらの要因
のうちインフレ率と労働市場の需給逼迫度は,すべての労働者・企業家にと
って共通な要因といえよう。これに対して企業業績は,対象とする企業や産
業によって異なる。
2
.
2 春季賃金引き上げ率と前年度の消費者物価上昇率,前年度の売上高
経常利益率および前年の有効求人倍率との相関関係
本節では,インフレ率と労働市場の需給逼迫度をそれぞれ消費者物価上昇
率と有効求人倍率によってはかる。また企業業績を,売上高経常利益率によ
つてはかる。
第 2-1表は,春季賃金引き上げ率とそれぞれの要因との相関係数である。
9) ただし,労働市場の需給逼迫度は,個個の市場によって異なる。しかし経済全体で
労働の需給が逼迫するのは,需給が逼迫している労働市場が多い場合である。したが
って経済全体の労働の需給逼迫度は,ある程度まで個個の労働市場の需給逼迫度を反
映していると考えられる。
1
0
)
企業業績をはかる指標としてさらに,総資本経常利益率や従業員一人当りの利益額
あるいは労働生産性などが考えられる。
春季賃金引き上げ率の決定要因
第2
1表
5
春季賃金引き上げ率と消費者物価上昇率,売上高経常利益率および
有効求人倍率の相関係数
高度成長期安定成長期全期間高度成長期*全期間*
0
.
8
1
1
0
0
.
9
3
6
4
消費者物価上昇率
(前年度)
(1960~74)
(1975~90)
売上高経常利益率
(前年度)
一0
.
3
2
5
6
(1967~74)
(1975~90)
有効求人倍率
(前年)
(1957~74)
0
.
9
0
8
4
0
.
5
1
3
0
0
.
4
2
0
0
(1975~90)
0
.
5
5
5
0
(1 960~90)
0
.
4
2
2
7
(1967~90)
O
.7
5
1
2
(1957~90)
0
.
2
9
8
1
(1 960~73)
0
.
3
0
5
7
(1967~73)
0
.
8
9
8
4
(1957~73)
0
.
4
0
3
4
(1 960~90)
0
.
4
6
4
6
(1 967~90)
0
.
6
3
4
8
(1957~90)
注)括弧内の数字は,期間をしめす。
*) 1
9
7
4年を除く。
労働者や企業家にとって賃金引き上げ率の決定で重要なのは,決定された賃
金引き上げ率が有効となる期間(1年間)での消費者物価上昇率,売上高経
常利益率,有効求人倍率である。ところがこれらの値は,引き上げ率を決定
する時点では正確にわからない。本節では労働者や企業家は,これらの予想
値としてそれぞれの l期前の値をもちいると考える。各要因とも l期遅らせ
て春季賃金引き上げ率との相関関係を調べたのは,このような理由による。
春季賃金引き上げ率と消費者物価上昇率との相関は両期間とも高いが
.
r
安
定成長期Jのほうが「高度成長期」よりも高い。これに対して有効求人倍率
との相関係数は,両期間で対照的である。「高度成長期」には春季賃金引き
安定成
上げ率と労働市場の需給逼迫度のあいだの相関関係が強かったが. r
長期」に入ると相関関係は半減した。これらは相関係数に限定した分析であ
る が , 神 代 [1Jや島田・細川-清家 [2J などの今までの研究結果と一致
している。
これに対して,春季賃金引き上げ率と売上高経常利益率との相関係数は両
期間とも負であり,理論的符号条件に反している。このことは企業家が,支
払能力に関係なく賃金交渉に臨んでいることを意味するのだろうか。しかし
1
1
)
ただし,全期間での相関係数は小さいが,値は正である。しかし「高度成長期」と
「安定成長期」で経済構造に変化があったと考えられるから,全期間の相関係数に意
味があるとは考えにくい。
6
経営と経済
第2
1図 賃上げ決定に当たり重視した要素別企業構成比率(第 1順位)
8
0
7
0
にd s 性
UAU
ハ
パーセント
6
0
,
,
,
3
0
ー '¥
崎 、 "
、
一
、
・
, -'ー・・.._....・ー~‘・-',
司
・
、
'
、 . ' 、 ノ
・・ ・
--........'・
2
0
4
n6
6
口
phu
n円U
nHU
n叫d
i
可
nHu
6
qぺU
唱EEA
h
同 d
口
44
o
o
円
r
u
-
nRU
吋d
一一 A:企 業 業 績 一 一 B:世間相場
。
口
n
初年
。
口
庁
i
円
i
戸
B暦
7
西
δ
口
司EEA
i
月
phu
i
月
qtu
hd
,
円,
ne
庁
i
A
せ
ヴt
n
r臼
O
1
9
7
0
7
1
一ー C:労働力の確保・定着
一一 D:物価上昇一-- E:労使関係の安定一一 -F:その他
出所
『労働白書~
アンケート調査
[
8
Jp
.
6
5および p
.参 3
6
.
(
1賃上げ決定に当たり重視した要素別企業構成比率(第 l
順位)J
) によれば,企業業績が 1
9
7
0年代後半以降企業家が賃上げ決定にあた
ってもっとも重視した要因である。
売上高経常利益率との相関係数が理論的符号条件を満たさなかったことに
ついては,つぎの理由が考えられる。
労働者や企業家が,今期の企業業績をはじめ消費者物価上昇率や有効求人
倍率を見込んで賃金交渉に臨んだとしても,彼らの予想のたてかたをどのよ
うにモデル化するかによって,実際の賃金引き上げ率との相関関係はおおき
く変わるだろう o
これらの変数の予想のたてかたとして
2つの考え方がある。ひとつは,
過去の実現値にもとづいて今期の値を予想する方法である。代表的な仮説に
適応的予想仮説がある。適応的予想仮説によれば,今期の予想値は過去の実
1
2
)
これに類する予想仮説として,外挿的 (
e
x
t
r
a
p
o
l
a
t
i
v
e
) 予想仮説などがある。
春季賃金引き上げ率の決定要因
7
現値の加重平均として表現される。 2節では 1期前の実現値を今期の予想、値
としたが,これは適応的予想仮説の一例である。もうひとつは,経済構造や
政策について撹乱的な影響を除けばほぼ完全な情報をもっていて,これをフ
ルに利用して予想形成を行うという考え方である。
前者は主体が利用できる情報の範囲を非常に制限しているし,後者は情報
の範囲を広く考えすぎている。現実には労働者や企業家は,完全に近いとは
いえなくとも過去の実現値よりも多くの情報にもとづいて,予想をたててい
ると考えられる。したがって春季賃金引き上げ率と売上高経常利益率との相
関係数が理論的符号条件を満たさなかった理由のひとつは,労働者や企業家
の売上高経常利益率の予想形成をモデル化する際に,彼らが利用する情報の
範囲を制限し過ぎたためではないだろうか。
さらに予想形成の方法以外に,売上高経常利益率に特有の理由が考えられ
る。春季賃金引き上げ率は,各企業の春季賃金引き上げ率の平均をとったも
のである。春闘では,パタン・セッター(相場決定者)によって決定された
賃金引き上げ率が,他の産業の引き上げ率に波及している。各産業の春季賃
金引き上げ率は,ある程度,他産業の影響を受けている。そのため各産業の
春季賃金引き上げ率と経済全体の平均とのあいだには,共通の傾向があるだ
0
0社)の経
ろう。これに対して売上高経常利益率は,全産業(毎年度,約 6
常利益の合計を売上高の合計で割った値である。企業によって経常利益や売
上高の規模が異なるため,合計することによって個個の企業の業績が相殺さ
れ,おおくの企業の業績に共通の傾向があったとしても,それが数値として
表れない可能性がある。したがって個個の企業の売上高経常利益率と個個の
企業または全産業の春季賃金引き上げ率の平均とのあいだに相関関係がみら
1
3
)
多くの合理的予想モデルでは,主体が経済構造や政策にかんしてほぼ完全な情報が
a
r
g
e
n
t
[
2
1
] の第 1
6章のモデルを参照
利用可能であると仮定されている。たとえば, S
せよ。しかし予想形成仮説のひとつとしての合理的予想形成が,つねにこのような情
報の利用可能性を前提とするものではないし,また特定の経済モデルと結びついてい
るものではないことに十分に注意しなければならない。
1
4
) 1
9
5
6年から 7
9年までは単純平均, 8
0年から 9
0
年は組合員数加重平均。
8
経営と経済
れたとしても,全産業の売上高経常利益率と相関があるとは限らないのでは
ないだろうか。
また春季賃金引き上げ率と企業業績との関係で考えるうえで,最近注目す
べき傾向がみられる。業績がよい企業でも将来のコストの増加につながる賃
金引き上げを避けるために,引き上げ率は世間相場に抑え,解決・協力一時
金を支給したり賞与に上積みしたりするケースが増えている。『資料賃上
げの実態-賃金引き上げ等の実態に関する調査結果ー~ [
lO
Jによれば,
r
解
1
.8
パー
決・協力一時金の支給又は賞与に上積み」を行った企業の割合は, 2
セント(19
9
0年)にのぼる (
[
1
0
J,p
.8。
)
要するに春季賃金引き上げ率と売上高経常利益率との相関係数が負になっ
た理由として,予想形成の方法を単純にモデル化したこと,売上高経常利益
率が複数企業の業績動向を反映しにくいこと,そして春季賃金引き上げ率と
企業業績との関係の変化の 3つが考えられる。
3
. 春季賃金引き上げ率決定モデル
本節は,春季資金引き上げ率の決定要因を明らかにするために賃金決定を
モデル化し,それにもとづいて回帰分析を行う。
3
.
1 賃金決定のモデル化
モデルでは,労働者と企業家の交渉によって,春季賃金引き上げ率が決定
1
5
)
r
労働白書n
.[
8
Jの pp.61-64および [
9
Jの pp.
49-52では,春季賃金引き上げ率と売
上高経常利益率(前年度下期)の相関が高いが,期間を細分化して相関係数を求めて
いる。
1
6
)
1
9
7
4年の春季賃金引き上げ率と 7
3年の消費者物価上昇率, 7
3年の売上高経常利益率
および 7
3年の有効求人倍率との組合せがそれぞれの系列で飛び離れている。そこでこ
れらを第一次石油ショックの影響で生じた「異常値」とみなして,それぞれの系列か
らはずして相関係数を調べた。第 2-1表によれば,それでも売上高経常利益利率との
相関係数は負である。
1
7
)
本論の経済モデルでは,家計や企業の最適化問題を解いて賃金引き上げ率を求めて
いるのではない。
9
春季賃金引き上げ率の決定要因
されると考える。
名目賃金率の変化率にかんする契約では,ある特定の実質賃金率の変化率
を確保するように名目賃金率の変化率が決められる。労働者が関心をもって
いるのは,名目賃金率ではなく実質賃金率の伸びだからである。したがって
実質賃金率の変化率が交渉によって決定される。
本論では労働市場で需給が逼迫する(緩む)と,労働者の企業家に対する
交渉力が強まり(弱まり),実質賃金率の変化率は高く(低く)なるであろ
うと考える。交渉によって決定される実質賃金率の変化をがとし,
白c を今期の労働市場の需給逼迫度
p と前期の労働市場の需給逼迫度 P-lの
増加関数として表現する。
(
1
) wc=F(p,P-l).
本論では前期の労働市場の需給逼迫度を示す変数として,前年の有効求人
倍率をもちいる。また今期の労働市場の需給逼迫度を示す変数として,
r
今
期の消費者物価上昇率一今期の消費者物価上昇率の予想値J
,すなわち,
r
予
想されなしづ消費者物価上昇率をもちいる。労働者や企業家は今期の労働市
場の需給逼迫度を予想する際,前年の有効求人倍率以外の情報も利用するで
あろうから,この点を考慮するために,
r
予想されない J消費者物価上昇率
を説明変数に含める。当然、のことながら,今期の消費者物価上昇率は,賃金
1
8
)
貨幣供給量の増大などによって,総需要が拡大し,物価水準と名目賃金率が同率で
上昇したとしよう。はじめのうち労働者は,これを実質賃金率の上昇と解釈する。彼
らは,物価水準が変化していないと予想しているからである。その結果,労働者は一
時的に労働供給を増やす。企業家も物価水準にかんしては,労働者と同じ予想をいだ
いている。しかし彼らが関心をもっているのは,自分たちが生産している財の価格で
あり,それについて詳しい情報をもっている。はじめのうち企業家は,彼らが生産す
る財に対する需要の増加による価格の上昇を,相対価格の上昇と考える。彼らの財の
価格ではかった実質賃金が低下するので,企業家は一時的に労働需要を増やす。要す
るに,物価上昇率の現実値が予想値よりも高い(= I
予想されなし、」物価水準の上昇)
場合,労働供給と労働需要はともに増加する。 2つの効果を合わせれば,雇用水準は
しばらくのあいだ高くなる (
F
r
i
e
d
m
a
n[
16
],p
p
.
2
2
2
2
3
3
)。このような理由によって,
「予想されなしづ物価水準の上昇は,今期の労働市場の需給逼迫度に影響を与えるの
である。
1
0
経営と経済
交渉を行う時点ではわからない。したがって労働者や企業家は「予想されな
い」消費者物価上昇率にもとづいて賃金引き上げ率を決定しているのではな
い。しかし本論は,賃金交渉を行う時点で今期の労働市場の需給逼迫度にか
んして, I
予想されなし、」消費者物価上昇率と同じくらい正確な情報を,労
働者や企業家は別のかたちでもっていると考える。このような情報を明示的
予想されない」消費者物価上昇率を説明変数
に説明変数とする代わりに, I
としてもちいるのである。
春季賃金引き上げ率は,交渉によって決定される実質賃金率の変化率が
に消費者物価上昇率の予想値を調整することによって得られる。すなわち,
(
2
) 命=白 c
+
れ
である。
消費者物価上昇率の予想値 ρ
cは,民間が経済構造や政策について利用可
能な情報にもとづき経済をモデル化して求めなければならないが,本論ではそ
政府経済見通し」の消費者物価上昇率の予想値をもちいる。
の代わりに, I
民間は自分自身で得た情報のほかに政府の統計資料の公表や政策運営の発表
等によって,政府がもっている情報も利用できるからである。
以上の議論から回帰方程式は,
e
(
3
) 命t=ao十 alPte+a2φ
t-Pt
α3UKB
t1,
)+
ー
となる。ここで , Wt
春季賃金引き上げ率,
わ:今期の消費者物価上昇率,
btc:政府経済見通しによる消費者物価上昇率の予想値,
これ以外に今期の労働市場の需給逼迫度pを,過去の求職者数や求人数に回帰させて
1
9
)
求める方法や政府経済見通しを利用する方法などが考えられる。後者については実際
1- (政府経済見通しの就業者総数/政府経済見通しの労働力人口 )J とし
に,pを 1
て他の説明変数とともに回帰を行ったが,意味のある結果が得られなかった。
2
0
)
C
a
r
l
s
o
nand
このほかに,サーベイデータにもとづいて予想値を作成する方法 (
]
) などがある。
P
a
r
k
i
n[
l2
21
)
B
a
r
r
o
[l1]によれば,政府の民間に対する情報の優位性がかりに存在したとしても,
政府が情報を民間に与えることによって経済を安定化できる。
春季賃金引き上げ率の決定要因
1
1
UKB
ー前期の有効求人倍率,
t
である。
(
3
)
式には,売上高経常利益率が説明変数に含まれていない。
3
.
2 回帰分析の結果
第3-1表は,回帰分析の結果である。前年の有効求人倍率は,両期間とも
春季賃金引き上げ率と関係しているが,
「安定成長期」の約
I
高度成長期」における回帰係数は
2倍であるから, I
高度成長期」において今期の労働市
場の需給逼迫度が春季賃金引き上げ率に影響を与えていたといえよう。
これに対して,消費者物価上昇率の予想値および「予想されない」消費者
物価上昇率と春季賃金引き上げ率との関係は,
I
高度成長期」と「安定成長
期」で対照的である白「高度成長期」では,消費者物価上昇率の予想値は春
季賃金引き上げ率の決定要因と見なされないが,
I
予想されなし、」消費者物
価上昇率は春季賃金引き上げ率の動きと結びついている。一方,
I
安定成長
期」において春季賃金引き上げ率の動きと結びついているのは消費者物価上
昇率の予想値であり,
I
予想されない」消費者物価上昇率は春季賃金引き上
第3
-1表春季賃金引き上げ率にかんする回帰分析
期
間
高度成長期
(
19
5
9年
"
'
1
9
7
4年)
安定成長期
(
19
7
5
年
'
"1
9
9
0年)
定数項
a
o
消費者物価
上昇率の
予想値引
「予想され
ない」消費者
2
物価上昇率a
3
.
2
0
1
6
*
(
2
.
0
0
7
3
)
0
.
2
7
2
6
(
0
.
6
4
17
)
0
.
4
2
4
4
*
*
(
2
.
5
2
91
)
9
.
2
0
3
8
*
*
* 0
.
9
2
8
6
(
4
.
0
1
3
0
)
1
.
6
5
2
1
0
.
3
3
8
4 0
.
7
6
8
2
*牢
(
0
.
4
8
1
2
) (
10
.
9
8
7
7
)
0
.
0
0
1
2
(
0
.
0
0
71
)
.
9
1
3
0
4
.
4
2
1
2
*
*
* 0
(
3
.
1
4
3
0
)
2
.
3
5
1
8
値である。 牢
牢
牢
は
注)係数の下の括弧内の数値は, t
10%水準で統計的に有意であることをしめす。
2
2
)
効
有
求人倍率
(前期 )
a
3
ダーピン
-ワトソン比
1%水準で**は 5%水 準 で * は
P
tおよびか eは年度データ ,UKBtlは年データである。
ー
自由度
修正済み
決定係数
1
2
経営と経済
げ率の決定要因とは見なされない。いいかえれば,今期の労働市場の需給逼
迫度は「高度成長期」には春季賃金引き上げ率に影響を与えていたが,
r
安
定成長期」に入り影響を与えなくなった。これに対し消費者物価上昇率の予
想値は,
r
安定成長期 Jに入って春季賃金引き上げ率に影響を与えるように
なった。すなわち実質賃金の確保に重点が置かれるようになったのである。
要するに,
r
高度成長期」から「安定成長期」への移行にともない,労働
需給要因が弱まりインフレ要因が高まったといえよう。
本節で得られた春季賃金引き上げ率の決定における労働市場の需給逼迫度
やインフレ率の役割にかんする結果は,神代[1Jや島田・細川・清家 [6J
などの結果と一致している。しかし本節では,企業業績の役割について明確
な結論が得られなかった。
この理由としては, 2
.
2節で述べた 3つのこと,すなわち予想形成の方法
を単純にモデル化したこと,売上高経常利益率が複数企業の業績動向を反映
しにくいこと,そして春季賃金引き上げ率と企業業績との関係の変化が考え
られる。
2
3
) (
3
)
式の説明変数に売上高経常利益率を含め,回帰方程式を,
Wt=ao+a1Pte+a2φt
P
te)+a3UKB
-1+a4UKR
-1,
t
t
とする。ここで UKRは,売上高経常利益率である。この場合の回帰係数と t値(括
弧内の数値)はつぎのとおりである。 1
9
6
7
年から 7
4
年では, a
o=30.4965 (
5
7
.
9
3
2
9
),
a1=-4.7917 (
4
.
9
9
9
4
),a2=0.6234 (
11
.5
4
0
0
),a3=12.8624 (
1
1
.
0
9
3
8
),a4=
-1.6
0
2
8(
2
.
5
4
8
5
) である。また 1
9
7
5
年から 9
0
年では ,ao=0.5806 (
0
.
8
0
3
2
),α1=
0
.
7
0
4
9(
5
.
4
8
8
5
),a
2=
0.0087 (
0
.
0
4
7
0
),a
3=
4.7906 (
3
.
0
4
3
9
),a
4=0.3
6
6
8
(
0
.
5
9
4
8
) である。雨期間とも売上高経常利益率の回帰係数 a
4は負であり,理論的
符号条件に反している。
「高度成長期」と「安定成長期」に分けると,雨期間とも売上高経常利益率の回帰
係数α
4が負であるのに対して,すべてのデータが利用可能な範囲(19
6
7
.
.
.
9
0年)で試
みに雨期間をあわせて同様の回帰を行うと,売上高経常利益率の回帰係数 a
4は正に
-2.9467
)
, a1=1
.1
5
7
9(
3
.
7
8
8
6
),α
2=0.8729
なる。ちなみに ,ao=-7.7897 (
(
3
.
9
5
5
5
),a3=5.2121 (
1
.5
3
1
3
),a4=2.5465 (
2
.
3
6
2
2
) である。しかしこのような
回帰分析には,意味があるとは考えられない。なぜならば 2つの期間で,経済構造に
変化があったと考えられるからである。
春季賃金引き上げ率の決定要因
1
3
さらに「安定成長期」において企業業績が春季賃金引き上げ率に影響を与
えているとしても,企業業績をどのような変数ではかるかによって,回帰結
果がおおきく変わってしまう。じっさい島田・細川・清家 [6Jでは,企業
利潤/GNPで企業業績をはかることによって,意味のある結果を得ている
([6J,pp.
4-8)。また神代[1Jでは,被説明変数を春季賃金引き上げ額
に変えて有効求人倍率,全国消費者物価上昇率,季節商品を除いた全国消費
者物価上昇率および従業員一人当り経常利益に回帰させたところ,従業員一
.p
p
.
6ー 7
)。ところが神代[1J
人当り経常利益の係数は正になった([1J
でも,春季賃金引き上げ率を被説明変数とすると,従業員一人当り経常利益
の係数はやはり負である([1J
,p
p.6-7)。
4
. まとめ
本論は,春季賃金引き上げ率が「高度成長期」と「安定成長期」それぞれ
においてどのような要因によって決定されるかを調べるために,賃金決定を
モデル化しそれにもとづいて回帰分析を行った。回帰分析の結果は,労働需
給要因とインフレ要因にかんして, I
高度成長期」と「安定成長期」で対照的
な結果が得られた。一方,売上高経常利益率によってはかった企業業績の春
季賃金引き上げ率に対する影響については,確定的な結果が得られなかった。
2節で春季賃金引き上げ率と売上高経常利益率の相関係数を求めたが,両
期間とも負であり,理論的符号条件を満たしていなかった。このことから 3
節で賃金決定をモデル化する際に,企業業績を明示的に考慮、しなかった。ま
た試みに売上高経常利益率を説明変数に加えて回帰を行っても,両期間とも
売上高経常利益率の係数は負であった。 2節では,これらの結果が生ずる理
由を考えた。 3節では他の研究を参考にしながら回帰分析の際の企業業績の
春季賃金引き上げ率に対する影響が企業業績にどのような変数を選ぶかに依
存していることをみた。
今後の課題としてはまず,家計や企業の最適化行動から賃金決定をモデル
化しなければならない。春季賃金引き上げ率の決定がある程度まで,労働市
経営と経済
1
4
場における労働需給の相互作用の結果内生的に決定されるという考え方にし
たがうならば,最適化問題を解くことによって労働需要および供給関数を導
出し,それらを賃金調整関数に代入することによって賃金決定関数を導く必
要がある(島田・細川・清家 [6J,p
p
.
3
0
3
5
)。その際,企業業績が賃金
決定に反映されなければならないだろう。
また本論では,決定要因を具体的な変数で表す際に既存のデータ系列をも
ちいたが,既存のデータ系列から労働市場の需給逼迫度などを表す変数の系
列をつくったほうが,それぞれの決定要因がより正確に表現されるのではな
いだろうか。
さらに本論の分析結果が正しいならば,第一次石油ショック後,なぜ春季
賃金引き上げ率が今期の労働市場の需給逼迫度にそれほど影響を受けなくな
ったかを明らかにしなければならない。
そして最大の課題が,春季賃金引き上げ率の決定における企業業績の果た
す役割について確定的な結果を得ることであることはいうまでもない。
付表データの出所
J
タ
ア
出
所
春季賃金引き上げ率
労働省労政局『民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況』
労働大臣官房政策調査部『労働統計年報』
消費者物価上昇率
経済企画庁調査局編『経済要覧』
労働生産性の変化率
労働大臣官房政策調査部編『労働統計要覧』
労働分配率の変化率
労働省編『平成 2年度版労働白書』
売上高経常利益率
日本銀行調査統計局『主要企業経営分析~.
有効求人倍率
日本銀行調査統計局『経済統計年報』
消費者物価上昇率,
労働力人口および就
業者総数の政府経済
見通し
経済企画庁調査局編『経済要覧J
w
経済統計年報』
1
5
春季賃金引き上げ率の決定要因
参考文献
[1J 神代和欣, 1
9
8
0年
, I
第二次石油危機下の賃金決定 J
,W
日本労働協会雑誌j 2
2巻
5号
, p
p
.
2
1
3
.
[2J 神代和欣, 1
9
9
1年
, I日本の賃金決定 J
,日本経済新聞『やさしい経済学j, 8月 2,
3,6,8,9,1
0日
。
[3J 笹島芳雄, 1
9
9
1年
,
W現代の労働問題 j,東京,中央経済社。
[4J 佐野陽子, 1
9
7
0年
,
W
賃金決定の計畳分析 j,東京,東洋経済新報社。
W
労働経済学』モダン・エコノミックス 8,東京,岩波書庖。
[5J
島田晴雄, 1
9
8
6年
,
[6] 島田晴雄・細川豊秋・清家 篤
, 1
9
8
2年
, I
賃金および雇用調整過程の分析 J
,W経
済分析I
J (経済企画庁) 8
4号
。
滋
, 1
9
9
1年
,
[7]
松川
[8J
労働省編, 1
9
9
0年
,
[9]
一一一, 1
9
9
1年
,
W平成
日O
J
一一一, 1
9
9
1年
,
W資料
W賃金決定のマクロ経済分析 j,東京,東洋経済新報社。
W
平成 2年版労働白書』。
3年版労働白書』。
賃上げの実態一賃金引き上げ等の実態に関する
調査結果一』。
口1]
B
a
r
r
o,R
.]
.
, 1
9
7
6,
“R
a
t
i
o
n
a
lE
x
p
e
c
t
a
t
i
o
n
sandt
h
eR
o
l
eo
fMonetaryP
o
l
i
c
y
.
"
J
o
u
r
n
a
l0
1M
o
n
e
t
a
r
yE
c
o
n
o
m
i
c
s2
. 1-32.
日2
J C
a
r
l
s
o
n,J
.A
.andM.P
a
r
k
i
n,1
9
7
5,
“I
n
f
l
a
t
i
o
n
a
r
yE
x
p
e
c
t
a
t
i
o
n
s
.
"E
c
o
n
o
m
i
c
a4
2,
1
2
3
1
3
8
.
口3
J Fethke,G
.andA.]
.P
o
l
i
c
a
n
o,1
9
8
4,
“ WageC
o
n
t
i
n
g
e
n
c
i
e
s,t
h
eP
a
t
t
e
r
no
f
N
e
g
o
t
i
a
t
i
o
nandA
g
g
r
e
g
a
t
eI
m
p
l
i
c
a
t
i
o
n
so
fA
l
t
e
r
n
a
t
i
v
eC
o
n
t
r
a
c
tS
t
r
u
c
t
u
r
e
s
.
"
J
o
u
r
n
a
l0
1M
o
n
e
t
a
r
yE
c
o
n
o
m
i
c
s1
4,1
5
1
1
7
0
.
[
14
J
一一- a
nd 一一一. 1
9
8
6
. “W
i
l
lWageS
e
t
t
e
r
sEverS
t
a
g
g
e
rD
e
c
i
s
i
o
n
s
?
"
口5J
一一一
Q
u
a
r
t
e
r
l
yJ
o
u
r
n
a
l0
1E
c
o
n
o
m
i
c
s1
01
. 867-877.
and 一一一. 1
9
8
7
. “MonetaryP
o
l
i
c
yandt
h
eTimingo
fWage
N
e
g
o
t
i
a
t
i
o
n
s
.
"J
o
u
r
n
a
l0
1M
o
n
e
t
aη E
c
o
n
o
m
i
c
s1
9
. 89-105.
日6
J Freidman,M.,1
9
7
6,P
r
i
c
eT
h
e
o
r
y
. Chicago,A
l
d
i
n
eP
u
b
l
i
s
h
i
n
gCompany.
[
17
J
Gordon,R
.
]
.,1
9
8
2,
“ WhyU
.S
.WageandEmplyomentB
e
h
a
v
i
o
rD
i
f
f
e
r
sfrom
c
o
n
o
m
i
cJ
o
u
r
n
a
l9
2,1
3
4
4
.
Thati
nB
r
i
t
a
i
nandJ
a
p
a
n
.
"E
口8
J Gray,
]
.A
.,1
9
7
6,
“ WageI
n
d
e
x
a
t
i
o
n
:A MacroeconomicA
p
p
r
o
a
c
h
.
"J
o
u
r
n
a
l0
1
凡1
0
n
e
t
a
r
yE
c
o
n
o
m
i
c
s2,221-235.
日9
J K
o
s
h
i
r
o,K
.
.1
9
8
6
.“
L
a
b
o
rMarketF
l
e
x
i
b
i
l
i
t
yi
nJ
a
p
a
n-WithS
p
e
c
i
a
1R
e
f
e
r
e
n
c
e
t
oWageF
l
e
x
i
b
i
l
i
t
y
.
"TheC
e
n
t
e
rf
o
rI
n
t
e
r
n
a
t
i
o
n
a
lTradeS
t
u
d
i
e
s,Yokohama
i
s
c
u
s
s
i
o
nP
a
p
e
rn
o
.8
6
2
.
N
a
t
i
o
n
a
lU
n
i
v
e
r
s
i
t
y,D
[
2
0
J
.D
.,1
9
7
9,
“ Wage,P
r
o
f
i
t
s,andMacroeconomicA
d
j
u
s
t
m
e
n
t
:A ComS
a
c
h
s,J
r
o
o
k
i
n
g
sP
a
p
e
r
s0
1
1E
c
o
n
o
m
i
cA
c
t
i
v
i
t
y2,269-319.
p
a
r
a
t
i
v
eS
t
u
d
y
.
"B
1
6
経営と経済
[
2
1
J S
a
r
g
e
n
t,
T
.J
.,1
9
8
7,Maσ'Oe
c
ω
,omicT
h
e
o
r
y
.2
n
de
d
.NewYork,AcademicP
r
e
s
s
.
[
2
2
J T
a
c
h
i
b
a
n
a
k
i,T
.,1
9
8
7,
“L
a
b
o
u
rMarketF
l
e
x
i
b
i
l
i
t
yi
nJ
a
p
a
ni
nC
o
m
p
a
r
i
s
o
nw
i
t
h
E
u
r
o
p
ea
n
dt
h
eU
.S
.
"EuropeanEconomicReview3
,
1 6
4
7
6
7
8
.
[
2
3
J Weitzman,M.L
.
, 1
9
8
4,TheShareEconomy. Combridge,MA.,Harvard
U
n
i
v
e
r
s
i
t
yP
r
e
s
s
.
Fly UP