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NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
イタリアの職人業と職人業基本法
Author(s)
吉田, 省三
Citation
経営と経済, 71(2), pp.203-219; 1991
Issue Date
1991-09-25
URL
http://hdl.handle.net/10069/28580
Right
This document is downloaded at: 2017-03-31T08:59:30Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
経営と経済第71巻第2号1991年9月
《資料》
イタリアの職人業と職人業基本法
吉田省三
イタリアの職人業と職人業基本法
2
0
3
1
.i
第二の奇蹟」と中小企業
2
. イタリア共和国憲法と職人業
3
. 職人業基本法の概要
4
. 職人業基本法
訳出した資料は,イタリアの職人業基本法,法律 1
9
8
5年 8月 8日第4
4
3号
,
イタリア共和国憲法第 4
5条および第 1
1
7条に基づく,イタリア職人業を支え
る根拠法である.憲法 4
5条の職人業の保護・発展を具体化する法律として,
この法律以前には,法律 1
9
5
6年 7月2
5日第 8
6
0号が存在した. しかし,立法
当時は,州制度は,特別州を除いて,未だ実現しない時期であり,従って憲
1
7条による州立法権の行使も未実現であった. 1
9
7
0年以降,憲法制定
法第 1
後2
0年以上を経て,その制度の実現に向けて着手された州制度を前提にして,
新たに制定された法律が現行職人基本法である.
1
.r
第二の奇蹟」と中小企業
9
1年現在のイタリア経済は, EC通貨統合のお荷物的扱いを受けているよ
うであるが, 1
9
8
0年代のイタリア経済の拡大傾向は, 1
9
5
0年代の“経済の奇
m
i
r
a
c
o
l
oe
c
o
n
o
m
i
c
o
)と対比して“第二の奇蹟"(
s
e
c
o
n
d
om
i
r
a
c
o
l
o
)(1)
蹟"(
と呼ばれてきた. 1
9
8
4年以降の“第二の奇蹟'¥英仏を GDP規模で上回る
イタリア経済の景気拡大過程を支えてきた要因としては,フィアット,オリ
ベッティ,ピレッリ等に代表される大企業部門の貢献や,非能率な国営部門
の一定の改善などをあげなければならないが,協同組合部門の活動や,職人
業をはじめとする中小企業の貢献も無視することはできない. GDP等の量
的指標だけではなく,地域経済への貢献やそこで採用されている生産様式な
ど質的側面にも注目すると, i
第二の奇蹟」の中での中小企業の存在が浮か
びあがることになる.
イタリアにおける,とくにその中北部の諸州における,協同組合企業,職
人業を含む中小企業の中心の地域経済の「活性化」に注目しそれを理論化し
ようとする試みとして,イタリアの経済発展をめぐる「三つのイタリア」論
2
0
4
経営と経済
(2)あるいは「サード・イタリー」論,地域経済の内発的発展モデル
“
endogenousmodel"(3)およびその典型としての,エミリアン・モデル(4)
等などがある.
1
9
8
0年代に日本で強行された経済構造調整政策およびそれに基づく個別企
業のリストラクチュアは,徹底して大規模企業中心の資本主義経済再編の試
みであった.そこでは,中小企業の「活性化 J(W 中小企業白書~)がうたわ
れることはあっても,その内容は,従来の中小企業政策と同様に,大規模企
業の側からの中小企業であり, ,情報化 J,国際化」に向けて中小企業の自助
努力を迫るものであった.中小企業の「活力」は,それ自体として発揮され
ることはなく,大規模企業の利用しやすい資源として,大規模企業のリスト
ラ計画に沿って再配置されることとなった.また,中小企業の自立性・独立
性を高めることが期待されたいわゆる,M E化J,情報化」は,基本的には,
生産過程においても,流通過程においても,大企業による中小企業の垂直的
統合を強化する方向で利用されている.
このような大規模企業中心の日本経済の再編過程と比べて,イタリアの例
は,それが特定地域に限定されているとは L、え,中小企業の役割がより正当
に評価される経済発展の可能性を示しているということができる.
イタリアに見られるこれらの職人企業,中小企業群は,日本の中小企業に
見られるように大企業に対して従属的ではなく,自立的傾向をもっているこ
と,その背景には,主として州による中小企業政策があること,また自らの
経営資源の不足を協同組合等のネットワークを形成することによって相互に
補完していること,また現在進行中の「情報化」が,その職人企業の独立的
傾向を支援する方向で機能していることなどが指摘されている.
「情報化 J,情報・通信システム」の問題に関して言えば,理論的には,
,
ME化J,情報化」は,生産の分散化,小規模生産の発展の可能性がないわ
t
e
r
z
ol
t
a
l
i
a
) として注目されているイタリ
けではない.サード・イタリー (
ア中北部の職人企業・中小企業群は,伝統に根ざした職人的技術を基礎とし
ながら,同時に,デザイン部門や生産過程へのコンビュータの導入を積極的
に行い,競争力をつけている.筆者は, 1
9
9
1年 3月,ミラーノ北部のコモ,
イタリアの職人業と職人業基本法
2
0
5
ヴァレーゼの絹およびニットの企業を見学したが,そこでのコンビュータ利
用は,生産過程のみならず,初歩的ではあるが,本来の伝統的技術が競争力
となるデザインの分野にまで及んでいるのを見ることができた.道具を使う
生産という意味での職人業・手工業 (
a
r
t
i
g
i
a
n
a
t
o
) は,ここでは,その生産
規模は小規模なままで,生産様式においては,コンピュータ制御の自動機械
による生産に移行しつつあるということができる.
ただし,イタリアにおいても,ここに示したような職人企業や協同組合企
業などの中小企業を主体にした経済発展の方向は,エミリア・ロマーニャ州
やロンパルディア州などイタリア中北部に地域的に限定されている.地域経
西暦 2
0
0
0年の協同組合j] ICA レイドロ一報告が, 目
済のレベルで見れば, w
標のーっとして掲げた「協同組合地域社会」があるとすれば,報告が指摘す
る日本の総合農協においてではなく,イタリアの中北部の什│において実現し
ているといってもよい(5)
.例えば,エミリア・ロマーニャ州の州都ボロー
ニャから遠くないイモラというコムーネにおいては,コムーネの経済の 60%
が協同組合に依存している(6)
.中小企業や協同組合を主体とした経済発
展は,地域経済のレベルでの例でしかなく,一国の経済の発展の方向として
のモデルになりうるのかどうかという問題,地域経済発展のイタリア的伝統
の評価という問題がある.ただし後者だけについていえば,イタリアの中小
企業や協同組合を中心とした経済の発展は決して中小企業の「自助努力」の
l
の産業行政による中小企業政策の
みによってもたらされたものではなく,ナi
展開によるところが大きい.とすれば,地域における歴史的遺産や伝統を考
慮しでも,自治体による適切な援助・指導を中心企業が組織することができ
れば,イタリアの他の地域においてもイタリア以外でも,中小企業を中心と
した経済の展開が可能であることを示している.
2
. イタリア共和国憲法と職人業
イタリアの職人業に関する根拠法としては,イタリア共和国憲法第 4
5条
1
7条およびここに訳出した職人業基本法がある.
第 2項及び 1
1
9
4
8年に制定されたイタリア共和国憲法は,第 1条で「勤労に基礎を置く
2
0
6
経営と経済
民主的共和国」であることを宣言し,通常,資本主義憲法の中心に置かれる
私的所有権の代わりに, [""勤労」を中心にすえている.また,イタリア共和
国憲法は, [""基本原理J[""第一部市民の権利および義務 J[""第二部共和国
の組織」からなる 3部構成であるが,憲法の指導原理を定めている「基本原
理」では,所有権の保障に関する定めをおいていない.所有権についての規
定は,経済的関係を定めている第 1部第 3章において登場し,そこでの所有
権は,私的所有に対する制限的規定,特定企業の公有化などの反独占的規定
の中で取り扱われている.大規模所有に対するこれらの制限的規定と並んで,
大規模所有の対極にある,小所有に対する共和国憲法の対応を示しているの
5条である.
が,この第4
イタリア共和国憲法第4
5条は,協同組合に対し,私的所有あるいは公的所
有とも異なる第 3の種類の所有の一形態として,特別の法的な価値を付与し
ている.第4
5条第 1項は協同組合に対してその社会的機能の承認と法律によ
る保護助成及び監督を定めている.また,所有の観点からみると明らかに,
私的所有には属するが,職人業にたいしても,同条第 2項は,とくにその規
模と性格に注目して職人業についてその保護と発展を定めている.
協同組合と職人業は,同ーの条項に規定されているが,憲法が両者に与え
ている価値は異なっている.両者を比較すると協同組合に対する位置づけが
より鮮明であり,単なる経済的弱者保護の論理だけではなく,経済民主主義
につながる経済の権力の分節化と分散の意図を読み取ることができる.これ
に対して,職人業については,協同組合よりも保護に重点が置かれている.
これらを日本国憲法と比較すると,日本においても,戦後改革において大
規模所有の解体,所有の分散等の措置がとられ,独占禁止法の制定等の立法
措置がとられたが,憲法的上は,これらの経済改革を保障する規定は制定さ
れなかった.また憲法上は明示的には,協同組合および協同原則についての
規定も存在していない.イタリアにおいても,憲法上に,協同組合に関する
規定および職人業に関する規定が定められたことが直接に,これらの主体に
有利に作用したわけではないが,憲法制定以降,中小企業の運動の展開が,
憲法のこれらの規定を手掛かりに,それを実現する運動として展開すること
イタリアの職人業と職人業基本法
2
0
7
を可能にした.
職人業の保護及び発展に関する憲法上の規定としては,この第 4
5条ととも
1
7条およびそれに関連する地方分権に関する第 2部第 5章の諸規定
に,第 1
が重要である.第 1
1
7条は, 1
8項目にわたる事項を例示し広い範囲にわたる
州の立法権を保障しているが,その中の 2項目を職人業及び職業教育につい
ての州の立法権にあてている.
憲法上の協同組合および職人業あるいは地方分権に関する規定が存在する
にもかかわらず,そこに定められた原理の法律としての具体化は,極めて遅
れることとなった.このことは,ここで問題となる職人業・地方分権だけで
はなく,憲法上の重要な諸規定全般も同様で,その実現が遅延された制度と
して, 1
9
5
0年代に実現された憲法院(憲法法廷),経済労働国民会議や,憲
法制定後, 2
0年以上経て 1
9
7
0年に具体化された州制度,人民投票制度がある.
イタリア共和国憲法は,制定当時の議会における勢力関係に反映して,キ
リスト教民主主義と社会主義の妥協の産物として制定されている.しかもそ
のことに付け加えて,その後「冷戦」政策の展開による憲法制定当時の反フ
ァシスト国民戦線の解体が憲法の民主的規定に実現の遅延をもたらしたので
あり,憲法を凍結しようとする勢力にたいする憲法を実現する勢力のたたか
いを通じてのみ,憲法が実現することとなった. 1
9
7
0年の州制度の実現は,
1
9
6
8年の暑い秋を頂点とする労働者階級のたたかいをまって初めて実現され
た.
3
. 職人業基本法の概要
法律 1
9
8
5年 8月 8日第 4
4
3号は, L
e
g
g
e
q
u
a
r
d
op
e
rl
'a
r
t
i
g
i
a
n
a
t
o と呼ばれ
e
g
g
e
q
u
a
d
r
oとは,文字どおりには,管理法ということであるが,
ている. L
内容的にみると,一般的には,特定の分野の組織制度に関わる基本的な原理
を含む法律ないし法律の総体のことを意味する.具体的には,この職人業基
本法の場合のように,イタリア共和国憲法 1
1
7条の定めに基づいて各州の立
法権に関する法律を通常基本法という各称で呼んでいる(7)
.
以上のような内容から判断すると,日本国憲法を具体化するための基本原
2
0
8
経営と経済
理を定める法律としての教育基本法に代表される 1
9
5
0年代の基本法,あるい
9
6
0年代以降の農業基本法や中小企業基本法に代表されるような「現代国
は1
家の基本政策をプログラム的に示す立法 J(W新法学辞典~)という意味での
日本の基本法群とも共通性を有していないこともない.ただし,日本の基本
法,例えば中小企業基本法は,中小企業の構造改善,近代化に向け中小企業
を誘導するという中央集権的性格を持つが,これに対して,職人業基本法は,
職人業に関する立法を什│に委ねるという分権的手法をとっている.
1
9
8
5年職人業基本法が制定以前には,法律 1
9
5
6年 7月 2
5日第 8
6
0号 が 職 人
に関する定義的規定をもっ法律であった.法律 1
9
8
5年 第 4
4
3号 は , 憲 法 第 4
5
条の精神に従い職人業の保護および発展を具体化する立法権および行政権を
州に与える法律となった.イタリアの全 2
0州は,職人業の保護および発展に
関する法律を制定している.
例えば,この法律に基づくエミリアーロマーニャ州の立法状況は次の通り
である.
9
8
8年 6月 4日第2
4号,職人業および自治体の代表の組織及び指導に
州法 1
8号 1
9
8
8年 9月 1
7日)
関する法律(官報第 3
州法 1
9
8
7
年 1月 3日,都市中心部におけるサービス業の職人業の資格およ
2号 1
9
8
7年 3月 2
1日)
び助成に関する法律(官報第 1
1
+
1法 1
9
8
6年 1
1月 1
6日第 1
2号,職人企業における貸付の助成に関する法律(官
報 第2
0号 1
9
8
6年 6月 2
0日,官報 1
9
8
6年 6月2
8日)
9
8
6年 1
1月 1
6日第 1
3号,職人業の芸術的及び伝統的作業及びオーダー
州法 1
メイド服の価格に対する助成に関する法律(向上)
1
+
1法 1
9
8
6年 1
1月1
6日第 1
4号,資格及び職人企業の団地の発展について(同
上)
州法 1
9
8
8年 3月 3日第 1
6号,職人業の芸術的及び伝統的作業及びオーダー
メイド服の価格に対する助成についての州法 1
9
8
6年 3月 1
6日第 1
3号 第 3条第
4項の廃止に関する法律(州官報第4
2号 1
9
8
8年 5月 7日,官報第 2
8号 1
9
8
8月
7月 9日)
州法 1
9
8
8年 6月 2
5日第 2
6号,職人企業における生産技術の革新を助成する
2
0
9
イタリアの職人業と職人業基本法
州法 1
9
8
5年 4月 9日1
3号を修正する法律(州官報第 6
1号 1
9
8
8
年 6月3
0日,官
報第 4
3号 1
9
8
8年 1
0月2
2日)
9
8
8年 9月 5日第 4
0号,職人の協同組合及び職人業の信用のためのそ
州法 1
の連合体を支援する州の役割について規定する州法 1
9
8
6月 1月2
7日第 4号の
修正に関する法律(官報第 4号 1
9
8
9年 1月2
8日)
州レベルにおいて,中小企業政策が最も整備された州のーっとして,職人
業基本法にもとづく,エミリアーロマーニャ州における立法状況を例にとっ
たが,エミリアーロマーニャ州では,州議会が定める「州発展計画」におい
ても,そこでの産業政策は,職人業,協同組合等の助成を中心に据えるてい
る.州、│発展計画 0986-1988
年)は,これらに対する政策を,①企業及び雇
用の支援に狙いを定めた助成,②技術革新,①販売促進及び見本市活動,①
.
金融的手段と分節化した計画を作成している(8)
イタリアにおける職人業は,伝統的な意味を含むが,法的には,法律 1
9
8
5
年第 4
43←号により定義された要件を有する職人企業の資格であると言ってよ
い.その範囲は,伝統的芸術的生産あるいは手工道具を使う生産を含むこと
になるがそれよりも広い.職人企業であるためには
3つの要件を満たす必
要がある.第一は,生産する商品・サービス,第二に,労働の質的規定,第
2人まで)である.イタリア民法第 2
0
3条
三 に , 従 業 員 の 数 (8人から最大 3
は
,
r
小企業者 J (
p
i
c
c
o
l
oi
m
p
r
e
n
d
i
t
o
r
e
) の規定をおいているが,法律 1
9
8
5
年第 4
4
3号は,職人企業者と民法の小企業者との区別を明確にした.
職人法は,職人業のための 3つのレベルの機関の設置をさだめている.職
人業県委員会,職人業州委員会および職人業全国評議会である.
職人業県委員会の任務は,職人企業の登録簿の管理が中心であり,職人業
を発展させるための助成活動を行う.職人業州委員会は,県委員会の決定に
対する申立てを処理すること及び州レベルの助成活動を行う.職人業全国評
議会は,商工業職人業省に置かれ,調査研究,統計および諮問に関する活動
を行う.職人企業が,税制,融資,その他の助成をうけるためには登録簿へ
の登録が,前提であるから,県委員会の権限が大きな意味を有することとな
っている.
2
1
0
経営と経済
表 -1 職人企業および職人企業者数 (9)
門
部
職人企業数
O
. 農業,狩猟,林業,漁業
1
0,1
1
1
1
2,
6
1
5
3
0
5
4
0
6
2
8,
2
1
3
4
1,
2
0
1
1.エネルギー,ガス,水道
2
. 鉱業,化学
職人企業者数
3
. 金属,機械
1
7
,
11
1
2
2
3
8,
0
6
2
4
. 繊維,衣服,家具
3
3
5,
8
3
5
4
5
0,
6
6
2
5
. 建築,設備
3
2
0,
4
0
2
3
8
8,
0
2
0
6
. 商庖, レストラン,修理
1
5
9,
3
7
9
1
9
6,
9
8
8
7
. 運輸,通信
1
2
,
14
6
7
1
3
4,
4
5
9
8
. 信用,保険
2
3,1
7
1
8
6
1
1
6,
1
6
8,
4
3
2
1
8
5,
8
2
8
1
,
15
3
0
1
5,1
7
3
1
,
3
3
9,
9
5
7
,
6
8
0,
2
7
5
1
9
. 公益事業
その他
言
十
職人法第 5条が定める登録簿に登録された職人企業数および職人企業者数
9
8
8年 9月30日 現 在 で 表 -1の通りである.
は
, 1
4.職人業基本法
イタリア共和国法律 1
9
8
5年 8月 8日,第 4
4
3号.
職人業基本法(官報 1
9
8
5年 8月2
4日,第 1
9
9号)
共和国の下院及び上院は下記の法律を可決した.
共和国大統領は,下記の法律を交付する.
第一条州の権限
①
各州は,憲法 1
1
7条 第 1項に従い,この法律の定める原則の範囲内で,
職人業に関する法律を制定する.州の特別憲章および県の自治の特別な権
限は尊重される.
⑦前項定めるの意義及び効果に関し,全国的計画の意図と調和し職人業
の保護及び発展の法的措置を講ずること及びその地域的,芸術的および伝
統的な多様な形態における職人的生産の利用は,信用の供与における優遇
イタリアの職人業と職人業基本法
2
1
1
措置,技術的支援,応用研究,職業訓練,相互扶助経済,職人圏の実現,
輸出のための優遇措置,に対する特別な基準とともに,州に属する.
①
州は,規定に従い,地方自治体に対して,委任された権限の行政的機能
を行使する.
第二条職人企業者
①職人企業者とは,個人的に,職業的にかつ資格者として,職人企業を経
営するものであり,その指揮と決定に際して生じるすべての義務と危険と
ともに,すべての責任を負うとともに,生産の過程において,主として本
人自身の労働や手仕事によって活動する.
② 個人の企業者が職人業の活動に参加-加入する自由およびその職業性の
行使の自由に対する制限は排除される.
①特別国家法によって定められた規定は,尊重される.
①職人企業者は,営業にあたっては,利用者の保護と保証のための特別の
準備と当然含まれる責任とを要求され,国家法の規定する技術的職業的要
請を保持しなければならない.
第三条職人企業の定義
①
この法律の限界内における職人企業者によって経営される職人企業は,
商品ないし半製品の生産,あるいは農業および商業,商品の流通の仲介,
あるいはその補助,飲食業を除くサービスの供給の発展を主要な目的とし
ている.ただし,単にその企業の経営にとって手段的および補助的である
場合にはこの限りではない.
②
この法律の定める限界内かつ本項の定める目的で,会社もしくは協同組
合形態で設立され営業される職人企業は,有限責任会社および株式会社お
よび合資会社は除き,組合員の多数が,もしくは組合員 2名の場合には 1
名が,生産工程において大部分の労働を個人的にかっ道具を使って行い,
かつ企業において労働が資本に優位する機能を有していることが必要であ
る.
2
1
2
①
経営と経済
職人企業は,定められた場所で営業することができる.企業者の住居ま
たは組合員の住居または専用の場所又は発注者によって指定された場所何
れの場合においても,職人企業者は,職人企業としての資格を得ることが
できる.
第四条企業規模の制限
①職人企業は,職人企業者又は組合員から,直接に個人的に従業員の仕事
の給付を受けて営業を行うことができる.但し,常に次の限界を超えては
ならない.
a) 大量生産を行わない企業の従業員の上限は
9人以下の見習いを含む
8人とする.従業員の上限は,追加されるものが見習いである場合
最大 1
2人までとすることが出来る.
には, 2
b) 大量生産を行う企業の従業員の上限は,全面的にオートメーション加
工を行わない場合には 5人以下の見習いを含む最大 9人とする.従業員
の上限は,加工されるものが見習いである場合には, 1
2人までとするこ
とが出来る.
c) 芸術的,伝統的加工部門及びオーダー・メイド服の部門の固有の活動
を行う企業の従業員の上限は,全面的にオートメーション加工を行わな
6人以下の見習いを含む 3
2人とする.従業員の上限は,追加
い場合には 1
されるものが見習いである場合には, 4
0人までとすることが出来る.芸
術的,伝統的加工部門及びオーダー・メイド服の部門は,共和国大統領
令により,各州及び職人業全国評議会と協議し,決定される.
d) 運送企業の従業員の上限は
8人とする.
e) 建築企業の従業員の上限は
5人以下の見習いを含む, 1
0人とする.
4人までと
従業員の上限は,追加されるものが見習いである場合には, 1
することが出来る.
②
本項の定める上限を計算するために,
1
) 2年間の閑,法律 1
9
5
5年 1月 1
9日第2
5号によって資格を有する従業員
及び当該職人企業において営業しているものは加算されない.
2
1
3
イタリアの職人業と職人業基本法
2)法律 1
9
7
3年 1
2月 1
8日第 8
7
7号の定めるところにより自宅で加工するも
のは,当該職人企業で働く見習い以外の従業員の 3倍を越えない限りで,
加算されない.
3)その活動を,大部分,職業的に当該職人企業の中で行い民法 2
3
0条以
下の定める家族企業(*)の協力者である場合には,職人企業者の家族
は,加算される.
4)当該職人企業で,主として個人的に労働する組合員は,一人を除いて
加算される.
5)身体的,精神的及び視聴覚的に不自由なものは,加算されない.
6
) 指揮監督労働を行う従業員は,加算される.
第五条職人企業の登録簿
①職人企業の県の登録簿が整備される.その登録簿には,第 2条,第 3条
及び第 4条に定められた要件を備えた全ての企業が,王国勅令 1
9
3
4年 9月
2
0日第 2
0
1
1号第 4
7条以下に定められた登録の手続きに従って,管理され登
録される.
②上記登録簿への登録及び修正または廃止の届け出の申請は,王国勅令
1
9
3
4年 9月2
0日第 2
0
1
1号の当該条項の義務から免除され,その提出から 1
5
日以内に,登録簿に注記される.
①
当該職人企業者が労働不能になった場合,死亡又は禁治産又は準禁治産
の宣告の場合には,関係企業は,請求により,第 2条のさだめる諸要件の
うち一つが欠けている場合には
5年の期間を上限として,あるいは,末
子が成年に達するまで第 1項の定める登録簿への登録を維持することがで
きるものとする.但し,その企業の経営が,もし配偶者によって,親権を
解除された長子あるいは末子によって,あるいは労働不能,死亡,禁治産
あるいは準禁治産の企業者の末子の後見人によって引き受けられる場合に
限る.
④ 登録簿への登録は公表され,職人企業に対する優遇措置の認可の条件と
なる.
経営と経済
2
1
4
第 4条第 1項に定められた上限を,一年に 2
0パーセントを限度して
①
3
カ月を越えない期間,越えた職人企業は,本条第 1項に定める登録簿への
登録を維持する.
⑥ 生産および隣接した場所における生産者自身の生産物の販売に対し,あ
るいは,作業の実施或いは委託された役務の給付に必要な発注者に対する
納入に対し,第 1項に定められた登録簿に登録された職人企業については,
法律 1
9
7
1年 6日1
1日第 4
2
6号に定められた商業経営者の登録及び認可に関
する諸規定は,適用されないこととする.
⑦
いかなる企業も,第 1項にさだめる登録簿に記載されていない場合には,
職人という名称を使用して,企業名もしくは商標を採用することはできな
い.このことは,組合および組合企業のうち,登録簿に独立して登録され
てない企業についても同様である.
③ 本条の規定の違反者は,州当局により,法律 1
9
8
1年 1
2月2
4日第 6
8
9号の
0
0万リラ以下の過料を科される.
手続きに従い,行政処分として, 5
第六条
職人企業の組合企業ならびに連合
①職人企業により構成される組合及び組合企業は,協同組合形態の場合も
含め,本法第 5条の定める登録簿とは分離して登録される.
② 組合及び組合企業に対し,協同組合形態の場合も含め,登録簿に分離し
て登録されたものは職人企業について定められた優偶措置が適用される.
但,同国家法に定められた限界を全面的に越えることはない.
①
州計画の方針に従って,各州は,組合および組合企業に対する優遇措置
を,協同組合形態の場合も含め,準備することができる.組合には,職人
企業の他に,調査及び金融的技術支援のための公私の団体を含め,その数
が 3分の lを越えない場合には,産業政策関係閣僚会議 (
C
I
PI
)(**)によ
り定められた小規模の工業企業が参加することができる.但し職人企業が,
決議機関において多数を占める場合に限られる.
①職人企業は,活動の異なる部門の企業とともに,連合の契約を締結する
ことができる.連合契約の締結に際しては,その数が本条第 3項の指示を
イタリアの職人業と職人業基本法
2
1
5
越えない範囲で,小規模の工業企業の参加が認められる.
①
保険と保障のために,各項に定められた形態の連合した職人企業の資格
9
5
9年 7月 4日第 4
6
3号及び修正,補則が定める表に記載される
は,法律 1
資格を有する.
第七条
①
登録,監査及び事務所の証明
9
7
7年 7月
第 9条により定められる職人業県委員会は,共和国大統領令 1
2
4日6
1
6号第 6
3条第 4条 a) に定められたコムーネの登記及び証明を調査
し,第 2条,第 3条および第 4条が定める諸要件が存続,修正あるいは喪
失に関して,この法律の第 5条に定める県の登録簿の職人企業の修正ある
いは抹消を決定する.
② 職人業県委員会の決定は,関係者に対して,申請の提出から 6
0日以内に
通知される.上記の期限内に通知が無い場合には,その申請をもって有効
とする.
③ 委員会は,第 2条,第 3条及び第 4条に定められた諸要件の存続を確認
するために,事務所の確認を命じ及び3
0ヶ月毎に職人企業の県の登録簿を
監査する実施する権限を有する.
①
労働基準監督所,職人企業助成団体及び同種の行政機関は,その権限の
行使に関して,登録簿に登録された企業に関して,第 2条,第 3条及び第
4条に定められた諸要件のいずれかが,存在しないことを照合し,事務所
の確認および関連する諸決定のために,その情報を職人業権委員会に通知
することとする.通知は,いかなる場合においても, 6
0日以内にしなけれ
ばならない.委員会の決定は,通知した機関に対しでも伝えられなければ
ならない.
①
職人企業の県の登録簿の登録,修正及び削除に関する職人業県委員会の
0
決定に対して,職人業州委員会の事務局を通じて,その決定の告示から 6
日以内に,本項が指示する組織の当事者および利害関係を有する第 3者か
らも,申立てをすることができる.
①職人業州委員会の諸決定は,事務所に申請することにより,決定の告示
2
1
6
経営と経済
から 6
0日以内に,当該地域を管轄する裁判所に異議申立てをすることがで
きる.
第八条職人の教育
① 憲法 1
1
7条の定める職人の教育は,職業教育の分野で実施され,かつ,
この分野を指導する基本原理の範囲内で実施される.
⑦職人企業は,単独で及び組織的に,州に対して,本法に基づき,計画さ
れた方針の実現に向け,特別な課程の実施のために,一定の期間のおよび
更新できる特別協約による職人教育に関する協力を要請することができ
る.
① 各州は,一定の期間,州の協約に基づき,本項の定めにより請求を行い,
第 4条 C 号の定める部門に所属する職人企業について,工房学校の承認を
指導することができる.
① 職業教育の分野における,職人に対する企業性の形成及び職業性の近代
化の活動の促進及び組織化は,州に属する.
第九条
職人業代表機関及び職人業保護機関
① 本法に基づく行政機関を指導し職人業の保護にあたることは州の権限に
属する.
②
この分野では,以下のことが規定されるべきである.
1)職人業県委員会は,登録簿を検査する機能を行使し,その他州法によ
り付与される権限の他,第 2条,第 3条及び第 4条に定める諸要件を査
定する.
2)職人業州委員会は,第 7条に定められた権限を行使することの他,州
段階の職人業に関する文献収集,調査研究及び統計的測定資料を行い,
職人業に関する州の計画に関し見解を示す.
第十条職人業委員会
① 州政評議会長令により設立される職人業県委員会は, 5年の任期とし最
イタリアの職人業と職人業基本法
2
1
7
低1
5人のメンバーにより構成される.
②委員長は,職人の有資格である構成員の中から選出されるものとする.
副委員長も同じ.
①
職人業県委員会の構成員の 3分の 2は,少なくとも 3年の間県内におい
て職人企業の資格を有するものとする.
① 残 り の 3分の lは,労働組合の代表さらに,全国社会保障保険公社
(
I
N
P
S
),県の労働事務所の職員及び専門家の代表者に保障される.
①
各州は,適切な法律により,職人業県委員の組織及び機能に関する構成
員の選挙に関する規定を制定するものとする.
第十一条職人業州委員会
①
職人業州委員会は,州にその事務所を置き,州参事会の長の命令によっ
て設立され,委員長及び,副委員長を選任する.
②前項の委員会は,以下によって構成される.
a) 州知事
b) 3人の州代表
c) 職人業組織によって任命される職人業の分野における 5人の専門家さ
らに,全国組織及び州の担当者の代表者
①
委員会の組織の及び委員会の機能に関する規則は,州、法によって制定さ
れる.
第十二条職人業全国評議会
①職人業全国評議会は,商工省(工業,商業及び職人省)にその事務所を
置く.評議会は,職人に密接に関連する分野で,全国的計画,欧州経済共
同体 (CEE) の政策,輸出についてその見解を表明し,職人業に関する
調査研究及び統計的測定を奨励し管理する.
②
職人業全国評議会は,商工大臣を議長とし
1)職人の指導に当たる州議会評議員
2)職人業州委員会委員長
2
1
8
経営と経済
3)職人業組織によって指名された 8人の代表
4)労働組合によって指名された 4人の代表
5)職人業信用金庫の理事会長
6)イタリア商工会議所連合の会長
をもって構成する.
①職人業全国評議会の構成員は,本項 2)及び 3)で定める構成員の中か
ら二名の副会長を選出する.
①
職人業全国評議会の組織及び機能に関する規定は,商工省令によって定
められる.
0
3
1章に負うものと
①職人業全国評議会の活動に必要な経費は,商工省令 2
する.
第十三条暫定措置
①
法律 1
9
5
6年 7月2
5日第8
6
0号および大統領令 1
9
5
6年 1
0月2
3日第 1
2
0
2号は,
廃止される. しかし,本法の定めるところと両立する関連諸規定について
は,各州は別にして,この法律の公布までの期間は適用されるものとする.
② 第 4条 c) に定められた職人業部門の特定に関し,共和国大統領令 1
9
5
6
年1
0月2
3日第 1
2
0
2号に基づいて作成された,伝統美術工芸に関する表は効
力を持つものとする.
①
法律 1
9
5
6年 7月2
5日第 8
6
0条第 9条に定められた登録簿に登録されてい
る諸企業は,本法第 5条に定める登録簿が制定された場合には,この最新
登録簿に登録される権利を有する.
①
職人企業の県の登録簿及び職人業県委員会は,通常,商工会議所に事務
所を置く.職人業県委員会は,協約に従って各州と会議所の以下の関係を
規制する.
①
現存の職人業州及び県委員の任期は,本法第 1
0条及び第 1
1条の定めると
ころにより新機関の設置まで延期されるものとする.新機関の設置は,い
ずれにせよ本法の施行から l年以内に実施されねばならない.
①
この法律の諸規定は,特別の憲章により,職人および職業訓練について
イタリアの職人業と職人業基本法
2
1
9
優先的な権限を有する各州および自治県の区域には適用されない.同様に,
各組織の基本となる名簿の記載の効果は,すべて法的効果に対してその地
位を保全する.
⑦
この法律は,国璽が押印され,イタリア共和国の法律及び命令集に収載
される.すべての者は,国の法律として遵守し,遵守させる義務を有する.
(注)
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6号,州への権限委譲令を前提にした協同組合企
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坂自治体問題研究所・イタリア地域経済研究会『イタリアの挑戦j 1
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9年.
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) 日本協同組合学会訳『西暦 2
0
0
0年の協同組合』経済評論社.
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3
0条は,法律 1
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7
5年 5月 1
9日第 1
5
1号による改正で設けられた制度で-あり,家族
企業 (
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)についての規定である.家族企業とは,配偶者および 2親等
以内の血族及び 3親等以内の姻族によって経営されるものを言う.
**産業政策関係閣僚会議 (
C
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.:
C
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-
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e
) は,法律 1
9
7
7年 8月1
2日第 6
7
5号により設けられた.経済政策の調整,経
済調整,合理化,開発について協議する合議制の機関である.
関連するイタリア共和国憲法の条項については,井口文男「イタリア共和国憲法 J(樋口
陽一/吉田善明編『解説世界憲法集』三省堂, 1
9
8
8年,宮沢俊義編『世界憲法集 j (
第 4版
)
,
1
9
8
3年,ボルゲーゼ阿部史郎訳『イタリア憲法入門』有斐閣, 1
9
6
9年を,また,イタリア
民法については,風間鶴寿訳『全訳イタリア民法典〔追補版 J
j法律文化社を参照した.
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