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ホワイトカラーの人材形成 -都市銀行の人事・研修制度を中心に-
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE Title ホワイトカラーの人材形成 -都市銀行の人事・研修制度を中心に- Author(s) 三原, 泰熙 Citation 経営と経済, 68(2), pp.119-139; 1988 Issue Date 1988-09 URL http://hdl.handle.net/10069/28360 Right This document is downloaded at: 2017-03-31T06:33:06Z http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp 《研究ノート》 ホワイトカラーの人材形成 −都市銀行の人事・研修制度を中心に− 三原泰熙 Ⅰ 序 石油ショック後の低成長,減量経営への適応において国際的に高い評価を 受けてきたわが国の経営,人事・労務システムは激変する経済社会環境の中 で今や変革期にあるといわれる。このような状況にたいして,「人材流動化 時代」「フロー型企業」「中間労働市場」「終身雇用制の再編成」「複合(クラ スター)専門職」あるいは「年功制から能力主義へ」等の様々な提言がなさ れてきている。本稿では,金融自由化,国際化,第3次オンライン化などの 環境変化が生じている都市銀行についての若干の資料とききとり結果にもと づき,その研修制度,人材形成を考察する。すなわち,新たな銀行業務の展 開,その高度化と専門化,および雇用形態の多様化や人材流動化との関連に おいて,人材形成はどのように行われているか,またどのように変わりつつ あるのか,を概観し今後の調査の課題を明らかにしたい。 1.内部労働市場と労働力の類型 雇用形態の多様化というとき,内部労働市場論による労働力の3類型ない し4類型が参考になる。内部労働市場の調査研究は1950年代より行われてき たが,デリンデャーとピオーレによって現実の雇用制度を分析する分析枠組 1) として精緻化された。外部労働市場では労働の価格,配分,訓練などの決定 が経済的変数によって直接コントロールされるのにたいして,内部労働市場 とは「一管理単位,例えば製造工場のなかで,労働の価格と配分(採用,配 2) 置,昇進など)が一連の管理的規則と手続によって支配されている過程」で ある。企業内部労働市場の成立は,19世紀に典型的な熟練労働者と不熟練労 1 2 0 経営と経済 働者というこつの労働力範暗に加えて半熟練労働者とし、う範鴎を成立させ た。さらに小池教授は企業内部での配置転換,昇進の調査から,内部昇進の 浅い型と深い型とに分けて,労働力の 4類型を指摘した。内部昇進の深い型 とは,経営管理の(かなり高 L、)階層にまで昇進可能な労働力範鴎である。 従来の内部労働市場論の調査は主としてブ‘ルーカラーを対象としていた が,その数が急激に増加し,その仕事が多様でその性質も変化しつつあるホ ワイトカラー労働者に内部労働市場論からアプローチしようとしたものにオ スターマンの調査がある。それは次のようなホワイトカラーの内部労働市場 の分析枠組を提示して,ボストン地方の管理者,営業職,コンビューター・ プログラマー,事務員の 4職種について調査を行った。 その枠組は,まず第 1に,企業内のホワイトカラー労働の異質性に着目し, 企業内にも三つのサブシステムが存在するというのである。即ち,内部昇進 型サブシステム ( i n d u s t r i a ls u b s y s t e m ),クラフト型サブシステム ( c r a f t s e c o n d a r ys u b s y s t e m )である。これら s u b s y s t e m ),二次的サブシステム ( のサブシステムを区別する特徴のうちで最も重要なのは訓練,技能習得のし くみである。内部昇進型サブシステムでは企業内訓練が中心であり,ほぼ企 業のコントロール下にあって訓練された労働力の供給に著しい影響力をも っ。これと対照的にクラフト型サブシステムでは,技能は企業の外で習得さ れ,その労働力は流動的であるとともに熟練労働者の不足ないし陸路が生じ がちである。したがって企業にとっては人材確保における不確実性に大きな 差異が存在することになる。 第 2は,サブシステム構成の変化である。企業は,技術や市場の制約があ りまったく自由なのではないが,ある職種を一つのサブシステムから別のサ ブシステムへ変更することができ,またしばしば行っている。同じ仕事でも 異なるサブシステムのもとでなされうるのである。したがって, r 労使関係 サブシステムの概念は人事政策の多くの変更を解釈するための枠組を提供す る。」変更をもたらす動機あるいは要因として,生産物市場の変化,労働市 場の変化,技術革新があり,それぞれ内部昇進型からクラフト型に移行した アメリカ商業銀行の貸付係, クラフト型からクラフト型と内部昇進型とが併 ホワイトカラーの人材形成 1 2 1 存するに到ったプログラマー,システム・エンジニアー,システム・アナリ スト, O A導入により内部昇進型から内部昇進型と二次的システムとの併存 に移行した秘書の例が示されている。 また,その調査によれば,企業内部労働市場の三つのサブシステムに加え て,臨時・パートタイム労働者の増加のほかに,業務請負,派遣労働の利用 によって問題となる職務をその企業の人事システムから除き,外部企業のそ れに移すことが試みられており,これは高いスキルの仕事においても生じて いたこと, したがって,これらのシステムを追加考察することの必要性も指 摘している。サブシステムの変更の可能性はまた企業聞の差異をもたらすが, その主な条件変数として,企業の文化,組合または組合組織化の脅威の有無, 雇用機会均等化にかんする政府の規則を挙げている。 2 . 人材形成方式 つぎに人材形成については,経済学,経営学,心理学,社会学などの技能 形成の研究の検討の上で,仕事の内容(平常作業,変化と異常への対応)と キャリアに着目した小池教授らの方法と調査が人事制度等を考えるさいにも きわめて有用である。 それはまずブルーカラー労働者について,その作業内容の観察から平常の 繰り返し作業と変化と異常への対応があり,その役割分担には前者を労働者 が,後者を技術者が担当する分離型と,労働者も後者をも担当するようにな る統一型があり,統一型の方が技能形成には有利である。というのは,すば やく変化や異常に対処でき,まだ労働者にとって先の見込みがあり,はげみ となるからである。現代の熟練とは単に繰り返し作業をうまく遂行できると いうのみならず,変化や異常に対応できることーそのためには幅広い作業が こなせるとともに,異常の原因を推理し対策を考えることが必要であり,そ の意味で知的熟練である。その形成過程の中心が O]Tにあるとすれば,そ れをどのように身につけるかは,どのような仕事をどのような順序で経験し てきたかによる。したがって調査ではキャリアをきくことが必要となる。ま たそれが知的で、あれば,ある程度の経験ののち,その経験を理論的にまとめ るための短期の Off-]Tが有効である。 122 経営と経済 さらにホワイトカラーについてもこの方法が適用され,第三次産業(スー ミーマーケット)や技術者についても Q]Tが中心であり,さらに欧米の技 術者の場合にも内部養成-昇進が主流であることが確認されている。銀行の 人材形成については,国際比較のために貸付係に限定されているが, Q]T が重要であること,支庖間異動による幅広い経験ーキャリア(それによる査 定の相場性と競争の促進)が確かめられている。 Q]T が重要であるという ことは,業務がどのように組織編成され,提供されるかが重要となる。そこ で組織機構と人事制度の考察が必要となる。 3 . 課題 以上の 2点から,きわめて限定的であるが都市銀行を取り上げて,その人 事制度と人材形成を見る。本稿では,今回立ち入った個々人の具体的なキャ リアのききとりができなかったので,組織,人事制度および研修・人材育成 について若干の資料(新聞,雑誌)によりその概略を述べ,それに人事部か らのききとり結果をまとめて,むしろ残された課題を明らかにし今後の調 査の手がかりとしたい。 注 1 )P e t e rB .D o e r i n g e ra n dM i c h a e lJ . Piore,lnternalLaborMarketsandManpower e x i n t o n,M a s s a c h u s e t t s :D .C . HeathandCompany,1 9 7 1 . 内部労働市場論 A n a l y s i s,L の展開をサーベイした井上詔三「内部労働市場論の再検討」日本労働協会雑誌, 210号 ( 1976年 9月),内部労働市場の経済的側面をホワイトカラーについて実証しようとした 井上詔三「内部労働市場の経済的側面ーホワイトカラーの事例一」日本労働協会雑誌, 2 8 2 号 ( 1 9 8 2年 9月),欧米の技術者に関する文献をサーベイした村松久良光「英・米の技術 者市場は競争的か一ひとつの文献展望一」小池和男編著『現代の人材形成一能力開発を さぐる一』ミネルヴァ書房, 1 9 8 6年 , EDP 部門に適用した山ノ内敏隆「わが国ホワイト .カラーの内部労働市場-EDP部門の内部昇進制を中心として一」労働問題研究(近畿 大) 1 7( 19 8 3 ) 参照。また最近の内部労働市場調査の動向をまとめたものとしては P a u l Ostermane d .l n t e r n a lLab o rM a r k e t s, Cambridge, M a s s a c h u s e t t s:TheMITP r e s s, 1 9 8 4 参照。 2 )D o e r i n g e randP i o r e,o pc i t,p .1 . 3) 小 池 和 男 『 職 場 の 労 働 組 合 と 経 営 参 加 一 労 使 関 係 の 日 米 比 較 一 』 東 洋 経 済 新 報 社 , 1 9 7 7年 。 4 ) Paul0sterman ‘ ,E mployments t r u c t u r e sw i t h nf i r m ',B i r t i s hJ o u r n a lo l l n d u s t r i a lR e l a - ホワイトカラーの人材形成 1 2 3 t i o n s,(982),do ‘ ,White c o l 1 a rI n t e r n a lLaborMarke t 'i nOstermane d .o pc i t . 5)昂i d . p .1 6 8 . d . p .1 7 8 . 6)昂 i 7) I bi d . p p . 178-181 . 8) I bi d . p p .1 7 1 1 8 5 . 9 8 7 9)小池和男編著『現代の人材形成』第 6章,愛知県『知的熟練の形成』愛知県労働部 1 年,小池和男「知的熟練とその一般性」組織科学, 2 1巻 2号(19 8 7 . 9 ) 参照。 1 0 ) 小池和男編著,前掲書 ( 9 8 6 ) 第 l部参照。 11)小池和男,猪木武徳編『人材形成の国際比較一東南アジアと日本一』東洋経済新報社, 1 9 8 7 年,第 1 0章 。 E 都市銀行の人事・研修制度 都市銀行においては,金融の自由化の進展に対応して昭和6 0年前後より組 織機構,人事制度,研修体系の改定が続いている。人材形成は経営戦略,組 織と対応したものでなければならないが,他方では組織とその編成原理は成 員の O]T とキャリア一人材形成に影響を及ぼすであろう。まず近年の組織 機構と人事制度の改定について簡単にみておこう。 1.組織機構の改定 都市銀行では,近年急速に進行する金融の自由化・国際化,情報化という 状況にたいして,顧客に内外一体の総合金融サービスを提供する「ユニバー サル・パンキング J(三菱,三和,住友銀行), I グローパル・バンキング J( 三 井銀行)などを経営戦略として掲げ,それに照応した組織機構の改定を行っ T こ 。 例えば,三菱銀行は, 6 1年 1 0月 , I 内外にわたるユニパーサル・パンキン グの体制の確立」を目指して本部組織の全面的改正を実施した。自由化,国 際化,証券化に象徴される環境変化に対応するため,伝統的な商業銀行業務 に加えて証券業務をはじめとする投資銀行機能を強化して,総合的な金融商 品,サービスを提供する方向に相応しい組織の構築を課題とした。そのため 6年 7月の本部組織改正で採用された「顧客マーケット別組織」を引き に , 5 1 2 4 経営と経済 継いだが,投資銀行業務推進においては,幅広い情報と高度に専門的なスキ ル,ノウハウこそが最大の武器であり,情報の集中と専門的能力レベルの確 保を図ることが重要であり,こうした機能は組織上集中されている方がよい として,顧客マーケット組織と機能(商品)別組織が併用されている。大企 業,中小企業,個人などの顧客マーケット担当部門は自らの担当マーケット については商業銀行業務と投資銀行業務の両方を含む全面的な営業推進と収 益責任を負うが,投資銀行業務の実施に関しては専門家である投資銀行部門 の支援を受けるものとされている。他方,投資銀行部門は,顧客マーケット 部門にたいするサービス部門としての機能を発揮しつつ商品別の自らの担当 分野については企画,推進,収益責任を負うのである。投資銀行業務推進の ため「証券本部」と「情報開発本部」が新設された。 このように顧客マーケット別の組織に加えて投資銀行業務等の専門的分野 1年 4月 を担当する部門の新設,強化は他行においても共通であるが,昭和 6 の三井銀行の改革では,機能別組織からきめこまかな顧客マーケット別部門 と先端的分野の機能別部門の併存する組織に転換するとともに,事業部聞に 垣根をつくりがちなピラミッド型の「総本部制」を採用せず,マトリックス 組織を理想としながら,両者が自由に連携し臨機応変に対応を行う「広翼型 1年 1月から実施された住友銀行の組織機構の改革 組織」とした。また昭和 6 4年に都市銀行で最初に導入された顧客別の総本部制を改めて地域別 では, 5 営業拠点を軸にして横のつながりを重視した 5本部を設置した。 さらに付加すれば,総合金融体制の確立をめざす銀行は,銀行本体で取り 扱うことはできない周辺的であるが専門的なサービスを関連会社を通じて提 供することにより顧客に提供するサービスの範囲の拡大を図るとともに,専 門化と別会社化による合理化の効果が意図されている。 2 . 人事制度の改定 戦略と組織機構の改定とほぼ前後して人事制度の改定が行われた。複線型 の人事管理制度,いわゆるコース別管理制度の実施,それに関連した資格制 度と賃金制度,人事評価制度の改定がその主たる内容である。さらに中途採 用,契約社員制度,社会人材公募制,女子社員の再雇用制などもある。その 1 2 5 ホワイトカラーの人材形成 うちコース制,資格制度を中心にいくつかの例からその方向をみよう。 ( 1 ) 複線型人事管理制度(コース別管理制度) 昭和 6 1年 4月に男女雇用機会均等法が施行されたが その前後にコース別 2年雇用管理調査 ( 6 2年 人事管理制度を採用する企業が増加している。昭和 6 1月調査)によれば,調査産業・企業計では「コース別採用制度」をとって いるのは 2.8%にすぎないが,金融・保険業では 12.5%であり,とりわけ金 , 000人以上の企業においては 64.3%がコース別採用制度をと 融・保険業の 1 っているのが目立っている。 2年 7 8月の調査では,コース別 また神奈川県による法施行 l年余後の 6 人事管理制度を実施している事業所は 22.0%,r 将来実施したい J13.4%, 実施している事業所のうち「均等法施行に伴い区分けした」のは 4.9%のみ であるが,その事業所には特徴があり,業種では金融・保険業の 28.2%が突 出して高く,全社従業員規模では 1 , 0 0 0人以上の大規模の所で高い。区分け r 業務内容の相違」が 69.0%と最も多い。これに次ぐのが「転居 職種変更の有無 Jr 昇進・昇格のレベル・スピード を伴う配置転換の有無 Jr の条件は, の相違 J r教育・訓練の有無や内容の相違」等であるが,それらはそれぞれ 20% 前後で, r 業務内容」と比べると少なし、。しかし金融・保険業では「転勤 の有無」が条件となっている事業所が 72.7%にものぼっている。一般職の女 子が希望した場合に基幹職にコース変更できるかどうかについては, r 制度 r としてある」事業所が 31 .0%, 制度はないが可能性はある」のが 50.0%で ある。「制度がある」のは金融・保険業では 84.8%のものぼり,卸・小売業 3 . 0 2 5 . 4 %にすぎない。 で48.8%であるが,その他の業種では 1 都市銀行についてみると,例えば,富士銀行は 2コース制を,第一勧業銀 1年 4月に導 行は 3コース制を,三菱銀行は 4コース制を採っている。昭和 6 入した三菱銀行の場合は,マルチフ。ル・キャリア・コースとして四つのキャ リア・コースを用意している。 A コースは転勤も職種転換ある,いわゆる「総 合職」コースであり, Bコースは転居を伴う転勤を望まない者を対象とした し、わゆる「一般職」コースである。 Cコースは, B コースと同様に勤務地を 限定するが,システム・エンジニアのような専門能力を持つ人を対象とした 1 2 6 経営と経済 ものである。そして Bコースを選んだ後でも,転勤可能になった場合 A コー スにうつることも不可能ではないし,また転勤で、きなくても能力があれば C コースに移って役付きになる道も聞かれている。さらに 1" '5年と期間を限 った個別契約で、年俸制の Sコースがあり,特殊な技能などを持つ技術顧問や 外国人を対象としたものである。また,女子行員が退職した後,再び同行お よびその子会社で働く機会を提供するリ・エントリー制度を導入した。それ もパートタイマー・コースから子会社のフルタイマー・コースへ,さらに銀 行の行員に採用する行員コースへと登用の機会のある三つのコースが用意さ れている。 6 1年 7月に新しい人事制度の一部として「コース・資格制」を導入した富 ' 4級書記,主事補,副主事, 士銀行では,既存の単一の職能資格制度(1級 " " ' 4級書記を一般 主事,参事補,参事,参与)を見直し,事務行員である 1 職 (3" '1級,主務)と総合職(2" '1級)に分けている。コース転換制度 1年 8月に「コース別人事処遇制度」を導入し はある。また第一勧業銀行も 6 コースの自主選択JI 銀行員としてのプロフェッショ た。その特徴として, I 多様性の発揮」を図ることとし ナル化の一層の推進 JI 一般職JI 特定職」の 職 JI 事務職員を「総合 3コースに区分した。このうち「特定職」はシス テム開発分野,国際業務分野等の特定の分野で専門的な知識,技能をもって 業務に従事する職員および営業 事務等の分野で専門的に管理業務に従事す る職員として位置づけされ,勤務地については国内で定められた所属地域外 への転勤は命じないものである。上記 2行と同様に 意欲と能力のある者に は「コース転換」を可能としている。 ( 2) 職能資格制度と昇進 コース制の導入と平行して,それに合わせて職能資格制度が改定されてい '8級)において, る。前述の三菱銀行では,職能資格給を構成する職級(1" A コースは 8級(本部の部長ないし課長クラス)まで上がる可能性をもつの にたいし, Bコースでは 4級まで, cコースでは 6級(本部で調査役,課長 代理クラス)までと明確に分かれている。 また富士銀行ではコース区分の導入とともに,主として能力開発-発揮を 1 2 7 ホワイトカラーの人材形成 考慮、しながら資格区分をしている。まず一般職コースでは,実務能力の習得 度合いに応じて一般職 3級(基礎的業務習得時期),同 2級(実務能力習得 時期),同 l級(実務能力発揮時期),主務(管理補助等期待時期)の 4資格 とし,総合職の事務行員では,業務の多様化,高度化に対応して,分野別に 強い人材を育成するために 育成過程に応じて総合職 2級(適性・進路選択 期),同 1級(適性・能力開発期)の 2資格としている。総合職の役付き行 員を管理資格と経営資格に分け,管理資格では分野別プロとして,もてる能 力を十分に発揮させ適材適所による人材配置を進めるために副主事,主事の 2資格を,経営資格として,主要な職責(その職位に求められる最終成果) と業績対応の処遇を徹底するものとして副参事 した。なお若手抜擢の下地づくりとして 参 事 参 与 の 3資格を設定 資格と職位の対応関係を一部弾力 化している。 昭和 6 0年 4 " ' 6月に人事制度の全面的改定を行った三井銀行では,職能資 1段階を 1 3段階にする一方,各資格に対して本 格を書記 4級から理事までの 1 来想定されていた職務や職位と実際に就いている職務・職位との聞にギャッ プが生じていたので, r 経営職階J ,r 管理職階Jr 一般職階」に分け,一般職 階は職位に就かず,そして管理職階と経営職階とは同ーの職位に就かないこ ととして,職務・職位-処遇との対応関係を一致させることとなった。また 処遇のためではなく「純化された」ものとして導入された専門職制度でも同 様に資格と専門職位との対応関係がはかられるとともに,専門職と一般職(ラ イン)とを互換性のあるものとして位置づけている。なお専門職は, 6 0年に はまず情報処理分野に導入され,その後金融アナリストや各種コンサルティ ング分野,建築技術,証券,国際分野等への拡大が考慮されていた。この専 門職は,処遇のためのものではなく「純化された」専門職ではあるが,ライ ンとの互換性が考慮されており,流動的な専門職ではないということに注意 すべきである。 以上のコース別資格制度は,コース転換の可能性はあるが,職務内容と転 勤の有無などによって,業務経験と昇進可能性に差をもたらし,内部昇進の 浅い型と深い型(および中間型)を明示的に区別したものであり,人材形成 1 2 8 経営と経済 をやや分離型に進めたともいえる。さらにコース制,職能資格制度の改定と ならんで,職務遂行能力と職務の内容・責任等を重視する方向での給与体系 の改定が行われたが,ここではふれない。 3 . 人材育成一教育研修制度 ( 1 ) 教育研修体系 経営環境の変化に伴って経営戦略が変わり,組織や人事制度が改定される が,また期待される人材・能力も変わり,人材育成の目標,プログラムも改 定されることとなる。 昭和 5 0年代半ばに都市銀行ではそれまでの機能別組織から顧客マーケット 別の組織に改定され, 5 0年代の後半には,金融の国際化,自由化,エレクト ロニクス化が本格的に進展しはじめたが,これらの変化に対応して, r 顧客 分野別の人材育成」が強調され,昭和 6 0年代に入ってその変化が加速される につれ, r 専門職」の確保・育成にウェイトが置かれるようになっている。 例えば,森田武三井銀行副社長は,組織機構と人事制度の改定と関連させな がら,銀行の人材育成の今後の方向を次のように述べている。「銀行はし、ま マーケット別の人材育成を迫られている。従来のどの分野でもできるという 意味だけのゼネラリストの教育では対応できない。とくに国際部門や証券部 門などにおいては,従来の人材育成方針や研修だけでは無理である。一方で, 個人や中小企業分野のニーズも従来以上に多角化してくる。要するに,銀行 のなかに,きわめて専門的な能力をもった人と,従来業務でもより多角化し たニーズに対応できるような人材育成が必要だ。これからの人材育成では専 門化と多様化という二つの問題に対応しなければならない」と。ここからは 対応の仕方によって総合職でも 2種の人材形成に分離する可能性もある。た だしこれは業務分野についてであり,管理・経営職への昇進については別に みることが必要であろう。 三菱銀行では,昭和 5 0年代末に顧客分野別のキャリア開発プログラムを導 入した。その要点は次のようである。まず,金融環境の変化に対応して,銀 行員に要求される能力も変化するのであり,それは「企業ニーズへの対応能 力Jr 変化への対応能力 Jr エレクトロニクス化への適応能力」である。そし ホワイトカラーの人材形成 1 2 9 r ゼネラリスト養成から専門職・分野別プ ロ養成へJr 国際業務要員を含めた人材の内外一体化Jr 他流試合の必要性」 て,人材育成のポイントとして, が指摘される。 「専門職・分野別プロ養成」についてみると 専門化-高度化も進むので 金融業務の多様化とともに 顧客のニーズ、を充たすためには専門性の深さが 要求されるのであり,その専門性の上に立ったセ。ネラリストでなければ通用 しなくなる。この場合,分野別プロの概念を「貸付あるいは融資のプロ Jr 外 国為替のプロ」と L、ぅ機能別のそれではなく, r 個人取引のプロ Jr 中堅中小 企業取引のプロ Jr 大企業取引のプロ」と L、う顧客マーケット別の組織に対 応したものとしてとらえられている。この分野別プロに求められる能力は機 能別プロに比べて広く,例えば,大企業取引のプロの場合,預金,貸付,外 国為替と L、う伝統的銀行業務のほかに,証券業務あるいは国際業務に精通し ていなければならない。そこで顧客分野別プロを長期的に養成するために人 材育成プログラムが導入された。すなわち生涯キャリア開発 C C D P )と顧客 別分野とを組み合わせたマトリックスをつくり,そのなかで各人ごとのキャ リア・パスを考慮、して育成しようとしている。 6 ' " ' ' 2 7歳までの若手行員の段階を分野別プロの準備段階とし 導入研修から 2 て位置づけ,銀行業務の基礎能力の向上を主たる目的とするとともに,どの 分野に適性があるかを探していく「適性模索期」である。つぎが 2 6 ' " ' '7歳か ら3 0歳前後の中堅行員の段階で 「ビジネス遂行能力向上段階」であるとと もに,顧客分野別の育成プログラムに入ってし、く。各分野別の実務研修が実 施され,併せて海外・国内留学 派遣,海外トレーニ一派遣,各種の社外研 修も行われる。その後は管理者研修 マネジャー養成研修(次長・支庖長研 修)へと続く。このようにして分野別の生涯キャリア開発ステップに応じた 教育プログラムを経て一人前のプロに育てていくというものである。 富士銀行では,前述の人事制度の改定において,少数精鋭を支える強い人 材の育成および業務の専門化に対応できる分野別プロの養成を計画的に推進 するために「キャリア開発制度」を導入した。この制度は,行員が自らのキ ャリアを形成したし、というニーズにできるだけ応えながら銀行の必要とする 1 3 0 経営と経済 人材を確保できるように先を見越した人材育成を意図している。それは「キ ャリア設計プログラム」と「能力開発制度」より構成される。キャリア設計 キャリア・ガイダンス Jr 自己申告制 Jr キャリア・カウン プログラムは, I セリング」より成る。キャリア・ガイダンスは行員が進路選択するさいに材 料を提供するために,職位記述書と役割職務書などによって銀行の仕事を行 員に説明するしくみであり,自己申告制によって行員は自分自身の適性を判 断し,将来の進路選択を自己責任において申告する。この自己申告書(人事 調書と一体となっている)にもとづいて,人事部および上司とのカウンセリ ングによって, I 育成ビジョン」がつくられる。能力開発制度は, r 育成ビジ ョン」に基づき,現在の仕事を拡大する目標,改善する目標を設定し,その ために何をするか,その結果の自己評価と上司による評価カウンセリングと いう「目標管理」のプロセスを軸とした「職場教育」とそれを補完する研修 制度およびジョブ・ローテーションより構成されている。 上述の 2行におし、て強調されていることは,自己申告制等を採り入れなが ら , CDP による人材育成の計画化であり,それは内部労働市場の特徴の一 つである需要に応じた供給の確保を推進するものであるといえよう。 ( 2 ) 中途採用 中途採用は企業内部の人材形成とは直接関係しないが,優秀かつ必要な人 材の中途採用は育成を含む人事政策に大きな関わりをもつものである。 銀行による中途採用が大きな話題となったのは,昭和 6 1年 7月の三菱銀行 による公募による中途採用である。もっとも信託銀行では住友,三菱,安田 の各行が公募による中途採用を行っているが,三菱銀行の場合は都市銀行と いうことで注目された。その後三井銀行が 6 1年 9月に公募中途採用を行っ T こ 。 中途採用の狙いとしては,第 1に国際業務,証券業務 システム部門など の急拡大が見込まれ,専門的知識と経験をもった即戦力の人材を補充するこ と,第 2に異なる企業文化で育った人材の導入により組織の活性化を図るこ と,第 3に年次別人員構成の歪みを正すことが指摘されされている。処遇に スタート・ライン ついては「新卒から入っている人と同等な扱いをする Jr 1 3 1 ホワイトカラーの人材形成 は少なくとも同じにしよう」というものである。 本当に利益の柱にしようと思うなら現 第 lの即戦力の補充については, I 在の程度の中途採用では駄目だ。せいぜい一一一中途半端な人が集まるだけ だろう。やるなら本当のプロ,それも経営のできるプロを採らな L、と駄目だ。 しかし現在の賃金体系では本当のプロは来ないし, (現在の)銀行の体質 では,中途採用で経営に参加できる人など生まれない」と L、う批判もある。 しかしこのようなプロフェッショナルの採用形態としては「契約社員制度」 が用意されている(例:住友信託銀行,前述の三菱銀行の Sコース)。都市 銀行の中途採用においては流動的な専門職,プロを期待していないのであっ て,その時点から長期ストックの人材として期待しているのである。 6 . 小括 近年導入されたコース別人事・処遇制度は,コース転換の可能性を開いて はいるが,仕事の内容,昇進の深さによって,人材形成をやや「分離方式」 の方向に推進したともいえるが,大卒女子の総合職を除けば,大枠としては 在来の区分を明示的にしただけかもしれない。それとともに行員の過半(ほ ぼ 2/3)を占める男子行員については,顧客のニーズの多様化・高度化, 業務の高度化・専門化とそれに伴う行内外の研修の必要が力説され,その結 果,必要な知識・技能がかなり一般的になり,流動化の可能性も考えられる が,なお依然、して内部昇進の深い型(総合職)が維持されている。新分野の 不足人材を補充するために行われた中途採用にしてもそうである。中途採用 や引抜きはセンセーショナルに扱われるが 人材育成の基本は内部養成にあ る。それは,一つには,顧客分野別プロのキャリア開発制度,顧客分野と生 涯 CDPとのマトリックスにみられるように 価値観の多様化には自己申告 制で対応しながら,個々人の能力に応じた配置転換と仕事の割当てを通じて -O]T の計画化によって,業務の多様化に対応する人材を確実に,かつ効 率的に育成確保できるからであると考えられる。 注 1 2 ) 芹沢正「三菱銀行組織改正の狙いと特徴」金融財政事情(昭和 6 1年 1 1月 3日),日本経 1年 9月 8日。昭和 6 3年 4月の三和銀行の組織改革もほぼ同じである。金融 済新聞,昭和 6 1 3 2 経営と経済 財政事情(昭和6 3年 2月 1 5日 ) , 24-25頁参照。 1 3 ) 足立茂「三井銀行組織改革の狙い一広翼型組織へ大転換」金融財政事情(昭和 6 1年 5 月1 9日),金融ビジネス編集部「銀行の新組織革命!収益多軸化時代に挑む」金融ビジネ 2 年 9月,参照。 ス,昭和 6 1 4 ) 小林隆太郎「金融戦国時代を院む『組織改正』の果敢」プレジデント, 1 9 8 8年 3月 , 6 2年 9月) 1 6頁,および ( 6 3年 4月) 2 5頁参 組織機構の推移については金融ビジネス ( 照 。 1 5 ) 松浦功「関連会社の育成をいかに図るべきか」金融財政事情 ( 6 2 . 5 . 4 ) 参照。そのな かには,本体とは別の人事制度による専門家の雇用・活用も含まれている。 1 6 ) [""改定の動き急な金融業界の人事制度」労政時報,第 2 8 7 3号 ( 6 3 . 3 . 2 5 ) 参照。 1 7)労働省政策調査部『雇用管理の実態』昭和 6 2 年度。 1 8 ) 労務管理通信, 2 8巻 2号 。 1 9 ) 日本経済新聞,昭和 6 1年 5月 3日 。 2 0 ) 石井康裕「富士銀行・新人事制度の全容」金融財政事情 ( 61 .8 . 1 8 ),および「富士銀 6巻2 4号,参照。 行の新人事制度 J労務管理通信, 2 2 1)摩尼義晴「役割期待を明確にした『コース別人事処遇制度 ~J 金融財政事情 (62.8.3) 2 2 ) 日本経済新聞,昭和6 1年 5月 3日 。 2 3 ) 注2 0 ) 参照。 2 4 ) 桜井信成「三井銀行の新人事制度の概要」金融財政事情 ( 6 0 . 7 . 1 5 )。 2 5 ) 高年齢者雇用開発協会『高齢化社会における人事管理の展望に関する調査研究報告書』 (985) は専門職制度の評価において, [""本格的専門職制度」と「処遇的専門職制度 J と に分けて調査している。 2 6 ) 注2 0 ) および桜井信成,前掲稿, 100-102頁参照。 2 7)森田武[""~広翼型』組織下の人材育成策」金融財政事情 (62.12. 1), 41 頁。 2 8 ) 中村啓一郎「ゼネラリスト養成からスペシャリスト教育へ」金融財政事情 ( 5 9 . 1 0 . 2 9 ) 参照。 2 9 ) 各分野別の研修の内容項目については 前掲稿 88-90頁参照。 3 0 ) 石井康裕,前掲稿,参照。 31)労政時報,第 2 8 7 3号 ( 6 3 . 3 . 2 5 ),4 頁 。 3 2 ) 日本経済新聞,昭和 6 1年 9月 8日 。 3 3 ) [""この人と一時間一尾上洋二氏」エコノミス卜, 6 4巻 4 7 号 0986.11 .4 )6 5頁 。 3 4 ) 三村守「都銀を襲う『人材革新』の衝撃波 JWILL,1 9 8 6 年1 0月号, 8 6頁 。 3 5 ) [""契約社員制度はどう運用されているか -15社の事例にみる募集・採用方法・労働条件 8 6 7号参照。 の実態」労政時報,第 2 3 6 ) 前掲 エコノミスト, 6 4巻 4 7号 0986.11 .4 ),64-65頁参照。 ホワイトカラーの人材形成 1 3 3 3 7 ) 小池,猪木編前掲書,第 1 0章参照 皿 若干のききとり調査から Eでは,資料により,金融自由化の展開と L、う経営環境の変化にたいして 総合的金融サービスの展開を経営戦略として掲げ それに対応して組織,人 事制度等の改定がなされたこと,人材育成について見れば,①多様な雇用形 態,キャリア・パスの整備がコース別人事制度として明瞭に打ち出されたこ と,①顧客分野別および専門職的専門家の育成が強調され,一部では中途採 用も行われているが,基本は内部養成であり それが計画化されて強化され ていること,が示された。本節は,都市銀行 4行の人事部からききとりした ものを,①専門化と流動化,②キャリアと OJT ,①中高年問題を中心にまと めたものである。なおききとりは 1 9 8 7年 2月である。 1.専門化と流動化 ( 1 ) 専門化 既述のように,都市銀行は共通して組織および人材の専門化を目指してい る 。 K行は「総合職の顧客分野別の専門化」を目指しており,一般的スキルを もっクラフト的・機能的「専門職」は不要である,という(ここでは総合職 と一般職の 2コース制になっている)。すなわち,機能別-流動的な,いわ ゆるクラフト的専門職ではなく,総合職の専門化,顧客分野別の専門化であ る。例えば,中小企業取引の場合には人間的なつきあいが重要であり,他方 大企業取引の場合,取り扱い商品が多く,条件に厳しく,逆に人間関係の方 は淡泊である, といった相違もあり,個人,中小企業,大企業などの顧客別 ・マーケット別に人材を投入している。次に,システム・エンジニア,外為 ・短資ディーラーとし、う専門職についていえば,その知識・技能は一般的・ クラフト的ではなくなりつつある。国際的な競争と競合のなかでは必要な知 識としてはテクニカル・ノウハウよりもマネジメント・ノウハウの方が必要 となってきている。例えば, SEの場合では, K行の金融システムを構築 1 3 4 経営と経済 するとき,どのようにシステム化するか,コンピューター・メーカーの SE や派遣労働者をどのように組み合わせるか,ということが必要であり,一般 的・クラフト的な仕事は外注・下請化することとなる。ディーリングについ ても,変動相場制移行直後にはクラフト的・技術的(テクニカル)な知識が 要求されたが,今ではディーリング自体にマネジメント・ノウハウが求めら れる。ただし, 行でも SEやディーリングは業務のごく一部すぎない。同様に L SEやディーリングはキャリア・パスの一環として位置づけられてお り,より上位の管理職位のための基礎知識を得るものとされている。この場 合 L行での専門化は,先端的な分野については,組織の専門化-専門的部 門をもつことであって,個人の専門化ではない,つまり組織(システム,マ ニュアル)で対応するのであり,組織のなかで、の専門家をつくってゆくー育 っていく,というのである。なお L行での人材育成の基本は「従来の人づく り(人格形成)に加えて専門的能力の向上をはかる。人づくりが基礎にあり, 企業文化がなくならないかぎり,内部調達しかなく,中途採用はしな L、」と いうものである。 M行では「専門家と専門家を管理するシステムの確立,従弟制的ジェネラ リストの育成に代えてニーズに応える研修体系の確立」を目指している。取 引の相手はその道何十年というプロであり,それ相応のプロでなければなら ず,スペシャリストを育てなければならない。(そのためにトレーニーや留 0年に従事するわ 学などの形で外に出して養成する。)しかし,同じ分野に 3 けではない。関連会社のマネジャーを含めて外延分野へ出てゆく。リーダー シップのある者はマネジャーになりトップ・マネジメントにまで昇ってゆ く。リーダーシップの一般性も考えられるが,管理のみのプロでは専門職的 分野の管理はできない。他方, リーダーには(業務に関する専門的知識・能 力のほかに)グループ・マネジメントやプラス・アルファとして将来を見る, ニーズを汲み上げること等が要求される,とし、う。 ( 2 ) 流動化 以上からみると,専門化とはし、え,主流は組織に対応した分野別の専門化 であり,また金融自由化・国際化に伴う新しい高度な知識を要する業務への 1 3 5 ホワイトカラーの人材形成 専門化にしても,それは一般的な,他でも通用する専門職,いわゆるクラフ ト的な又はプロフェッショナルな専門職で、はなく,専門的セクションに配置 されたキャリア・パスの一環である。そこでは専門的知識・スキルに加えて マネジメント・スキルやノウハウが要求されており,企業文化があるかぎり, 流動化しない,また外からは採らず,内部養成しかない,ということになろ う。むしろ流動化はヨリ低いレベルのところで進んでおり,派遣労働者や下 請・外注の活用が行われ,そのために銀行自身による関連会社も設立されて いる。企業文化にも言及されるが,流動化-非流動化はむしろ育成の効率と コストによってかなり説明されうるのではなかろうか。 2 . Q]Tとキャリア 業務の高度化と専門化にともなって,業務別研修や留学, トレーニ一派遣 などが重視されてきているが,実際の仕事の遂行(上司による指導も含む), 経験による能力向上が重要であることには変わりはない。「ゆっくりと上司 が手順をふんで指導するという Q]Tは,現場が切迫しており,むしろ本格 的な仕事につけることによって仕事を覚えるのではないか J (N行)一一こ れこそが Q]Tそのものである一一,また「意図的に配置して育てることも L行)ということであるが,この場合,注目す あるが,結果として育つ J( べきはキャリアの幅については「ただ多くの仕事を経験すれば,即,能力の 向上になるとはいえない J(K行)とし、う指摘がある。他方では,専門化と ともに多くのことを経験できなくなっており,また経験の陳腐化が速くなっ ている。したがって,異動配置すれば人事部の仕事が終わり,人材が育成さ れて L、くわけではな L、。そこで目標管理によって何を向上させるのかを明確 ) 。 にして,自己啓発に期待しながら,能力の向上をはかろうとしている (K行 これは, る , CDP の形での,すでにフソレーカラー労働者の場合に指摘されてい iQ]Tの制度化,体系化」とみることができる。 また専門化とともに経験することの幅が狭くなっているが,このことは逆 に,例えば支庖長,部課長にいたるキャリア・パスが多様化していることを 意味する。いまや若い人の仕事の拡がりが狭くなり,例えば短資ディーリン グを長くしているということもある ( K行 )0 M行の場合でも,業務の専門 1 3 6 経営と経済 職化とともに従事している期間が長くなる者も少なくなく,振れが小さくな っている。そしてそのキャリアの多様化から「階層別研修の内容の見直し」 の必要が感じられている (K行)。また「ある分野で一流になれた者は多分 他の分野でも管理できるであろう J .r支庖長にはマネジャーとしての能力(人 格を含む)が重要である J( L行)ということも聞いた,実際にはいろいろ なタイプの支庖長がおり(先頭に立って外に出るタイプ,人を使うタイプ, 人を育てるタイプなど)また支庖の性格の違いもあり,現場の営業戦略,ニー L行)。 ズにあわせて,副支庖長,課長の人選と組み合わせが考慮されている ( このことは,前述のように管理のみの専門化はありえないとしても,専門的 業務の能力と管理・経営能力とを一応分離して考えることもできることを示 唆する。つまり,第一線の管理には専門的業務の能力が不可欠であろうが, それより上級の管理・経営では,第一線管理者を通して管理すればよく, r グ ループ・マネジメント,将来を見る,ニーズを汲み上げる J(M行)といっ たリーダーシップおよびプラス・アルファの能力が要求されるものと考えら れる。 3 . 中高年問題 一方では新しい業務分野の人材不足に対して中途採用があるが,他方では 中高年層の増加とポスト不足,同時に能力の陳腐化の問題がある。近い将来 には「団塊の世代」がこの年代に入ってくる。そこで‘中高年層の処遇につい て 2行 (L, N行)で聞いた。 その一つは職務開発であり,特命事項を持つポストをつくること (L行) である。その 2は出向である。金融自由化は他の業種から侵入されることも あるが,他方では機会の拡大を意味し,いろいろなニーズにしたがった新規 事業への進出の方が大きく,また急成長している中小企業からの管理職の人 材の要求もあり, しかもその場合には高いポストにつくことができたので, 今までのところ順調に対応できてきた (L, N行)。しかし「先には頭の痛 L、問題になるかもしれな L、 J(N行)という懸念も表明された。関連会社へ の出向は中高年対策のみではなく,中堅層が関連会社のミドル・マネジメン トを経験して経営層に昇進するキャリア・パスの一環としても活用している ホワイトカラーの人材形成 1 3 7 (L行)。いわゆる教育的出向である。 4 . 小括 以上のききとりから,次の諸点を指摘できる。 ①総合職とはし、え,その専門化が進んでいる。その一つは顧客分野別の専門 化であり,専門化とはいえ,・多様な機能をこなし,その意味ではなおゼネラ リスト的である。 ①専門化の第 2は,システム開発,国際業務,証券業務のような新しい,高 度な専門技術的分野における専門化である。ここでは専門的部門をおいてい る。しかし,その担当者は一般的な専門知識・技能のみならずマネジメント ・ノウハウを含むプラス・アルファが要求され,キャリア・パスの一段階と して位置づけられており,企業文化の影響および人材育成の効率から,流動 化は期待されていない。 ①多様な金融サービスの展開とともに集合研修や自己啓発などの Off-]T の必要性・重要性の高まりが指摘されるが,同時に仕事の遂行そのもの -O]Tが能力向上において重要である。 ①O ]T の重要性は,人材形成の考察において,キャリアの拡がりと深さを みることの必要を示唆する。しかし,専門化の進行とともに経験する仕事の 幅は狭くなり,それだけキャリア・パターンは多様化しつつある。まだ現時 点が経営戦略,組織,人事の大きな転換直後であるとすれば,一般的にキャ リアをきいてもそれほど意味はないかもしれない。ホワイトカラーの仕事お よび雇用形態 ( I R サブシステム)が多様化しており,その仕事の内容の解 明が必要であるとともに,分野,階層などを絞って,そのキャリアをきくこ とが必要であろう。 注 3 8 )1 9 8 6年 3月末までの 3年間における都市銀行(東京銀行を除く 1 2行)の行員数の減少(1 万 5千人)と派遣(パート)行員の増加(1万人)については日本経済新聞,昭和 6 1年 8月 1 7日,参照。 1 3 8 経営と経済 N 結 以上において確認されたことの要点と残された課題を列挙して結びとしょ う 。 ( 1 ) 雇用形態の多様化がし、われるなかで,男女雇用機会均等法を契機にして 人事処遇のコース制が導入された。コース転換の可能性があり,また実質的 には既に存在していた区別を明示的にしたにすぎないとしても,形式的には 人材形成の分離方式の方向に一歩推進されたようにみえる。一般職のはげみ, 意欲に影響はないのだろうか。 ( 2 ) 行員の過半を占める男子-大卒行員は深い内部昇進型のコースに所属 し,人材形成の統一方式が維持されている。環境の激変と業務の高度化,専 門化にかかわらず,基本は内部養成である。さらに中途採用者も長期的人材 ストックとして期待されている。 ( 3) しかし,やや低いスキル・レベルや周辺業務においては,一方では機械 化によって代替されるとともに,他方では外部市場の利用(パート,アルパ イト)や外部労働力の利用(派遣労働,業務請負)ないし関連会社の活用が 進んでいる。 ( 4) 業務の高度化と専門化の進行にかかわらず,人材の内部育成が維持され るのは,それが外部調達よりも確実かつ効率的であるからであり,また経営 やマネジメント・ノーハウに関わる人材は内部養成せざるをえないからであ る 。 ( 5) 顧客のニーズと業務の多様化,高度化に伴って,専門化が強調される。 そのーっとして従来の機能別専門化に代わる顧客分野別専門化が進められて いる。これは,分野が限定されるとはし、え,多機能的であり,その意味では 一層ジェネラリスト的である。営業支庖レベルでどのように転換しているか, 確かめる必要がある。 ( 6 ) 金融自由化,国際化,情報化の先端的分野においては,まず組織の機能 別の専門化が進められている。それは変化の著しい分野であり,新しい商品, システムやノーハウの開発が要求される。若い人材を投入して,行外研修も ホワイトカラーの人材形成 重視されているが, 1 3 9 OjT=仕事そのもののなかで育成しようとしている。こ の高度に専門的分野においても人材が流動化するとは考えられてはし、ない。 また専門的人材として長期にわたり従事することはなく,キャリアの一環と して位置づけられている。このことはリーダーとなる一部の者以外は他部門, 営業支庖,関連会社に出て行くことを示唆する。どのようなキャリアとなる か,・これも支庖レベルを含めて確かめる必要があろう。 ( 7 ) ホワイトカラーの人材形成において不可欠の重要な点は管理者,経営者 の育成, リーダーシップの養成である。第一線の管理は専門的な知識・経験 ・スキルがなければ指導も管理も出来ないであろう。しかし,それより上級 においては第一線管理者を介しての管理も可能であり,夙にファヨールによ って指摘されているように,むしろリーダーシップ,マネジメントの能力・ スキルが重要になってくる。「一分野で優れておれば他の分野の管理もでき るであろう」といえるとすれば,新入時を別にすれば,全ての,または幅広 し、分野を経験することは必ずしも必要ではないかもしれない。部課長,支庖 長にいたるキャリアは単純になり,そのために却って多様化することになる。 管理者,経営者のキャリアをきくことによって要求されるスキルと能力がど のように形成されるかが示されるであろう。 〔あとがき〕本稿作成にかんする筆者のききとりにたし、して,ご多用中にも かかわらず時間を割 L、て親切にお応えいただいた人事部の方々には,一々名 前を挙げるわけにはいかないが,厚くお礼申し上げる次第である。