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利上げ派始動 ~7対2が意味するもの

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利上げ派始動 ~7対2が意味するもの
EU Trends
英国:利上げ派始動
発表日:2014年8月21日(木)
~7対2が意味するもの~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ 8月のMPC議事録では、利上げを主張した委員が2名いたことが判明。約3年振りに全会一致の政
策決定が崩れたが、過去を振り返るとBOEの投票結果が割れることはそれほど珍しいことではない。
◇ 利上げ派と据え置き派の間では、スラックの大きさとインフレ圧力の認識に大きな隔たりがある。年
内の利上げ開始観測も浮上しているが、MPCの大勢意見が利上げに傾くにはなお時間が掛かる印象。
◇ 年内利上げとなると次回物価レポートが発表される11月第1週のMPCが有力だが、それまでに発表
される経済データは物価や雇用関連の月次データ2ヶ月分と7-9月期GDPの速報値が中心。利上げを
正当化する十分な証拠が集まると考えるのはやや困難。来年2月の利上げ開始を予想する。
■ 約3年振りの利上げ票
8月6・7日に行われたBOEの金融政策委員会(MPC)議事録が20日に公表され、カーニー総裁を
含む7名が政策金利の据え置きを主張した一方で、タカ派で知られるウィール委員とマッカファーティー
委員の2名が25bpsの利上げを主張していたことが判明した。MPCメンバーの意見が割れるのは2011年7
月以来約3年振りのことで、昨年7月にカーニー総裁が就任してからは初めてとなる。BOEで投票結果
が割れることは珍しくなく、1997年6月以降で208回のMPCのうち、投票が割れたのは94回に上る。
利上げ派は、このところの失業率の急速な低下と労働需給の逼迫を示唆するサーベイ調査の結果からは、
先行き賃金上昇率が加速する可能性があると指摘。賃金は遅行指標だが、金融政策の効果浸透にも時間が
掛かるため、実際の賃金上昇を待たずに利上げを開始することが望ましいと主張する。利上げをした後も
金融環境は緩和的であり、早期に利上げを開始することこそが、MPCが目指す緩やかなペースでの利上
げを進めやすくすると言及。また、利上げ開始により金融市場が動揺するリスクを懸念する声もあるが、
利上げの開始時期を遅らせることが、こうしたリスクを軽減することにつながるかは不透明と述べた。
他方、据え置き派の大勢意見は、今回の利上げを正当化するインフレ圧力の十分な証拠がないと指摘。
賃金上昇率は引き続き弱く、労働市場のスラックはこれまで考えていたよりも大きかった可能性があるこ
とに言及。労働供給の増加や雇用不安の継続が今後も賃金抑制に働く可能性があり、金融引き締めを開始
する前に、賃金が着実に上昇する確かな証拠を待つメリットがある。拙速な引き締めによる経済へのショ
ックやポンド高の進行、賃金や所得が上昇する以前の引き締めが家計に与える影響などを懸念する。こう
した見解は8月の物価レポートの内容に沿ったもので、MPCの大勢意見はなお慎重姿勢を崩していない。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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両者の間には、スラックの大きさと潜在的なインフレ圧力の認識で相当な隔たりがあり、利上げ派が今
後急速に支持を固めるかは疑わしい。事前予想を上回る2名が利上げ票を投じたことを受け、年内にも利
上げ開始との見方も一部で浮上しているが、MPCの大勢意見が利上げに傾くのに十分な経済データが集
まるまでにはなお時間が必要とみられ、筆者は来年2月の利上げを予想する。
■ 過去の利上げ局面を振り返ると・・・
過去のBOEの政策変更を振り返ると、物価レポートの発表月(2・5・8・11月)とそれ以外の月と
では、政策変更が行われる確率は前者が後者の2倍程度に達する(図表1)。BOEは通常、物価レポー
トの発表時に景気・物価判断を見直すことから、これはある意味当然の結果と言える。2000年代以降の直
近2回の利上げ局面では、何れも物価レポートの発表月に利上げを開始している。今回も物価レポートの
発表月に利上げが開始されると考えるのがひとまず自然だろう。
(図表1)1997年6月以降のMPC開催数と政策金利の変更回数
物価レポート発表月
それ以外
合計
MPC開催数
(回)
69
139
208
うち政策金利変更
(回)
22
23
45
変更確率
(%)
31.9
16.5
21.6
出所:BOE資料より第一生命経済研究所が作成
年内の利上げ開始となると、11月5・6日のMPCで利上げが決定されることになる。それまでに入手
可能な主な経済データは、9月までの2ヶ月分の物価データ、8月までの2ヶ月分の失業率と賃金データ、
7-9月期GDPの速報値が中心となる。足許の賃金・物価の基調を見る限り、11月会合までに据え置き派が
利上げ派に転向するのに十分な証拠が集まると考えるのは些か困難な印象がある。一方、失業率がこのま
まのペースで低下し続ければ、来年2月MPCの段階でスラック解消がある程度視野に入ってくる。
1997年以降のMPCメンバーの投票結果と政策変更の推移を確認すると、半年以上のインターバルを開
けて初めて利上げ票が投じられてから、実際の利上げが開始されるまでのタイムラグは、0ヶ月、1ヶ月、
3ヶ月であった(図表2・3)。逆に利上げ票が投じられたものの、結局利上げに至らなかったケースも
4回あった。特に2010~11年にかけては、利上げ派が1票から2票、2票から3票と次第に勢いを増して
いったが、結局利上げが見送られた。今回は異例の低金利からの出口であり、足許の経済状況から考えて
“騙し”の可能性は低いが、一気に利上げに突き進むだけの状況証拠は今のところ見当たらない。
利上げ開始後の利上げペースについて、BOEは2月に発表した新たなフォワードガイダンスの下で、
緩やかなペースでの利上げを行う方針を示唆している。過去の利上げ局面では、四半期に31~60bps
(25bps刻みで四半期に1~2回程度)の利上げを行ってきたが、こうした新たなガイダンスの方針に従う
とすれば、四半期に25bps未満の利上げが予想される(図表4)。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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(図表2)BOEの政策金利と利上げ投票数
利上げに投票した数(右目盛)
政策金利(左目盛)
10%
10
9%
9
8%
8
7%
7
6%
6
5%
5
4%
4
3%
3
2%
2
1%
1
0%
0
97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
出所:BOE資料より第一生命経済研究所が作成
(図表3)過去に利上げ票が投じられた局面での利上げの有無
利上げ票の開始月
1999年9月
2002年6月
2003年10月
2005年2月
2006年5月
2008年7月
2010年6月
2014年8月
利上げ票/総票数
7/9
1/8
4/9
1/9
1/8
1/9
1/8
2/8
利上げの有無
同月に利上げ
利上げせず
翌月に利上げ
利上げせず
3ヶ月後に利上げ
利上げせず
利上げせず
?
出所:BOE資料より第一生命経済研究所が作成
(図表4)過去の利上げ局面でのBOEの利上げペース
①97-98年の利上げ局面
②99-00年の利上げ局面
③03-04年の利上げ局面
④06-07年の利上げ局面
利上げ開始時
(%)
6.25
Jun-97
5.00
Sep-99
3.50
Nov-03
4.50
Aug-06
最終利上げ時
(%)
7.50
Jun-98
6.00
Feb-00
4.75
Aug-04
5.75
Jul-07
利上げペース
(bps/四半期)
31
60
42
34
出所:BOE資料より第一生命経済研究所が作成
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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