...

米利上げ開始後の世界の緩和マネー ~体感温度が下がるのは避けられ

by user

on
Category: Documents
29

views

Report

Comments

Transcript

米利上げ開始後の世界の緩和マネー ~体感温度が下がるのは避けられ
US Trends
米利上げ開始後の世界の緩和マネー
発表日:2015年9月2日(水)
~体感温度が下がるのは避けられない~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ 中国不安や金融市場の動揺を受け、FRBの9月利上げ観測が後退している。ただ、米国景気の足腰
の強さが確認され、市場の混乱が鎮静化に向かえば、いずれ利上げ観測が息を吹き返そう。
◇ 米英が近い将来に利上げを開始するとみられる一方で、日欧は緩和を継続する可能性が高い。日米欧
主要中銀のバランスシートは米英の利上げ開始後もしばらく拡大を続ける公算が大きい。
◇ 米英ともに慎重な出口戦略を模索するとみられ、満期を迎えた保有証券の再投資を停止することで、
時間を掛けてバランスシートを縮小する方針。ただ、利上げが開始されれば、金融市場に行き渡る緩
和マネーは徐々に縮小していく。市場の熱気が徐々に冷めてくるのも無理はない。
中国不安を背景に世界的な株安連鎖が続いている。1日の世界の株式市場では中国と米国の製造業の景
況悪化を受け、世界景気の先行き不透明感が台頭。米利上げへの警戒感や新興国からの資金流出懸念も重
石となり、市場の動揺が燻り続けている。米国の利上げ開始時期を巡る見方は引き続き交錯している。ジ
ャクソンホールでのフィッシャーFRB副議長の一連の発言を、早期利上げ派、利上げ見送り派の双方が
自身の主張を裏付ける内容と受け止めた。すなわち、早期利上げ派は、最近の中国不安や市場の動揺が広
がるまではFOMC内で9月利上げ派が優勢となっていたことを確認、利上げの有無を判断するまでに最
新データを確認するとの発言を受け、9月利上げの可能性を排除しなかったと受け止めた。対する利上げ
見送り派は、市場の動揺が利上げ開始時期の判断に影響を与える可能性がある、中国景気の動向と他国へ
の潜在的な影響を通常よりも注視しているとの発言を受け、影響見極めには時間が必要とし、利上げ開始
時期が先送りされるとみた。ただ、8月のISM製造業指数で新規受注に急ブレーキが掛かり、新興国混
乱の余波と株式相場の不安定化も加わり、米国景気の先行きに黄信号も灯り始めている。9月利上げの可
能性は遠退いた感があるが、雇用統計で米景気の足腰の強さが確認され、市場の混乱が鎮静化に向かう時
点で、利上げ観測がまた息を吹き返そう。
利上げ時期を巡る判断は難しい局面にあるが、市場の動揺が米景気の腰折れにつながらない限り、米国
の利上げが近づいているとの見方は揺るがない。FRB関係者の発言からは、過去の利上げ時期と比べて
今回は緩やかなペースでの利上げを想定していることが窺える。それでも約10年振りとなるFRBの利上
げ開始で世界の緩和マネーが先細りすることに、新興国市場やリスク資産市場は神経質になっている。F
RBは昨年9月に公表した出口戦略の指針において、利上げを開始した後に債券保有額を予見可能な形で
徐々に削減していく方針を示唆している。具体的な手順は今のところ明らかにしていないが、満期を迎え
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
た保有証券(モーゲージ担保証券を除く)の再投資を停止することで、FRBのバランスシートの規模を
徐々に縮小させていく。利上げ開始から再投資停止までの期間は、経済・金融情勢次第とされているが、
一般に6ヶ月程度とみられているようだ。また、米国同様に近い将来に利上げを模索しているBOEは、
FRB同様に利上げを開始するまではバランスシートを縮小しない方針を示唆している。他方、3月に本
格的な量的緩和を開始したECBは少なくとも来年9月まで緩和を継続する方針だが、茲許での原油価格
の再下落を受け、緩和延長を余儀なくされるとの見方が多い。日本でも4~6月期のマイナス成長に続き、
7~9月期も減産の見込みなど景気腰折れが視野に入ってきたこともあり、緩和期待が高まりやすい状況
にある。米英が利上げを開始した後も、日欧の緩和継続により、世界の金融市場には緩和マネーの供給が
続く展開が予想されよう。
日米欧主要中銀のバランスシートは米英の量的緩和開始を受け、2008年秋以降、ほぼ一本調子で増加し
てきた(図表1)。日銀が今後も年間約80兆円ペースでのマネタリーベースの拡大を続け、ECBが少な
くとも来年9月まで月額600億ユーロの資産購入を続ければ、FRBとBOEが向こう6ヶ月以内に利上げ
を開始し(ここでは仮にFRBが12月、BOEが来年2月と想定)、利上げ開始から半年後に満期を迎え
る証券の再投資を停止する場合も、日米欧主要中銀のバランスシートは拡大を続けることが予想される
(図表2)。但し、利上げは市中からの資金吸収を意味し、中銀のバランスシートに現れる以上の緩和マ
ネーの縮小をもたらす筈だ。先行研究によれば、米国では6,000億ドルの資産購入により長期金利が0.2%
ポイント程度押し下げられ、これは75bpsの利下げに相当する。また、英国では2,000億ポンドの資産購入
により成長率が1.5~2.0%押し上げられ、これは150~300bps(試算によりバラツキがあるが平均すると
225bps)の利下げに相当する。こうした試算結果を機械的に当てはめれば、米国での25bpsの利上げは約
2,000億ドルの資産購入縮小と、英国での25bpsの利上げは約222億ポンドの資産購入縮小と同等の引き締め
効果をもたらす。米英中銀が利上げ開始後に年間100bpsのペースで利上げを続けると仮定した場合、利上
げの影響を加味した日米欧中銀の擬似的なバランスシートは、2016年央を境に減少に転じる計算となる。
世界の金融市場が米利上げ開始後の緩和マネーの縮小に身構えるのも無理はない。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2
(図表1)日米欧中銀のバランスシートの合計額
英国
(億ドル)
140,000
(1969/12/31=100)
2,000
ユーロ圏
米国
1,800
日本
120,000
MSCI-World株価指数(右目盛)
1,600
100,000
1,400
1,200
80,000
1,000
60,000
800
600
40,000
400
20,000
200
0
2008
0
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
注:株価指数は月中平均、2015年9月は1日の終値。
出所:各国中銀資料より第一生命経済研究所が作成
(図表2)日米欧中銀のバランスシートの推移
(億ドル)
利上げの影響を加味
段階的にバランスシートを縮小
利上げ後もバランスシートを維持
150,000
140,000
130,000
120,000
110,000
100,000
90,000
80,000
70,000
2013
2014
2015
2016
2017
2018
出所:各国中銀資料より第一生命経済研究所が作成
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
3
Fly UP