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パクス・レンツィの終幕 ~五つ星運動の政権奪取が射程圏内

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パクス・レンツィの終幕 ~五つ星運動の政権奪取が射程圏内
EU Trends
イタリア政局:パクス・レンツィの終幕
発表日:2016年7月7日(木)
~五つ星運動の政権奪取が射程圏内~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ イタリアでは秋の国民投票が否決され、レンツィ首相が辞任する可能性が高まっている。その場合も
大統領が暫定首相を指名し、議会の解散・総選挙を回避するシナリオが有力視されている。ただ、民
主党政権を支える中道政党からは憲法改正への不満の声も聞かれる。上院のキャスティングボートを
握る中道政党の協力が得られなければ、新内閣の発足ができず、来年にも前倒しで総選挙が行なわれ
る可能性が高まる。最新の世論調査では、反体制派の新興政党「五つ星運動」が民主党を逆転するも
のが増えている。ボーナス議席を加えれば、五つ星運動の政権奪取は十分に射程圏内にある。
イタリアと言えば政治の混乱が代名詞だったが、2014年にレンツィ政権が誕生した以降は、反体制派の
新興政党「五つ星運動」の内紛やベルルスコーニ元首相が率いる「フォルツァ・イタリア」の凋落もあり、
民主党政権に幾つかの中道政党が協力する形で比較的安定した政権運営が行われてきた。その束の間の
“パクス・レンツィ”の時代が終わりを迎えようとしている。10月の憲法改正の国民投票に進退を掛ける
としているレンツィ首相だが、景気低迷、失業増加、難民危機の混迷、相次ぐ汚職事件、さらには最近の
銀行不安も加わり、政権への逆風が吹き荒れている。上院の定数削減や立法権限を制限する憲法改正法案
は両院で通過したものの、絶対多数を獲得できなかったため、国民投票に付されることとなった。その投
票実施が決まった4月以降、各種世論調査で改憲派は劣勢に立たされている。国民投票はレンツィ政権に
対する信任投票の様相を呈している。主要野党は揃って改正に反対の立場を採り、野党勢力の党勢拡大に
合わせて、最近の世論調査のほとんどで反対票が賛成票を上回っている。
国民投票が反対多数となれば、レンツィ首相への退陣要求が強まることは避けられない。ただ、首相が
自ら辞意を申し出た場合、議会の解散権を有するのは大統領で、すぐさま議会の解散・前倒し総選挙とな
るかは分からない。イタリアの国家元首である大統領は単なる儀礼的な存在ではなく、これまでも国家の
危機や政局流動化に際して、非政治家の実務家(テクノクラート)を暫定首相に指名するなど、重要な役
割を演じてきた。2015年に就任したマッタレラ大統領は、教育相、国防相、憲法裁判所判事などを歴任し
た元政治家で、かつては現在政権を率いる民主党に所属していた。レンツィ首相が辞任する場合、2018年
5月の議会任期満了までの暫定首相を指名するとの見方が有力視されている。
だが、こうしたシナリオに黄信号が点灯している。前回2013年の総選挙で民主党は上下両院で過半数を
獲得することが出来なかった。この時、民主党政権の誕生に大きく貢献したのが、ベルルスコーニ元首相
の側近という立場にありながら、同氏から袂を分かち、中道政党「新中道右派」を立ち上げたアルファー
ノ内相だった。同党は表向きは憲法改正の国民投票に賛成する立場を採っているが、党内の一部議員から
今回の上院改革が同党の政権内での影響力低下と党勢低迷につながることを危惧する声が上がっている。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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現在の議会構成では、新中道右派の協力が得られなくなると、民主党は上院の過半数を確保することが出
来ないのに対し、下院では過半数を確保することが出来る(図表1)。改憲後に上院の立法権限が制限さ
れれば、新中道右派は政権内でのキャスティングボートを失うことになる。こうした党内の不満の声を今
のところ封じ込めているのが同党を率いるアルファーノ内相だが、親族の就職に便宜を図った疑いがある
として現在、野党から辞任要求を突きつけられている。民主党政権は同氏を擁護する立場を採っているが、
辞任を求める声が高まれば、国民投票での劣勢という要素も加わり、同氏の閣僚辞任などに発展する恐れ
がある。そうなれば、新中道右派が憲法改正で反対派に回ることも考えられる。
憲法改正が否決され、レンツィ首相が辞任した場合、大統領の決断で議会の解散を回避したとしても、
新内閣の発足には上下両院による信任投票が必要となる。新中道右派の協力が得られなければ、新内閣の
発足はできない。また、野党勢がレンツィ政権や後継政権に対して不信任投票を求める可能性もあり、そ
の場合も政権存続には新中道右派の協力が不可欠となる。最新の世論調査では、とうとう反体制派の五つ
星運動の支持率が民主党を逆転した(図表2)。イタリアの選挙制度では、初回投票で40%以上の議席を
獲得した政党がいれば、ボーナス議席が加算され、過半数の議席が配分される。初回投票で40%を上回る
議席を獲得した政党がいなかった場合、上位2党による決選投票を行い、ボーナス議席を獲得する政党が
決まる。現在、五つ星運動の獲得票率は40%に届かないが、決選投票となれば右派票の多くが五つ星運動
に流れると言われている。五つ星運動は前回総選挙で他党との協力を拒否し、政権協議に応じなかったが、
次の総選挙では単独で過半数の議席を確保し、政権を奪取することも十分に射程圏内に入ってきた。英国
民投票で広がった「離脱ドミノ」への不安が現実のものとなる恐れも出てきた。
(図表1)イタリア議会の会派別構成
下院
与党
民主党(PD)
みんなの場所(AP)
市民の選択(SC)
民主連帯(DS)
その他
野党
五つ星運動(M5S)
フォルツァ・イタリア(FI)
左翼・環境・自由(SEL)
北部同盟(LN)
イタリアの同胞(FdI)
その他
終身議員
合計
上院
379
302
31
20
13
13
251
91
53
32
17
10
48
-
630
183
113
31
-
-
39
132
35
40
-
12
-
45
6
321
注:みんなの場所(AP)はキリスト教民主同盟(UdC)と新中道右派(NCD)の統一会派
出所:イタリア議会資料より第一生命経済研究所が作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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(図表2)イタリアの政党別支持率の推移
(%)
45
40
五つ星運動(M5S)
35
民主党(PD)
30
フォルツァ・イタリア(FI)
25
市民の選択(SC)
20
北部同盟(LN)
15
左翼・環境・自由(SEL)
10
イタリアの同胞(FdI)
5
みんなの場所(AP)
総選挙
2013/5/10
2013/6/14
2013/7/19
2013/9/29
2013/11/3
2013/12/8
2014/2/16
欧州議会選挙
2014/12/7
2015/1/25
2015/2/28
2015/4/6
2015/5/10
2015/9/20
2015/10/25
2015/11/29
2016/1/17
2016/2/21
2016/3/27
2016/5/1
2016/6/26
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注:みんなの場所(AP)はキリスト教民主同盟(UdC)と新中道右派(NCD)の統一会派
出所:EMG資料より第一生命経済研究所が作成
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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