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ギリシャ協議の今後の展開 ~妥協点を模索する動きも

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ギリシャ協議の今後の展開 ~妥協点を模索する動きも
EU Trends
ギリシャ協議の今後の展開
発表日:2015年5月12日(火)
~妥協点を模索する動きも~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ 交渉窓口の変更による関係修復もあり、ギリシャ支援協議は僅かに進捗している模様だが、政府が譲
れない一線とする年金や労働市場の改革見直しを巡って、依然として溝は埋まっていない。ただ、支
援提供国側は財政再建や競争力改善につながる代替措置を認める可能性を示唆し始めており、協議が
前進する望みも出てきた。
◇ ギリシャ政府はIMF向け融資返済を1日前倒しで実施したものの、財政資金は引き続き枯渇寸前。
政府機関の余剰資金を中銀に移管する措置に地方政府の首長が反発。月内の緊急会合などで比較的早
期に合意に至ったとしても、融資再開にはなお相当な時間が掛かる。月末の公務員給与や年金支払い
や6月中のIMF向け融資返済など、綱渡りの資金繰りが予想される。
◇ 融資再開に向けた協議の難航で三次支援協議は棚上げされたまま。6月末までに新たな支援プログラ
ムを作成するのは事実上不可能な情勢。中断している融資の再開とともに、政府短期証券の発行増額
が認められなければ、7・8月の国債償還を乗り切るのは困難とみられる。
◇ 年金給付や労働市場の改革見直しが認められなければ、ギリシャ政府は国民投票の実施に傾く可能性
がある。ユーロ離脱の可能性は引き続き低いが、投票を実施すれば融資再開が遅れることは不可避。
タイミング次第ではデフォルト危機が高まることに注意が必要となる。
事前の関係者発言から示唆されていた通り、11日のユーログループ会合(ユーロ圏財務相会合)では、
ギリシャの融資再開に向けた合意が再び見送られた。日本時間の深夜近くに始まる同会合は、協議が難航
する際には日本時間の翌朝までずれ込むことも珍しくないが、今回はギリシャ支援以外にも幾つかの議題
があったにもかかわらず、1時間余りで終了した。ギリシャ政府は12日に予定された7.5億ユーロのIMF
向けの融資返済を1日前倒しで実施したとされる。目先の返済資金を手当て済みだったこともあり、ギリ
シャ政府とユーロ圏諸国の双方ともに、今回の会合での合意実現までは目指していなかったとみられる。
4月24日にラトビアの首都リガで行われた前回会合では、ギリシャ政府の交渉姿勢に対してユーロ圏諸国
から非難が集中した。ギリシャ政府は4月末に交渉の担当窓口を変更し、支援提供国に対して協議を前
進・加速させる意向があることを示した。今回の会合後に発表されたプレスリリースでは、「これまでの
交渉の進展を歓迎する」、「作業手順の再編成と効率化が協議の加速とより充実した議論を可能にした」、
「取り組み加速と時宜を得たレビューの終了に向けたギリシャ政府の意向を歓迎する」と評価した一方で、
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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「残された課題での溝を埋めるためには、より多くの時間と努力が必要である」との認識が示された。欧
州委員会のモスコビッチ委員(経済・通貨担当)は会合後の記者会見で、VAT改革や税捕捉強化に向け
たギリシャ政府の取り組みの加速を評価するとともに、同国政府が譲れない一線とする年金給付の減額見
直しや団体賃金交渉の復活などを実行に移すのであれば、財政健全化や競争力を確保する代替措置が必要
になる旨の発言をした。引き続き予断を許さない情勢だが、これまで合意の障害となっていた年金、労働
市場、財政計画の各分野で、支援提供国側が代替措置を認める可能性を示唆したことで、今後数週間以内
に協議が前進する望みも出てきた。支援プログラムを4ヶ月間延長するに当たって2月末に交わした合意
文書では、ギリシャ政府が財政目標の変更を伴う一方的な政策変更を行わないと約束していた。ギリシャ
の新政権はこのところ、財政再建の一貫で削減した政府の清掃職員や公共放送の職員の復帰を決めるなど、
合意破棄と見做されてもおかしくない措置を実行に移しているが、支援提供国側は表立った批判を控えて
いる。会合後のプレスリリースでも、2月合意が協議の有効な枠組みであることを改めて強調している。
ギリシャの新政権が選挙公約の根幹を堅持することが可能となるよう、支援提供国も一定の裁量を認める
柔軟姿勢を示し始めている可能性があり、妥協点を模索する動きとして評価することもできよう。
ギリシャ政府は12日に予定されたIMF向けの融資返済をどうにか乗り切ったが、今も財政資金は枯渇
寸前とされる。窮余の策として4月末に、政府関係機関や地方政府に対して民間銀行に預けている余剰資
金をギリシャ中銀の管理口座に移管することを求める異例の措置に踏み出した。中銀に預けられた資金は
政府の債務管理局に融資され、財政資金の穴埋めに充てられる。だが、地方政府首長の多くは将来の公共
サービスの原資が焦げ付くことを恐れ、今のところ政府の方針に従っていないとされる。また、先月末の
年金支給日には午前中の段階で銀行口座に年金が振り込まれておらず、年金受給者の間で混乱が広がった。
月末の公務員給与や年金の支払いに十分な資金を確保しているのかは不安が残る。さらに6月に入ると、
5日を皮切りに19日までに総額15億ユーロのIMF向けの融資返済が控えている。7・8月にはECBが
保有する国債の償還費用として総額77億ユーロの資金が必要となる。ギリシャの財政資金は今後も綱渡り
の状況が続くことが予想される。中断されている72億ユーロの資金がギリシャ政府の手に渡ったとしても、
ギリシャの資金繰り難は解消されない。対外債務の返済に必要な資金は8月までに総額100億ユーロ程度、
年内に追加で30億ユーロ程度、来年も50億ユーロ程度が必要とみられている。ちなみに、5日に発表され
た欧州委員会の春季経済見通しでは、2015年のギリシャの財政収支の対GDP比率は2.1%の赤字と、昨冬
季見通しの1.1%の黒字から再び赤字に転落すると見込まれている。協議難航による経済混乱と新政権の財
政運営の不透明さを考えれば、赤字幅がこうした見通しよりもさらに拡大する可能性がある。つまり、ギ
リシャ政府は7月以降も何らかの支援継続を受け入れるか、市場での国債発行再開に漕ぎ着けない限り、
対外債務を履行することが難しい。
ユーログループの議長を務めるオランダのダイセルブルーム財務相は会合後の記者会見で、ギリシャ政
府が改革の一部を実行に移すのであれば、中断されている総額72億ユーロの融資を部分実行することも可
能であることを改めて示唆した。72億ユーロのうち、35億ユーロはIMFによる融資、18億ユーロがEU
の融資、19億ユーロがECBが保有するギリシャ国債の超過収益の還元分。部分実行時に最もハードルが
低いのは、2012年に合意済みのECB保有国債の超過収益分とみられる。だが、部分実行にしても融資再
開までには、①レビュー終了に向けた事務方レベルでの基本合意、②ギリシャ議会での関連法案の可決と
一部改革の実行、③ユーログループ会合の承認、④ドイツやフィンランドなど一部国での議会承認、⑤融
資の実行主体であるEFSF理事会の承認、⑥IMF理事会の承認といった一連の手続きが必要となる。
次回のユーログループの定例会合は6月18日に予定されている。例えば月内に緊急会合を召集して、融資
再開が合意に至ったとしても、次回の融資が実行されるのは早くても6月末頃になることが予想されよう。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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また、融資再開に向けた協議が難航している間、現在の支援プログラムが失効する6月末以降の新たな支
援の枠組みに関する協議は棚上げされたままだ。会合後の記者会見でダイセルブルーム議長は、「追加措
置を検討する政治的な土台がみられない」、「現在の支援プログラムの終了に必要なレビューが終了し、
ギリシャの改革メニュが確定しない限り、追加措置として何が必要かを判断することはできない」と発言
している。ユーログループ会合で融資再開が承認された後に三次支援の協議が開始されると考えれば、6
月末までに新たな支援プログラムを作成するのは事実上不可能と言える。この場合、7・8月の国債償還
をどのように乗り切るかが問題となってこよう。ギリシャ政府は政府短期証券の発行上限を現在の150億ユ
ーロから250億ユーロに引き上げるとともに、ECBの資金供給オペの担保に利用可能な政府短期証券の上
限を現在の35億ユーロから70億ユーロに引き上げることを求めている。ギリシャが融資再開に必要な改革
条件を満たしたことを受け、政府短期証券の発行上限の引き上げが認められれば、三次支援の作成に更な
る時間を要したとしても、国債のデフォルト危機は回避できる。ただ、ECB内部には銀行監督上の観点
から、ギリシャの銀行向けの緊急流動性支援(ELA)に適用される担保の掛け目を厳しく評価すべき
(担保のヘアカット率を引き上げるべき)との意見も出ている。ECBの資金供給に依存したギリシャの
銀行が増額された政府短期証券を引き受ける場合、迂回的な財政ファイナンスに相当するとの懸念もあり、
政府短期証券の発行増額が認められるかは微妙なところだ。
今回の会合に先駆けてドイツのショイブレ財務相は、支援に必要な改革を実行するかを巡ってギリシャ
政府が国民投票を実施することが有益かもしれないと発言した。記者会見で国民投票について質問された
ダイセルブルーム議長は、国民投票は各国政府の判断によるものとしたうえで、投票が終わるまでは融資
実行に必要な改革が履行されることはないため、時間的な制約が厳しくなると警戒感を滲ませた。ショイ
ブレ財務相の発言は、交渉を有利に進めるカードとして国民投票の実施をちらつかせるギリシャ政府に対
する牽制と考えられる。改革の中身でギリシャ政府に裁量の余地が認められるのであれば、国民投票の実
施は回避される可能性がある。ギリシャ政府が譲れない一線とする年金や労働市場分野での改革見直しが
認められない場合、国民投票が検討されることになろう。ギリシャ国民の多くはユーロ圏への残留を希望
しており、仮にユーロ離脱を争点とした国民投票が行われたとしても、離脱が決まる可能性は低い。ただ、
投票実施のタイミング次第では、支援協議の中断などでデフォルト危機が高まることに注意が必要となる。
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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