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英国のEU離脱リスクを高める2つの出来事 ~野党党首交代と欧州の
EU Trends 英国のEU離脱リスクを高める2つの出来事 発表日:2015年9月15日(火) ~野党党首交代と欧州の難民危機~ 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 田中 理 03-5221-4527 ◇ 野党党首の交代と欧州の難民危機が英国のEU離脱リスクを高めかねない。労働党党首に就任したコ ービン氏は党内最左派でEU懐疑主義者。党を挙げて積極的にEU残留キャンペーンを行うことには 否定的とみられ、同氏の言動が支持者の投票行動に影響を与え、離脱派を勢いづける恐れがある。移 民急増が社会問題化する英国では、欧州の難民危機の深刻化を受け、EUの国境管理の機能不全や難 民流入への不安から、EU離脱派を勢いづける恐れがある。 英国では最大野党・労働党の新党首選出と欧州を襲う難民危機がEU離脱(Brexit)リスクを高める恐 れがある。5月の総選挙での敗北を受けて辞任したエド・ミリバンド前党首に代わって、先週の党員投票 で60%近くの支持を集めて選ばれた労働党の新党首は、党内最左派に位置するジェレミー・コービン氏。 同氏の掲げる政策は、銀行/鉄道/公益企業の再国有化、財政緊縮路線の見直し、企業課税や脱税の取り締 まり強化、“国民のための”量的緩和政策を通じて住宅やインフラ投資に資金を振り向ける、教育無償化、 家賃規制など、左派色の強いメニューが並ぶ。労働党内の主流派議員の間ではコービン氏の政策や党運営 に懐疑的な見方も広がっているが、党員の圧倒的な支持を受け、トニー・ブレア政権以来、中道路線を歩ん でいた労働党の再左傾化が進む可能性がある。次期総選挙は2020年とまだ先なうえ、コービン体制での政 権奪取は難しいとの見方が大勢で、今回の野党党首交代がすぐさま英国の政権運営に直接的な影響を及ぼ す訳ではない。だが、資本主義やグローバル化の弊害を説くコービン氏は、権力機構のEUが一般市民の 利益を守らず、大企業や既得権益層を守る組織であるとの批判を繰り返してきた。1975年に行われた英国 のEC(EUの前身)への残留の是非を問う国民投票で、同氏は反対票を投じたことを明らかにしている。 英国ではEU離脱を訴える英国独立党(UKIP)が支持を伸ばしているほか、与党・保守党内に強硬なEU 懐疑主義者が多数存在する一方、労働党議員の多くは親EU色が強いとみられてきた。コービン党首は 2017年末までに行われる(国内外の政治日程から2016年後半から2017年初頭の実施が有力視されている) 英国のEU離脱/残留の是非を問う国民投票で、より良いEUには残留するとしながらも、EUとの関係見 直し協議が不調に終われば離脱を主張する可能性も排除していない。党員の自主判断に委ねる可能性があ るが、党として積極的なEU残留キャンペーンを行うことには否定的とみられる。同氏の言動が今回の党 首選で同氏を支持した労働党員や左派ムーブメントに共感を覚える支持者に影響を与え、EU離脱派を勢 いづける可能性も否定できない。 英国では近年、EUの東方拡大による東欧諸国からの移民の急増が社会問題化している。移民政策は5 月の総選挙でも大きな争点となったほか、国民投票に先駆けて英国政府が進めているEUとの関係見直し 協議の重要な柱とみられている。移民問題への対応の成否がEU残留/離脱投票の結果を左右しかねない。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 中東や北アフリカから暴力や迫害を逃れてEU諸国に難民が押し寄せている危機は、英国のメディアでも 連日大きく取り上げられている。デーヴィッド・キャメロン首相はシリア難民を独自に2万人受け入れる 方針を表明したほか、英国内で難民の積極的な受け入れを求める抗議行動も起きている。ただ、欧州諸国 への難民の急増は、英国民の間でEUの国境管理が機能していないことを印象づけ、難民の波が英国にも 押し寄せてくるとの不安を抱かせ、EU離脱派を勢いづける恐れがある。国民投票の実施が決まった5月 の総選挙後に行われた世論調査では、これまで残留派が離脱派を一貫して上回っていたが、難民危機が深 刻化した以降に行われた最新調査では離脱派が逆転した。英大衆紙デイリー・メールに掲載された調査会 社Survationによる調査(9月3・4日に実施)では、離脱支持が51%と残留支持の49%を上回った。「英 国は何人のシリア難民を受け入れるべきか」との別の設問では、「受け入れるべきではない」との回答が 29%と最多を占め、「10万人以上の受け入れ」を支持する回答は4%に過ぎなかった。同調査はトルコ沿 岸でのシリア男児の溺死事件という衝撃的なニュースの直後に行われたが、英国民の間で難民受け入れへ の消極姿勢がなお支配的なことが窺える。EU諸国は14日の臨時閣僚会議で、当初4万人を予定していた 難民の受け入れ数を16万人に引き上げたうえで、加盟国間で分担することを協議したが、一部の加盟国の 反発で最終合意は持ち越された。国境検査なしに域内を自由に行き来できるシェンゲン協定を批准してい ない英国は、今回の難民の受け入れ分担にも参加しない。今後、英国がEUとの関係見直し協議を進める に当たっては、EU全体の難民対応に参加しない英国政府への不満から、移民政策での英国への“特別な 地位”を認めることに反発する声が出る恐れもある。難民危機対応に追われるEU諸国が英国への対応を 二の次にすれば、これも離脱派を勢いづけることになりかねない。 以上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2