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最低賃金引き上げに伴う副作用の点検
No.2016-020 2016年8月12日 http://www.jri.co.jp 最低賃金引き上げに伴う副作用の点検 ~ 雇用への影響は限られるとみられるも、企業業績への影響が懸念 ~ (1)厚生労働省の中央最低賃金審議会は、2016年度の最低賃金を全国平均で3%相当の時給24円引き上げ、 822円とする目安を決定。24円の上げ幅は、目安が時給で示されるようになった2002年度以降で最大。 さらに、政府はニッポン一億総活躍プランで、最低賃金の年率3%上昇、平均1,000円を目指す方針。 最低賃金引き上げは、低所得者の賃金の底上げを通じて所得格差の是正や消費の活性化が期待。もっ とも、人件費増加に伴う副作用も指摘されており、以下ではその影響と求められる対応策を考察。 (2)第1の懸念は、労働コストの増加を受けて企業が雇用を減らし、失業が増加する可能性。もっとも、 近年は最低賃金が継続的に上昇するなかでも、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少による人手不足 の高まりで、失業率は逆に低下(図表1)。今後もこうした流れは変わらず、労働需給は逼迫した状 況が続くとみられ、雇用への悪影響は限定的となる見込み。一部企業で雇用を削減した場合の対策と しては、生産性や賃金の高い企業へ労働シフトが円滑に進むよう、転職支援などの取組が重要に。 (3)第2の懸念は、人件費増加が企業業績を圧迫する恐れ。今後、一般労働者の賃上げを上回る年率3% のペースで最低賃金の引き上げが進めば、賃上げ対象者が増加し、人件費に増加圧力。その影響は、 規模別では、賃金水準が低く労働分配率の高い中小企業や、業種別では、製造業、卸売・小売業、サ ービス業などで大きくなる可能性(図表2)。企業業績はアベノミクス始動後の景気回復でマクロ全 体では改善したものの、規模の小さい企業を中心に依然赤字で賃上げ余力が乏しい企業が多数(図表 3)。こうしたなか、足許では、消費者・企業ともに物価見通しが下がっており、人件費増加を価格 転嫁で吸収することは困難な状況(図表4)。影響を最小限にとどめるためにも、下請法関連のガイ ドライン拡充など価格転嫁支援をはじめとしたサポートが不可欠。一方、企業においては省力化設備 の導入や働き方改革などによる生産性の向上が急務。 (図表1)最低賃金と完全失業率 (時給) 850 (%) 5.5 5.0 800 4.5 750 (図表2)業種・規模別時給水準と労働分配率 (時給) 840 情報通信業 医療・福祉業 電気・ガス・ 熱供給・ 宿泊業・ 水道業 飲食サー 運輸・郵便業 鉱業・ 建設業 ビス業 採石業・ 1,000人以上 砂利採取業 その他 生活関連 100~999人 サービス業 サービス・ 卸売・小売業 不動産業・ 娯楽業 10~99人 物品賃貸業 製造業 820 800 780 4.0 760 700 3.5 最低賃金(全国平均、左目盛) 完全失業率(右目盛) 740 10 650 3.0 2007 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年度) (資料)厚生労働省、総務省「労働力調査」 (注)16年度は、最低賃金は見込み、失業率は4~6月の平均。 (%) 70 (図表3)資本金階級別欠損法人の割合 80 90 労働分配率(%) (資料)厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2015年)」、 財務省「法人企業統計(2014年度)」より日本総研作成 (注)時給は短時間労働者の第1・十分位(下から1/10)の時給。 (%) 100 60 50 学術研究、 業種別 専門・技術 規模別(従業員数) サービス業 90 20 30 40 50 60 70 (図表4)消費者と企業の物価見通し 1年後物価が上昇すると 回答した消費者の割合 (二人以上の世帯、左目盛) 40 (%) 1.2 1.0 0.8 30 80 20 0.6 10 70 500~ 100~500以下 50~100以下 20~50以下 10~20以下 5~10以下 ~5以下 0 資本金 (百万円) (資料)国税局「会社標本調査(2014年度)」 (注)欠損法人には、当期利益黒字でも繰越欠損金が残る法人や 営業実態のない法人も含まれる。 60 企業の1年後の販売価格の見通し の平均(調査時点の水準と比較した 変化率、右目盛) 50 0.4 0.2 0.0 2012 13 14 15 16 (年/期、月) (資料)内閣府「消費動向調査」、日本銀行「短観」 (注)日銀短観の企業の物価見通しは2014年より調査開始。 【ご照会先】調査部 研究員 成瀬道紀(03-6833-8388、[email protected])