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日刊学級新聞づくりによる学級経営
日刊学級新聞づくりによる学級経営 高砂市立松陽中学校 教諭 1 黒田 久則 取組の内容・方法 私が、新聞教育に初めて携わったのは27年前の新任のときにさかのぼる。学校現場に 入り、右も左もわからないまま2学年の担任になった。何をやれば良いのかわからない、 とにかく、隣のクラスの担任を真似ることから学級経営が始まった。それが、新聞教育と の出会いであった。まさか私の教育実践の根底を成すとは、そのときは夢にも思わなかっ た。 新聞づくりのねらいはいろいろなものが考えられるが、わたし自身は、次の4つの項目 を柱にしている。 ①報道性(学校・学級での出来事を家庭へ知らせる) ②向上性(学級の問題を自分たちで取り上げ、学級をより好ましい方向へ発展させる) ③記録性(学級での実績を記録する) ④社会性(日本・世界での出来事にも目を向けさせる) これをもとに行った実践を、ここに紹介する。 ◎日刊学級新聞の発行 発行方法は、学級を6班(各班6名前後)に分け、一週間に一度の割合で各班に担当さ せる。よって、生徒は毎日B5版1枚の学級新聞を手にするのである。しかし、記事内容 や見出しは、担当班にすべて任せているわけではない。 ① 班会議で記事内容・見出しの仮決定 終学活(終わりの会)を生徒自身に運営させる。日番(輪番制)の司会により、次のよ うな流れで進める。 ●はじめのあいさつ ●明日の連絡 ●掃除の点検 ● 班 会 議( 各 班 が 班 長 の 司 会 、副 班 長 の 記 録 に よ り 一 日 の 反 省 を 話 し 合 い 、[ 学 級 日 記 カ ー ド ] を 記 入 【 詳 細 は 後 述 】。) ●各班からの一日の反省(班長が話し合いの結果を報告) ●明日の日番の確認 ●担任からの連絡 この後、各班の[学級日記カード]が新聞担当班によって集められ、編集会議が行われ る。ここで、最終的な記事内容・見出しが決まるのである。このような流れで、学級の一 日が締めくくられる。 こ こ で 、[ 学 級 日 記 カ ー ド ] に つ い て 、 詳 し く 説 明 す る 。 ②[学級日記カード]の記入 学 級 日 記 カ ー ド は 、毎 日 、各 班 が 1 枚 、一 日 の 反 省 を 話 し 合 い 、記 入 す る 。そ の 内 容 は 、 次のような項目である。 ①今日の出来事…授業や休み時間、行事などの出来事を記入 ②良かった事(人)および反省する事(人) ③今日の見出し…①,②の中から、今日の学級新聞の見出しと簡単な内容を記入 ④私の一行日記…各自が、一日で印象に残ったことを、一行日記として記入 これらを記入した後、新聞担当班に提出し、6枚の「学級日記カード」をもとに、編集 会議を行う。記事・見出しが決定すると、ファックス原紙を6つに切り離し、各家庭に持 ち帰って、記事・レタリングを仕上げてくる。できた原稿は、翌朝、担任が集め、台紙に 貼り付け、印刷。終学活で配布。 <表> 2 <裏> 取組の成果 日刊学級新聞を発行することによって、多くの成果が得られる。 ◆班・学級への所属意識の高揚 まず、班会議(学級日記カードの記入)によって、班・学級への所属意識が高まった。 自分の発言した意見が生かされるので、活発な話し合いが行われ、学級に活気が満ちあふ れてきた。 また、学級での問題点も自分たちで取り上げることができるようになり、本音で話し合 う雰囲気もできた。 ◆自分を主張する場(エッセイコーナー・ひだまりの風景) 日 刊 学 級 新 聞 「 陽 處 ( ひ だ ま り )」( 平 成 11 年 度 1 学 年 ) に は 、 左 上 に [ エ ッ セ イ ]、 右 下に[ひだまりの風景]というコーナーを設けている。これは、文章を書くことが苦手な 生徒のために、平成9年度より始めた。 [エッセイ]のコーナーは、自分の趣味・特技をはじめ、お薦めの本・CD、家族のこ と、部活動のこと、友達のことなど、自分自身を主張できる場となった。これを読むこと によって、一人一人の生徒の意外な一面を発見でき、お互いを認め合う雰囲気ができあが った。また、この記事から、生徒同志の話題も膨らんでいった。文章が苦手な生徒でも、 自分が興味のあることなので、書きやすいようであった。そのうえ、書いた記事を読んで もらうことによって、自分が認められる喜びを感じるようになり、文章も上手になってく る。 [ひだまりの風景]は、文章をどうしても書けない生徒のために設けた。このコーナー では、原則として、イラストを書くことにしている。好きなアニメのキャラクターやオリ ジナルのイラストなどが掲載され、紙面を楽しい雰囲気にしている。このコーナーによっ て、学級全員が参加できる新聞活動となった。 ◆担任の情報源となる [ 学 級 日 記 カ ー ド ]お よ び[ 日 刊 学 級 新 聞 ]は 、担 任 の 情 報 源 と し て も 大 い に 役 立 っ た 。 中学校の担任というのは、授業がなければ、朝学活と昼食・掃除・終学活にしか、生徒た ち と 顔 を 合 わ せ る 時 間 が な い 。し か し 、 [ 学 級 日 記 カ ー ド ]お よ び[ 日 刊 学 級 新 聞 ]に よ っ て、担任は自分の知らない学級での出来事・様子を知ることができるのである。 ま た 、[ 学 級 日 記 カ ー ド ] の 「 一 行 日 記 ( 毎 日 、 全 員 に 1 日 1 行 の 日 記 を 書 か せ る )」 に おいて、生徒たちの心情の変化を読み取ることができた。生徒の立場から言うと、SOS 発信の一助をになったとも言える。 ◆社会の出来事にも目を向ける 日刊学級新聞の裏面に、一般新聞の記事の切り抜きを貼り、その記事の感想を書いて、 発行した。このことにより、学級・学校内だけでなく、地域・日本・世界に対して、目を 向けるようになった。 これらの記事は、学級新聞を配布したときに、担任が読み上げ、社会情勢の話をする機 会となった。 NIE(新聞を教育に)の一つの取組として、始めたものであるが、生徒たちも一般新 聞やニュースに目を向けるようになり、自分の選んだ記事・感想が、みんなに読んでもら えるということで、前向きな取組であった。 <表> <裏> こ れ ら の 活 動 を 通 し て 、生 徒 た ち は「 話 す こ と 」 「聞くこと」 「書くこと」 「 読 む こ と 」に よって、日常の行動や出来事に対して関心を持ち主体的に考え、自分の考えを的確に表現 する力を身につけた。もちろん、相手を認め合い、思いやりの心、弱者の代弁者たりうる 公平な心も養われた。特に国語力の向上は、顕著に現れている。情報収集能力と情報発信 能力が培われ、これらは、自ら学び自ら考える力などの「生きる力」の育成につながった と思われる。 3 課題及び今後の取組の方向 平成13年の夏休み、NIEの全国大会に参加した。そこで、札幌市立光陽中学校の先 生と知り合うことができた。学級経営論において意気投合し、お互いの学級経営資料の交 換を約束し別れた。後日、学級文集を交換すると、共に日刊学級通信を発行しており、こ の学級通信を通して、交流しようということになった。偶然にも、両クラスとも同じ3年 3組、学校名も松陽中学校と光陽中学校と一文字ちがいで、何かの縁を感じた。 これより、兵庫県と北海道という環境は全く違うが、同じ中学3年生同士が、Eメール やビデオレターによる交流を行うことができた。 特に印象に残ったのは、3学期も終わりに近づいた頃、Eメールによるメッセージによ って、進路や受験のことを真剣に考えるようになったことである。自分の将来の夢を語る ことによって、同じ夢を持つ相手からの返信があったり、同じ職種の専門学校への進学を 希望している生徒どうしが励まし合ったりと、遠く離れていても、信頼できる友人と認識 し て き た よ う で あ る 。進 学 に 関 し て も 、兵 庫 県 と 北 海 道 で は 入 試 形 態 や 日 程 が 違 っ て い た 。 当たり前のことであるが、生徒たちにとっては、驚きがあったようである。また、日程や 受験形態が違うからこそ、相手のことを真剣に応援できたように思う。同じ日程で行われ る受験であったら、自分のことを考えるのが精一杯で、他人のことまで考える余裕はない が、離れているからこそ、心から応援することができ、激励してもらう喜びを味わうこと が で き た よ う で あ る 。 そ し て 、「 合 格 」 の 知 ら せ に 心 か ら 喜 び 、「 合 格 」 を 知 ら せ る 楽 し み も、大きな励みになったようである。 この活動を通して感じたことは、遠く離れた同じ中学校どうしが姉妹校提携をして交流 することで、大きな成果が得られるということである。しかしながら、どのような方法で 姉妹校を探すかという問題がある。県もしくは市がネットワークを組んで、交流を推進す ることはできないものだろうか。 ◎おわりに 学級新聞発行による学級づくりは、大きな可能性を秘めている。コンピュータ機器の普 及にともない、世界とも簡単につながることができる。これらを有効に活用すれば、世界 各国の日本人学校や現地の中学校と交流することはできないだろうかと、その可能性は無 限に広がっていく。 国際社会の一員として、情報処理能力を持った生徒を育てていくことが、これからの社 会にとって重要な課題ではないだろうか。