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エネルギー・環境ビジネスに関するカナダ展示会
調 査 報 告 シカゴ エネルギー・環境ビジネスに関するカナダ展示会 3 月 26~28 日にかけて、カナダ・ブリティッシュコロンビア州バンクーバー市において GLOBE2014 が開催された。例年、バンクーバー港に近くにあるバンクーバー・コンベンショ ンセンターで開催されており、今回で 13 回目となる。世界各国から 1 万人近い来場者が参 加するカナダ最大の環境・エネルギービジネス展・カンファレンスである。今回の展示会 では、風力・太陽光といったクリーンエネルギー関連や石油・天然ガス関連の企業・団体 を中心に 300 弱の企業・団体が技術や自社の取組 PR などを積極的に行っていた。国際色豊 かな展示会であり、日本、米国、イギリス、フランス、カナダ、中国、韓国、マレーシア などの各国がナショナルパビリオンを設けていた。また、併催されているカンファレンス では、カナダのエネルギー政策やオイルサンド、エネルギー輸送手段、クリーンエネルギ ー動向など、幅広いテーマで議論がなされていた。今回は、クリーンエネルギーの産業動 向に関するセッションで報告されたクリーンエネルギーの現状と展望についてレポートす る。 ○クリーンエッジ社 ロン・パーニック取締役/モデレーター 私は 11 月に日本に行き、エネルギーに関係する政府高官や企業の要人と意見交換した。 現在日本では原子力発電所がシャットダウンされており、日本の政府や社会は別のクリー ンエネルギー·ソリューションの可能性を慎重に検討している。また、2 週間ほど前に発表 された、トヨタ自動車の米国子会社による 17 億 5,000 万ドル規模の「グリーンボンド」は 非常に興味深い。日系企業としては初の試みであり、資金使途を環境に配慮した事業に限 定した社債である。非常に戦略的なシステムであり、ハイブリッド車や最終的には燃料電 池車の購入拡大に資することから、米国政府の環境政策とも合致した取組だ。 昨年の主なトピックスは、世界の太陽発電の新設容量が、風力発電の新設容量を超えた ことである。2013 年の太陽光発電の新設容量は前年比 15%増加して 36.5GW となり、風力発 電を逆転した。中国や日本、米国での太陽光発電導入数の増加が、市場の拡大に大きく寄 与している。もう一つ、ポスト福島やドイツの脱原子力の動きも進展を見せている。 クリーンエッジ社は、太陽光や風力、バイオ燃料等の開発・導入に関する動向を追跡調 査しており、今月発表した「クリーンエナジートレンド 2014」レポートにまとめている。 2013 年のクリーンエネルギー産業の市場規模は 2,476 億ドルであり、10 年後の 2023 年は 3,978 億ドルまで成長すると予想した。中でも太陽光発電やバイオ燃料が顕著な伸びを示し ている。 ― 26 ― 調査報告 シカゴ (出所:ク クリーンエッ ッジ) 図1 世界クリー ーンエネルギ ギー産業の市 市場規模の現 現状と今後の の比較 表 1 世界 界クリーンエ エネルギー産 産業の市場規 規模の推移 クリーンエッ ッジ) (出所:ク 太陽 陽光発電の導 導入の伸びが が驚異的であ あり、2013 年は前年比 年 15 5%増の 913 億 億ドルとなっ った。 新設が が 36.5GW と記録的な伸 と 伸びであり、国 国別で見れば ば、中国が 12 2GW、日本が 77GW、米国が 4.2GW となった。今後さらに上昇カ カーブを描い いていくだろ ろう。世界平 平均での設置 置コストも、2007 年はピークワット当たり 7.20 ドルだっ ったが、2013 年は 2.50 ドルと約 655%下がってい いる。 日本は は他国に比べ べれば若干割 割高だが、以 以前に比べれ れば劇的に下 下がっている る。 ― 27 ― 調査報告 シカゴ 風力 力発電は、2 2013 年の市場規模は対前 前年比 20.7%減の 585 億ドルと大幅 億 幅に減少した た。新 設容量 量も 35.5GW W(対前年比 比 20.6%減) となり、2008 年以来の の弱い伸びと となった。そ そのよ 16.1GW の風 うな中、昨年中国 国では世界の の半数近い 1 風力発電が導 導入された。 これはかな なり重 要な傾 傾向を示して ている。 バイ イオ燃料(エ エタノールや やバイオディ ィーゼル)の の 2013 年の の市場規模は は対前年比 2..7%増 の 97 78 億ドルとわずかに上昇 昇した。同様 様に世界の生 生産量も 314 4 億ガロンと と例年に比べ べ微増 した。 。バイオ燃料 料の予測は難 難しいが、食 食物需要等の の様々な要因 因を調査して て算出している。 在米国では天 天然ガスの動 動向が注目さ されている。米国のエネ ネルギー源別 別新設容量を を見る 現在 と、2 2013 年は 41%が再生可 可能エネルギ ギー(太陽光、風力、バイ イオ燃料、地 地熱)であり り、前 年から 9 ポイン ント程比率が が下がってい るが、これは天然ガスの の比率が飛躍 躍的に伸びた たため である。他方で、月別に見れ れば、2013 年 11 月と 2014 年 1 月は は、米国新設容 容量のほぼ 100% を再生 生可能エネル ルギーが占め めているとい いう特異な数 数字を示すケ ケースもある る。こうした た流れ は、政 政府や企業が が自らに課す す目標や義務 務だけでなく く、純粋な市 市場原理も働 働いていると と考え られる。ドイツや や米カリフォ ォルニア州で では特にその の動きが顕著 著であり、電 電力総消費量 量に占 める再 再生可能エネ ネルギーの比 比率を、ドイ イツは 2020 年までに少な 年 なくとも 355%、カリフォ ォルニ ア州は は 33%という目標を設定 定している。 。 連邦エネルギ ギー規制委員 員会) (出 所:クリーンエッジ、連 図2 米国新設容 容量比率 ― 28 ― 調査報告 シカゴ 「クリーンエナ ナジートレン ンド」レポー ートでは、ベ ベンチャーキ キャピタルの の投資活動を を追跡 調査している。米 米国のベンチ チャー投資に に占めるクリ リーンエネル ルギー部門へ への比率を見ると、 昨年は は、14.9%(43.7 億ドル ル)と 2012 年から 6.5 ポイント減少 少しており、 、ピーク時に に比べ れば、 、10 ポイン ント近くの落 落ち込みであ る。機関投資 資家やプロジ ジェクトファ ァイナスの規 規模に 大きな な変化は無い いが、クリー ーンテクノロ ロジー周辺の のベンチャー ーキャピタル ルが減少して ている ことを示している。また、以 以前は、主に に太陽光発電 電やバイオ燃 燃料関係の新 新興企業に対 対する 投資に に集中してい いたが、昨年 年の投資は各 各セクターに に分散してい いた。 表2 表3 米国ベンチ チャーキャピ ピタルに占め めるクリーンエナジー部門 門の比率 全 全米クリーン ンテクノロジ ジーベンチャ ャー上位 10 社(公開・2 社 013 年) 企業名 主な分野 被投 投資額(100万 万$) 日付け Uber 運輸交通 $258 2 2013年8月 Intrexon n バイオ燃料 料 $150 2 2013年5月 Bloom Ene ergy 燃料電池 $150 2 2013年5月 Skyonic c 大気 $128 2 2013年6月 e eRecyclingC Corps リサイクル・廃棄 棄物 $105 20 013年10月 Telogis 運輸交通 $93 20 013年10月 Nest エ エネルギー効 効率 $80 2 2013年1月 rePlanett リサイクル・廃棄 棄物 $67 20 013年12月 Blu Home es エ エネルギー効 効率 $65 2 2013年6月 Lyft 運輸交通 $60 2 2013年5月 (出所:クリーンエッジ ジ、全米ベン チャーキャピタル協会、 、クリーンテ テックグルー ープ) ― 29 ― 調査報告 シカゴ クリーンエッジ社は、ナスダックとともに、クリーンテクノロジー分野のベンチマーク として機能する 2 つのインデックス(CELS、QGRD)を生成している。CELS は米国上場 のクリーンエネルギー関連企業、QGRD は主にスマートグリッドとインフラストラクチャ 関連企業で構成されている。前者は、とりわけテスラモーターズ社とソーラーシティ社の 株式に支えられ、2013 年のパフォーマンスは 2007 年来最大の 89%となった。同じく QGRD も金融危機後では最大の 24%となった。 表4 ナスダック、クリーンエッジ ストックインデックスパフォーマンス (出所:ファクトセットリサーチ、ナスダック) 「クリーンエナジートレンド」レポートの調査内容は毎年見直しており、今年は関心が 高まっている「グリーンビルディング」や「電気自動車・ハイブリッド車」を調査項目に 加えた。 過去 10 年間を振り返ると、米国グリーンビルディング協会認証(LEED)の認定建築物 は、驚異的な成長軌道を描いている。 (一戸建て住宅を除き、)LEED 認定数は 2003 年には わずか 50 に至らない規模であったが、2013 年は対前年比 8.6%増の 4,617 件まで増加した。 2000 年から 2013 年までの年間平均成長率は 68.9%となった。 自動車の電化は、世界的なメガトレンドであり、ここ 2 年は急速なペースで伸びている。 ハイブリッド車や電気自動車(EV)の世界販売台数は 230 万台となり、前年比で 26.4%増 加した。年間販売台数は、震災等影響でトヨタ、日産等の主要なメーカーで数ヶ月の生産 停止・減産があった 2011 年を除けば、2010 年以降倍増している。2000 年から 2013 年の 間の年間成長率は 38%を超える。米国市場では 2025 年までに 1 ガロン当たり 54.5 マイル の燃費を要求しており、また、中国市場でのクリーン車の需要が高まりを受け、強力なグ ローバルな成長の傾向が続くと予想する。 ― 30 ― 調査報告 シカゴ (出所:米国グ グリーンビル ルディング協 協会) 図3 世界の LE EED 認定プロジェクト数 数の推移 (出所:各種報道よ よりクリーン ンエッジまと とめ) 図4 電気 気自動車・ハ ハイブリッド ド車の世界販売台数の推移 移 ― 31 ― 調査報告 シカゴ その他の注目すべきエネルギー動向としては、ルーフトップ型太陽光発電や分散電源、 エネルギー貯蔵分野の成長が著しく、伝統的な中央集権型のユーティリティビジネスモデ ルに挑戦を始めている。米国エジソン電気協会が昨年まとめた「破壊的挑戦」と呼ばれる レポートでは、既存ユーティリティが分散電源からの買取電力による収益損失を補うため に更なる顧客開拓に走る「死のスパイラル」について警告した。 ネットメータリング呼ばれる余剰電力買取制度は、幾つかの州で、大規模ユーティリテ ィと太陽光発電ユーザーの争いを引き起こしている。これまでで最も激しい論争は、2013 年 11 月にアリゾナ州規制当局が、ルーフトップ型太陽光発電ユーザーに対し 1kW あたり 70 セント(住宅においては 5 ドル/月)の買取を承認したことだ。他方、将来的には完全 な分散型グリッドを受容しなければならないと判断するユーティリティは、企業買収や投 資によりパートナーシップを形成し、分散電源の脅威をビジネスチャンスに転換しようと している。例えば、巨大なユーティリティ会社エジソン・インターナショナルは、2013 年 にシカゴの屋上太陽光発電開発会社の SoCore 社を獲得した。同社はイケアやウォルグリー ンなどの小売店に焦点を当てている。 分散型太陽光発電で世界最大級の市場であるドイツでは、複数の太陽光発電や分散され たリソースに対応するために、ユーティリティが自身のビジネスモデルの変革に着手して いる。ドイツで二番目に大きな電力会社である RWE 社は、分散電源を「欧州の発電市場で 唯一の成長セグメント」と位置づけ、全体の事業戦略を見直しているところだ。日本では、 ポスト福島としての分散電源としてのみならず、中央集権型ユーティリティを改革するた めに太陽光発電が注目されている。そして、分散電源に関する革新技術や金融モデルも成 長している。 世界の各都市では、炭素排出量を削減するための競争が激しさを増している。ニューヨ ークやムンバイまで、大都市圏は沿岸部に位置することが多く、炭素排出量に現実に影響 を受けやすい。自治体レベルであればポリシーの変更は比較的易しいため、都市は建築基 準や土地利用の規則をコントロールする傾向にあり、コンパクトシティへの発展を目指し ている。多くの包括的なエネルギー政策は、米国連邦レベルで議論されているが、いくつ かの都市や地域のユーティリティは、2005 年のハリケーン·カトリーナや 2012 年のスーパ ーストーム・サンディーのような破壊的な嵐の余波で、自身のエネルギーインフラの更新 に、より積極的な対応を取っている。 ポスト・サンディーに備えた都市の再構築や復元のためのイニシアティブの一環として、 発行されたレポートでは、電気事業が取り組むべき 23 の個別の取組が示されている。イニ シアティブには、分散電源やマイクログリッドのスケールアップなど、長期資本の改善を ― 32 ― 調査報告 シカゴ 支援するために必要な規制のオーバーホールが含まれている。また、市は電力供給源を多 様化し、改善していくこととされている。 シアトルは、気候変動問題に対して長きにわたりリーダーシップをとっているが、今般 さらに、2050 年までにゼロエミッションを達成するため、道路輸送や建物のエネルギー使 用量、廃棄物に焦点を当てた都市計画を発表した。通行料制度により計画実施に必要な資 金を供給する予定である。 北米以外の多くの都市でも、同様に積極的な炭素排出削減に焦点を当てている。 コペン ハーゲンは 2025 年までに完全にカーボンニュートラルとすることを目指し、2012 年時点 で総エネルギー消費量の 30%程度の風力発電を 50%まで積み増すことを計画している。中 央集権型の石油·石炭系暖房システムを、ワラや木質ペレットから生産するバイオマス燃料 と熱電併給発電式に変更する予定である。 また、ゼロエネルギービルディングが現実的なレベルになってきた。2006 年、太平洋岸 北西部にあるカスカディアグリーンビルディング協会は、建物が消費する以上のエネルギ ーを生成するシステムを実現するために、建築家やデザイナーに目標を示し挑戦を開始し た。8 年後の今日、炭素排出量削減と気候変動対応へのニーズの高まりは、このトレンドを さらに牽引しており、超高効率 HVAC(冷暖房空調設備)システム、LED 照明、エレクト ロクロミックガラスなど技術レベルの向上により、現実的な価格帯で目標達成が可能とな るだろう。これらを後押しするための新たな政策が期待される。 その他、クリーンテクノロジーのビジネスモデルは急速に成長しており、インターネッ トやクラウドが有効に機能する。多くのシステムでは、エネルギーを節約し、再生可能エ ネルギーを展開、より効率的にリソースを活用する Web ベースのシステムやアプリケーシ ョンを使用している。 また、地球の人口は今世紀半ばで 90 億に達すると予測されている。非営利環境保護団体 である世界資源研究所の国連データの提出によると、2050 年頃には、人間が必要なカロリ ーは 2006 年時に比べ 69%多いことが判明した。この需要を満たすために、世界はより多く のカロリー密度の高い、栄養価の高い食品のより高い収穫量を必要としている。バーティ カルファーミングは、最新の技術の組み合わせにより、新しい建物の中で野菜や果物等の 栽培が可能となる。 ― 33 ―