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シカゴ連銀シンポジウムによる 2013年米国経済

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シカゴ連銀シンポジウムによる 2013年米国経済
調 査 報 告
シカゴ
シカゴ連銀シンポジウムによる2013年米国経済見通し(2)
シ カ ゴ 連 銀 ( シ カ ゴ 地 区 連 邦 準 備 銀 行 ) 主 催 に よ り 、 2013 年 12 月 6 日 に 第 26 回 年 次
経済見通しシンポジウムが開催された。同シンポジウムでは、例年、様々な分野の有識者
により翌年の経済見通しを取りまとめ、情報共有を行うとともに、各分野の専門家より、
それぞれの産業の見通しが披露されている。前回に続き、自動車や建設機械、農業機械産
業等の見通しについて紹介する。なお、図表はすべて会議資料から引用または作成したも
のである。
2.建設機械及び農業機械産業の動向について
Frank Manfredi 氏 ( マ ン フ レ デ ィ & ア ソ シ エ イ ツ
プレジデント)
米国の農業部門は好調である。農家は大きな利益を生み出し、農地価格が上昇し続けて
いる。最近になって、幾つかの品目で商品価格が減少したものの依然として高いレベルに
ある。また、連邦政府から農家への直接支払い量はやや減少している。今年は、米国で収
穫 さ れ た ト ウ モ ロ コ シ の 30% が エ タ ノ ー ル 製 品 の た め に 使 用 さ れ る 。世 界 的 に 見 れ ば 食 品
価格は過去 2 年間でやや緩和されているが、歴史的にハイレベルのままである。
米 国 政 府 に よ る 国 内 農 家 に 対 す る 直 接 の 支 払 額 は お そ ら く 50 億 ド ル 未 満 と な り 、 こ れ
は 過 去 10 年 間 で 最 低 の レ ベ ル で 、2013 年 の 政 府 か ら の 支 払 は 災 害 救 援 や 他 の プ ロ グ ラ ム
等 を 全 て 組 み 合 わ せ た と し て も 100 億 ド ル 程 で あ る と 予 測 さ れ て い る 。 こ れ は 、 2011 年
と 2012 年 よ り も わ ず か に 高 い が 、 そ れ で も 過 去 10 年 の 平 均 に 比 べ れ ば 低 い 。
出 所 : United Nations
図1
世界の食糧価格推移
農 業 用 大 型 ト ラ ク タ ー( 100 馬 力 超 の 2WD や 4WD)の 売 上 高 は 、農 業 の 所 得 に 追 従 す
る 傾 向 が あ る 。実 際 に 、農 家 の 所 得 が 歴 史 的 に 非 常 に 高 い レ ベ ル に あ る 中 、2WD ト ラ ク タ
ー は 約 32,000 台 、4WD ト ラ ク タ ー は 約 7,000 台 と 、大 型 の 農 業 用 ト ラ ク タ ー 販 売 台 数 は
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調査報告 シカゴ
上昇している。家庭菜園やガーデニングなどの様々な目的で用いられる小型のトラクター
( 100 馬 力 未 満 の 2WD)は 、住 宅 所 有 者 の 間 で か な り の 市 場 と な っ て い る 。こ れ ら の 小 型
ト ラ ク タ ー の 販 売 台 数 は 住 宅 着 工 数 に 相 関 し て お り 、2009 年 の 金 融 危 機 以 降 、徐 々 に 上 昇
し 、 現 在 は 約 15 万 台 に 達 し て い る 。 小 型 ト ラ ク タ ー の 多 く は 海 外 生 産 で 、 米 国 に 輸 入 さ
れている。また、大型のトラクターやコンバインの在庫は、最近に急激に増加し、在庫対
売上比率も高いレベルである。メーカーの過剰生産によりディーラーは過度な在庫を抱え
る可能性が生じている。
出 所 : Manfredi & Associates, Inc.
図2
大 型 ト ラ ク タ ー ( 左 )、 小 型 ト ラ ク タ ー ( 右 ) 米 国 販 売 台 数 推 移
米国の農業は、売上が好調に推移した後、数年後にはやや減少に転じると予想されてい
る 。農 業 機 械 メ ー カ ー は 、次 の 景 気 後 退 局 面 に 備 え て 収 益 を 保 持 し て い る 。海 外 売 上 高 は 、
好調を続けており、特にラテンアメリカと東ヨーロッパが顕著である。
米 国 ト ラ ク タ ー の 2013 年 の 総 販 売 台 数 は 、対 前 年 比 1.7%増 の 188,218 台 で あ り 、2014
年 は 、 同 1%増 の 190,313 台 ま で 増 加 す る と 予 想 さ れ て い る 。 た だ し 、 小 型 ト ラ ク タ ー と
大 型 ト ラ ク タ ー で は 異 な る 状 況 を 示 す だ ろ う 。比 較 的 小 型 で あ る 40 馬 力 未 満 の 2WD ト ラ
ク タ ー の 販 売 台 数 は 、 住 宅 市 場 の 成 長 に 支 え ら れ 、 2013 年 に 対 前 年 比 4.9%増 の 96,697
台 、2014 年 に は 同 8%増 の 104,000 台 と 著 し い 成 長 が 見 込 ま れ る 。 一 方 、 100 馬 力 超 の 大
型 ト ラ ク タ ー は 、 2013 年 に 同 3.6% 減 の 30,583 台 と な り 、 2014 年 は 同 10%減 の 27,525
台 に 減 少 す る と 予 想 さ れ て い る 。同 様 に 、4WD ト ラ ク タ ー も 2013 年 に 同 1.8%減 の 6,810
台 、2014 年 に 同 15%減 の 5,789 台 と 減 少 す る だ ろ う 。ま た 、コ ン バ イ ン の 販 売 台 数 は 2013
年 に 同 2.3%増 の 10,049 台 に 増 加 し た 後 、 2014 年 は 5% 減 の 9,547 台 と 落 ち 込 む だ ろ う 。
建設機械及び鉱山機械の見通しに目を向けると、住宅着工件数は、非居住用建設を中心
に改善の兆しを見せているが、インフラ支出はダウンしており、特に公的資金によるプロ
ジェクトは、政府シャットダウンの影響を強く受けている。また、商品価格の減少傾向や
中国に代表されるように主要マーケット国・地域の経済の冷え込みを受けて、鉱山会社の
設備投資は減少している。これにより鉱山機械の受注は大幅な減少に転じており、少なく
と も 2016 年 頃 ま で 持 続 す る だ ろ う 。 ま た 、 大 量 に 建 設 機 械 を 保 有 す る 建 機 レ ン タ ル 会 社
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調査報告 シカゴ
の 設 備 更 新 需 要 に よ っ て 、小 型 建 設 機 械 の 販 売 先 は 、2017 年 頃 ま で に レ ン タ ル 会 社 に 大 半
を占められるようになると見込まれている。
2014 年 の 米 国 総 建 設 費 支 出 は 、 歴 史 的 に 見 て 正 常 規 模 で あ る 1 兆 ド ル に 達 す る だ ろ う 。
建 設 関 係 の 雇 用 は 2014 年 に は 600 万 人 に 達 す る と 予 測 さ れ て お り 、 依 然 と し て 通 常 よ り
も大幅に低いレベルにある。これは、大規模な雇用が確保できない中で、労働者の生産性
を向上させ、賃料の上昇に大きく寄与している。
出 所 : Manfredi & Associates, Inc.
図3
米 国 建 設 費 支 出 ( 左 )、 建 設 関 係 雇 用 ( 右 ) の 推 移
2014 年 の 住 宅 着 工 数 は 100 万 件 以 上 に 達 す る 見 込 み で あ る 。 ま た 、 エ ネ ル ギ ー 関 連 の
需要が大幅に増加しており、米国シェールガス開発に牽引され、多くの従来に無い分野で
の機器需要が拡大している。個別企業の業績を見ると、米建設機械大手キャタピラーの売
上 高 は 、世 界 全 体 で 見 れ ば 最 近 は 減 少 に 転 じ て い る も の の 、北 米 の 売 上 は 回 復 し つ つ あ る 。
同じく、コマツの北米販売も増加傾向にある。
全 体 的 に は 、 米 国 の 建 設 機 械 市 場 は 2013 年 に 対 前 年 比 で 4.0% 成 長 し 171,327 台 に 、
2014 年 に は さ ら に 同 7.4% 成 長 し 、 183,970 台 に 達 す る と 予 測 さ れ て い る 。 ク レ ー ン や ト
ラックローダーは強い成長が見込まれるセグメントである。油圧ショベル、ダンプトラッ
ク 、ホ イ ー ル ロ ー ダ ー 及 び ス キ ッ ド ス チ ー ル ロ ー ダ ー は 、2013 年 に 比 べ て 2014 年 に よ り
良い成長が期待される。販売量の多くを占めるセグメントは、引き続き油圧ショベル、ス
キッドステアローダーである。
また、最近は、建設機械を購入するよりもレンタルするユーザーがマジョリティになり
つ つ あ る 。第 四 次 排 出 ガ ス 規 制( Tire4)は 、ユ ー ザ ー が 新 し い エ ン ジ ン に 慣 れ る よ う に 規
制に対応した燃料をレンタルする動きを促進している。レンタル会社の建設機械保有数は
か な り の 規 模 に な っ て お り 、 レ ン タ ル 会 社 は 、 Tire4 技 術 を サ ポ ー ト す る こ と が 可 能 な 限
られたリソースで、中古車を転売しようとするために複雑な問題に対処する必要がある。
米 大 手 設 備 レ ン タ ル 会 社 の ユ ナ イ テ ッ ド ·レ ン タ ル ズ は 、現 在 、20 万 台( 約 70 億 ド ル )の
建 設 機 械 を 所 有 し て い る 。 米 国 の レ ン タ ル 会 社 の 売 上 高 は 2014 年 に 350 億 ド ル を 突 破 す
る と 見 込 ま れ て お り 、 金 融 危 機 前 の ピ ー ク で あ っ た 2007 年 の 売 上 高 に 相 当 す る 規 模 と な
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調査報告 シカゴ
る だ ろ う 。1980 年 代 初 頭 以 来 、建 設 会 社 は 従 業 員 一 人 当 た り の レ ン タ ル 機 器 の 支 出 額 を 着
実 に 増 加 さ せ て お り 、こ の 傾 向 は 現 在 も 続 く 。2014 年 に は 、そ れ ぞ れ の 建 設 作 業 員 の た め
に 600 万 ド ル の レ ン タ ル 機 器 が 費 や さ れ る と 見 込 ま れ る 。
出 所 : Manfredi & Associates, Inc.
図4
レンタル収入と建設労働者数の推移
EPA の 排 出 ガ ス 規 制 は 、 1990 年 代 半 ば か ら 建 設 機 械 業 界 に 多 大 な 影 響 を 与 え て い る 。
Tire5 エ ン ジ ン は 、15 年 前 の Tire1 エ ン ジ ン に 比 べ て は る か に 複 雑 で ハ イ テ ク な 機 器 と な
っ て い る 。 米 キ ャ タ ピ ラ ー 1 社 だ け で も 、 EPA 排 出 基 準 を 遵 守 す る エ ン ジ ン を 開 発 す る た
め に 、 こ こ 5 年 は 一 日 あ た り 約 100 万 ド ル の 研 究 開 発 費 を 費 や し て き た 。 Tire5 技 術 の 導
入 に よ り 、 米 国 向 け の 新 た な 建 設 機 械 の 製 造 コ ス ト は 25% 〜 30% 程 度 増 加 し た 。
出 所 : Manfredi & Associates, Inc.
図5
EPA 排 出 ガ ス 規 制 の 概 念 図
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調査報告 シカゴ
厳しさが格段に向上した排出基準の不幸な点は、幾つかの国・地域が超低硫黄ディーゼ
ル燃料対応の高性能エンジンの導入が、世界的な建設機械中古市場の破壊を招いていると
いうことだ。つまり、欧米や豪州、日本、韓国といった市場で使用された比較的新しい建
設機械を途上国に転売して使用することは困難である。昨年における北米中古建機のバイ
ヤ ー の 2~ 3 割 は 、 排 出 ガ ス 規 制 が 低 い ( Tire-Low) 国 ・ 地 域 か ら 構 成 さ れ て お り 、 こ れ
ら の 国・地 域 で 使 用 す る た め に 余 分 な 費 用 を 投 じ て 、Tire4 対 応 か ら Low 対 応 に ダ ウ ン グ
レードしている。逆に言えば、大幅なアップコンバートコストをかけずに、中国企業や他
の発展途上国メーカーから先進国市場へ流入する新車・中古車に対する効果的な障壁を作
成したことになっている。
一方、中国の建設機械メーカーは、発展途上国市場向けの新車を北米中古車の平均価格
より安価に設定している。これは価格低下を誘引し、最終的には余剰生産になるだろう。
ま た 、Tire4 の 導 入 は 建 設 機 械 の 駆 け 込 み 需 要 を 誘 引 し た と 考 え る の が 妥 当 で あ り 、2014
年 の 米 国 機 器 販 売 の 10~ 15%相 当 が 2012 年 お よ び 2013 年 に 前 倒 し さ れ た で あ ろ う 。 加
え て 、 米 国 政 府 の セ ク シ ョ ン 179( 固 定 費 の 即 時 償 却 制 度 ) 拡 張 に 関 す る 不 確 実 性 が 一 時
的に新車需要を押し下げた。
Tire4 対 応 の 建 設 機 械 を 途 上 国 に 輸 出 す る こ と は 難 し く 、 中 古 車 が 市 場 で 蓄 積 さ れ 最 終
的には新車購入の動きを抑制することにつながるだろう。レンタル会社にとっては使用期
間の長期化は有難いことだ。また、従来型の油圧機器を電気機器で代替する動きが継続し
ており、これはより環境に優しい選択肢であると見なされている。
自律型無人走行車両の開発も継続しているが、農業分野での実用化段階には至っておら
ず、フェンスなどで人や動物からの干渉を受けない環境下でなければ作業は困難である。
一方、近代的な鉱山では自律車両が受容されており、導入が容易になっている。
3.自動車産業の動向について
Michael Robinet 氏 ( HIS オ ー ト モ ー テ ィ ブ
マネージングディレクター)
基 本 的 に は GDP 成 長 は 雇 用 増 進 を 促 し 、 雇 用 の 伸 び は 商 業 活 動 の 活 性 化 や 自 動 車 販 売
の 増 加 に 資 す る 。世 界 の 自 動 車( ラ イ ト ビ ー グ ル )市 場 は 、金 融 危 機 で 縮 小 す る も 、BRICs
を は じ め と す る 新 興 国 の 旺 盛 な 需 要 に 牽 引 さ れ 2013 年 は 81.9 百 万 台 に 到 達 す る 見 込 み 。
そ の 後 、2020 年 ま で の 8 年 間 で 年 平 均 3.9%成 長 し 、2020 年 に は 1 億 台 を 突 破 す る と 予 測
されている。
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調査報告 シカゴ
出 所 : IHS AutoInsight
図6
グローバル自動車市場の見通し
2014 年 か ら 2020 年 に お け る 自 動 車 市 場 の 成 長 率 を 見 る と 、上 位 5 カ 国 の 中 国 、メ キ シ
コ 、イ ン ド 、ポ ー ラ ン ド 、イ ラ ン で 約 7 割 を 占 め て い る 。加 え て 、成 長 の 85%以 上 が 、グ
ロ ー バ ル OEM や グ ロ ー バ ル ア ー キ テ ク チ ャ か ら 生 じ る 。 一 方 、 西 ヨ ー ロ ッ パ や オ ー ス ト
ラリア、日本、カナダ、韓国の先進国市場では、コストやコロケーションのプレッシャー
を感じることになるだろう。
出 所 : IHS AutoInsight
図7
グローバル自動車市場における成長への寄与度
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調査報告 シカゴ
また、グローバルな自動車市場で成長を遂げる上では、固定費の削減は非常にクリティ
カ ル に な っ て お り 、 OEM 各 社 は 弾 力 的 な 生 産 と 3 シ フ ト 構 造 を 通 じ て 設 備 等 の 固 定 費 を
カ バ ー す る こ と に 焦 点 を 当 て て い る 。 中 国 の 改 善 努 力 は 10 年 程 遅 れ て お り 、 老 朽 設 備 の
更 新 や 複 数 の OEM が 統 合 さ れ る ま で 、 こ の 傾 向 は 続 く と 見 込 ま れ て い る 。 西 ヨ ー ロ ッ パ
も改善の速度が非常に遅く、設備稼働率の向上は順調に進んでいない。日本と韓国の設備
利用率は、弱い国内市場よって低迷するだろう。
出 所 : IHS AutoInsight
図8
グローバル市場における設備利用率の推移
中 国 の 生 産 能 力 を 評 価 す れ ば 、 グ ロ ー バ ル OEM は 旺 盛 な 需 要 に 対 応 す る た め 度 重 な る
設 備 増 強 を 開 始 し 、2009 年 と 2010 年 の 間 に 爆 発 的 な 成 長 を 遂 げ た 。2011 年 と 2012 年 の
生 産 量 の 穏 や か な 増 加 は 、 グ ロ ー バ ル OEM と 国 内 市 場 向 け の OEM が 異 な る 志 向 で 活 動
することに起因する。前者は、新たな地域・市場での存在感を示すために投資と生産能力
拡張を継続するが、後者は、余剰生産能力を抱えてしまっている。
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調査報告 シカゴ
生産能力と生産台数
出 所 : IHS AutoInsight
図9
中 国 OEM お け る 設 備 利 用 率 の 推 移
北 米 市 場 を 概 観 す れ ば 、回 復 期 か ら 次 の タ ー ゲ テ ィ ン グ を 行 う 時 期 へ と シ フ ト し て い る 。
具体的にはより安定的に収益性を高めるためにどのように戦略転換を行うのかが課題であ
る 。 新 規 投 資 案 件 は 2014 年 か ら 開 始 さ れ 、 2015 年 に は 堅 調 な 利 益 を 稼 ぎ 出 し 、 2018 年
頃までその流れを継続するだろう。また、輸出やコンプリートノックダウン生産方式の加
速化により更なるボリュームゾーンの獲得が期待される。
(百万台)
生
産
台
数
出 所 : IHS AutoInsight
図 10
北米自動車生産台数の見通し
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