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調 査 報 告

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調 査 報 告
調査報告 シカゴ
調
査
報
告
____________________________________ シカゴ
●米国セルロース系エタノールに関する動向について(その2)
米議会において長らく議論されてきたエネルギー法案が可決し、12月19日にブッシュ大統
領により署名され、2007年エネルギー自立・安全保障法として成立した。これにより、2022
年にバイオ燃料360億ガロンの使用を義務付ける再生可能燃料基準(RFS)が定められ、代
替燃料の供給目標が大幅に引上げられた。このうち、セルロース系バイオ燃料については、
2022年に160億ガロンを占めることとされており、食料と競合しないセルロース系バイオ燃料
の大量供給が求められている。
前々月に引き続き、「セルロース系エタノール及び第2世代バイオ燃料」会議の概要を報告
する。今月は、セルロース系エタノールの原料生産、物流、輸送及び貯蔵、並びに、セルロ
ース系エタノールプロジェクトの展開に関して報告する。また、同会議と併催されたブタノ
ール及び第2世代バイオ燃料の開発に関するセミナーの概要についても併せて報告する。なお、
図表はすべて会議資料から引用または作成したものである。
3.原料生産、物流、輸送及び貯蔵
3.1 再生可能な森林資源からのバイオ燃料
Denny Hunter技術担当副社長(Weyerhaeuser社)
Weyerhaeuser社はフォーチュン誌100社リストに載る大企業であり、2006年の売上高は219
億ドルである。Weyerhaeuser社は北米にあるほとんどの生産的な軟木の森林を所有ならびに
管理している。こうした森林は、米国に640万エーカー、カナダに2700万エーカーある。
図表1
Weyerhaeuser社が所有する森林地帯
カナダで所有する森林地帯の100%がISOの認
証を取得し、且つ、CSA又はSFIの認証を取得
※CSA:
カナダ規格
協会
※SFI:
サステイナ
ブル森林イ
ニシアティブ
米国で所有する土地の100%が
ISO及びSFIの認証を取得
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調査報告 シカゴ
Weyerhaeuser社は、伝統的な林業の企業として知られているが、気候の変化とエネルギー
安全保障に関わる分野、すなわちバイオ燃料生産における新事業の可能性に目覚めつつある。
森林および紙材処理の残余物からエネルギー資源への変換に関しては実に多様な方法があ
るが、これらの残余物は比較的少量であり、収集と再処理の費用は比較的に高額となる。し
かし、主な検討の対象は、輸送用燃料として意図的に栽培され、伝統的な樹木とともに育て
られている大規模生産が可能な資源である。後に、費用対効率が改良されるにつれ、輸送燃
料の生産に続いて化学薬品やその他の製品が登場するかも知れない。
供給原料は農地でなく森林で栽培されることから、そうした計画は食品用途と競争関係に
ならないという点が重要である。森林は農地よりも生産的である可能性がある。1エーカー
の土地でトウモロコシを栽培しても、それから取れるエタノールは350ガロンだが、森林なら
1,000ガロンの生産が可能である。維持可能な森林は、管理作業もそれほど必要でないので、
費用が減少する。
米国南東部は、気候と土壌を考慮すると、間作戦略に最適である。林業は、基本的に大規
模で長期的な農業である。Weyerhaeuser社の企業インフラは、バイオ燃料の移行が行えるよ
う既に確立されている。Weyerhaeuser社は現在、樹木とともに栽培できるスイッチグラスな
どのエネルギー作物候補の栽培を現場で試行中である。
今日のガス化技術により、酵素を用いた変換よりも生成量が増大する可能性がある。商業
化に向けた方向としては、短期的には、化石燃料からバイオマスのガス化/熱分解への転換
であり、中期的には、残余物からバイオディーゼルおよびエタノールへの変換を行うことで
ある。
図表2 ガス化技術
燃料ガス
合成ガス
サイクロン
セパレータ
燃焼器
ガス化装置
バイオマス
砂
砂及び
炭化物
蒸気
空気
エネルギー価格と政府の政策は、同社をバイオ燃料生産者に変えるための判断において大
きな影響を及ぼす。パルプ工場からバイオ燃料生産への用途変更も、実現可能性がある。大
学や国立の研究機関、技術提供者、並びにエネルギーおよび化学薬品会社とのパートナーシ
ップは、Weyerhaeuser社がバイオ燃料および化学薬品の育成に成功するために不可欠である。
3.2 セルロース系原料としての専用エネルギー作物
Anna Rath事業開発担当ディレクター(Ceres社)
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調査報告 シカゴ
大規模で再生可能な国内の液体燃料資源の生産に向けて、現在多くの要因により圧力がか
かっている。石油消費が油田発見のペースを上回る一方で、生産はピークに達している。多
くの国は備蓄を国有化しており、当該国の産出地域は社会不安にある。炭素排出などの環境
問題は有望な材料となる。
収穫密度の高いエネルギー専用作物の栽培は、その他の残余物または農産物(トウモロコ
シ)による解決策よりも少ない面積で可能である。Ceres社の主な目標は、トン当たりのバイ
オマスと燃料の収穫率が高く、理想の植物が持つ望ましい属性を可能な限り多く持つ、完全
なエネルギー作物を作り出すことである。最適な作物を作り出すためのバイオ技術の使用は、
実用化をスピードアップする上で決定的に重要である。
図表3 完全なエネルギー作物
高いバイオマス量:
成長率、光合成効率の向上、
開花引延し
早急で費用対効果の高い
繁殖
組織と構造の向上:
トン当たり燃料産出の増加
立木の育成:
寒冷地での発芽、生育
病気、害虫への抵抗力
永続性: 多年生植物、効率
的な養分利用効率、高い化
石エネルギー割合
構造の最適化:
密度の高い栽培、ハウス不要、
容易な収穫
深い根:
干ばつへの抵抗力、養分摂
取、炭素分離
塩、酸、アルミニウムへの抵抗
力
Ceres社は、植物組織に堆積するリグニンの量など、植物の属性を変えて望ましい特性に合
わせるために、遺伝子の移植的な挿入を使用している。バイオ燃料のプロセスを最適化する
ために何百種類もの特質が制御されることになる。
開発作業が重点的に行われているのは、スイッチグラス(クサキビ)、モロコシ、ススキ、
およびエナジーケーンの四作物である。それぞれに有利な属性と不利な属性がある。Ceres
社は、いくつかの組織との協力を通じて各作物の現場試作を行っている。地域的な差を検証
するために、現場試作と種子生産が米国内21州で進められている。
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図表4
Ceres社が開発する4つの作物
スイッチグラス モロコシ ススキ エナジーケーン
利点:
1)
広域適応性
2)
少ない投入物
3)
多年生植物
4)
種子
不利な点:
1)
育成
2)
やや低い収穫量
利点:
1)
収穫量
2)
適応性
3)
生産システム
4)
少ない水使用量
不利な点:
1)
単年生
2)
投入物/育成
利点:
1)
少ない投入物
2)
多年生植物
不利な点:
1)
繁殖
2)
育成期間
3)
遺伝子のバリエー
ション
利点:
1)
2)
収穫量
生産システム
不利な点:
1)
適応性
2)
繁殖
3)
投入物の要求
エネルギー作物として栽培される多年性植物用に、伝統的な農耕地でなく牧草地が利用で
きる場合、オーストラリア、アルゼンチン、モンゴル、そして南アフリカのように典型的な
農業国でない国々もバイオ燃料生産に参加できる。いずれにせよ、上位の燃料生産国が、現
在のOPEC(石油輸出国機構)加盟諸国から、より友好的な農業諸国に移り変わることは、
米国のエネルギー安全保障にとって大きな利益となる。
図表5 石油貯蔵上位10カ国(左表)及び潜在的バイオマス産出上位10カ国(右表)
埋蔵量シェア
総面積(100 一 人 当 た り
(%)*1
万エーカー)*2
面積(エーカー)
1018
3.5
サウジアラビア
22.9
米国
イラン
11.4
ブラジル
651
3.7
イラク
10.0
アルゼンチン
437
11.5
1105
56.5
535
3.7
1369
1.1
アラブ首長国連邦
8.5
オーストラリア
クウェート
8.4
ロシア
ベネズエラ
6.8
中国
ロシア
6.0
南アフリカ
246
5.6
リビア
3.1
メキシコ
265
2.6
ナイジェリア
3.0
カナダ
167
5.3
米国
2.7
ウクライナ
102
2.1
注:*1
2003 年末現在、*2 農地及び牧草地(2005 年現在)
多くのエネルギー作物は、現状では農地法に基づく連邦作物保険の担保資格がない。農業
経営者がエネルギー作物の栽培を安心して行えるようにするためには、この点を変更するべ
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調査報告 シカゴ
きである。
3.3 セルロース系エタノールの資源および輸送制約の打開
Hosein Shaporiシニア農業エコノミスト(米国農務省エネルギー政策・新規利用部門)
米国のバイオ燃料生産に関する法案は、これまで連邦議員により100件以上提案されてきた。
農家にとっては、未だ農業用作物を栽培した方がエネルギー作物の栽培より収益性が高くな
っている。農業バイオマスとしては、食用飼料用穀物、脂肪種子、草木、専用エネルギー作
物、作物残余物、食品飼料産業副産物、糞尿、動物性脂肪、一般廃棄物があり、森林バイオ
マスには、木材その他の残余物、燃料処理、燃料木材、森林製品産業廃棄物、都市木材残余
物、森林成長があるが、エネルギー省(DOE)および農務省は、米国の森林及び農業資源
が供給できる潜在的年間バイオマス資源は、2050年までに乾燥重量で年間およそ13億トンに
なると見込んでいる。このほとんどは作物残余物、森林残余物、およびエネルギー作物が概
ね同じ配分の割合を占める。
百万乾燥トン/年
図表6 潜在的年間バイオマス資源(2050年)
作物残余物 森林残余物 エネルギー作物 穀物 糞尿 合計
出所:エネルギー省/農務省
ヴァージニア工科大学の経済分析によれば、1乾燥トン当たりのバイオマスのコストは、
ロールベール(round bale)79.3ドル、切り込まれたバイオマス72.2ドル、ウッド・チップ
44.35ドルである。セルロース系エタノールの付加価値は、79~89ドルと見積もられる。
図表7 セルロース系エタノールの付加価値
バイオマス1乾燥トン
△70~80ドル
エタノール80ガロン
+134ドル
余剰電力320kWh
+25ドル
CO2
+(未定)
エタノール及び副産物の価値
付加価値
+159ドル
+79~89ドル
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調査報告 シカゴ
再生可能燃料には、エタノール、バイオメタノール、バイオブタノール、バイオディーゼ
ル、合成ディーゼル、バイオ原油・ディーゼル・ガソリン、水素などがあり、バイオマスか
ら精製される燃料は、伝統的なエタノールやバイオディーゼルといった第1世代と、セルロ
ース原料を用いた第2世代に分けられ、それぞれ技術オプションがある。
バイオ燃料生産の拡大には、多角的な基盤変更が必要である。生産レベル、政策、土地資
源の基盤、生産に使用する水、資金、労働力、供給原料貯蔵および処理、処理工場。また、
燃料が安定した長期的市場に対して売れるものでなければならないことは言うまでもない。
米国において、エタノールの60%は鉄道輸送、30%はトラック輸送されている。エタノー
ルの輸送費(13から18セント)はガソリン(3から5セント)に比べはるかに高いものとな
っている。
ガソリン混合業者は、ガソリンに入れるエタノール1ガロンにつき1ドル40セントの純利益
を上げる。これは、ガソリン原価に助成金を加算し、エタノール原価を差し引いた額である。
バイオ燃料の環境に与える影響としては、土壌侵食、土壌圧縮、養分溶脱、原料生産及び
プラント運転に係る水使用、原料の生産、輸送、処理、燃料蒸発、排気管排出に関連した温
室効果ガス排出が挙げられる。エネルギーコストが再生可能燃料に与える影響については、
原油価格がバレル当たり40ドルといった低価格になった場合には、再生可能燃料基準の変更
なしにはバイオ燃料は競争力を失うことになる。バレル当たり60ドル以上の高価格になった
場合には、バイオ燃料の市場シェアは拡がり、エタノールの生産目標におけるセルロース系
エタノールの市場シェアを増加させるであろう。
米国には、バイオ燃料生産に利用可能なセルロースの供給原料が豊富にあり、技術的進展
がコスト削減に役立つこととなる。
3.4
セルロース系エタノールの原料調達および物流
(1)Ethan Zindler北米研究主任(New Energy Finance社)
現在のところ、投資家および基金出資の最大拠出先は太陽エネルギーとなっており、昨年
の金額は約18億ドルであった。バイオ燃料は、約11億ドルで第2位を占めた。農業関連産業
はバイオ燃料に過去5年間で90億近く投資しており、これは他の資金源と比べはるかに大き
な額となっている。
-17-
調査報告 シカゴ
図表8 ベンチャーキャピタル/プライベートエクイティ投資(最近4四半期)
太陽
バイオ燃料
風力
バイオマス及び廃棄物
省エネルギー(需要側)
電力貯蔵
省エネルギー(供給側)
一般金融及び法律サービス
サービス及び支援(クリーンエナジー)
燃料電池
流通効率化
地熱
海洋
省エネルギー(ビル)
排出権取引
技術 生産能力 買収/プレIPO
注:単位百万ドル。括弧内は、ベンチャーキャピタルとプライベートエクイティの割合。
(2)James Zhang事業開発担当副社長(Mendel Biotechnology社)
Mendel社は、作物種子開発用の特質技術に関しMonsanto社と過去10年間継続提携関係にあ
る。Mendel社はススキなどの多年生作物種子に焦点を当てた供給原料に関してBP社とも新
規提携関係にある。
米国におけるバイオマスの総在庫は約13億トンであり、このうち約35%は多年草作物、20%
はトウモロコシである。
図表9 米国バイオマス在庫の構成
トウモロコシ茎葉
麦藁
大豆
作物残余物
穀物
森林
都市ごみ
多年草作物
森林
出所:エネルギー省/農務省(2005 年)
エタノール産業における現在のトップ3種子業者は、Pioneer社(デュポン)、Monsanto社、
Syngenta社である。VeraSun Energy社およびADM社は、トウモロコシから生成されるガソ
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調査報告 シカゴ
リン混合用エタノールをBPなどの石油会社向けに供給する2大精製業者である。今後のセ
ルロースエタノール業界においては、BPやシェル石油などの石油会社が直接燃料生産用に
独自のバイオリファイナリーを経営し、比較的新参であるIogen社やAbengoa社などのセルロ
ースエタノール業者はもとより、デュポンやADMなどの大規模な農業関連企業と競合する
可能性が高い。これらのリファイナリーは専用のエネルギー農家から独自に原料を仕入れる
こととなる。Mendel社はこのような農家に対して種子を供給することを期待している。
多年草の最大の利点は肥料使用量の削減であり、これは養分が根から栽培物へ移り再び戻
って循環することに起因する。収穫時には、乾燥したリグノセルロース芽のみが収穫され、
根とミネラル分は土壌に残される。
Mendel社は将来的なエネルギー草を代表する最有力候補としてススキに注目している。世
界中の木科植物の中で成長速度が最も速いものの一つであるユーカリもその他の有力作物候
補の一つであるが、ハワイ以北、南フロリダ、その他の霜よけ地域で栽培するためには凍結
に耐えるように改良する必要がある。バイオ作物の「エネルギー地帯」は、米国南東部に位
置することとなろう。
図表10 米国の潜在的なセルロース・バイオマス作物
ハイブリッド・ポプラ
スイッチグラス クサヨシ
ヤナギ
ハイブリッド・ポプラ
ウラジロサトウカエデ
ハリエンジュ
スイッチグラス
ポプラ
暖地型牧草
スズカケノキ
楓香脂
ススキ
ハリエンジュ
ハイブリッド・ポプラ
ユーカリ
ユーカリ
ススキ
スイッチグラス
ハイブリッド・ポプラ
ウラジロサトウカエデ
クサヨシ
ハリエンジュ
モロコシ
ユーカリ
出所:オークリッジ国立研究所(ORNL)
(3)Wally Wilhelm植物生理学者(米国農務省農業研究サービス(ARS))
作物残余物は廃棄物ではなく、経済的および効果的に利用されるものである。人間が1年
に消費するエネルギー(4.6×1022ジュール)は、毎時太陽から地球に供給されている。我々
はエネルギーの収集と使用について問題を有しているが、これは供給の問題ではない。緑色
植物が我々にとっての優先的エネルギー収集装置であると考えていただきたい。米国におい
ては、10億トンのバイオマスを持続的に生産することが可能であり、これは米国の6大トウ
モロコシ生産州の土地総面積に相当するものである。
-19-
調査報告 シカゴ
土壌有機炭素(SOC)は、土壌炭素特性から持続的生産性を割り出すのに最も重要な測
定要素となっている。土中の有機炭素の量は、農業の持続可能性に直接影響を与える。土壌
には、通常5%程度の有機物が含まれている。この土壌有機物(SOM)の内訳は、腐植4%、
根0.5%、有機体0.5%となっている。このため、SOMは、土中または土の表面にいる生き
物(昆虫、微生物、根)枯れた根、茎、葉といった死亡組織、さらに分解された腐植物の量
の指標となる。平均してSOMの約0.58がSOCである。SOCは、侵食防止、温度、水を
保持する能力、空気の取り込み、ろ過、養分や無機質の移動等の土壌の様々な特性を維持す
るために大変重要である。近代的な集約農業の出現は、土壌性能の低下を単に化学肥料で補
うという手法が用いられ、土中のSOC量を深刻に激減させてきた。新しい技術や環境に一
層配慮した手法を選択することにより、土中のSOCの減らすのではなく再生することが可
能である。自然の中で持続可能な農業を行うことが目標である。
農業研究サービス(ARS)は、土壌有機炭素および関連養分の損失を最低限に抑えなが
ら持続的収穫を図る最良運営方法を研究する再生可能エネルギー評価プロジェクト(REA
P)を実施している。通常の植物が処理しない緑色スペクトル光を吸収する黒色植物のよう
な新しいエネルギー作物を技術開発する創造的な解決策を考えるべきである。環境資源保護
も重要である。
農業に対して期待することは、増加する世界人口に対して、食料、飼料、繊維といった伝
統的な産出を行うこと、土壌浸食、炭素固定、生息環境、水質といった環境配慮を行うこと、
SOC/植物養分を補充すること、再生可能エネルギー原料(998百万トン、うち428百万ト
ンは作物残余物)を供給することである。
(4)Corey Radtke研究官(米国エネルギー省アイダホ国立研究所再生可能エネルギー・電力部)
バイオリファイナリー業界に対するエネルギー省の達成目標は、2030年までに年間600億ガ
ロンのガソリンに代替することである。これにはエタノール生産用に年間6億から7億トン
のバイオマスが必要となる。米国の総バイオマス可能量は年間およそ13億トンである。
エネルギー省エネルギー効率及び再生可能エネルギー局(EERE)の一機関であるアイ
ダホ研究所は貯蔵と処理問題に焦点を当てている。米国の異なった地域によって田畑の含水
量にばらつきがあるため、湿気及び乾燥の両方の収穫及び貯蔵システムを考慮に入れなけれ
ばならない。粉塵抑制規制、消防法、トラック積載規制は、全てシステム設計において尊守
しなければならない制約の例である。目標は、標準化し、統一性を持った原料供給システム
を構築することにある。供給原料の前処理をできる限りシステムの前方に(収穫後だが貯蔵
と輸送の前に)設定することでその後の流れに統一性をもたらし、システム効率を上げるこ
とに役立つ。
-20-
調査報告 シカゴ
図表11 統一原料供給システム設計への研究開発経路
農場ゲート
収穫及び収集
貯蔵
輸送
バイオリファイナリー・ゲート
取扱及び待機
農場ゲート
収穫及び収集
貯蔵
前処理
前処理
バイオリファイナリー・ゲート
輸送
取扱及び待機
前処理
農場ゲート
収穫及び収集
前処理
貯蔵
バイオリファイナリー・ゲート
輸送
前処理
取扱及び待機
前処理
バイオ燃料の国家目標は、複数のユニークで特定地域向けの供給システム設計やユニーク
な装置をいくつも使うことが必要とされる複雑化した設計では達成することができない。バ
イオ燃料の国家目標は、標準化され、複製することが極めて可能であるバイオリファイナリ
ー設計であり、供給原料の多様性に対応し、かつ統一化した商品扱い規模の集品システムに
接続するモジュール方式をとった収穫及び処理装置から成る高度に効率的で商品扱い的な原
料供給システムである。
(5)Charles Banks社長(R.L.Banks & Associates社)
米国の貨物輸送能力は負担過剰状態にあり、状況は悪化し続けている。バイオ燃料の生産
拡大はこれに拍車をかけ物流基盤に対し更に需要を課すこととなる。新しいアプローチが見
出されなければならない。出荷のトン・マイルが増加しているにも関わらず、貨物列車のマ
イル数は減少している。総貨物量の40%は鉄道によって処理されており、これにはバイオ燃
料の原料やエタノールが含まれている。
鉄道会社はできる限りユニット式貨物列車を好む傾向を強めている。ユニット式貨物列車
は、一回の輸送につき全ての貨車に同一商品を積載し、単一始点から単一行先点まで一回の
発送として輸送するものである。この傾向は、システム的に可能な処理範囲においてできる
だけ長く連ねた貨物列車を意味している。
比較的小規模なエタノール工場は、他の同様な工場と手を組んで、共同貯蔵や取引施設を
利用することでユニット式貨物列車の利用を図り、大量かつ経済的な出荷を可能とすること
ができる。鉄道輸送を利用する候補施設には熟考された計画案が伴い、運送業者及び基盤設
備の適正評価をし、複数の鉄道線路へのアクセスを確保することが必要である。
全国的な道路交通渋滞は不可避事態であり、トラック輸送業者に深刻な問題を及ぼしてい
る。道路貨物輸送は、コスト上昇、交通渋滞、運転者不足といった問題を抱えた困難かつ規
制の厳しい事業である。
-21-
調査報告 シカゴ
図表12 全米の交通渋滞
1970年以降の増加率
車両走行距離
車両数
運転免許証
保持者
居住者数
道路長
年
出所:運輸省連邦道路管理局、運輸統計局
バージ輸送が代替手段としてあるが、水路の新規開発はほとんど行われていない。ハリケ
ーン・カトリナが400の水路を損壊し、輸送能力の再構築には時間が必要となっている。総合
的に見て、投資不足によって物理的な輸送基盤が劣化の一途をたどる限り、米国の貨物輸送
手段は明るいものではない。
4.セルロース系エタノールプロジェクトの展開及びファイナンス
4.1 工場の立地および融資
Todd Alexanderパートナー(Chadbourne & Parke社)
Chadbourne & Parke社は、バイオ燃料を含む国内エネルギー分野における代表的な法律事
務所である。立地選択の重要な基準としては、供給原料アクセスや、輸送手段、認可、エネ
ルギーと水、労働力政府支援。技術提供者及び認可計画も主要考慮事項である。未公開株式
を扱うことを考慮している場合には、投資家の要求条件として多少支配権を失う覚悟する必
要があり、明解な出口戦略の提供を行う。計画及び運営初期段階においては、収益性と費用
に関し過剰な期待を抱くべきではない。トウモロコシのエタノール工場においては、収益性
を競い合うための相当な努力を低減するため、政府支援を頼みの綱とすることもある。
4.2 法的および政策リスクの対処
John Lorentzenパートナー(Winston & Strawn社)
、W. Kirk Grimm社長(Crestwood Energy社)
一般的には、税制優遇措置は、最良かつ最も容易な政府支援の選択肢である。優遇措置の
タイプには再生可能燃料基準、税額控除、助成金、借り入れ保証がある。2005年エネルギー
政策法令が現在の優遇措置のほとんどを、エタノールやバイオディーゼルといった再生可能
燃料をガソリンに混合することを義務付けた再生可能燃料基準の一環として制定した。現行
の能力は現行基準を上回ったものとなっている。主要法規の新規立法が議会に提出されてい
るが、次期大統領選挙が終了する前に成立することは期待できない。
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調査報告 シカゴ
エタノール容量物品税の控除措置は、2010年末までガソリン供給業者が混合用に使用する
エタノール1ガロンにつき51セントの税金控除を認めている。小規模エタノール生産者控除措
置は、年間生産量1500万ガロンを上限としてエタノール1ガロンにつき10セントの控除を年
間生産量600万ガロン未満の生産能力を持った生産業者に認めているが、これは2007年末で打
ち切りとなる。代替燃料スタンド設置控除措置は、2009年まで(水素は2014年まで)商業、
事業、住宅用に無公害燃料車の燃料補給の施設を設置する費用の30%を控除対象としている。
2005年エネルギー政策法令は、バイオマスおよびセルロースエタノール研究生産を対象とし
た様々なタイプの6件のプログラム助成金および借入保証を生み出した。これらのプログラ
ムは全てエネルギー省または農務省が管轄している。燃料エタノールに関しては、燃料使途
で輸入されたエタノール1ガロンにつき54セントの輸入税が課せられているが、これは2007
年末で打ち切りとなる。これに加え、7州において独自の再生可能燃料基準を定めており、
10州においてはエタノール混合燃料用の小売ポンプ減税措置、22州がエタノール生産者に対
する優遇措置を実施している。
エネルギー市場の先導要因は、世界的な需要拡大、不安定な化石燃料供給、及び天候変化
の懸念である。将来可能性のある液体バイオ燃料(エタノール、バイオディーゼル、ブタノ
ールなど)は、すべて原料段階及び豊かな土地をめぐって競合状態にある。どの燃料や処理
技術が最も優位性があり効率的であるかを判断するのには、時期尚早である。
自動車用のプラグイン・ハイブリッド技術は、任意の電源を利用できる配電網配給への切
り替えによって液体燃料の需要に影響を及ぼすものである。現在のところ、どちらのシステ
ムがより優れた解決策であるかについては明らかとなっていない。
他の代替燃料ではなくセルロース系エタノールに投資する市場リスクや政策リスクを正し
く判断することは、ほとんどが初期的段階にあるその他の再生可能な国内代替エネルギー形
態と同様な長所欠点をセルロースエタノールも持ち合わせていることが部分的な理由となり、
難しいものとなっている。政策は市場傾向に従う傾向にあるが、時として悪化させることも
ある。セルロース系エタノールが米国における打開策であるのか、また連邦政府が政策的受
け入れをするのかどうかについては未だ不明瞭な段階にある。
4.3 投資家の観点から見る開発および融資
(1)Al Knapp社長兼CEO(Ethanex Energy社)
融資機関は、返済及び事業が予測スケジュールに沿ったものとなり、収益が計上される保
証を求めるものである。セルロース系エタノールの最大の障害物は生産コストであると言え
る。融資確保の困難性は、構想の実績が足りない、または事業主や開発者の資金不足が理由
となっている場合がある。実績のある商業化された処理過程を持ち合わせ、経済的柔軟性に
対応するように予備対策を提示することが最良である。例えば、トウモロコシの分別は、エ
タノール生産、ボイラー燃料、または動物飼料の混合物といった柔軟性のある用途を意図し
てトウモロコシを部分別に仕分ける。最終製品の多様性は、市場ショックが当該施設に与え
る影響を和らげることに役立つわけである。トウモロコシは商品であることが第一であり、
最も重要な点であることを念頭に置くべきである。エタノールは、連邦政府が実施可能とし
た如何なる農業法案やその他のプログラム以上にアメリカの農村経済に貢献してきたもので
ある。
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調査報告 シカゴ
(2)John May副社長(Stern Brothers社)
初期のエタノール工場は、農業関連産業の事業融資を既に熟知している農業銀行によって
融資されていた。農業関連産業企業や起業家がエタノール産業に参入し、生産者側に有利な
融資契約を求めるようになり、ニューヨークに拠点を置く欧州銀行を利用するようになった。
現在、エタノール価格が下落し、潜在的過剰能力が懸念されるようになったので、ニューヨ
ークの銀行は、典型的なエタノール工場への融資を渋る様相を示している。したがって、工
場は「エタノールの基礎モデル」の領域を超えた実績のある事業モデルを明示しなければな
らない。これは実績のある技術を取り入れ、経験豊かな業者を使い、次世代工場の構想導入
を取り止める可能性を指すものである。しかしながら、融資機関の足踏みは、経済沈滞と不
安定な商品価格が原因となった現在の局面に過ぎない。現在の市場経済下において、トウモ
ロコシ工場もエタノール低価格が原因となって収益性に困難が見えている中で、相対的に高
コストであるセルロース工場は融資が不能状態にある。
税金控除対象の債券市場が、エタノールプロジェクトの資金源候補としてここ数年注目さ
れている。Stern Brothers社は、このような債権を昨年から発売を開始し、通常これは公債
基金に劣後性を持つものである。最近まで、標準的なエタノールプロジェクト、特に非常に
大規模な施設の資金繰り状況は、典型的な地方自治体の投資より堅調なものであった。公債
基金は通常の銀行融資よりも長期的な投資期間で市場金利を上回る利息に主として興味を示
すので、エタノールプロジェクトは魅力的な対象となる可能性がある。技術コストは、供給
原料価値とともに融資分析に重要な意味を持つものである。政策と経済助成金は、セルロー
ス技術に対する融資判断を促進するものである。
5.ブタノール及び第2世代バイオ燃料の商業的開発
5.1 先進的バイオ燃料に関する経済的及び商業的な見通し
Susan Ellerbusch世界バイオ燃料担当副社長(BP社)
バイオ燃料の消費は、今後10年から20年の間に大幅に増大する。バイオ燃料の生産は、潜
在的には2030年までに年間850億から1950億ガロンに到達する可能性があり、これにより、ガ
ソリンと軽油の需要の10%から24%をバイオ燃料置き換えることができる。
2030年度の最も楽観的な生産量を実現するためには、最大7千億ドル、すなわち毎年約300
億ドルの資本投資が必要となるとの試算がある。平均で各1億ガロンの生産能力を持つバイ
オ燃料工場が、およそ4日、5日の間に1ヶ所の割合で建設されなければならないことにな
る。中国では5日間当たりにつき500メガワットの割合で石炭火力発電所の建設が進んでいる
ことを勘案すれば、これは実現可能な数値であろうと推測する。しかし、経済性、技術力、
および供給原料に関する選択肢と規制を含めて、潜在的な投資と建設のスピードには多くの
要因が影響する。
バイオ燃料産業の推進には、供給原料技術におけるさまざまな改良が必要であり、食物需
要と競合しないように、農業に使用されていない土地で生育する燃料作物を開発することが
最も重要である。品種改良またはバイオテクノロジー(遺伝子工学)により植物を改良すれ
ば、供給原料に望まれる特性が改善される可能性がある。具体例には、リグノセルロース関
連の生産工程における効率の改善は、生産量の増大に必要である。同時に、異なる種類の燃
料や、より革新的なプロセス技術が考慮されなければならない。既存のバイオエタノールと
バイオディーゼルは汎用性が高く、それぞれ年間に100億ガロン、10億ガロンが生産されてい
る。
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調査報告 シカゴ
一方で、エネルギー成分が多く、腐食や沈着物形成のリスクが少なく、混合がより容易で
あり、既存のインフラを使用でき、より高い比率で混合できる新燃料も開発されている。そ
うした新燃料の一つがバイオブタノールである。
BP社では、ブタノールに対して多額の開発投資を行っている。ガソリンに含まれる相対
エネルギー成分を、エタノールは67%しか含んでいないが、ブタノールは86%含んでいる。
また、従来の自動車のエンジンを変更する必要なしにガソリンに混合できる比率は、エタノ
ールの場合は最大10%までであるが、ブタノールは17%まで混合できる。ブタノールは腐食
性がなく、パイプラインで輸送できる。ガソリンにブタノールを16%混合すれば、エタノー
ルを10%混合した場合に比べて、温室効果ガス排出量はおよそ半分に減少になる。
BP社は、ブタノールの開発に関しデュポン社とパートナー関係を締結し、英国をバイオ
ブタノールのテスト市場として実験している。実験用の工場はハル市に建設済みであり、商
業的規模の工場も同じ場所に建設中である。この製造技術が向上するにつれ、異なった市場
や場所に対する多くの適切な利用の可能性を伴う、幅広い燃料の選択肢を考慮することが必
要になってくる。各燃料を単に「第1」と「第2」の世代に分類し、それが暗に品質を想定
することは、障害になりかねない。
バイオ燃料産業の開発と振興において、各種の規制は重要な役割を果たすようになる。規
制は燃料の性能に重きを置き、主として適切な目標に関わるべきである。これにより、最善
の手段を決定するための市場ニーズに即した解決が可能になる。より具体的に言えば、規制
は主に、温室効果ガス排出量の基準、サステイナビリティの要求条件、並びにバイオ燃料に
関して目標とされるその他の仕様を確立するべきである。
5.2 輸送燃料としてのブタノールの開発
(1)James Evangelow社長(Chemical Strategies社)
ブタノールが持つ主な利点は、エネルギー密度がガソリンのそれに近く、ガソリンのパイ
プラインで輸送でき、精製所での混合が可能で、軽油とも混合でき、既存のエタノール工場
に適応可能であり、エタノールと同様にバイオ化学的(発酵)または熱化学的(ガス化)手
段によりセルロースから生産できることである。エタノール生産用に現在使用されている、
あるいは検討中または開発中であるプロセス技術の多くは、部分的な適応作業さえ行えばブ
タノール生産にも使用できる。2006年におけるブタノールの全世界需要は9億6,200万ガロン、
金額にすると約58億ドルであった。
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調査報告 シカゴ
図表13 世界のブタノール需要(2006年)
アクリレート類 40%
384
アセテート 18%
その他 8%
溶剤 13%
グリコール・エーテル 20%
(2)Hans Blaschek教授(イリノイ大学先進バイオエネルギー研究所長)
米国において、例えば化学溶剤産業向けなど一部のブタノールは、ここ何年もトウモロコ
シから作られていた。エタノールとは異なり、ブタノールは水溶性でないので、湿度の高い
場所でも保管できる。全世界のブタノールの市場は、年間で約14億ガロンの規模である。そ
のうちの約半分が米国で生産されている。2007年の平均価格は1ポンド当たり90セントである。
需要は毎年約3%増加している。
バイオブタノールの生産が困難である点は、バイオリアクター内で生産されるために、濃
度が高くなるとそれを生産する微生物にとって有毒になり、生産が限定されることである。
より良い微生物とより良いプロセスが考案されなければならない。ブタノール耐性の強い、
新しい特徴の微生物種が現在開発されているところである。
共同ゲノム研究所(JGI=Joint Genome Institute)は、米国エネルギー省科学局の一
部であり、次世代バイオ燃料の生産に適している可能性のある微生物の遺伝子マッピングを
専門に研究している。これは五つの国立研究所とスタンフォード・ヒトゲノム・センターと
の共同作業である。JGIはカリフォルニア大学により運営されている。
ブタノール生成微生物に対するブタノールの毒性を減少させるため、生成中のブタノール
をバイオリアクターから、ガスストリッピングと呼ばれる物理的プロセスにより除去するこ
とも可能である。このプロセスにおいて、ガスはバイオリアクターを通じて泡状になり、ブ
タノールを捕獲して凝縮器まで運ぶ。ブタノールは凝縮され、ガスは再び循環してリアクタ
ーに戻る。これにより、ブタノールの生産性と産出量を大幅に改善できる。
(3)Philippe Guinot事業開発担当副社長(METabolic Explorer(METEX)社)
METEX社は、バクテリアを使用してさまざまな化学物質を生産しているフランスの会社であ
る。METEXの推定では、バクテリアを使用して化学物質を生産すれば、従来のプロセスと比べ
てコストを30%削減できる。ほとんどの従来的な化学プロセスには石油のような化石系の供
給原料が使用されており、それが総運営費の70%から80%を占めている。バクテリア槽を再
生可能な供給原料とともに使用することにより、METEXは少なくともコスト的に30%は優位に
立っていると言える。こうした試算は、35ドルから40ドルの原油価格に基づくものであるが、
原油価格が上昇すると、試算時のコスト削減分はさらに大きくなる。
METEX社が事業を行う主な化学物質の市場規模は、動物に与える栄養としてのL-メチオニ
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調査報告 シカゴ
ンが15億ドル、バイオプラスチック用のグリコール酸が10億ドル、ポリエステルの樹脂およ
び液体に使用するMPGが20億ドル、ポリエステル繊維用PDOが35億ドル、そして被覆用
および溶剤用のブタノールが33億ドルである。バイオ燃料用途に拡大できるのは、このブタ
ノールだけである。
現在のブタノール系化学物質の市場規模は、年間380万トンである。その市場の39%がNAFTA
諸国に、33%がアジアに、20%がEUにある。主なブタノール生産者と市場シェアを挙げる
と、BASF社が21%、ダウ社が15%、Cel/Oxeno社が11%となる。現在行われているブタノ
ールのバイオプロセスは副生物としてアセトンとエタノールを発生させる。
コストは、規模、供給原料の選択、および選択したプロセスの効率など、多くの要因によ
って異なるが、ブタノール生産は、税金やインセンティブの面を除外しても、セルロースか
らのエタノール生産や、従来のガソリン生産よりも、よりコスト効果が高くなる可能性があ
る。
METEX社は、現在のバイオエタノール工場に適応できるブタノールの実験的規模のプロセス
を2008年から2009年までに確立し、同社初の商業的規模のバイオブタノール専用工場を2010
年から2012年までの間に建設する予定である。METEXでは提携者やパートナーになる可能性の
ある組織を募集中である。
5.3 第2世代バイオ燃料の商業化
(1)Ronald Casconeバイオ燃料開発担当マネージャー(Nexant社)
エタノールとバイオディーゼルは、既存の輸送手段および燃料インフラで使用することが
困難である。これらの供給原料は食品であり、非常に限定されている。しかし、エタノール
とバイオディーゼルのインフラは急速に成長しており、他の何かに変更することは経済的に
も政治的にも現在では困難である。第2世代および第3世代のバイオ燃料は、これらとは異
なった、より豊富に存在する供給原料を利用し、現在の輸送手段および燃料のインフラにお
いて便利に使用できるものでなければならない。
バイオ燃料は、現在、単に政府の政策的なインセンティブにより推進されるのではなく、
経済的な競争力を増しつつある。関係者は、一般の農業やバイオ技術の会社、政府、大学、
および小規模な投資家から、化学会社やエネルギー会社などの大規模な組織へと変化してい
る。
(2)Randy Cortright執行副社長兼CTO(Virent Energy Systems社)
Virent社は2002年に創立で、前身はウィスコンシン大学化学工業学部である。同社は現在
15ヶ所のパイロット工場を運営し、触媒バイオ精製の開発に取り組んでいる。Virent社は、
エネルギー省、農務省、国立科学財団(NSF)
、国立標準技術研究所(NIST)、および
海軍から、約1千万ドルの連邦資金を受け取っている。共同研究の相手には、本田技研、シ
ェル石油、BASF、そしてカーギル社などがある。同社は、バイオマスを液体燃料(ガソ
リン、軽油、ジェット燃料)、化学物質、および燃料ガス(水素とLPG)のような従来の燃
料製品に変換する触媒処理技術を研究している。
Virent社は、標準の無鉛ガソリンと同じ成分とエネルギー値を持つバイオガソリンを蔗糖
から生産することに成功している。同社のバイオフォーミングプロセスは、酵素や微生物で
なく、触媒を使用する化学プロセスである。このプロセスであれば、虚弱な生物学的システ
ムに依存しなくて済む。生産されたバイオガソリンの1エーカー当たりのエネルギー産出量は、
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調査報告 シカゴ
エタノールに比べて50%大きい。このプロセスは水に関してプラスであり(水を消費せず、
水を発生させる)、炭素に関して中立的である。生産コストも、エタノールより大幅に低い。
年産1億ガロンのバイオガソリン生産工場に対する推定資本支出は、エタノールの場合より
も10%低い。ガソリンは水と混合しないので、蒸留は不要である。処理時間もはるかに短く、
バイオエタノールは3,000分を要するのに比べてバイオガソリンは28分で済む。リグニン熱分
解を行うと共産物としてジェット燃料および軽油が発生する。Virent社のプロセスは発熱プ
ロセスであり、熱の発生を伴うものでもある。
(3)Eric Connor上級副社長(ThermoChem Recovery International(TRI)社)
バイオマスを再生可能な燃料と化学物質に変換するバイオ精製プラットフォームは2種類
ある。1つは酵素や発酵作用のある微生物を使用したバイオ化学プラットフォームである。
もう1つは熱化学プラットフォームで、TRI社はこれに関心を持っている。TRI社のプ
ロセスは、水蒸気改質によってバイオマスを合成ガスに変換するものである。TRI社の技
術は、NORAMPAC社の工場において商業的に利用されている。同工場は2003年9月から操業し
ており、日産550トンのバイオマス生産能力を持ち、液体バイオマスから合成ガスへの処理に
より天然ガス消費を抑えている。これまでの操業時間は2万時間を超えている。
この技術が持つ潜在的な可能性は、パルプおよび製紙産業にある。熱化学的な「森林バイ
オ精製」は、その地域にあるバイオマスを使用して、排出物を大幅に削減した形でエタノー
ル、バイオディーゼル、またはその他の燃料、化学物質、あるいは電力など幅広い副生物を
生み出すことによりエネルギー消費を削減することにある。さらに、統合型のバイオ精製を
使用すれば、農業廃棄物を含む多様な供給原料から、さまざまな最終製品を生産できること
になる。
TRI社の熱化学的プロセスは、トウモロコシから作るエタノールやセルロースから作る
エタノールに比べて、同じ量のバイオマスからより多くのバイオ燃料を生産するものである。
統合型のバイオ精製は、トウモロコシを原料とした既存のエタノール工場における残余物を
使用して、そうした工場のための水と電力を供給したり、バイオ燃料として使用できるそれ
自身の副生物を生産したりすることにより、そうした工場を補完する目的でも使用できるで
あろう。
(4)Jennifer Holmgrenディレクター(UOP社再生可能エネルギー・化学品事業部)
UOP社は、典型的なバイオディーゼル生産を超えた次世代のグリーンディーゼルを開発
した。グリーンディーゼルは、安定性と流動特性が従来のディーゼルに近く、典型的なバイ
オディーゼルでは若干増えるはずのNOx排出量が従来以下となっている。グリーンディーゼル
はパイプラインで輸送でき、且つ、既存の自動車のエンジンで使用でき、混合も容易である。
UOP社は、Eni Ecofining社と、商業規模のグリーンディーゼル生産工場を建設するための
チームを組んでおり、2009年の操業開始を予定している。
グリーンディーゼル生産と同様のプロセスにより、グリーンジェット燃料も生産できる。
UOPはこの業務に関し、親会社であるHoneywell社、サンディア国立研究所、およびカーギ
ル社など、さまざまなパートナー関係を樹立している。
UOPは、エネルギー省のバイオ原油プロジェクトに基づき、国立再生可能エネルギー研
究所(NREL)とパートナー関係を結んでいる。さまざまなバイオマス源は熱分解により
バイオ原油に変換でき、それが既存の石油精製所に輸送され、より価値の高いバイオ原油へ
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調査報告 シカゴ
と格上げされる。
私どもの主な目標は、サステイナビリティの実現である。バイオ燃料は幅広くさまざまな
方法で生産できるので、一つの方法を最終的な標準として選択するには時期尚早である。懸
念すべき重要点は、現在のインフラの変革に対する投資の最小化である。混乱は少ない方が
良い。激化しつつある食品と燃料の競合の問題を解決できるように、研究開発の拡大により
次世代バイオ燃料の開発と商業化を加速しなければならない。旧技術の標準化を避ける意味
で、技術的に中立的な性能本位の基準と規制を奨励することも非常に重要となる。
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